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メイドは厄介事も掃除する!  作者: RayRim


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7話 仕事は迅速かつ高品質に

「メイプル、ジゼル、ハルカ様、ソニア様…そして、」


 どうしてこの方までというのが更に1名。

 見た目からして使用人や執事というにはやや無理がある。鍛え過ぎなのだ。


「旦那様…」


 私が呆れと戸惑いを感じながらそう呟くと、人差し指を自分の口の前に立てる。

 いったいこの人をどう呼べば良いのか。本名やいくつかある二つ名で呼ぶのも違う。


「ユキと交代する手筈になっている。男爵は任せろ。」

「あなたが出て来るほどでしたか?」

「面白そうだったからな。」


 そう言って、執事服の襟を正す。

 むしろ、カトリーナさんが来なかったのが不思議だ。


「まあ、本当の事を言うと、陛下の方から頼まれたんだ。独立心の強い子爵を相手にする名目が出来て大喜びしていたぞ。」

「どうして陛下に?」

「謁見してるタイミングでやり取りを垂れ流してくれたからな。」


 子爵もこんなに事態のステージが上がっているなんて思いもしなかっただろう。張本人の私だってそうだ。


「アリスはバニラと南部へ根回し、ジュリアとフィオナにはエルフの方を頼んでいる。(シュウ)はヒルデと留守番だ。」


 更にその2名まで動いていたら、歴史まで動いてしまいそうだ。


「そろそろこの世の終わりでしょうか。」

「はっはっは。小さな領地の出来事が世界の命運に関わるのも、それはそれで面白いな。」


 めちゃくちゃ無礼だが、その通りなので否定できない。

 私の手に余る状況なのは間違いないが、この人はホントに楽しそうだから来てしまったようだ。


「ん?あれ?カトリーナさんは?」

「仕込み作業で来れなかった。」


 いったい何の隠語だろうか?

 裏で動いているのは間違いないのだが…


「言付けがある。『これまで通り、仕事をこなすように。』だそうだ。」

「そうですか。」


 これは間違いなく褒められた。旦那様の表情がそう物語っている。

 嬉しさと気恥ずかしさが相まって、叫びたくなるのを淡々とした言葉に押し留めた。


「アクア、臨時のメイド長として号令を頼む。」

「わ、私が!?」


 私の戸惑う声に、クレアさん、タマラさんを含めた全員の視線が集中する。

 より長くメイドをしているユキさんはこの場にいない。だったら、仕事を一番こなしている私にお鉢が回ってくるのもしかたなかった。


 心を落ち着け、理想の自分を思い描く。


 メイプルがいつも言っているように、そう絵を描いているように。


「ここまで苦しい状況が続きましたが、ここからは違います。ヴェーラ領は小さくとも、東部だけでなくエルディーにとって間違いなく重要な地。その発展を阻害するなんて許せません。万難を掃除し、発展の為に整頓をしましょう。これこそが、ヒガン一家の我らメイド一同が担うべき責務です。」


 大げさだが、私たちならそれが成せる。私たちにしか成せない。


「塵は塵取りに、ゴミはゴミ袋に!さあ、清掃スタートです!」

『おー!』


 既に打ち合わせを終えていたメイド姿の全員が、意気揚々と部屋を後にする。勝手に計画して行動に移してしまうのは一家の流儀みたいなもの。私が指揮するよりそっちが確実だ。

 そんな中、旦那様だけが残って横で口元を押さえていた。


「笑うなら押しつけないでくださいよ。」

「いや、最高だよ。こんなのに計画が台無しにされるのは頭にくるだろうと思うとな。」

「こんなのだなんて酷い。まあ、その通りですけど!」


 メイドに計画をおじゃんにされるなんて誰が思うだろうか。特にルエーリヴと縁の薄い北部の貴族サマは。


「じゃあ、ユキと交代してくる。説明は頼むぞ。」

「分かりました。」


 旦那様を見送るが、逞しすぎる後ろ姿は執事に見えない。まあ、そんな執事がいても良いとは思うが。


「なんだかすごいことになりましたね…」

「あのあの!あの執事の方は…!」

「内緒ですよ?あれでも変装のつもりなので…」


 困惑が隠せないタマラ様と、目を輝かせて舞い上がるクレアさん。

 年頃の女子にとって、〈魔国英雄〉は文字通り国一番の英雄なのだ。


「リリに代わりやしてタマラ様の護衛を務めやすユキと申しやす。」

「ヒッ!?」


 私の影からニュッと出て来たユキさんに、タマラ様が悲鳴を上げてしまう。


「いつもダメって言われてるでしょ。ちゃんとドアから入って来ないと。」

「へへへ。」


 真っ白な頭をポコンと叩くと、反省してるのかしてないのか分からない笑いが返ってきた。


「ユキさんはお調子者なのでいい話し相手になると思います。何か連絡したい時はタマモも居ますので。」

「そ、そうですか…」


 落ち着く為に深呼吸を繰り返すタマラ様。しかし、これが護衛で落ち着けるのだろうか?


「アクアさん、私も外で一家の皆様の作業を見たいのですが。何か学べることがあるかもしれません。」

「わかりました。」


 一時はどうなるかと思ったが、一家の皆様が来たことで空気が一変する。

 相手はこちらを子犬同然に見ていたようだが、そうではない。ドラゴンの尾を踏んだことを後悔させてやらねば!




 1日で緊急性の高い仕事は粗方終えて、都市内は普段の生活を取り戻していた。

 時々、ハルカ様が旦那様に助言を求めに行く姿を見掛けたが、それ以外は皆の力だけで都市内の復興と対策を終えている。

 後は都市外、主にクレアさんが管理する予定の土地だ。


 今は遊水地として水没してしまっているので、クレアさんの領地は後回し。住んでいた領民はアズサ様とリリ様が用意した仮設住宅に移住してもらっている。


「やはり、避難民も仕事がないのが不安なようです。今は落ち着いていますが、長引けば他領へ流出も…」

「そうですよね…」


 クレアさんの懸念に私も同意する。

 

 領民が生きていく為にも産業は必要だ。

 その準備の為に呼び入れた住民だが、配給生活では1月もせずに流出してしまうだろう。

 いくら生活が保障されようと、せっかくの技術を腐らせるのをエルディーに住む人々は嫌がるのだ。


「私もあと数日でルエーリヴへ帰らないといけません。それまでになんとしても道筋だけでも…」


 責任者不在で復旧は出来ないということだろう。

 もし、この機会をフイにしたら一家が関わることが難しくなってしまう。互いの心情的にも、スケジュール的にもだ。


「クレアちゃん、これ以上は水を引かせないと無理だよー」


 最前線で様々な仕事をしていたアズサがやって来る。

 メイド服は泥だらけで、大変さが一目で分かってしまった。


「やっぱり子爵領をどうにかするしか…」


 そう呟いて、移動出来る黒板に磁石(マグネタイト)で留められた地図を眺める。

 広い部分が青い斜線で潰されており、洪水被害の大きさがよくわかった。

 ただし、それは男爵領に留まっていて、隣の広大な子爵領に対処する様子がない。こちらで溢れさせる気満々にしか思えなかった。


『朗報だ!河川工事の職人の都合がついたぞ!』

「本当ですか!?」


 通話器から聞こえてきたバニラ様の喜ぶ声に、クレアさんも驚きと喜びが隠せない。

 一家の工事は早いのだが、どうも場当たり的なものになりがちだ。ここに本格的な専門家が加わるのはありがたい。


『少し準備がいる。あと、地図を見た様子だが――』


 職人の知見から、川の形状についての提案がされた。

 2本の川が合流して1本になっているが、その位置をずらした方が良いらしい。

 都市内を流れるのは1本で、来た時の水量も速さも他では見られない勢いがあった。


「むしろ、都市に沿わせてみる?」

「川をお堀…水堀のようにするんですね?」

『常に十分な水量を確保できるならそれも良いな。』

『水量に応じて使う水路を可変に出来ると良いんだがなぁ。』


 バニラ様らしい無茶な提案である。

 なんとなく、想像図を絵にしてみた。装置とかまでは流石に描けないけど。


『大変だが出来なくはねぇな。どうする?』

「石垣の積み方とか教えてもらったし、工事にも利用したから魔法ですぐ出来るよ。」

『お、そうか!』


 ハルカ様の申告にバニラ様がその気になってしまい、フレキシブルな水路を作ることになりそうだ。

 しかし、どうやって水の流れを調整するのだろう?


『もろもろについてはこっちで相談してから向かう。とりあえず、出来る限りの石材をかき集めてくれ。』

「うん。それは任せて。」


 素材集めは冒険者の十八番。

 ハルカ様とソニア様に任せておけば大丈夫だろう。ひょっとしたらもう十分な量があるかもしれない。


『大丈夫か?わたしたちで買い集めても良いが。』

「石は北部の方が丈夫だから。」 

『そうだな。南で手に入れやすいのは表面を手入れする時期が早いんだ。』


 石に色々あるのは知っているが、そういう違いもあるのかと勉強になる。

 職人の方との話も大事だなぁ。


『アズサはちょっと休んでてくれ。リリと一緒に大仕事が待ってるからな。』

「そうするー」


 ずっと黒板を見ながら腕組みしていたアズサ様だが、バニラ様に言われてすんなり受け入れる。

 私たちメイドでは、あんまり聞く耳を持たれないのだが。

 まあ、それはアズサ様の性格というより、ドワーフの気質なのでしかたない。


『素材集め役以外は今の内に休んでおくように。一気に工事を済ませて驚かせてやるぞ!』

『おー!』

「では、ここでおやつにしましょうか。」

『やったー!』


 私の提案に、何名か両手を挙げて大喜びする。

 

 後から聞いた話だが、この時の様子を子爵一行が見ていたとか。

 あちらのがどんな顔をしていたのか、分からないのがなんとも惜しい。

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