47.突然の事態に --幕間パート--
幕間です。
話も一段落して帰路についた。
と言うわけで俺達は今、馬車に揺られて屋敷を目指している。
「……なー。藍華ー……」
「……なんですか、変態さん?」
あぁ……、せっか話は終わったのに、藍華はまだ機嫌が悪い。
棘のある言い方は止めてほしいんだが……。
「その変態さんってのは止めてくれよ」
「でも、事実なんだからしょうがないよ」
リリィが呟いた。
「……みんなしてそんなこと言うのか……」
「妾は、いつでもご主人様の味方ですよ?」
無邪気な笑顔を向けてくるティーナ。
……俺にはこの少女が女神のように見えた。
「ティーナ……。ありがと」
「またイチャイチャして……。そういうのは誰もいないところでしてよ」
「だからそんな気ない……って、うわ……ッ!?」
いつものように、と言えばそうだ。
そんな他愛ない話をしていた。
そんな平穏を打ち崩すかのように、突然馬車が左右に大きく揺れる。
なにかに乗り上げた訳ではない。
これは……、
「レノア! 馬車を止めろ! 今のがなにかはわからないけど……、これは誰かがやったんだ!」
「あぁ……。そのなにかをしでかした奴が目の前に居る」
「人か……? 武器でも持ってるのか?」
馬車が止まった。
外に居るレノアに問い掛ける。
「今の揺れは対戦車用のロケットランチャーだ。肩に担いでいるのを見れば解る。幸い、今のは外れたが、敵は見えているだけで2、30人はいるぞ……、何時までも止まっていては的になる……。仕方ない、私が行こう」
ここから見えた感じだと、レノアは刀を抜いた。
「俺も行く……ッ」
続いて俺も馬車を出ようとする、が……。
「ご主人様は此処に。……妾が殺ります」
飛び出す俺の手をティーナが止めた。
情けない話だが、掴まれた手がびくともしない。
その双眼に浮かぶ殺気に気圧され、ゾッとする俺を尻目にティーナは一人で馬車を飛び出した。
「おい、そこの」
「……私か?」
「そうだ。お前は馬車に戻れ。こいつらは妾に任せろ」
「そういうわけにもいかない。私も行く」
「話のわからんやつだな……。……その、さっき侮辱してしまった負い目を……これでチャラにしようと言うのに……」
ティーナは照れるように頬を掻く。
そして、自分が言った事で気恥ずかしくなったのか、レノアの返事を待たず敵の目の前に歩み出た。
「おい、貴様……。この辺りは我の縄張りだと解っているのか?」
「知らん。だからなんだ?」
「通行料だ。それと、武器をあるだけもらおうか」
……あろうことか、この髭を生やした男は目の前の女の子が龍だとも知らず、通貨を要求した。
しかし、この男の要求はそれに留まらず、
「……んん? 貴様、よく見れば可愛い顔をしてるじゃないか。……気が変わった。貴様が我のものになると言うなら無条件で馬車を通してやる。まだ死にたくないなら……わかるな?」
男の周りにいた、身なりの悪い連中が下卑た笑い声を上げる。
しかし、連中のそんな振る舞いにティーナは怒りもせず……、むしろ、国一つを焼き払う龍に身を差し出せ、と言う愚かな人間達こそを哀れんだ。
「十秒やる。その間に祈れ……、お前達が話している相手が、神話の赤龍であることを呪いながらな……」
ティーナの慈悲が男達に通じる訳もなく、所々で腹を抱えて嘲笑い始めた。
「面白い奴だ……。 やはり貴様は我のものになれ」
「………………」
「なに、最初は痛いだろうが直に慣れる。今なら、出来るだけ優しくしてやるぞ?」
「…………わ……」
「わ?」
男の下品な言葉に、ティーナのカウントがゼロに……、つまり、男共の寿命が尽きた。
「……妾は、ご主人様のものだぁぁぁ!!」
……それからは、子供達の成長によくない一方的な虐殺が始まった。
一撃で戦車を走行不能にする威力を持つ対戦車用ロケットランチャーを片手で弾き、身なりの割には質の良い自動小銃を持っているが、マシンガンの連射など意にも介さない。
想定外の敵に慌て始めた連中だが、もう遅い。 ティーナは深呼吸をするように深く息を吸い、全てを焼き尽くす炎を吐き出した。
扇状に広がったそれは、男達の銃器を悉く誘爆させ、一息に15人程の人間が消え去った。
「……おい、そこのお前」
「ひぃぃ……ッ!?」
情けなく悲鳴を上げ、逃げ出す男達……。
その一人をティーナが呼び止めた。
男は、心臓が……、いや、内臓が全部飛び出る程驚き、立ち止まった。
「お前達の生き残りと、お前達を差し向けた連中に言っておけ。妾にこんな恥辱を味わわせておいて……ただで済むと思うな、と」
「…………」
ティーナの脅しに、男は今にも泡を吹いて倒れそうになっていた。
「……返事はッ!?」
「は、はいぃぃ!! 申し訳ありませんでしたぁぁぁ!」
返事をしない男を叱りつけると、脱兎の如く逃げ出した。
「……人間がみんなこんな奴らじゃない事を願おうか……」
身体ではなく、精神的になんだか疲れたティーナは、一人呟いた。
--三分前、馬車の車窓から--
「……俺も行く。ティーナを一人に出来ない」
「あぁ。……いや、待て」
俺達は、レノアの視線……、つまり車内の両横に備え付けられた窓に見入った。
「…………--ッ!!」
……瞬間、車内に沈黙が生まれる。
車窓を額縁にして地獄絵図が広がる。
主役の少女が狂った舞を踊るように……、人を、刈り取っていく。
ロケットランチャーを片手で弾いた、かと思えば少女の姿はそこにはない。
巻き起こる爆発などものともせず、その小さな拳を鉄槌のように振り下ろす。
それだけで敵の体に風穴が空き、後ろに居た敵を巻き込みながら吹き飛んでいく。
ようやく状況を理解し始めた連中が集中放火を仕掛けた。
ロケットランチャーの瑠弾や自動小銃、備え付けてあった大口径の機銃が密林の大地を穿ち、抉り、一つのクレーターを作り上げた。
普通の人間が喰らえば、目も当てられないような惨劇になる程の火力。
男達は自分たちの戦力に安堵の表情を浮かべる。
そうして、辺りを包んでいた霧状の砂埃がその粒を落とし、視界が晴れ始めた時、それと反比例して男達の表情が曇る。
この男達は知らなかった……、いや、今になって気付く。
自分たちが銃口を向ける相手が、人智や権力、法律、凡そ人間を守る常識など歯牙にも掛けず、そんな防波堤を易々と超越する神話の存在。
……龍だと言うことを。
「すぅぅぅ…………、はぁぁーー……」
その人智を超える少女は、なにも変わったところはない、深呼吸をした。
ただ、それだけ。
それが龍だと言うこと、その事実が加わるだけで、堅牢な城壁を軽々と撃ち破る伝説の一撃となる。
「ふんっ……、愚物が……、妾に話し掛けるからこうなるんだ」
少女の吐息は弧を描くように、半径50メートル強を焼き払った。
そんな異常事態を引き起こした少女は、愚かな男達に吐き捨てる。
「…………ティーナが仲間でほんとによかった。……状況が違えばどうなっていたか」
車窓に見入っていた俺達。
その時、馬車の扉が開いた。
「……ご主人様っ!!」
馬車に押し入った戦慄の主は、俺に向かって飛び込んできた。
「うわっ!? ティーナ?」
あれ、ティーナは外にいたんじゃ……?
「……妾が……敵を倒しましたっ!」
「ん……? ……あぁ、ありがとう。助かったよ」
ティーナはなにかを察して欲しそうだ。
「…………ご主人様……」
…………あぁ。
「……そういうことか。おいで」
もどかしそうにしていたティーナの顔がぱっと明るくなる。
少し小柄なティーナを膝に乗せ、さっきまで一方的な虐殺を行っていたとは思えない、小さく愛らしい頭を撫でてやる。
もう一度言うが、この子が虐殺を行っていたとは本当に思えない。
そう、頭を優しく撫でながら呟いた。
「……? なにか言いました?」
「……いや、なんでもない」
……所要時間、5分、たったそれだけの時間と、膝の上でふにゃふにゃとだらしなく表情を弛ませている一人の少女のお陰で……、馬車は再び走り出した。
新キャラに女の子を考えてるんですが……、要望があれば容姿と性格とセリフをワンフレーズ感想にお願いします。
採用するかは解りませんがそれでもいい! という強者の方は是非。