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《記憶の輪郭》ーオオカミ探偵事務所ー  作者: 藤村 丈一
1章 §LPD事件
2/4

プロローグ

見つけて頂きありがとうございます。

是非、最後までお読みください。

狼の顔をした男が、雑多な街を歩く。

 口元には、紫煙を燻らせるタバコ。金色の眼が、薄汚れた街灯を映して揺れる。

 灰色の体毛と錆色の長髪は、無造作にひとつに括られていた。


 軍用のカーゴパンツに白シャツ。肩から吊るしたサスペンダーが、脇に下げた大型のリボルバーを軽く揺らす。

 男は名残惜しげに煙を吐き出し、吸殻を路面に弾いて、古びた木製のドアを押し開けた。


 店内は、数少ない「人間のバーテンダー」がいるバーだった。

 カウンターの隅に、白髪と髭が目立つ壮年の男が腰掛けている。


「よぉ、ドクター」


「……久しぶりだな。いつ戻ってきたんだ?」


 並んだふたりのグラスに、琥珀色の酒が注がれ、静かに音を立ててぶつかる。


「戻ったのは、二ヶ月くらい前だな」


「二ヶ月前か。今さら声かけてきやがって。冷たい奴め」


「冗談言うな。命の恩人であり、俺にこの顔《狼面》をくれたあんたには、足向けて寝られねぇよ」


「……もう十年になるか」


「ああ。俺たちの戦場も、今や過去の“記録”さ」


「“ドクター”と呼ぶ奴も、お前くらいになったよ」


「軍医を辞めたって?」


「今は軍大学で教鞭をとってる。プロフェッサー様さ」


「おお、お偉いさんじゃねぇか」


「で? 彼女には会ったのか?」


「家にはいなかった。……どっか出てんだろ」


「……そうか。で、こっちじゃ何する気だ?」


「ようやく準備が整ったんでね。まずはあんたに挨拶だ」


 男は胸ポケットから紙の名刺を取り出し、カウンターの上を滑らせる。

 そこには、筆文字風のロゴでこうあった——“オオカミ探偵事務所”。


「紙の名刺とは、また時代錯誤だな……」


「覚えてもらいやすいだろ? これからは、“オオカミ”って呼んでくれや。何かあれば、特別価格で請け負うぜ」


「“トライペア”の眼を誤魔化してるお前さんには、うってつけの仕事だな」


 グラスを傾けながら、ドクターはふと思い出したように口を開いた。


「そういえば最近、妙な噂を聞いたぞ」


「なんだ。ついに宇宙人でも現れたか?」


「“笑顔が捨てられてた”ってよ」


 オオカミの手が止まる。眉がぴくりと動いた。


「……頭じゃなくて?」


「さあな。あくまで噂さ。ま、探偵稼業なら気をつけろよ」


「俺の首なら、誰かの家の壁にでも飾られてるだろうよ」


「その時は、挨拶しに行ってやるよ」


「楽しみにしてる。じゃあな、ドクター」


 最後の一口を流し込んで、男は立ち上がった。

 その背に向かって、ドクターがぽつりと呟く。


「——帰ってきたか。馬鹿野郎が」

お読み頂き、ありがとうございます。

次回も、よろしくお願いします。

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