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メイドは厄介事も掃除する!  作者: RayRim


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8話 寝る暇もなく

 川の流れを変えるという大仕事は計画から綿密に練られた。

 先に魔法で掘削を終えて叩き均し、あとは応急処置の時と同じく粘土質の土と砂利で埋め戻す。それから刻印を施した石材を水底に敷き詰める。その石材は堤防としても使う予定だ。

 刻印の起動には魔力が必要で、かつ全てが魔力炉に繋がっていないとダメなのだが、【補強】の効果範囲を広げることで手間が大幅にカットされる。

 

 掘削はソニア様とジゼルが丁寧に行い、ハルカ様とリリ様が木杭、粘土、砂利を詰め込んだ。石材の調整と刻印による強化は私、アズサ様、バニラ様の3人で、とにかく数は多かったが迅速に済ませる。最後にハルカ様とリリ様が中心となって全員で石材の敷設を行い、男爵領の河川工事が完了した。


 これで都市に沿うように新たに作られた2本の川は、都市のずっと西で合流することとなった。少なくとも、多少の長雨や豪雨で都市内が水浸しになることは無い。

 最後に水止めをしていた【アースウォール】を破壊した時は、見に来ていた住民、協力者からも一斉に歓喜の声が上がったほどだった。


「それでも、まだ領内のどこかが水浸しになるのは避けられない。やはり子爵領に手を入れないとダメだ。」


 真夜中の暗闇の中、魔導具で照らされた黒板の地図を眺めながらバニラ様が言う。

 川は子爵領内を通り、魔王陛下の直轄地である大きな湖へと流れ込む。そこはルエーリヴの近郊で、よく息抜きに出掛ける場所でもあった。


「あの湖から先は南部だ。そっちは既に色々と調整できるようにしている。」


 職人さんも腕組みをしながら言う。

 南北問題という言葉はよく聞くが、こんなところで直面するとは思わなかった。


「一番手っ取り早いのは、子爵領内で川の拡幅と延伸、蛇行化だ。支流を作れたらなお良い。」

「支流まで作ると管理が煩わしくなりますからね。あの広さを集中管理している子爵は受け入れたくないでしょう。」


 領地は面積にしてヴェーラ領の3倍。だが、実際に使っているのは全体の3割にも満たない。

 問題の河川周辺にも都市や集落はあるが、力を入れて発展させようという気配がなかった。

 新興貴族の多い東部より、古参の多い北部との交流、交易を優先したいという思惑が見え透いている。


「さて、ここからは貴族同士の交渉のフェイズだ。クレア嬢にその気はあるか?」

「わ、私ですか?」


 バニラ様が指差しながら言う。

 もっと上の爵位の娘相手だと、不敬罪とかになりそうだけど…まあ、バニラ様のこういう部分は国中に知れ渡ってしまっているし、しかたないか…


「交渉と言うからには交渉材料も必要です。いったい何を用意するつもりで?」

「それはだな…」


 リリ様の疑問にバニラ様が耳打ちをする。

 いったい何を利用するのだろうか?


「えっ…えぇっ!?」

「どうだ悪くない話だろう?」

「いやいや!おかしな前例作りになりますし、それこそ信用問題ですよ!?」

 

 驚きの声を上げるリリ様と悪い笑顔のバニラ様。

 いったいどういう内容だろう?


「ダメか?」

「ダメに決まってますよ。領内の川の水利権の貸与なんて…」

「なるほど。」

「いやいや…なるほどじゃないですよ!?」


 クレアさんが納得してしまった。

 水利権といえば生殺与奪と同等。そんなものを上げて大丈夫だろうか?


「ただ、上手くいったら相手のメンツを潰す形で、全面対決は避けられないが。その覚悟はあるか?」

「やりましょう。ご協力、いただけますか?」

「私たちをこういう形で雇うと高くつくぞ?」

「では、領内の川の水利権を差し上げます。」

『えっ!?』


 流石にそれは私も声が出てしまった。

 そんなものを報酬にもらってどうするのか。


「分かってるじゃないか。では、利用で発生した利益の20%で手を打とう。」

「よろしくお願いします。」


 即決である。

 いや、思い切りが良いどころの話ではない。ホントにこんな条件でトントン拍子に進んで良いのだろうか?

 リリ様も唖然としたような、それでいて違うような、なんとも言い難い表情をしている。


「さて、メイド一同、掃除はやり始めたら最後までやり遂げる。そうだな?」

『はい。』

「ここからが正念場となる。塵は塵取りに!ゴミはゴミ袋に!各々方、抜かりなく!」

『おー!』


 毎年恒例の雪像作りと同じ言葉でバニラ様が締め、皆が拳を突き上げて声を上げる。


 ん?私たち、メイドとしているんですよね?


 仕事が多岐に渡りすぎて、どういう立場なのか分からなくなってきた。

 でも、人の役に立てて、お賃金もいただけるならこれで良いか…




 引き続き、クレアさんの護衛として私が付き従い、リリ様は冒険者としての服装と装備で補佐役を務める。

 守るだけなら私だけでも良いが、そうはならない可能性が高いのでハルカ様とソニア様も護衛についてくれた。ソニア様はメイド服のままだが補佐役との兼任だ。


 しかし、こうなると私の場違い感が際立つ。

 3人だけで良いのではないだろうか?


「私はお世話まで出来ないし。」

「ちょっとした雑談ならアクアの方が適任ですわ。」

「そういうことでしたら…」


 ハルカ様はあくまでも冒険者だし、ソニア様は実家が領地を持たないとはいえクレアさんと同格の貴族だ。

 やはり身の回りのことは私しかやれそうもない。

 なんか言い包められた気もするが、納得して同行することにした。


 移動は徒歩。

 一応貴族なのだし亜竜車とか使うかと思ったが、旧態然とした北部の貴族との面会で格下は徒歩で伺うのが礼儀とされていた。

 これをネタにして本にしようかとも思ったが、確実に多方面からストップが掛かるのでやめておく。


「私は北部って初めてですけど、そんなに変わるものなんですか?」


 ちょっとした疑問を投げ掛けると、全員がそれぞれ違った微妙な表情を浮かべる。


「私はまだそこまで長くないので…」


 と、南部出身のクレアさん。


「誤魔化そうとしていましたが、田舎っぽさと閉塞感が拭い切れませんでしたね…」


 と、元領主で外交に伺ったことのあるリリ様。


「出身者は身の丈に合わない言動が多いですわね。そして、身を滅ぼすのも早いですわ。」


 と、淡々と事実を述べるだけのソニア様。


「廃村間近とか主要道から外れた人たちは逆に人が良い印象かな。古い貴族とその類縁者が北部のダメな所を濃縮していってるんだと思う。今の魔王も分かっていてどうにかしようとしてるけど、肝心の都市部に協力的な人が皆無だからね。」

『おぉ…』


 一時期、一家から離れて北部で見識を広めただけの事はあり、苦々しい表情のハルカ様の説明に全員が感嘆の声を漏らす。

 やっぱり、現地に行かなくては分からないものだ。


「…なんか恥ずかしい。」

「いえ、大変参考になりました。北部の事情はあまり伝わってこないので。」


 立地的にそんなことも無さそうなヴェーラ領だが、やはり子爵などの南部を疎む貴族が、情報まで蓋をしているのだろう。

 その蓋は北部の住民に対しても、それ以外の地域へも有効に働いているようだ。


「大丈夫ですか?いきなりグサァッ!とかありません」


 その瞬間、ハルカ様が何かを掴み取った。


「平気平気。」


 私に向かって飛んできた矢を掴み取ったのだ!

 

「ひ、ひぇえぇ…」


 思わず腰が抜けそうになるが、ソニア様にお尻を叩かれなんとか踏みとどまる…


「敵襲ですか!?」


 そう言って、ショートソードに手を掛けるクレアさん。

 リリ様は元々出していた杖を、ソニア様も同じように棒を構える。

 ハルカ様は矢を亜空間収納に片付けて、代わりに出した盾でクレアさんを遮った。


「抜剣はダメだよ。言い訳できなくなる。」

「で、ですが…」

「大丈夫。私たちには心強い味方がいるから。」


 茂みや木陰から短い悲鳴や鈍い音が聞こえてきた。

 とんでもない魔力が何かしているのは分かるが、残念ながら私では判別がつけられない。

 戦闘経験の豊富な皆様はよく分かるなと感心してしまう…


「さて、静かになったし行こうか。もっとクレアちゃんとお話したいしゆっくりね。」

「は、はいぃ…」


 余裕たっぷりなハルカ様に対し、困惑と緊張でいっぱいいっぱいな様子のクレアさん。

 急ぐ理由はあるが、慌てる理由はない。

 私も自分にそう言い聞かせ、なんとか心を落ち着かせながらあまり整備されていない道を進んだ。

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