Ep1
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ーー千変万化の街・フラクト。
街を歩く人々は、獣の尻尾や耳が生えていたり、硬質な肌や、全身機械、半透明の身体など
共通の特徴を持たない。
生体工学と再生医療の発展より、人々は身体と言う器からの脱出を可能とした。
“リボ”と呼ばれる技術により、ファッション感覚で身体を変えるのは当たり前になっている。
自身を特定するのは、生まれた瞬間に海馬に埋め込まれる”スピンドル”という機器と、それにより凡ゆる体験・思考が全て記録される”ネモ”だけだ。
そんな空虚だが、生の熱量が高いこの街だからこそ、狼の顔を持つ俺は、違和感無く溶け込めてるのだろう。
……いや、正しくは、誰も他人に興味がないだけか。
そんな街の片隅で、俺こと、オオカミは探偵事務所を始めた。
「……で、友人がおかしくなった原因を調べてほしい、と」
事務所の中、古ぼけた応接ソファーに座る女性、いや見た目で言うなら垂れる犬耳が生えた少女に再度問いかけると、耳が縦に揺れる。
耳の印象からも、小型犬の印象を覚えた。
「その友人が、最後に行った場所に心当たりは?」
「…たぶん、一昨日に、”ポイント”に”ダイヴ”しにいったのが最後だと思う」
意味と意図が迷子の言葉が並び、ガシガシと頭を掻きながら、タバコに火をつける。
「すまん。ちょっと確認したいんだが、ポイントってのは…?」
「え?飲みながら、みんなで”ダイヴ”するところだよ。この辺だと、ブルーホールってとこが有名」
「…なるほど。因みに、”ダイヴ”ってのは?」
「…このSinCroってプラットフォームはわかる?」
「…あぁ。シンクロね、うん」
「意外におっさん?大丈夫かな…」
「まぁまぁ。任せとけって。それで?そのシンクロってのは何するプラットフォームなんだ?」
「ネモと接続して、記録を共有したり配信するの。 配信者の五感情報も配信されるから、”潜る”って言って、”ダイヴする”って言うの。わかる?」
「…PLXって知ってるか?」
「化石かよ」
時代の流れに取り残されたような寂しさを、煙と共に消す。
「つまり、友達はブルーホールってスポットでシンクロの五感配信に接続したのが、原因だと思ってるわけだ」
「そう。ブルーホールはコロシとか、バラシとかの結構ヤバいやつとかアングラなのもあるって噂でさ」
「なるほどな。まぁ任せろよ。調査して何かわかったから連絡する」
俺は、タバコを消して見送った後に事務所を出た。
◆
ーースポット・”ブルーホール”
薄暗く、青い照明に照らされた店内。
名前からなのか、海中にいるような安心感と息苦しさを感じる。
店内には、クラゲの様なデザインで、浮かぶような半透明のシェルに覆われた4〜6人掛けの半個室の椅子が並んでおり、その中で何が行われてるのは、外からは分かりにくい形だ。
一部では、音楽に身を任せて踊っている者もいるが、店内では無く踊る場所だけに立つと聞こえる指向性音楽なのだろう。
不気味に、笑い声や泣き声、悲鳴などが時たま響く店内の端にある、バーカウンターへと進む。
中では、悪魔の様に角を生やし、全身を赤色の肌にしているスタッフが暇そうに立っている。
「よぉ。ちょっと聞きたいんだが」
「…注文は?」
「この中で、1番”ダイブ”に詳しいやつは?」
「…俺が親切な案内役に見えんのか?犬っころ、殺すぞ」
ドスを効かせて、脅してくる悪魔ボーイ。
その手には小振りだが、それなりの殺傷能力がありそうなナイフを、俺の顎に向ける。
「…おい。訂正しとけ、俺の顔は犬じゃなくて狼だ」
「知らねぇよ。用がねぇならその辺で片足上げてしょんべんでもしてろや、”犬っころ”」
その一言を聞き終えるや否や、拳が悪魔の顔面を打ち抜き、顔面は中央に向かって凹んだまま、背後の壁に飛ぼうとするが、逆の手で首元を掴み、飛ぶのを防ぐ。
ぎぃ、とか、ぴぃとかよく分からん泣き声をあげるているが、容赦無く落としたナイフを拾い上げて、両手を重ねて甲からテーブルへ縫い止める。
「**/+\+!!」
「ん?なんだ?身体は生なのか?」俺はナイフの柄に力を込め、ぐりぐりと手首に沈めた。
声にならない悲鳴を上げる悪魔を見下ろしながら、ぐりぐりしてやると、さながらボリューム調整の様に、声量が上がる。
「おいっ!てめぇ!何してる!」
そうやって悪魔と戯れてながら、悪魔オーディオを楽しんでいると、多少”場慣れ”してる風体の奴らが4人程出て来た。
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