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49.貫く意地


なんだか、しょっぱいB級のお話が書きたくなりまして……。


ちょっと長編になってます(汗)

ご了承くださいm(_ _)m


 ……SWLH、世界の殆どを網羅する組織の呼称である。

 その組織の構成員である、広裂 肇は……組織内のとある一室で、ある指令を受けていた。


「……あぁ、了解。そいつらをぶッ潰せばいいんだな?」


「……そういうことだ」


 ……彼も、狂気に魅入られた一人である。


 言語などに問題はないが、彼に優しさや道徳といった感情はない。


 そんな彼の受けた指令、それは例によって要人の暗殺だった。


「……やれるか?」


 肇は、自身の年齢で言うと高校生に当たる少年だ。

 今の言ったような指令は、本来、高校生に任せていい話ではない。

 道徳的にも、法律的にも。 彼の任務の特性上、残酷な光景というのは避けられないものだ。

 そんなことをさせて善いワケがない。

 なにせ、人を殺すのだから。

 しかし、彼はその唇を醜く歪め、笑う。

 全ての幸せをそれ一つで真っ向から否定するような、どろどろに汚れた笑みで、大好きな殺しが出来る、黙認されることに感謝しながら。


「……行ってくる」


「あぁ、待て」


 肇に、無骨な無線機が投げ渡された。

 それをポケットにしまいながら、疑問に思う。


「なんの冗談だ? お前がこんな真似……、縁起でもねェ」


「今度はなんだか嫌な予感がしてな……」


「はッ、お前に言われるようならオレも終わりだ」 言うのが先か、彼の姿は部屋から消える。

 強靭な身体能力を駆使し、窓から飛び出すという形で。




「ここか……」


 二時間……、

 それがさっきの部屋から此処まで、およそ50キロを走破するのに掛けた時間である。

 常人なら考えられないタイムだが、彼の脚力を持ってすれば話は別だ。 心拍数が微かに上がっただけで、激しく息を切らすこともない……。

 しかし、肇に特殊な力はない。

 あえて言うなら、その有り得ない程の身体能力だ。


 撃たれれば死ぬ。

 斬られれば死ぬ。


 そこは普通の人と違わない。

 ……というのに、単身で敵陣に乗り込む彼はやはり狂っているのだ。


「神は我々を見捨ててはいなかった……!! 奇跡が起こるのだ! 私の手で! 世界が形を変える、それはもうすぐだ……ッ!!」


 肇が窓から侵入した部屋、そこから二つ程離れた一室……、そこでとある男が狂ったように嬌声を上げた。

 科学者なのだろうか、白衣を着たその男は興奮冷めやらぬ様子で続ける。


「素晴らしい……ッ!! ……これは人の到達出来る領域を遥かに越えているッ!!」


「……話し声が聞こえたと思えば……、なんだぁ? お前の独り言だった訳か」


「~~……ッッ!?」


 希望は転じて絶望に変わる。

 驚きに色があるなら、この男はそれに塗りつぶされていた。


「奇跡だか知らねぇけど……、そんなこと考えてるからSWLHから目を付けられるんだぜ?」


「SWLH……ッ!! ……それなりの警備網は敷いておいたつもりだったが……、どこから入った!?」


「窓からだよ。ほら、教えたんだからキィキィ叫ぶな」


 SWLHの構成員、肇は耳を塞いで鬱陶しそうに男を見る。


「私の発明を潰すつもりか? ……そうはいかん。誰か来い! 私を助け……ッ!?」


「……キィキィ叫ぶなって言ったろ」


 冷静さを取り戻した男は助けを呼んだ。

 その時、男の体に理解しがたい異変が起こる。

 その異変の発生源、喉元に突き刺さったナイフを見て、男は発狂した。 夥しい量の血を撒き散らしながら、苦しみ、藻掻く。

 フラフラと蠢く体は次第に力を失い、重力に従って倒れる。

 こうなった理由は実にシンプルだった。

 助けを呼んだからではない。

 ましてや、抑えきれないほどの憎しみが在ったわけでもない。

 第一、この男と肇とはお互いに初対面だ。


 ……どれも違う。


 声のトーンが気に入らなかった、その理由一つで男は一生を終えたのだ……。


「まさか、要人ってこいつか……? ……ったく、こんなことのためにオレを動かすなっつの」


 死体と化した男に興味を無くした肇は大勢の声、次いで足音を耳にした。


「…………。冷静に考えて、こいつの護衛ってとこか……死んでも鬱陶しい奴だな」


 肇は、実に気怠そうに溜め息を吐く。


「……しゃーねぇ、じゃっ」


 そして、笑う。


「暴れるかぁ!?」


 直後、扉が吹き飛び、部屋に銃声が響いた。




 時間にして30分。

 立っていたのは肇一人だ。

 まだ増援の可能性は否めないが……、駆けつけた人員は全て倒した。

 尤も、肇の身体能力を持ってすれば造作ない事だったが……。


「これで全員かぁ!? おい!! ……チッ、つまんねーな」


 肇を襲った科学者の護衛達は、それなりの訓練を積んでいた筈だ。

 銃も持っていた。


 ……しかし、そんなものでは満たされないのだ。

 肇の脳裏に、一人の青年が浮かぶ。


「……っクソ気に入らねぇ……ッ!!」


 思い出すほどに怒りがふつふつと沸き上がるのが解った。


「そういえば、まともに負けたのはアイツが初めてだな……。あとは圧倒的過ぎだ……。怒りすらおこらねぇぐらい……雷神さんともう一人……あー、ありゃ誰だかもわかんねぇが……」


 肇にもプライドはある。

 真っ向から戦って負けた。

 それが彼にとってなにより気に入らないのだ。

 過去に二度、死にかけるような目に合ったが相手が悪い。

 肇にはなにも出来なかった相手とは、サンテと……もう一人、強力な炎を操る男の二人だ。 その二人だけはあまりにも格が違う……、圧倒的で一方的で……、それからは強くなるために手当たり次第に任務をこなした。


「……その結果がこれだ。手応えなし」


 誰もいない通路での独り言はやけに反響していた。


「あー、ムカつく。まずはアイツを殺して……、今は遠いが雷神さんと……どこぞの誰かも殺さなきゃなんねぇのにッ!」


 やりきれない怒りを壁にぶつけた。

 そんな事でこの怒りが晴れないとは知りながら。


「……なぁにやってんだかなー……? ……帰るか」


 そう言うと、どこかにある出口に向かって歩き出す。


「…………なんだぁ? まだ生き残りがいやがったのか?」


 ビチャ、ビチャ、と、なにか粘着質の液体を踏みしめるような足音が少しずつ近付いて来ていた。


「…………?」


 ……返事が無い。


 肇は自分の胸に広がる得体の違和感と不快感に振り返る。


「……まだ生きてやがったか」


 そこに居たのは白衣の科学者だった。


「この死に損ないが……。さてはもう一度殺されたかったってかぁ?」


 本人は軽いジョークで言ったつもりだった。

 ……だが、それでも返事はない。


「どうなってんだぁ……? 確実に殺した筈だぞ?」


 ……おかしい。

 こうしてる間にも男は距離を詰めていく。


「……あぁッ!! もうわッかんねぇ! とりあえず殺しとくかぁ?」


 男が見える距離まで近付いた。

 そこでようやく違和感の正体に気付く。


 男は間違いなく死んでいるのだ。


 白濁した涎を口から零し、首は半分以上裂け、腱や血管などがぶらぶらと揺れていて……、


 ……こんなことは有り得ない。

 そうだ。有り得ない。


「タチの悪ィいたずらしやがって……! 今更、すいませんじゃ済まさねぇぞ!! おい、解ってんのかぁッ!?」


「…………」


 しかし、返事は……、


「おっけぇ!! 望み通りぶッ殺してやるよッ!!」


 凄まじい速度で跳躍した為に、肇の体が霞む。

 そして、その速度のまま左手を前に突き出す。 肇の場合、あまりに爆発的な速度故にそれだけで驚異的な威力を持った、必殺の一撃になるのだ。


「クソッたれがぁ!! どいつもこいつも……、オレをイラつかせてんじゃねぇぞぉぉぉッ!」


 グチャッ、と、肇の突き出した手は、気持ち悪い音を立てて男を貫き、死体を操る誰かにぶつかった。


「…………っクソが」


 ……突き刺さったのではなく、ぶつかったのだ。

 信じらんないことに、必殺の威力を持つ筈の一撃は、肇の左手に炸裂、破砕した。


「ぐ……ッ、おぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 知るも戦慄、見るも無惨……、感じるのは激痛、肇の脳は左手に起こった事実を残酷に、けれど正確に告げる。

 指先はあらぬ方を指し、手首は曲がってはならない角度に、衝撃に耐えきれなかった皮膚は激しい裂傷を起こした。


「ッ!! ……ぐぁぁぁッ!!」


「目標を確認。遮蔽物の価値が消失、破棄します」


 肇の左手を使い物にならなくした本人が、宣言通りに科学者の男を破棄した。

 具体的には、死体をズタズタに引き裂く事によって。


「ぅぐぁぁ……ッ! …………はッ! なんだぁ? オレがおかしくなったってかぁぁッ!?」


「指示がありません……。よって、独断により目標は害になるもの全てと推測します。目標に有効な手段を検索…………Error、敵の能力が不明、優先事項の変更が必要と判断…………」



 男の後ろに居たのは少女だった。

 その少女が言う。


「はぁ……ッ? 悪ィけどもっかい言ってくれない? ……じゃねーとぉ! 意味わっかんねんだよッ!!」


 少女の声は、まるで早送りで再生される映画のように聞こえた。


 痛みを堪え、肇はもう一度凄まじい速度で跳躍する。


「……検索を終了。反応から予測するのが最良と判断、全方位攻撃を開始します」


 言葉が終わると、少女から強烈な衝撃波が発生した。

 衝撃波は、通路を構築する全ての要素を根こそぎ剥ぎ取りながら肇に向かっていく。


「……チッ、もう止まれねぇよ馬鹿が……」



 大気を揺さぶる衝撃波、視認出来ない程の速度で繰り出された蹴り、両者の人智を軽く凌駕した一撃が激突する。


「……ッおぁぁぁぁ!!」


 周囲を根こそぎ捲る衝撃波。

 肇は体を巡る全ての力を総動員してそれに拮抗する。


「……目標の抵抗を確認。全方位攻撃と拮抗。原因は出力不足と断定。出力を増大します」


 衝撃波がさらに勢いを増していく……!

 拮抗していた力は肇に流れ始めた。


「……なぁッ!? ……ガァぁァァぁぁァッ!!」


 遂に、球状に破壊を広げる衝撃波は肇をも飲み込んだ。

 触れる物全てを瓦礫の山に変えていくそれは、半径10メートルを破壊して消えた。


「標的の消失。生死は不明、排除には目標の視認が必要……、発見次第、駆逐します」


 圧倒的な力を持った少女が辺りの索敵を開始した。


「……ガふッ!? ……くそッ! くそッ!! ……クソったれがぁぁぁ……ッ!!」


 傷付いた体を無理矢理起こし、一瞬で間合いを詰める。

 今度は接近に成功した。


「ゼロ距離だ……。人間の見た目をしてる、ッてことはだ。お前だって、まともに喰らえば痛てぇんだろ?」


 肇の放った蹴りはこめかみを狙い、空を裂く。


 ……しかし、蹴りは片手で払うように弾かれた。


「……目標の生存を確認。直ちに然るべき処置を行います」


「ヤベ……ッ!?」


 兆候が見えた時にはもう遅かった。

 回避に移る体を、指向性を持った衝撃波が襲う。


「……グぁアッ!?」


 今の一撃で吹き飛んだ肇は、施設内のどこかの壁に叩き付けられ、受け身もとれずに倒れた。


「が……ッふ!?」


 許さねぇ……、顎を伝う血を拭いながら肇は思う。


 圧倒的な存在と戦うのはこれで三度目……、多少の事では動じなくなったが今度は憤る怒りを禁じ得ない。


「……我慢ならねぇ……ッ!! アイツもソイツもコイツもどいつも全部ッ!! いちいち勘に障りやがって……。気に入らねんだよォォォォッ!!」


 やけに膝が震えると思えば……、

 叩き付けられた際に脳震盪を起こしている事に気付く。

 立ち上がろうにも力が入らない。


「……関係ねぇ。オレの脚だろーが!! あの野郎を、気に入らねぇ奴ら全部殺すんだろーが!! こんなやつ一人に躓いてられねんだよ……、立てェェェェェェッ!!」


 肇は、気力ではなく怒りを振り絞って立ち上がった。

 今度こそ、肇の言うクソったれを倒すために。


「行くぞ。構えろ」


「標的から攻撃性を含む発言を感知、防御行動に移ります」


 肇は足元にあった瓦礫を掴むと、勢いよく投げつけた。

 本人もそれを追い越す速度で飛び出す。


 しかし、大気圏を突き破るような速度で高速飛行する瓦礫は、少女に当たる前に粉々になった。


「……飛来物の破壊完了。標的は……」


「遅ェ……ッ!!」


 握りしめた拳を凄まじい速度で連打する。


「標的の速度が反応限界に達します。標的に対し、直ちに強制終了を行います」


 ほんの一瞬、少女の防御が緩んだ。


「……今しかねぇッ!」


 その一瞬の隙に何処からかナイフを取り出し、少女の胸に突き立てる。


 少女に当たったナイフは、ガギッ、という音を立て、鋭く研ぎ澄まされた刃は宙を舞った。


「嘘だろ? ……これも効かねーのか」


「標的を吹き飛ばします」


 再三、肇の体は物凄い速度で壁に向かう。


「……もうわかってるっつの。何度も同じ手が通じると思うなー……よッ、と」


 ぶつかる寸前、体を捻り、壁には脚で着地する。


 その反動を利用し、肇は飛ぶ。

 初めから相手の攻撃を利用するつもりで、恐らく隙が出来たこの時を狙って。


「標的の攻げ……」


「遅ェって言ってんだろ!! オレのスピードなめんなッ!!」


 スパァン!! 振り切った脚は、間違いなく少女の顔面を捉えた。


「……ザザッ……Systemの一部が損傷、致命的なダメージではないと判断、戦闘を続行します」


「……やっぱ、決定打にはなんねぇか……」



 飛び出した肇の体は、重力に従いその場に着地する。


「対策として、警戒態勢を最大、出力を限界まで引き上げます」


「クク……いいぜぇ。お前が倒れるまで、何度でもブチ込んでやるよッ!!」


 決意を新たに、次の衝撃波に身構える肇。


「攻撃方法を変更、Pattern2、龍の息吹きを行使します」


「あァ……ッ!?」


 ゴォッ!! と音がしたかと思うと、次の瞬間、視界が激しく歪む。


 膨大な風が肇を飲み込んだのだ。

 錐揉み状に宙を舞う、いや、駆け抜ける。


 龍……だとッ!? そんな事、聞いてねぇぞ!!


 そう思った時には既に、どこぞの壁にブチ当たっていた。



「…………かハッ……ヒュー……、ヒュー……」


 喉に大量の血が流れて息が出来ない。


 死の危険を感じた肇は、自分の腹を殴った。


「ッ!! ……ごハッ! ゲホッ……はっ、はっ……。うッぷ……ゲェェッ!!」


 一旦は喉が通ったが、息を整える間もなく食べ物を戻すときのように、血を嘔吐する。


「おェぇ……、はー……、はー……、ッく」


 血を吐いた後は貧血でクラクラする。


「ちくしょおぉ……!!」


 こうしている間にも、弱っているのを見透かしているのか、少女は緩慢な動きで近付いて来る。

 ……それなのに、立ち上がる所か、生死すら怪しい自分の体に悔しさすら覚えた。



(せっかく手応えのある敵が巡ってきたってのに……ッ。ここでゲームオーバーなんて認めねぇッ!! そんなの……、納得できッかよぉ……ッ!!)


 薄らいでいく意識を必死に繋ぎ止め、床に拳を叩き付ける。


「オレは……、どう足掻いても主人公とか……、ましてやヒーローなんかにゃなれねェ……。でも、だからってこんな所で死ねるかッ!! ……悔いが残んだろッ!? 噛ませ犬で終われる訳ねぇだろッ!? 誰でもいい、オレに力を寄越せ。オレはまだ……、死ぬわけにはいかねェんだよぉぉぉぉぉぉッ!!」


 堪えきれない悔しさに咆哮を上げる。

 勿論、返事など期待してはいない。

 現実は残酷だから、でもいつだって真実しか伝えないから。


 --しかし、驚くことに……、着実に歩み寄っていた少女が倒れたのだ。

 ゴガン!! と、豪快な音と共に、辺りに瓦礫を散らしながら。


「……力を貸して欲しいんだろ? 大丈夫だ、死なせたりしねーよ」


 ……返事は、あったのだ。

 あれほど渇望していたのに、最も望まない形で。


「……ハッ。ヒーロー登場ってか? 止めとけ。オレと一緒で、ヒーローなんてのはお前のガラじゃねェよ」


「あぁ、わかってる。俺は……、お前と同じ青年Bだよッ!!」


 ボンッ!! ズガァン!! 信じたくはないが、あれだけ苦戦した少女がいとも簡単に宙を舞う。


 その時、横からザザ……ッ、と、突然ノイズが混じった。


「肇……、そっちにお前に顔見知りが行ったと連絡が入った」


 出発前に渡された無線機だ。

 どうやら衝撃でポケットから落ちたようだ。


「顔見知りだァ? ……はッ、遅ェよ馬鹿が」


 返事を待たず、肇は無線機を投げ捨てた。


「クク……、皮肉にしか聞こえねェが……、同じ青年B、か……違いねェ」


 地面に叩き付けられた少女は、地中に埋まり、動かなくなっていた。


「やったか……?」


「……わかんねェな」


「そうか、じゃあ直接確認するか」


「あァ、違う。オレを助けたのが、だ」

 突然現れたその男は、しばし考え込んだ。


「指令だ。……これじゃ駄目か?」


「クク……いや、いいね。以前の甘チャンのお前よかマシだ」


「喧嘩売ってんのか? 抵抗出来ない癖に、その身体でよく言えたな……」


「あァ!? 身体だぁッ? よく見ろ、絶ッ好調だ」


「……はっ、お前とは意外と気が合うのかもな?」


「止めろ、気持ッち悪ィんだよ」


「あぁ、悪かったな……」


 その時、後ろからガラガラと崩れる音がした。


「ほら視ろ。お前のツメが甘いからまだ生きてんだろーが」


「んん? じゃあお前はそんな所でなにやってんだ?」


「……寝てんだよ馬鹿が、視りゃわかんだろ?」




「あぁ、それは起こして悪かったな」


「……チッ、やっぱお前は腹立つなぁ?」


「うるさいな……、ほら、さっさと起きろ」


 なにをどうしたのか突然現れた男……、悠は、倒れている肇に手を伸ばした。


「……そういうところが気に入らねェって言ってんだ、馬鹿が」


 不器用な少年は、同じく不器用な少年の手を掴む。

 少年に、微かな力が宿った。

 そこに先程まで死にかけていた姿は無く、フラフラとした両の脚でしっかりと立ち上がった。

 怒りや憎しみ、くだらない感情の為ではなくて、ただ一つ、己の情けない意地の為だけに。


「……じゃあ、決めんぞ?」


「お前が言うな。まだフラフラしてる癖に」

 肇は、在りもしない力を振り絞って最後の跳躍を見せる。

 ただ、不思議と体が軽かった。

 あまりに軽すぎて、一瞬、死が頭をよぎる。

 だが同時に、それとは違うことも理解していた。


 まるで誰かに押されているかのように、肇の体が地面を踏みしめた力に相応しくない速度で、自分を圧倒した少女に向かって跳ぶ。


「……チッ、余計なお世話だッて言ってんだろ、馬鹿が」


「……ガガッ……も、目標のか、カカク認……」


 少女が、壊れた蓄音機のような声を上げる。


「お前も何回言わせんだぁ? 遅ェんだよッ!!」


「今はお前が主人公だ……! 決めろ!!」



 ……だから、それが余計なお世話だッつってんだ!!


「あぁぁぁ!! ウザッてェんだよぉッ! どいつもこいつも!! 消えろォォォぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉー……ッ!!!」


 辺りに、濁った咆哮が響き渡り、


 少女の額に、少年の全てを乗せた一撃が炸裂する。


 ガツンッ!! と、死に損ないが放ったとは思えない程の轟音を打ち鳴らし、全てを失った少年が倒れる。


「…………ちくしょぉぉぉ……ッ!!」


 全てを賭けた一撃は、喰らった少女を大きく揺さぶった。

 ……しかし、少女は倒れなかった。


「ガガガガ……ッ、……シ、Systemガ……に」


「くそッたれがぁ!! もう倒れろよ……!!」




「……ザッ、……Systemに……」


「倒れろよぉ……!! ……倒れろぉぉぉぉぉぉッ!!」


 勝負に敗れ、倒れた少年は、力尽きた、と言って間違いない。


 意味が無いのは痛いほど知っていた。


 今の自分がどれほど情けないか、それも死ぬほど解っている。


 しかし、少年は力を振り絞って叫んだ。


 この理不尽な程に強過ぎる少女に。


「……ち、チちッ、致命的な損傷……Systemを続行出来ません……機密保持の為……Systemを破棄します……」


 グラ……ッ、と、少女の体が揺れる。


 そして……、


「……もう大丈夫だろ。ティーナ、帰ろう?」


「はいっ!」



 ……ガシャ、と、少女は、瓦礫を僅かに散らして倒れた。


「…………はぁ、はぁ…………はッ、ざまぁみやがれ……、馬鹿が」


 少年は、初めて心から純粋に、自らの年相応に笑った。




長編、お疲れ様です(^_^;)



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