表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/66

56.龍伝説


「なぁなぁ、最近ウチらの出番多いよなぁ?」


「あん? ……そう言われりゃそうだな」


「せやろ? ってことは、そろそろウチらも……っ」


「レギュラーか?」




 ……どうなる?




「あぁ、あった」


 入り口から二番目の列、その一番奥の棚にそれはあった。

 見たところ、なんの変哲も無い普通の本だが……、


「なに読んでんの?」


「うっせェな」


 この本の著者……、いや、モデルは凡そ千年近く前に活躍した人物で、読んだ時はふざけた話だと笑ったものだ。


「なぁなぁ、ウチじっとしてんの無理やわ」


「……頼むからじッとしてろ、頼むから」


 この本の主人公が、死闘の末に龍を倒したということは一巻を読めば解る(実は友人が倒したと言う裏話も収録)。

 この本は二巻、その直後から始まっていて、最初は5メートル程もあった龍の巨体が、少女と呼べる程に小さくなっていく描写がある。


 そして、目覚めた少女は同じように呼んだそうだ、ご主人様、と。


「あぁ? これ、お前の親かなにかか?」


「え? どれどれ?」


「ほら、これだよこれ。この緑髪の……」


「あー、えー……これ、誰やったかな……? ……あ、ウチのばあちゃんの友達やこれ。めっちゃ似てんもん」


(……この本、マジか?)


 徐々にページを捲っていくと、なんでこんなに懐かれてるのか、その理由もあった。

 Imprinting、動物というのは、生まれて初めて見た者を親と認識するんだそうだ。


(って事は、だ。オレはコイツに親だと思われてんのか? ……ま、本人に聞くのがはえェか)


「お前、これ読め」


 そう言うと、肇は本を差し出す。


「んー? えっと、なにこれ? 「ヤベェ、(ドラゴン)マジパネェ萌えるわ~ハァハァ明日絶対セッ」」


「だぁぁ! 違う!!」


「うるさいなぁ……、なんやの?」


「お前、挿し絵見りゃわかんだろ! オレがそんなとこ読ますワケねェ……ってかそんなとこ無表情で読んでんじゃねぇ!」


「キィキィ、餓鬼じゃあるまいし……、なんなら帰ってウチとする?」


「返せ、一人で読む」


 本を取り上げると、肇は一人で続きを読み始めた。

 パラパラとページを捲っていく。


 ……しかし、本来の刷り込みとは違い、親と言うよりは恋人に近いような懐き方だった。

 ……なんでだろうか?


(……なんでだよ!)


 更に、体温を感じる事で途方もない安堵を得るようで、私が彼女を抱き締めるとだらしない顔をしてあぁ可愛過ぎるもう我慢できない!!


(お前の独り言じゃねぇか!)


 最後に、龍の血には体内の組織を作り変える作用があるようで、偶然飲んでしまった友人の体がどんどん変わっていった。

 最初は肌の一部が鱗になり、翼が生え……、なにより変わってしまったのは、優しかった彼が人が変わったように気性を荒くしたところだろうか……。

 それから彼は、かつて龍が起こした悪夢のように、手に入れた龍の力を持ってして私の街を、己の生まれた故郷を破壊し、姿を消した。



 どうやら私の最後の敵は、あの優しかった友人、マイケルのようだ。


--三巻に続く--

 乞う、ご期待。




 最後のページには、彼のキリッとした絵が描かれていた。


(絵だけでもカッコつけんな。お前、二巻の八割イチャイチャしてただけ……ていうか、一巻で活躍したのお前じゃなくて友人だろーが。ていうか、友人に龍の血飲ませたのもお前じゃねぇか!! お前が主人公の三巻なんざ誰も読まねぇよ……)


 スト……ッ、本を元の場所に納めて20分後……。



「肇ー、そろそろ帰ろー?」


「ま、待て。今良いとこなんだよ……」



 結局、アンジェは一時間に渡って待たされる事になった。


「え!? ステファニーって女だったのかよ!!」


「……ステファニー?」


「……うぉぉ、マイケル。お前はどんだけいい男なんだよぉ」


「…………三巻、面白い?」



「………………おぅ」


 もしかすれば、四巻に続くかも知れない!

 それは読者の君達に懸かっているぞ?


 龍伝説【第四巻】、


 乞う、ご期待。


 本の最後にはそんな言葉が書かれていた。


「あれ? 四巻ないで?」


「嘘だろ!?」


「しゃーない、もう帰ろ?」


 帰り道は既に日が傾いて、辺りはオレンジに照らされていた。


 肇が本に読み入った為だ。


「……っ、くそぉ、四巻なんでないんだよぉ」


「……打ち切り、とか?」


「ぬぁぁぁ! ふざけんなぁぁ!!」


「いやいや、言ってみただけやん」


「……それもそうだな」


 とりあえず帰るか、肇が言った。


「……あ、オレ寄るとこあるから先帰れ」


「えー!?」


「言ったろ、オレのする事に口出すなって。今度はマジで連れてけねェ」


「ぅ……、じゃあ、添い寝」


「あぁ、わかったから……。じゃあな」


「絶対……、やで?」


「……あぁ」


 手を振って別れ、肇が向かった先は。


「……なんだ? 今日は休みだろう?」


「あぁ、おかしくなったんじゃねェから安心しろ」



 SWLH内、くそ上司の一室だった。


「一体なんの用だ? 休みの日に呼んだらくそったれとか言う癖に」


「…………」


 軽口を叩く上司だったが、これが彼らの普段のやりとりなのだろう。

 しかし、肇の表情は真剣そのもので……、


「……何事だ?」


 同じく表情を険しくする。


「よく切れるもんねェか? なんでもいい、短剣だろーが刀だろーが、なんでもだ」


「なんでそんなもん欲しがる?」


「武器が欲しくなったんだ、悪ィか?」


 そんな理由ではないだろう。

 上司は見抜いたようだが、問い詰めるような真似はしなかった。


「……お前が言うんだ。必要なんだな?」


「……あぁ」


「わかった、今探してくる。ちょっと待ってろ」


 そう言うと、上司は自分のデスクを漁った。


 そうして、何分たっただろうか、これでもないと首を捻っていた上司が一枚の紙を持ってきた。


「馬鹿にしてんのか? オレは、刃物っつッたんだ」


「……まず読め」


「あぁ?」


 内容を要約すると、遺跡の調査と書いてある。


「請けるやつがいなくてな……、困ってたとこだ」


「これがどうしたって?」


「中にな、宝があるんだとよ。その中に刀の報告もあった」


「あぁ、それで?」


「誰が作ったんだか、罠が仕掛けてあって危険過ぎて入れないんだと」


「なんだそりゃ?」


「お前なら行けるだろ?」



「オレにワザワザ紹介したってことは……それほどの価値があんだな? その刀に」


「あぁ、最高の一品だそうだ。唯一、発見した鍛冶屋の奴が無線でそう言ったんだ、間違いない。ま、その鍛冶屋は死んだがな」


「お前が立ち会ったんワケか?」


「そうだ……、それと奴はこうも言っていた。分厚い鋼鉄だろうが、神話に登場する龍の鱗だろうが、この刀の前じゃおんなじだ、ってな」


 聞いた途端、肇の顔が歪む。


「ククッ、いいねェ。注文とピッタリじゃねェか」


「そうだろ? じゃあ行ってこい。あー、報告は忘れんなよ?」


「覚えてたらな」


 素っ気ない一言、肇は軽く手を振ると部屋を出た。


 しかし、行動とは裏腹に、肇の心はこれ以上ないほどに昂揚していた。


 あまりの期待感に震えが止まらない。

 勿論、彼が欲しいのは刀ではなく……。


 龍にも劣らない程の、強さなのだから。




龍伝説、第四巻。


 果たして需要はあるのか?


人間のクズ、ジョン。

心優しい青年、マイケル。

かつて悪夢をもたらした、ステファニー。


三人が織り成す、ドロドロファンタジー。

※ありがちなタイトルですが、パクリではないです。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ