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メイドは厄介事も掃除する!  作者: RayRim


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1話 突然の依頼

「今回の護衛依頼を承りましたアクアと申します。」

「えっ?」

「メイドではありますが、私とて最強の冒険者集団『ヒガン一家』の一員、そこらの冒険者に劣ることはございません。安心安全快適な帰省の旅を保証させていただきます!」


 最後は半ば自分に言い聞かせるように、私はヤケクソ気味で言い終える。


 召喚者で転生を経ていても、致命的なレベルで荒事に向いていない自覚はある。

 だが、こうして依頼が始まってしまった以上、責任を持って完遂するしかない…


 私の愛する掃除、洗濯、炊事と、絵を描いたり、劇場に足を運ぶだけの日常。それは、2つの貴族領の激動に揉みくちゃにされ、渦中に私自身が立たされるのであった…


 始まりは昨日の午後に遡る――




  

 此処ではない何処か。現在ではない何時か。

 無数の世界、無数の可能性の一つが紡ぐ物語。

 その一つをこれより語らおう。


 かつて、そう始まるゲームがあった。

 スキル+レベル制のオーソドックスなシステムだが、フルダイブ環境が容易く手に入るようになり、世間から広く受け入れられる。最盛期には数億のプレイヤーが世界中にいたが、時代は移ろい行くもの。

 10年を過ぎ、システムの複雑化と膨大なデータの維持が限界に達すると、時代の波に呑まれるようにサービスは終焉を迎えた。


 私はどういう訳かそのゲームによく似た世界にいる。

 その世界で色々あってメイドをしている。

 掃除、炊事、洗濯とやることがとにかく多い。

 西暦2100年代の一般的な現代人だった私では、簡略化できる魔法や魔導具がなければ、とうの昔に音を上げていただろう。


 冒険者集団として、高名さと厄介さの両方で名を馳せた『ヒガン一家』に私は身を寄せている。

 そこでメイドとして忙しくも楽しく暮らす毎日に、不満などあるはずがなかった。


「アクア、調子はどうだ?」


 四人の義姉妹の中で最も背が低いながら、いかにも魔導師という風貌の長女、バニラ様が尋ねてくる。

 バニラ様たち義姉妹は私と同じく召喚者で転生も経験済み。長女のバニラ様と四女のハルカ様の種族は、私と同じディモスで二本の角が生えていた。

 

「今日も絶好調ですよ。魔導具のおかげで楽できてますからね!」

「その魔導具について聞いたんだが…その様子なら大丈夫そうだな。」

「あっ」


 勘違いに気付いて洗濯の手が止まった。正確には、動揺して魔力が乱れたのだが、魔導具が異常を検知してゆっくりと止まってしまった。

 制御が上手いとよく(おだ)てられるが、少しでも不測の事態に陥ると乱れてしまう。


「よしよし。フェイルセーフも効いているな。これなら改良版として世に出して良さそうだ。」

「そ、そうですか。」


 恥ずべきか、光栄に思うべきか分からず、そんな返事をしてしまう。


「前のは大惨事だったもんな。まあ、ゴキブリはともかく、急なヘビはわたしでもビビる。」

「恐縮です…」


 あの時は一瞬で魔石を使い尽くす程の水量を放出し、洗濯場どころか乾燥し終えたお召し物まで水浸しにしてしまった。

 メイド長であるディモスのカトリーナさんからいつものように大声で名前を呼ばれ、旦那様からは『湖が溢れたかと思った』と言われてしまう。

 大雨や長雨でも溢れる気配のない湖なだけに、褒めているのか、茶化しなのか、フォローなのか判断に困った。


「そう背を丸めるな。母さんの次に頼られるメイドなんだから堂々としてくれ。」

「は、ハイ!」


 言われてみると、我が事ながらそんな気はしていた。

 と言っても、他のサボりがちな人の分を押し付けられてるだけな気もするが…


「その辺はメイプルも一緒だし、気にするな。」

「そ、そうですよね。」


 心を読んでるバニラ様の言葉も今となっては慣れっこだ。最初はなんともおかしな感じがしたけど。


「さて、次はリリの手伝いが待っている。」

「朝から準備してましたね。何を作ってるんです?」

「旅先の簡易小屋のパーツだよ。あれも凝り始めたら止まらないんだ。」

「あー、西方エルフもそうなんですね。」


 西方エルフは他のエルフ3種族と比べて耳が少し短く、感情の変化がアホ毛に出る不思議な種族。

 なのだが、実は髪色は魔法による偽装で、ディモスとエルフの混血である『灰色エルフ』だったりする。

 凝り性なのは、芸術や研究に秀でたディモスの性分が出てしまっているからかもしれない。


「適当なタイミングでおやつを頼む。わたしも忘れそうだからな。」

「はい。差し入れの準備をしておきますね。」


 バニラ様を見送ると、入れ替わりでハルカ様と次女のシュウ様が、フィオナ様を抱えてやって来た。

 シュウ様が上半身を羽交い絞めにするように、ハルカ様が両足を脇に抱える姿に唖然とする。

 フィオナ様の方は、グッタリしていてただならぬご様子。

 

「ど、どうされたのですか?」

「暑さで目を回しちゃって…」

「えぇ…」


 修練場に併設されたダンジョンに篭っていたはずだが、中で何をしていたのだろう?

 そもそも、暑さ、寒さと無縁の空間だと思っていたのだが。


 お風呂場へと運び、フィオナ様を宙に放ったかと思うと、落下するまでにハルカ様が服を素早く脱がせ、下着姿にしてしまう。なぜこんなにも脱がすのに手慣れているのだろうか?


 そんな疑問は横に置き、私は魔法で桶に氷の塊を出しておく。


「首、脇の下を冷やそうか。」

「分かりました。」


 シュウ様の提案に従い、【彫刻】スキルを起動し、【ファイア・ブラスト】を極細に絞って、迅速に適切な形に整える。

 首、脇の下に良い感じにフィットして、フィオナ様がうなされなくなった。

 こういう時の対応はシュウ様がとても詳しい。元々、格闘技をやっていたそうなので、ノウハウも豊富だ。


 『大きい』『たくましい』という言葉を繰り返していたが、いったいナニを…いかん。これ以上は仕事に差し支える。忘れましょう。忘れなさい。


「お父さんと我慢比べなんてするから…」

「熱さに弱いのになんでサウナで張り合ったのか…」


 窓を開けて魔法で風を送るハルカ様と、団扇で扇ぐシュウ様。

 シュウ様は呆れ顔だが、ハルカ様はなぜニコニコしてるのか。これは現場にいなくて後悔する事態だったに違いない。


「旦那様はどうされました?」

『お説教中。』

「あぁ…」


 カトリーナさんとアリス様から絞られてる姿が目に浮かんでしまう。

 一家(うち)は旦那様からしてよくやらかすので、お説教は日常の一部のようなものだ。


「この有様でも総領の娘だからね。2人にしてみれば気が気じゃないよ。」


 高貴さの欠片もない姿になってしまっているが、私のように平たい…いや、スレンダーボディを持つ者として完璧と言っても過言ではないのがフィオナ様。東方エルフの特徴である長耳、金髪がこれ以上似合う方を存じ上げない。

 その立ち姿や振る舞いはこの上なく絵になり、何枚描いたか分からない。特に目の前の2人と一緒にいる時は最高で…いや、そうでもないことも…まあよくある…


 ちなみにシュウ様も召喚者で今は東方エルフとなっており、フィオナ様と共に行動しては黄色い声援をよく浴びていた。

 

「私達も囃し立てちゃったから。」

「まあ、サウナもお父さんとフィオナの熱気と冷気勝負の結果だし。」

「あー、弱って蒸し蒸し熱々な空気でやられたんですね。」


 魔力勝負で旦那様に勝てる人を見たことが無い。

 魔力の強さ、多さ、制御力の三拍子が異次元のレベルで揃ってしまっているのだ。

 それでも魔法剣士を自称する旦那様。近しい人々からの『魔法使いが剣を振っている』という評価は、私から見ても妥当だと感じる。構えは不格好で動きは単調だし。

 にも関わらず、『魔法剣士』として旦那様以上の人は目の前のハルカ様以外にいないだろう。『剣士』として圧倒できればという条件が付くが。


「サウナは息するのもつらいですもんね。」

「フィオナには効きすぎちゃったみたい。」

「熱い風呂にも入れないのに…」


 そんな人にサウナは無茶過ぎる。


「魔法で決着つかなかったんだよ。その分、フィオナは勝ちたくて無理したみたいだけど。」

「おぉー。ついにその日が来ましたか。」

「この性格だからね。気が逸ったんだ。」


 そう言いながら団扇で顔をペシペシと叩くシュウ様。

 なかなかこんな事をするシュウ様なんて見れないが、こんな事をされるフィオナ様も見れない。

 心に深く刻み、後で絵にしておこう。


「なになさいますの。」

「冷やしてただけ。」

「んぐぐ…」


 流石にフィオナ様も目を覚ますが、そう言われては反撃出来そうもない。

 ハルカ様が魔法で起こし続ける風に加え、シュウ様の扇ぐ団扇のおかげか、顔から赤みが引いていた。


「はい。お父さんから預かったポーション。」

「ありがとうございます。」


 ハルカ様が亜空間収納からつまんで渡すが、微かに霜を纏っているように見えた。

 これは旦那様とハルカ様、どっちの気遣いだろう?

 一気に飲み干すと、落ち着いた様子で一息()いた。


「あんなにつらいものだとは思いませんでしたわ…この地にあのような環境などあるのですか?」

「真夏の南方の空気が近いかな。」

「…南方エルフの方々を見直しますわ。」


 ハルカ様の答えに神妙な面持ちで返すフィオナ様。体質が極端なだけの気がするが。


「アクア、ここだったんだ。向こうで旦那様とカトリーナさんが呼んでるよ。」

「えっ!?」


 同僚のメイプルに言われ、思わず変な声が出た。

 なにかやらかしてしまっただろうか…

 

「お説教とかじゃないよ。何か用事みたい。」

「よかったたすかった…」

「なにやったの…?」

「こころあたりがありすぎまして…」


 問い詰めるハルカ様の胡乱げなメガネ越しの視線が痛い。

 あの本やあの彩色彫刻像(フィギュア)のことはまだバレていない。このままバレずにいてもらいたい!

 この一家は普通に暮らすだけでも、形にしたいネタが豊富すぎるのだ!


「あんまり待たせると…」

「行きます。すぐ行きます!迅速に参ります!!」


 シュウ様に催促され、私は足早にお風呂場を後にした。

 それにしても、用とはいったいなんだろう?


「お待たせしました。」


 憩いの間へやって来ると、困った様子の旦那様とカトリーナさんが話をしていた。


「悪い。風呂場だったか。」

「いえ、氷をカットするだけでしたので。」


 旦那様が謝るが、ほぼお喋りに興じていただけなので訂正しておいた。

 テーブルに置かれた手紙に視線が向く。何が書いてあるんだろう?


「みんな、この後の予定が詰まってるからアクアに頼みたい。」

「お使い程度でしたらお安い御用ですよ。」


 私の返答に旦那様とその第1夫人であり、私の上司であるカトリーナさんが見合う。そこまでの用事なのだろうか?


「北部へ護衛と配達だ。」

「は?」


 とんでもないお使いに、変な声が出てしまう。

 

 これがこの大陸において、私が最も過酷で、最も重い責任を負ってしまった1ヶ月の始まりだった。

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