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異形街の狼探偵《こちらオオカミ探偵事務所》  作者: 藤村 丈一
1章 §LPD事件
13/15

Ep11. 【リライト】

見つけて頂きありがとうございます。

是非、最後までお読みください。


ホームレス達のまとめ役。

中身は女だが、外見は身長230cmの筋骨隆々の男性義体である”ボス”。

後ろに流した金髪を二つに分けて結び、白い肌に青い目に、線の入る角ついた顎。

ショッキングピンクのヘソ出しTシャツからは、見事なエイトパックがはみ出している。

黒のホットパンツから引き締まった足が伸びる。

臑毛一本が一本もなく、手入れされて輝くそれには、黒のハイヒールを履いていた。


元はスイートルームとして作れた豪華さだと上品さを兼ね備えた部屋。

中央には、宛ら機械巨人の眼球が落ちてる様にも思える、全体的に丸みのある塊の中にあるベットに近い椅子とあちこちから伸びて、繋がる様々なコード類がまとわりつく、超広域探査及び遠隔監視ユニット・ブラームスが置かれる。

そして、巨体の男。

この空間は、組合せがちぐはぐだが全てが大きく威圧感を放つ中で、俺と後ろに隠れる様に立つフェリシア。


眼前で仁王立ちし、腕を組んでから輝く様な笑顔で、言葉を上から放つ。


「四体目の棄てられた笑顔を見つけた。こう言うのはあんたの”領分”だろう?」


女性のアルトボイス。

何度会っても、こいつと話すと視覚と聴覚のアンマッチで脳が強引に揺さぶれる気分を味わう。


「四体目?報道では三体じゃなかったか?」


「さぁ。”賞金首”のアンタがいるなら、四体目が出てもおかしく無いんじゃないの?」


ニマニマと意地悪い顔で、返答。

それに対して、背後から援護射撃が入る。


「犯人は別よ」


「ハァイ。フェリシア、元気?」


フェリシアの頭を余裕で納められる程に大きい手をひらひらと振るボス。

自然とフェリシアとボスの間に身体を入れる様な体勢になり、ボスを見上げる。


「冗談はいい。どこで見つかった?」


「”城”の裏よ。今朝ウチの子が見つけたわ。まだどこにも知らせてないわ」


彼、いや彼女ーーボスは真剣な顔で話す。

城はこの建物を指し、子はホームレスの呼び方。

案内して欲しい旨を伝えると、着いてこいと、顎を動かした。



ビルの裏手。

日中にも関わらず、壁に囲まれ日陰になっている場所。

一日中日陰特有の重い湿気が籠り、ホームレスですらゴミと判断した物達の腐臭漂う墓場。

何人かの野次馬の中には、ジェム爺も居た。


壁に寄りかかるように高く積まれた山の斜面の一部に不自然に被せられたブルーシートを、ボスが捲る。

ほぼ同時に、背後からフェリシアの短い悲鳴が上がった。



シートの下から現れたのは、横たわる男の笑顔。

目は薄らと開き、涙の跡が緩やかに吊り上がる両頬を伝っている。


ーー恍惚とした、笑顔だ。


笑顔にも種類があると思うが、この男の笑顔は快感に酔いしれたうっとりとした湿り気のある笑顔だった。


「…Zz(ズィーズ?)」


恐る恐る近寄って、何度か目を逸らしながらもまじまじと見ながら、フェリシアが溢す。


視線を向けると、眉根を寄せる彼女の顔と、後ろで何か話している野次馬が目に入る。


「知り合いか?」


「まさか。この人、人気配信者の”ズィーズ”よ。アクロバティックを五感配信するのが特徴のチャンネルで…」


ディスプレイを浮かべ、シンクロの画面を映したまま、彼女は止まる。

そして、震える声で続きを呟く。


「…ゲリラライブ配信告知が出てる。…待機接続人数、二百万人…」



ぞくっと得体の知れない恐怖が背筋に走る。

何かが起きようとしている。

死んでいるはずの人気配信者の笑顔が、背筋が冷えるほど不気味に見えた。


「…一応、視覚情報だけで接続してみる」


フェリシアはそう言うと、表示していたディスプレイのサイズを上げ、ボスや野次馬も含めて視線を向ける。


暗い画面の右上に、LIVEの赤文字がゆっくり点滅を始めた。

遂に、”何か”の幕が開ける。


ーー女の鼻歌。

暗い画面が、瞼を開く様に中心からぼやけながら白くなっていき、徐々にピントがあってくると、白い天井と上部から降り注ぐ強い照明の明るい影。


鼻歌が響く中で、視点が左側へ縦に動いた。

これは仰向けに寝かされている状態から、左を向いた事に気がつく。


「なんだ…?」


映ったものに対して、思わず声が出た。

アニメキャラクターの大きな頭部と上半身が画面に映る。

体はピンクのシャツで、緑色のエプロン。

顔は簡単に点と線で構成され、頭は子供が描く雲の様な形の黒。


キャラクターの関節がない丸い手が上がる。

そこには、円盤の縁がノコギリ状になっている機械ーー丸鋸のスイッチが入る。

唸りながら超回転を始めた丸鋸が、徐々に視点に近づいていく。

向かっていくる先を視点が追う。

ベルトで止められた、左手首の先端、指先に丸鋸が押し付けられた。


視点が小刻みに揺れ、血飛沫共に霧状に舞う肉片。

思わず、痛みを想像して顔を顰める。

しかし、画面の中から聞こえたのは男の艶かしい吐息を交えた甘い悲鳴。


ーーあ〝ぁぁ…ぎもぢぃぃっ!


丸鋸はゆっくりと指から手、腕へと刃を進めていくが、その間も嬌声とも言える声を上げ続ける男。


同時に、遠くから聞こえ始める。

振り向くと、遠く街の方から様々な悲鳴が連鎖的に上がっていた。


ーーあぁぁぁぁっ!


ビルの窓から転落する影が見えた。

少し見える通りでは、壁に頭を打ちつける者も

いる様を見て、フィが慌てて指を動かす。


拷問配信とは別のディスプレイが立ち上げて、何かを確認すると恐怖からの悲鳴を上げた。


「これっ!痛覚フィルターが外されてるっ!同じ痛みを感じているのよっ!」


数秒遅れて、言葉の意味を理解し、慌てて続けられている拷問配信を見る。

男の左腕は、縦に三枚に分かれおり、更に横にへと刃を動かしていた。


街から聞こえる無数の悲鳴は大きくなっていき、あちこちから煙も上がり始めているのが見える。

恐らく、街は未曾有のパニックで混乱状態である事を容易に察する。


『痛みを届けましょう』


『痛みは愛を超えるの』


愛を(Love)超える(Pain)痛みをお届け』(Delivery)


“§LPD”


動画の中で、キャラクターが歌う様に喋る。

そして、画面の左下に”§LPD”、”§Love Pain Delivery”などと表示される中で、遂に腹を裂かれ始めた男の絶叫と、血飛沫の向こう側で、勃起した男根から止まらぬ射精が起こっている。


何が起こっているのか、理解不能な情報量に冷や汗が出始める。

意味不明な配信と、狂気の伝播に包まれていく街。


俺は、視界がぐにゃりと曲がり、歪む様な錯覚を覚えてふらつく。

落ち着く為にも、タバコを取り出そうとするが、震えて上手く出せなくて、舌打ちをした時だった。



ーー通報受領しました。


ーー報奨金振込完了。


ーー至急、その場を離れてください。



背後から響き渡る機械音声。

振り向けば、ジェム爺達が気まずそうな笑い顔をしながら、ディスプレイを空間に表示させていた。


「あんちゃん、悪く思わんでくれよぉ」


「ワシらは金がほしぃからよぉ」


「高い金ぇで売れてくれて、ありがとなぁ」


引き攣った笑いを浮かべるジェム爺の表情と表示されているディスプレイを見た瞬間、何をしたのか理解し、怒鳴る。


「売りやがったなっ!」


混乱で大きくなる街から上がる悲鳴の中で、サイレンの音が徐々に近づき、大きくなってきていた。


お読み頂き、ありがとうございます。

次回も、よろしくお願いします。

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