表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異形街の狼探偵《こちらオオカミ探偵事務所》  作者: 藤村 丈一
1章 §LPD事件
3/18

Ep1 【リライト】

見つけて頂きありがとうございます。

是非、最後までお読みください。

リライトしました。

異形の街と狼探偵


 街には、異形の者ばかりが歩いている。


 獣耳の女、金属の皮膚を持つ少年、全身を機械化した者や、液状の水袋に変わってまで生を繋ぐ者すらいる。

共通点がないことこそが尊重される――ここは、フラクト。千変万化の街。


 二度の世界大戦を経て、義体技術と再生医療が融合した。

服を着替えるように肉体を換える“リボ”技術。

人は、生身であることをやめた。脳幹以外、すべて作り変えることが可能になった。


だが、それでも“自分”を保つ術はある。

一つは、“スピンドル”――生まれたときに海馬へ埋め込まれるナノマシン。

それは思考、感情、体験、記憶のすべてを、“ネモ”と呼ばれる不可視の記録領域に送り続ける。

死ぬまで止まらない。止められない。


 もう一つが、“ネモログ”。

ネモと個人を繋ぐIDのようなものだ。チップはナノサイズで、アクセサリーや体内、持ち物など、どんな形にも埋め込める。


誰もが自分を記録されながら生きる社会。

記録されることが存在証明であり、記録されない者は、この世界に“存在しない”とされる。


そんな社会の片隅で、狼の顔をした俺は生きている。


違和感なく、溶け込んでいる理由はわからない。

この街に熱があるからか、それとも、誰も他人に興味を持たないからか。

だが一つだけ確かなことがある。


狼顔なんて、珍しくもない――そういう街だ。


記録情報からパーソナライズされたCMや広告が、視界の中にちらつく。

ヴァーチャルの看板がビルの壁を塗り替え、色と音で喧しく主張している。


そのメインストリートを抜け、一本路地を曲がれば、途端に色彩はしぼむ。

くすんだ路地。古ぼけたビル。ヴァーチャルの気配すら薄い。


その奥に、二階建てのコンクリ構造がひっそりと建っている。

玄関脇、錆びた金属板に書かれた手書きの文字が風に鳴る。


 《オオカミ探偵事務所》


 昼でも薄暗い路地に、看板の灯りはない。

夜になると、壁面に光の粒が浮かび、「在室中」の文字が浮かび上がる仕掛けになっている。洒落ているかどうかは、見る者次第だ。


中へ入れば、小さなロビー。コンクリ打ちっぱなしの壁。

左手に、くたびれたソファと観葉植物。埃まみれだ。

壁には、弾痕と古びた血痕の跡が一つ。


カウンターの内側、天井から吊るされたファンがゆっくりと回る。


二階は私室と資料部屋。

一階奥の鉄扉の向こうには、《整備室》がある。

義体パーツや解体した部品、工具が雑然と並び、中央には一台のバイクが鎮座している。


 昔ながらの無骨な車体。

今では珍しい小型核融合エンジンを心臓に積んだ、俺の愛車。

 ――名はマナガルム


この部屋は、物置であり、研究所であり、俺の最後の拠点でもある。

探偵事務所なんて看板だけ。

実態は、居場所を失くした男の溜まり場にすぎないのかもしれない。



 季節の狭間。夏には早く、春には遅い昼下がり。


来客がいた。


白い猫耳を垂らした少女。尻尾の先は、黒いハート型。

顔つきはどちらかと言えばタヌキだが、好みには口を出さない主義だ。


彼女はソファに腰掛け、右耳のピアスを細い指でいじっている。

仕草には落ち着きがなく、目線も定まらない。


俺は灰皿を挟んで正面のソファに座り、煙草をくゆらせながら訊ねた。


「……で、依頼内容は、“友人の異変の原因を調べてほしい”、で合ってるな?」


少女は煙たげに顔をしかめながら、こくりと頷いた。


「一昨日、”ポイント”で“ダイブ”してから、様子がおかしくて。急に叫び出したり、泣き喚いたり、笑いながら転げ回ったり……」


「クスリじゃないのか?」


「ないよ。ポイントで出るのは“デジドラ”だけ。

身体に残るやつは、デトックスしなきゃアウトだし。

トリップっていうより……壊れた感じ。意味、わかんないけど」


 俺は身を乗り出し、タバコを灰皿に押し付ける。

真面目な顔で、少女の目を見た。


「……すまん。言ってることの半分も理解できない。いや、マジで。

 ダイブ? ポイント? デジドラ、はデジタルドラッグだな。わかる」


 少女の眉がピクリと跳ねた。


「……意外とおっさん?てか、それで探偵名乗ってんの? 不安しかないんだけど」


目に浮かぶ、あからさまな侮蔑。

俺は、それをスルーする。というか、スルーせざるを得ない。


 顔に出さず、表情と声色だけで押し切る。

今までも、だいたいそれで何とかしてきた。


ーー多分、今回もなんとかなる。きっと。


 ただ一つ確かなのは、俺が“若者”ではなくなっているということだ。

それが地味に、いちばん心にくる。

お読み頂き、ありがとうございます。

次回も、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ