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異形街の狼探偵《こちらオオカミ探偵事務所》  作者: 藤村 丈一
1章 §LPD事件
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Ep7 【リライト】

見つけて頂きありがとうございます。

是非、最後までお読みください。

狂気の罠に掛かり、脱兎如く必死に逃げた狼

顔である俺。

社会システム上、殺人犯になってしまった。

目立つ事は避けた方が良いと思い、先ずは乗っているだけ、置いてあるだけで目立つバイクを何箇所か用意してある隠れ家の一つに隠す。


捜査機関が、仮に犯人を俺と特定した場合、必ず”オオカミ探偵事務所”に来る事は容易に予想出来る。

ただの捜査員ならまだ良いが、強行手段を取られて、襲撃されたら悔やんでも悔やみきれないからだ。


隠れ家で着替えも済ましておく。

どこで見られたか分からないので、シャツからプルオーバーパーカーに、パンツもカーゴパンツから、無地のスウェットにする。

どちらも色は黒で、サイズ感はゆったりめにして、銃をベルトタイプのホルスターに変更して腰裏に装備する。

耳は窮屈だが、グレーのキャップ、足元は軍用素材で作られた黒のタクティカルスニーカーに変え、煙草、ライター、そして手帳型のネモログをポケットに滑り込ませ、フェリシアとの合流地点へ徒歩で向かった。


地味な格好ではあるが、通りでは浮く事は無く、誰も俺に視線を向ける事はなく、風景の一部としてうまく溶け込めている、と思った。


十五分程歩くと、目的の場所に着く。

メインではないが、そこそこ人通りのある中で、脇に立つビルの地下へと下りると、金属製の自動ドアが迎えてくれた。


店内はカジュアルなバーとなっており、最大で四名座れる半個室のボックス席が並ぶ。

受付のスタッフに連れがいる事を伝えて、案内されたボックス席に座る。

煙草に火を点けると、疲労と徒労が煙に紛れて喉を抜けた。


一本吸い終わる頃に彼女がやってきた。

最初は誰か分からなかった。


ロングで赤茶色のウィッグ、茶色のコンタクト、野暮ったい黒縁メガネに、シンプルなグレーのトレーナーに、色の薄いデニム、白のスニーカーで現れた変装したフェリシア。


数秒分からず、ぽかんとしていたらテーブルの下で足を踏まれた。


とりあえず互いにビールを注文し、店員が離れたのを見てすぐ、フェリシアは指輪型ネモログから一枚のディスプレイを出して俺に突きつけた。


『解体殺人事件発生。捜査機関の捜査開始』


部屋の惨状、狂気のアートを確認したんだろう。

残念ながら、あの人体陳列アートを作ったのは俺、と捜査期間は思っているのだろう。

思わず脳裏に“狂気の狼男、出現”というテロップが浮かび、嫌な予感ごと押し流すようにビールを半分ほど一気に呑んだ


「災難ね。面会には行くから」


「差入はいつもの酒で頼む」


軽口の応酬。

ちょっとしたやり取りだが、巻き込まれた理不尽によってささくれていた心が、落ち着く。

ゆっくりビールグラスを傾け、中身を飲み干してから、フィを見る。


「今の状況と、情報を整理したい」


頷き、何から始めるか問うフェリシア。

その口元には白い泡髭が付いており、指差してやると、赤い顔をして慌てて拭った。


「…スピンドルとネモについて、詳しく教えてほしい」


二杯目のビールを注文してから、フェリシアに確認する。

斜め上の質問をされて、ぽかんとしてから、応えてくれた。


「スピンドルの正式名称…?Systemic Protocol for Individual Neuro-Data Linkage & Emission──略して“S.P.I.N.D.L.E”」

「…急になに?」


「システムについて、説明してくれ」


「個人神経データの接続および発信のための体系プロトコル、と言う直訳」

「役割は、装着者の五感や思考など、あらゆる体験をデータとして送信することで、80年前から誕生時に海馬に埋め込むのが、強制義務になっている。…なんなの?」


あなたは10年前に無くしたでしょ、っと嫌味を付け足して回答してくれた彼女は、喉を潤す為にビールを流し込んで、空のグラスをテーブルに置く。


ちょうど来た俺の二杯目だったビールを、さっと空になったフェリシアのグラスと取替え、にこりとなるべく、爽やかな笑顔を作った。


「……ネモの名称は、Neural Experience Memory Organizerの頭文字で、”N.E.M.O”」

「スピンドルによって送信される体験を記録・蓄積するクラウドアーキテクチャ全体を指す」


早口で捲し立てる様に説明すると、汗をかいているグラスを奪う様に一気に煽る。


フェリシアの白くて細い喉が、ごくごくと上下するのを視界に入れながら、無意識に煙草を咥え、火を点けていた。

じりじりと葉が焼ける音を聞きながら、彼女の形の良い指、正確には右手の薬指に嵌められた金の指輪を指差して伺う。


「ネモログは?」


俺の質問を受けると、一瞬、顔に陰が落として、愛しそうに指輪を撫でる。

その眼差しに宿るのは、追憶。

まるで、失った大事な人を思い出す様な切なさが混じったそれだった。


何故か、心がざわつく。

暴力的に、フェリシアの顎を掴みこちらを向かせたい衝動に駆られるのを理性で抑え、煙として吐き出す。


「ネモログは、ネモから秘匿情報以外を抜き出して使用する為の物理デバイスでしょ」


「インフラにおける個人特定情報とかね 、あと問題のSinCroシンクロは、ネモログで使用するアプリケーションになるわ」



フェリシアの説明を聞き、頭の中で要約。

スピンドルはあくまで送信機であり、ネモが受信と蓄積、そこから必要情報を連動して活用しているのがネモログ。


恐らく、あの狂気の箱には被害者のネモログも入っていたのだろう。

ネモログの本体は極小のマイクロチップであり、体内に内臓する者も少なくない。


フェリシアがビールで唇を湿らしながら、

シンクロは若者を中心に浸透しており、特徴は映像だけではなく、配信者の五感を視聴者が同調できることである、と説明を続けた。


説明を耳に入れながら、思考の海に潜る。

以前、フィはシンクロ上での痛みの共有にはフィルターがあると言っていた。

ならば、犯人の目的は何なのか。

痛みの共有や拡散が目的ではないのか。

それとも、何か見落としがあるのかーー


ことり、とテーブルに置かれたグラスの音と鼻腔に漂う芳醇な香りが、俺を思考の海から引き上げた。

顔を上げると、向かいのフィが苦笑しながら氷と琥珀色の液体が半分程入ったグラスを差し出していた。


「怖い顔、してるわよ」


すまん、と謝ってグラスを煽る。

大好物の香りが、思考を和げてくれた。

彼女の目を見て、口を開いた。


「犯人の目的が、見えてこない」


「詳しく話してみて」


前屈みになり、聞く体勢を整えてくれた彼女に対し、背凭れに体重を掛け、煙草の準備をしながら、考えていた事を話してみる。


「あの部屋は明らかに”痛み”や”苦痛”の共有、拡散を目的に行われたものだと、思っている」


一呼吸置いてから、続けた。


「たが、シンクロにフィルターがある以上、目的は達成できない。だとするなら、犯人のあの執拗に解体する狂気の熱量の目的がわからない」


俺の推論に、彼女も黙る。

多分、同じ考えに辿り着いているのだろう。


ーー俺達にはまだ見えてない”何か”がある。


と言う結論に。


からんとグラスの中で氷が踊っていた。

お読み頂き、ありがとうございます。

次回も、よろしくお願いします。

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