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45.ドラゴン


なんだろう、詰めたい事が入り切らない、というか……。




 最初の目的通り、狂気に染まった男を拘束する、それだけのはずだった。

 だが、今やその男は見る影もなくなっていた。


 比喩などではなく、本人だと判別が出来ないほど滅茶苦茶になってしまった。


 今、俺の目の前に居る一匹の(ドラゴン)によって……。


「へぇ。今度の龍は二足で立てるんだな」


 しかし、そんな状況の中、予期した程の動揺はなかった。

 何故なら、俺は前にも龍を見たことがあった、というのもある。

 加えて、頭が麻痺してしまった……つまりこんな状況にも慣れてきたのかもしれない。

 そんな俺の心境はさておいて、突如として目の前に舞い降りた龍は以前の個体より小さく、体長は目測で3、4メートルほど。手はだらんと力無く垂れ、二足で立ち、腹から尾にかけては比較的柔らかそうな皮膚、それ以外は綺麗な赤色をした鱗に覆われている。


 その真っ赤な目は、あたかもその色のように血に飢えているようで……更にその矛先は俺に向けられていた。


 ……腹でも減ったのだろうか?


「下がれ! そいつは明らかにお前を狙ってる! 以前は太刀打ち出来なかっただろう!?」


 突然の出来事に声を張るレノア。

しかし、今の俺にはそんな心配など必要ないように思えた。

勿論、逃げるつもりなどない。


「前は、な? 大丈夫。今度は負けない」


「悠! 危ないから下がって!」

 考えもなしに龍の目の前に立ち尽くす俺に、リリィが下がるよう促す。

だが、言った通り不思議と負ける気はしなかった。


 だから、こうして明確に強大な威圧感を向けられた今も逃げようなんて考えは浮かばなかった。


「ギァオォォォォ!」


 獲物を前に、深紅の龍が辺りに咆哮を響かせる。


「さぁ、来い。力の使い方を覚えた今ならお前にも勝てる」


 レノアの話だと、龍というのは相当な知性と誇りを備えた生き物らしい。

俺の言葉が通じたのか、より怒りを露わにし始めた。


 これも聞いた話だが、龍は個々の属性に応じた息で獲物を仕留める。


 そしてこの龍の属性は炎だ。

というのは目前に迫る巨大な火球を見て知ったことだが。


 大きく空気を吸い込み、この世の全てを焼き尽くす龍の息吹きが俺に向かって放たれた。

その火球を消し去るべく力を真っ正面からぶつける。


 力と炎とがぶつかって、凄まじい衝撃波が辺りの木をなぎ倒した。

目の前で起きた爆発で俺まで吹き飛んだ。

しかし、そんな事は大した問題にはならない。

爆発の威力を殆ど相殺し、体が叩きつけられる衝撃を最小限に抑え……肇との対戦で俺は能力を使いこなせるようになっていたのだ。


「爆風までは消し切れなかったか……まぁ今のでコツは掴んだ。次からは通じない」


「グオォォォォォォ!!」

 俺の言った事を挑発と取ったのか、怒り狂った龍はもう二度、三度と火球を吐き出した。

しかし、何度やっても結果は同じ。

高濃度に圧縮された炎の塊は、俺に触れる事無く火の粉を散らして霧散していった。


「ガァァァァァァァァァーー……ッ!!」


 よりによって非力な人間が、幾匹もの獲物を葬ってきたブレスを消し去っていく、という事実が信じられなくも腹立たしいのだろう。

 しかし当たらない火球に業を煮やした龍は翼を羽ばたかせ、途轍もない速さで突進してきた。


 あの巨体でこれほどの速さは驚異だが、動きは直線的で避けるのは容易い。


 難なく交わし、龍に向かって駆け出す。

 龍は突進の勢いを緩め、俺の方へ振り向き様に尾を振り回した。地面に散らばる小枝を蹴散らしながら、龍の尾が肉迫する。


 俺はそれを視界の端で捉えながら方向をずらし、尾は髪を掠めるに留まった。

尾を振り切り、無防備になった龍に向かって自ら作り出した衝撃波をぶつける。


 加減無しでの威力は、例えて列車と衝突したくらいの衝撃はあるだろう。

それを腹に受けた龍は、よたよたと後退る。

更に追撃を加えようと力を溜めている時、レノアが今頃こんなことを口走った。


「悠! 有利そうだから言っておくが、龍は殺すな! 希少価値が高いんだ。殺せば裁判沙汰だぞ!」


「えぇっ!? そういうのは先に言えよ! ……ったく、危うく殺すとこだった」


「悪い……。だが、油断はするなよ?」


「わかってる」


 グァァア! と、突然龍が鋭利な爪を振り回した。


 俺は当たる物だけを能力で弾きながら全ての攻撃を避け、すかさず拘束しようと試みた……が、


「っ!! ……くそ、無理か」


 幾ら5000キロもの力を操れようと、それは更に圧倒的な力で振り払われる。

全く効かない訳ではないが、それでも動きを鈍くするだけだった。


「一応、本気でやってるんだけどな……流石に神話に登場するだけの事はあるか」

 拘束を諦め、力を抜くとまた暴れ出した。

適度に集中している今なら当たる事はないが、隙がなく近付けない。


「邪魔だな……。でも鈍らせるだけで全力だし、第一攻撃出来ない。……どうしようか」


 そうして迷っていると、雷を纏った炎が龍の後頭部を直撃した。

一瞬見えた龍の背後にいたのはリリィと藍華だ。

ドッカァァン! と耳が痛くなるほどの轟音と目が潰れそうになるほどの光量を放った"それ"は、一時的に龍を行動不能にさせた。


「……ナイスだ」


 二人が作った活路に、思わず口元が弛む。

怯んだ隙に間合いを詰め、懐に飛び込んだ。


「これで、倒れろっ!!」

 その場で力を込め、思いっ切りジャンプした後、最初から決めてあった箇所、額に向け……今放てる最大の衝撃波をぶつけた。

それが龍の規格外のタフさを超えたのか、


「ギャオォォォー……!!」


 森全体を震わせるような、重く、低い音を立てて、龍はその巨体を横たえた。


「はぁぁ……頭が疲れた……やっぱ加減しながら戦うべきだな」

 俺の能力は基本的に位置や範囲、威力や密度を設定する、といった計算をしなければならない。

慣れもあって位置と範囲などは感覚で補えるようにはなった。

それでも頭に掛かる負担は変わらなかったが……。

やはりまだ、残りの威力に関わる計算は意識して調節が必要のようだ。


「悠! さっきの凄かったね。一撃も当たらなかったどころか……なんだか余裕まであったみたい」


「そうね……。まるで見違えたわ。これが本当に悠くんか自信がないくらい」


 そうして欠点について考え込んでいると、二人が駆け寄ってきていた。


「いや、正直……二人のサポートが無かったらどうするか困ってたぐらいだ……。こんなんじゃまだまだ、全っ然駄目だな」


「そんなことないわ。この短期間で龍と互角以上に戦えるなんて有り得ない事よ? もうちょっと誇ってもいいと思う」


 最後に手を借りなければ苦戦していたという事実に落ち込む俺を、藍華が慰めてくれた。

 自分でも単純だとは思うが、藍華の言葉に少しは元気になる。

 さっきのサポートといい、励ましといい、礼を言わないと。


「そっか……ありがと。今のも、さっきの一撃も。藍華のお陰で少しは自信を持てそうだ」


「いや、私は大したことは……」


「…………むぅ」


 藍華は、口ではああ言ったものの嬉しそうだ。

その時、隣りに居たリリィはと言うと、そんな藍華を見て頬を膨らませ拗ねているようだった。

あっちを立てればこっちが立たず……どうやらこれも改善しないと駄目らしい。


「話は終わったか? ……それで、コイツをどうするかだが……」


 レノアが言った。

確かにそうだ。

放って置くわけにも、連れて帰る事も出来ない。


「……ん? ……ちょっと待て。コイツ、こんなサイズだったっけ? それとも最初より小さくなったのか?」


 どうしようかとみんなで考え出した時、倒れた龍を見てふと気になった。


 ……なんだか見れば見るほど縮んでる気がする。


「悠……?」


「いやいや! 本当に最初より縮んでるって! だからそんな目でこっち見るなっ!!」


 必死に弁解するが、みんなの視線がより冷たくなっていく……。


「悠……。あ、悠はちょっと、眠いんだよね?」


「え? いや、そんなことは……」

「うん、きっとそう。戦いで疲れてるから頭が……ううん、目が疲れたの。そうだよねっ?」


 リリィはそう言うと、全てを受け止めるような笑みを浮かべた……。


「いやいや、幾ら疲れたからってそんな……」


 微笑み掛けるリリィを余所に、今度は藍華が俺の手を引いた。




「悠くん。疲れたのなら私が癒やしてあげます。だから、とにかくテントに戻りましょう? ……二人で体を休めに」


 そう言って、にっ、と笑顔になる藍華……。


「あぁ、頼む。……って言うわけないだろ。何する気だ?」


「な、なにって……そんなこと私からは……」

 藍華は両手を頬に当て、左右に首を振る。

 ……まぁ、これは放って置いて。

 何時ものパターンから言うと次は……、



「頭を冷やせ。お前がこんなに馬鹿なのはわかって「思いっ切り殴るぞ。……見ろよ。さっきより小さくなってる」


 嫌みなレノアの話なんて聞いていられない。

 すぐに被せて話を変えた。


 言った通り、小さくなっているのだ。


 4メートル程もあった巨体が、今は目測で2メートルを越えない程に。


「なんだよ……これ? どうなってるんだ?」


「……わからない。龍の存在自体が稀有なだけに……こんな事例、聞いたこともない」


「レノアでもわからない、か……」


 はぁ、とレノアが溜め息を吐いた。


「それにしても……お前は数奇な運命を持っているんだな? 一緒に居て飽きこそしないが……ここまで来ると、特別な意志のようなものを感じるぞ?」


「んー……、特別な意志、ね。…………お……?」


 意識が思考に傾き出した頃、過去の映像と混濁し、ぼやけて写るものがあった。


 それは、龍の名を冠すもの。

 それは、息の一つで大国を真っ赤に染めるもの。

 名は(ドラゴン)、荘厳で偉大にして伝説の存在……の筈だった。


 一転、我が目を疑う。


「なんだよ……? どうなってる? これじゃまるで……」


 自分のものではないかのように。


「…………人間、じゃねぇか……ッ?」





中途半端な終わり方ですね。はい。


正直、書けない日が続いて辛かったので、次の更新は早いと思います。



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