48.異動と神話の探求
殆ど話は進んでないです
作者としては何もないとことか書きたかったんで(^_^;)
「ご苦労だったね。ところで、すぐに休ませてあげたいところだけど事後報告だけ頼むよ」
ここはサンテの屋敷だ。
その後、あの手の山賊のような輩に襲われる事もなく、馬車は順調に目的地にたどり着いた。
「あぁ。結果だけ言っとくと標的の拘束に失敗、急に現れた龍に殺害された……。こんな感じか」
「……それは災難だったね」
「全くだ」
サンテは冷静さを被ったような、常に無表情の顔を少しだけ険しくする。
「……それで、偵察隊の被害は?」
「七人が行方不明、辺りを捜索したけど……、痕跡は無かった」
「…………」
被害者の数にサンテの顔が曇る。
……とはいっても見た感じは無表情のままだったが。
「……だから僕は言ったんだ、この事態は普通じゃないから能力者を同伴させろと……」
声の調子はいつもと同じ抑揚の無いものだった。
しかし、愚痴なんて言う柄じゃないサンテが思わず零している所を見ると、偵察隊の派遣はサンテの指示ではなさそうだ。
「どんな言い争いがあったのかは知らないけど、それはお前の所為じゃないだろ?」
「そんな事は言い訳にすらならない。……キミにも解るだろう? 命の大事さは。これは逃げちゃいけないことなんだ」
理不尽だな……。
なんで俺より年下の奴がこんな背負わなきゃならないんだか……。
俺が行けない領域には、そんな常識が当然のように在るのだろうか?
「……だからって、お前だけが気負うなよ。本当に悔やまないといけないのはそんな指示を出す奴だ、そうだろ?」
「……キミから慰めを受けるとはね……、だけど、その気持ちは素直に嬉しいね。……有難う」
そこに躊躇いはなく、サンテは重い頭を素直に下げた。
「止めてくれ。そんなの、なんかお前じゃないみたいで気持ち悪い」
「……言ってくれるね。僕にそんな失礼なことを言い続けるのはキミくらいだよ」
「はは、俺が死ぬまで言い続けてやるよ」
俺の軽口に、サンテは顎に手を当て、考える仕草を見せる。
「……なるほど。キミを殺せばその口は閉じるんだね?」
「勘弁してくれ。お前が相手だと、今の状態でマジでやって勝てるかどうか……」
「冗談だ。……だが、まさか、キミが僕と対等に戦えると思うのかい? ……いや、それにしても、龍からよく逃げ切れたものだね?」
言いかけるサンテに明らかに面倒くさそうな顔をすると、急に話題を変えた。
これは流石に通じたようだ。
「あぁ。仕方ないから倒した」
「……なんだって?」
「あ、でも……一応、正当防衛だし、法律とかそう言うのは大丈夫だよな?」
「……もう一度聞こう。倒した、と言ったのかい?」
「……あぁ」
「なんて事を……ッ!!」
俺は正直、動物保護だの法律だのには疎い。
だが、あの常に冷静なサンテが取り乱したのだ。
……ってことはやっぱマズかったんだろうか。
「いや、急に目の前に降ってきて襲ってきたんだから、しょーがないだろ……? あ! でも、殺してないぞ!?」
「キミが一人で倒したのかい? それが本当なら証拠は?」
サンテは尋問をする時のように机を叩く。
正直、サンテがこんなに冷静さを欠いた所は初めて見る……。
俺は、そんなに悪い事をしたのか?
そうだとしたら、一体なんの罰を請けることに……?
罪悪感に俯くと、手には少し汗をかいていた。
「……あぁ、気絶させたのは俺一人だ。証拠ならあるよ……、ティーナ?」
キィ……、独特の音を立てて扉が開く。
そこには、リリィより少し背の高い少女、ティーナが立っていた。
「ご主人様、ティーナを呼ばれましたか?」
「……やっぱ着いてきてたか」
「はい。最初にそのように言いましたので」
……あぁ、そういえばそうだった。
捨てられるまでついて行く……、だったっけな。
そうは言ってたが、なにもこんな時にまでついて来なくても……。
だが、これで俺は更に言い逃れ出来なくなった。
しかし、なんかもう諦めもついた。
なんなりと罰でも請けようじゃないか?
「この子がどうしたんだい?」
「……この子が赤龍のティーナだ」
「…………冗談、かな? だとしたら、どこが面白いのだろうね?」
……うん、まぁ、女の子の肩に手を置いてこの子は龍なんだ、じゃ解らないだろうな。
「ティーナ、元の姿を証明出来るものってなんかないか?」
「証明……ですか? それなら、この鱗が証明になりませんか?」
そうだ、ティーナは鱗で出来た鎧を着て……、
「よくそんな金があったね。どこで買ってあげたんだい?」
……そう来るか……。
「あー……、じゃあ、元の姿に戻ったりって出来るか?」
「……? ご主人様が言うのなら戻りますが……、部屋が壊れそうなので翼とか尻尾だけでもいいですか?」
そんなことも出来るのか。
……つい、言いたくなったが、それを堪えてあえて言うなら……、
なんて便利な……。
「あぁ、それでいい」
「かしこまりました」
そう言うと、バサッ! と言う音と共に、少女の背中から片翼が1メートル強程もある紅い翼が窮屈そうに広がった。
「…………!!」
直後、サンテの細い目が大きく見開かれる。
「……済まないが、少し試したいことがあるんだ……、いいかな?」
サンテが興奮を抑えながら言う。
「ティーナ、いいか?」
「……?? ご主人様が言うのなら妾は大丈夫です」
無邪気な笑顔を向けてくるティーナ。
なにをするのか知らないが、それが証明になるんなら……、
「……わかった」
俺がしぶしぶそう返事をすると、サンテはなにも言わずに右手をティーナに向けた。
「……ッ!! ティーナ!!」
「ご主人様……?」
嫌な予感が背筋から這い上がった。
得体の知れない不安に駆られ、目の前に居たティーナを引き寄せようとした時には既に遅く、サンテの突き出された右手から鋭い雷が放たれた。
「あぅ……っ!?」
「お前ッ!! 急になにを…………!?」
バヂィ!! と、閃光は人体を撃ち抜く銃弾を遥かに凌駕する速度でティーナに炸裂する。
しかし、直撃したティーナより、むしろ雷を放ったサンテが突き出した手をわなわなと震わせていた。
「お前……っ、ティーナになにしてんだぁぁぁッ!!」
俺は、突然の行動に理由も聞かずサンテを殴った。
壁に背中を打ちつけ、しかしそんな事は気にせず、座り込み呟く。
「……正真正銘、本物じゃないか……ッ!!」
「あぁ!? だから最初ッから言っただろ!! ティーナ、大丈夫か?」
「はい。少しびっくりしましたけど」
聞かれたティーナは、無事を見た目が物語るかのように緊張感の無い顔でケロッとしていた。
「……え? それだけ?」
「あ、あと、ちょっとパリッってきました」
…………嘘だろ?
「僕の雷が通じないとは……、これは実に興味深いね……! それに、人間になった事例なども存在しない。大発見だ!!」
感情の無い目はいつもの倍ほども開き、起伏の少ない無い感情は興奮を抑えきれないのか喜びや驚きといった心境をありありと表していた。
「あぁ……済まない。こんなに取り乱したのは初めてかも知れないね」
「あぁ、気が違ったかと思った」
サンテはそれに言い返そうとして……、止めた。
「いや、しかし世界にこれほどの戦力もないだろう……。僕としてはじっくり研究してみたいが身内にそんなことも出来ないしね。ここは素直に喜ぼう。協力に感謝するよ」
サンテは珍しくも笑顔隠さずに手を差し出し、握手を求めた。
尤も、ティーナが簡単に握手に応じるはずはなく……。
「……なんだこの手は? 妾が応じると思うか? 人間の癖に、それが烏滸がましいと言うんだ」
「……ティーナ」
まぁ、もう解っていたことなのだが……、サンテの態度は思ったより知性的で、笑顔を崩す事も無く。
「済まない、僕は仲良くなる為にこれ以上の行為を知らないんだ。下等な人間に合わせるのは苦痛だと思う……、でも、僕としては受けてくれると凄く嬉しいね」
「……ふ、ふんっ、人間如きが……。幾ら紳士的に振る舞おうと妾は……」
「龍が高い知性を持っているというのは知っている。だが、ちゃんと敬意を払って接する人に対してその態度は……、それは少し知性的ではない、と言えるんじゃないかな?」
「……ぅぐ、それは……」
逆に、ティーナがサンテの言葉に揺れ出した。
「……わかった。したくないなら、無理にしなくていいよ」
「ぐむ……っ」
そう言って、サンテが差し出した手を引っ込めると、
「…………き、気が」
「……? どうかしたのかい?」
「気が変わったんだ!! だから、妾が握手したからといってそれは妾の気が変わったからであって、決してお前に言われた事がどうとか……」
苦しい言い訳を続けるティーナに、サンテはただ一言。
「……あぁ、受けてくれるんだね? 有難う」
そう言って、引っ込めた手を差し出した。
それだけで、ティーナは駄々をこねる自分を恥じるかのように少し顔を赤くして、
「むぅぅ……、こ、今回だけだぞ? ご主人様以外の人間に触れるなんて……、そんな無礼を許すのなんて……、こんなことは、今回だけだからな!!」
もう一度、改めて差し出された手を握った。
そんなティーナの姿にサンテは薄く微笑む。
「フッ、これからよろしく頼むよ」
「……ふんっ」
なんだか、言いくるめられたような気がする……。
ティーナは拗ねるように顔を逸らした。
「はは、良かったんじゃないか? こいつが笑顔を見せるなんて、それ自体なかなか無い事だし」
「……で、でも、ティーナはご主人様以外の人間と……」
「普通は、手を差し出されたら素直に握手するんだよ?」
「むぅ……、ご主人様がそう言われるんなら……」
ティーナが渋々、といった顔をする。
「まぁ、それはこれから慣れていけばいいさ。俺は人間の礼儀しか知らないから、ティーナに強くは言わない」
「……わかりましたっ!」
愛しのご主人様に言われ、ティーナは嬉しそうに返事をする。
優しい主で本当に良かった。
そう思うティーナだったが、それは主には秘密のようだ。
「……話は終わったかい?」
「ん? あぁ」
「話がある。悪いが、その子に少し外れてもらいたい」
「……? まぁ、わかった。じゃあ、ティーナ?」
「ぅ……はい。外で待ってます」
渋るかと思いきや、素直に出て行くティーナ。
この短時間でサンテに苦手意識を持ったのかな? と推測してみる。
「……始めていいかい?」
「あぁ」
話は、ティーナが部屋を出て行ったことを確認して切り出された。
「さっきは喜んだが、龍の力は周囲に影響を及ぼすんだ。具体的にそれは、彼女を売りさばこうとする人間だったり、自国の守護神にしようとする国そのものだったり……、飼おうとする酔狂な人間だって存在する。まぁ、今の姿なら大丈夫だとは思うけどね。……でも万が一、その龍としての圧倒的な力を振るうような事があれば、いずれにせよ今のキミらの立ち位置にはいられなくなる。だからこそ、僕は場所が割れているこの屋敷ではなく、僕が独立して"持っている"部隊に配属することを提案する」
「……考えもしなかったな。……でも、そうなるとお前にも迷惑を掛ける事になる、それはいいのか?」
「……フッ、これは誰にも言ってなかったが、まぁいいかな。実は、僕は存在するか解らないような、つまり神話の類が大好きでね。勿論、二つ返事でオーケーだ」
これは、サンテの嘘なんだろうか?
俺にはその深い緑の目からはなにも読み取れない。
だが、そんなことが問題なんじゃなくて、なによりもサンテの気遣いがありがたかった。
「……悪いな」
こいつには本当に面倒を掛ける。
……でも、頼る相手がサンテしかいない今、俺はその負い目を曖昧に笑って返すことしか出来なかった。
「別に構わないよ。まぁ、今の段階では決まったら連絡する……、としか言えないけどね。……それともキミは、この僕が、たかが問題が一つ増えたぐらいで揺らぐとでも思うのかい?」
「はっ、よく言うよ。今日はさんざん取り乱してた癖に」
「あぁ、でもそれは仕方ないだろう? 神話への探求は、僕の唯一とも言える趣味なんだから」
「……あれ? もしかして、さっきのはマジで言ってたのか?」
俺の問い掛けに、サンテは本当にほんの少しだけだがムスッとした顔を浮かべた。
「……なにか悪いのかな? だって、キミには気にならないか? この世界がどうやって出来たのか、一体なんの為に? 一説には、龍は地球が創造された頃から存在したそうだ。その意図は僕には解らないが、だからこそ、なにか真実を知る糸口が掴めるかも知れないだろう?」
「お? おう。ま、まぁ、お前が熱くなるのはわかった。機会があったら聞いとくよ」
「これは個人的な頼みだけど……、是非とも頼んだよ」
熱く語るサンテから逃れるように俺は部屋を後にした。
「…………これでなにか謎が解けるのかも知れないね。これだけ調べても殆どが謎のまま……、やはり過去に触れるというのは罪深いことなのかな? ……いや、しかし、やはり僕としては結果が待ち遠しいな……」
誰もいなくなった部屋の中、サンテは微かに反響する自分の声を聞いていた……。
ティーナの葛藤と、場所や配属先の異動、神話……、元々、テーマがあった訳じゃないです
けど、なんとなくかいてみました