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メイドは厄介事も掃除する!  作者: RayRim


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2話 護衛対象はかわいいお嬢様

「メ、メイドが護衛…?」

「そうですよね、そう思いますよね…」


 護衛対象であるお嬢様から、冒険者ギルドで出会うなり困惑をぶつけられた。

 

 夏の時期は私たちの世界同様、学生は長期休暇の時期となる。

 大陸の中央に位置するエルディー魔法国。年明けから4月に及ぶ長い期間、雪に閉ざされてしまうせいで根性か資本のある交易商以外は種族領を越えた移動が困難だ。だからこそ、夏の時期は人の行き来が活発になる。

 このお嬢様の帰省は国内だが、周囲の動きに合わせたものに違いない。


「でも、ヒガン一家のメイドは全員百戦錬磨の猛者揃いだと聞いてますから。」

「あ、いえ、私は絵を描くことくらいしか特技はありませんよ…」

「…今から交代していては間に合いませんし。」


 行き来が活発だからこそ、護衛の需要は多い。

 それに、親御さんもヒガン一家を信頼してくださっての依頼に違いない。メイドである私がその信頼、一家の看板に泥を塗るわけにはいかない!


「安心してください!魔法は上手だと言われてますから!」

「実戦は?」

「じゅ、10度ほどお手伝いを…」

「…微妙ですね。」

「私もそう思います…」


 依頼主のお嬢様共々、深いため息を吐いてすぐに気を取り直す。


「わたくしもビェーラ家の娘。覚悟を決めます。」


 背が高めの私と並ぶと低く感じるお嬢様だが、彼女は年相応の平均的な背丈だろう。

 あえて身に着けていると思われる粗末なフード。隠しようのない二本の角は、ディモスだと教えてくれた。

  

「私もヒガン一家のメイドとして恥じぬ働きをしましょう。」

「よろしくお願いします。」


 お嬢様から握手を求められ思わず呆気にとられる。

 

 『こちら』ではまだ定着していない動作であり、旦那様が求める度に困惑されるのを度々目の当たりにしていた。

 それだけに嬉しい。ようやく、若い世代に広まってきたのだと感じられた。


「はい!よろしくお願いします!」

「痛いですよ!」

「あぁっと…」


 思わず両手で握り返し、ブンブン振ってしまった。

 出てくる前に体格差、ステータス差に気を付けろと言われていたのに…


「わたくしはクレア。クレア・ビェーラと申します。護衛の依頼、よろしくお願いします。」

「はい!ヒガン一家のアクア、しっかり承りました!」


 こうして、久し振りの冒険者として、初のソロ依頼が始まる。


(クレア・ビェーラ嬢の護衛と荷物輸送、クエストスタートだ!)


 声に出すことなく、心の中で宣言する。

 何度も描き、想像した瞬間に、心躍らずにいられなかった。




 徒歩で移動をしながら、クレアさんの地元について話を聞いていた。


 将来、領地経営することになりそうだという話や、その際の展望などを聞き応援したくなってしまう。

 私から出来ることは何もないが、せめて無事に帰省を果たさせてあげなくてはならない。


「以前はこの道なかったのですよ。オラベリア領の発展を聞き、大急ぎで整備したとか。」

「こういう所にも影響があるんですね…」


 南方ルートが既に整備されているので、そこまで影響はないと思っていた。だが、時間が経つほどに北方ルートはどんどん盛況になっていく。


「北方エルフとビーストの交易商が多いそうで、特にこの時期は利用されていますね。」

「たしかに。」


 ディモスの商隊ともすれ違うことはあるが、割合としてはその2種族が多い。


「まだ、発展していないので通り過ぎる交易商ばかりですが、滞在者が増えるようにしたいですね。」

「産業は何があるんですか?」

「金属加工と流れイモですね。」

「厳しくないですか…?」

「はい…評判は良いですけど。」


 流れイモはジャガイモなのだが、大昔に召喚されたのが各地に流れ流れて定着した。一大産地はやはり土地も気候も良いエルフの森東部であり、農産物で質も量もあそこに勝つのは難しい。

 金属加工はドワーフ領という信頼と実績の塊が商売敵になる。あまりにも分が悪い…


「まあ、イモはともかく、この辺で金属加工が栄えるのは助かるでしょうね。北方から『西の山』は遠すぎますし。」


 流通量は多いのだが、各地へ満遍なく流通すると扱う量が少なくなってくる。この辺りに一大工業地帯があっても良いだろう。


「いえ、ここで流れイモが採れるのは意外と無視できないですよ。特に冬のエルディーで出荷できるのは重要ですからね。」

「あー、食べ物はそうですね。ありがたい話です。」


 そう言うと、クレアさんは腰に手を当てて胸を張る。

 亜空間収納やライトクラフト…浮遊車の普及で忘れがちだが、まだ輸送の多くは陸路が中心だ。それら新技術を輸送で使うのはごく一部であり、高級品に限られている。

 南部はかなり改善が進んでいるが、それ以外の地域の冬は相変わらず厳しい。


「そこで今日は休息しましょうか。」

「そうですね。」


 真新しい休憩区画を見つけたので、そこで今日は休むことにする。

 もう2つ、3つ先まで行けなくもないが、初日から頑張り過ぎるなと旦那様から言われていた。

 クレアさんもホッとしているし、依頼とはいえ急ぐ旅でもない。これでいいのだ。


「だいぶ中央の流儀で整備が進んでいますね。」

「そうなんですか?」  

「北部の影響が強い地域なので、少し意外ですよ。」


 北部とは縁がなく、そんな違いがあるとは知らなかった。南北問題は思った以上に重く根深いようである。

 

「ルエーリヴ住まいだと実感薄いですけど、やっぱり仲良くないんですねぇ。」

「実家より北は、ですけどね。もう少し顔色を伺うかと思ってはいましたが。」


 板挟みになる地域なのだろう。あっちこっちからの圧に悩まされそうな姿が思い浮かぶ。

 そんなデリケートな土地を、子供に分割して統治させて大丈夫なのだろうか?


「不安はあるでしょうが今は何処も同じですよ。どの貴族も変化の渦に巻き込まれてますから。」


 間違いなく、一家の影響によるものだ。

 少なからず関わってしまった人間として耳が痛い。


「なんかすみません。」

「どうして謝るんですか。この変化は良いことですよ。発展し、便利になっていくのは確かなのですから。」

「そう言っていただけると助かります。」


 私が関わったのは主に文化面だが、まさか大陸中に作った本が流れてしまうとは思いもしなかった。

 だが、その状況はありがたい。文化振興という意味でも、懐が温まるという意味でも。フヘヘ。


「さて、ここで今日は休みましょう。ちょっと手伝ってもらっていいですか?」

「えっ!?」


 亜空間収納から小屋の土台部分を出すと驚いた声を上げられてしまう。


「ちょっと支えてもらうだけで助かりますので。」

「は、はい…だ、大丈夫かな…」

「だいじょうぶですよ。メイドの私でも持ち上げられますし。ほら。」

「あ゙ーーーっ!!潰れる!!潰れちゃいますから!!」


 そんなこんなで大騒ぎしながらも無事に1日目を終える。

 最初はどうなるかと思ったけど、クレアさんは話もしやすいし楽しい護衛になりそうに思えた。

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