42.配属先
「そいつ、どうするんだ?」
硝子の向こうに居た比較的若い男性が、肇と名乗る少年を肩に抱え、何処かに運ぼうとしている。
気になった俺は声を掛けた。
「…なんだ?倒した相手の心配でもしてるのか?甘いことだ」
「…別にいいだろ。で、どこに連れてくんだよ?」
「医務室だ。まぁ、何ともないだろうがな。実際、今までの83回の任務の内、二回ほど同じような目にあったが…なにせ生命力はゴキブリと変わらんような奴だからな」
「…酷い言われようだな」
可哀想…だとは思ったが、特に同情するつもりはない。
そんな話の最中、肇を抱えた男性がバツの悪そうに頭を掻いた。
「…あー…」
「な、なんだよ?情けない声出して、気持ち悪いな」
「さっきは挑発するような真似をして悪かったな…正直、この肇を倒した点は評価してたんだがな…くそっ、私の部隊に入れてやろうと思ったのに、あの電気少年が…っ」
「はは、断られたってわけか」
「あぁ、見事にな。話を聞いてみればお前…かなり期待されているそうだな?」
「え?そうなのか?」
「私が言ったのは内緒だぞ。もし、その照れ隠しで消されたら適わんからな」
(あぁ…ありえるかも)
「じゃあな…お前が生きていればまた会おう」
「お前は一言多いの直せよー」
話を終えると、若い男は背を向け、右手を上げて去って行った。
少し考えたが、もうこの部屋にようもない、後を追って部屋を出ることにした。
ガチャ…
「……あ」
部屋を出ると、サンテが腕を組んで待っていた。
あまりよろしくない表情をしているところを見ると、良い話ではなさそうだ…。
「ん、なんか…悪い」
「なんで謝るんだ?」
「いや…不機嫌そうだから、また説教かなー?って」
少し止まった後、サンテは小さく溜め息を吐いた。
「はぁ…その通りだ、と言うのが腹立たしいね」
(あ、やっぱそうか…)
「僕としてはキミの実力があって何故、あんな奴に手こずったのかを聞かせて貰いたい」
言いながら指で小刻みにリズムをとっているところを見ると、表情以上には苛立っている様子。
しかし…肇は強敵だったし、手こずって当然だと思うんだが…。
「そんなこと言われてもな…。強かったぞ?アイツ。勝ったとはいえ、ちょっと卑怯なやり口だったと思うし」
「ほぉ…じゃあ僕がキミの能力を過信し過ぎていたのかな?」
すると、サンテの表情から怒りが消え、感情の読み取れない全くの無表情になった。
「そこまで言われてはね…。それなら、さっきキミをスカウトしていたヤン氏に話を付けよう。彼なら快く引き取ってくれるだろうしね…?」
「…さっきのってまさか…あの嫌みなおっさんじゃ…?」
「あぁ。彼なら良い仕事をやらせてくれるよ…暗殺に諜報、上への報告書の偽造、果ては人身売買や武器の密輸まで…それこそ"なんでも"だ」
「いや!いい!さっきの聞かなかった事にしてくれ。お前が上司の方が百倍マシだ」
「…そうかい?それは残念だ。キミはあまり良く思っていないようだが…彼が裏の仕事を引き受けてくれるおかげでこの組織は安定していられる。あまり馬鹿にしない事だ」
そう言われ、確かに悪い奴ではないと思う。
いや、悪い事はしているが…誰かがやらなければならないことだろうし。
「それはそうかも知れないけどな。俺はアイツとは合わないんだ!」
「……フフ、そのようだ。それで、僕がキミの上司になるわけだけど…まぁ色々言いたいこともあるが、期待しているのは確かだ。肇…奴を"蹴った"のも恐らくキミが初めてだろうし、卑怯な手とは言ったが素手が主体の白兵戦なら最強を誇る奴に勝てるんだからね」
「あぁ。そこはちゃんと理解してんだな」
「馬鹿にするな。能力無しなら僕が太刀打ち出来る相手じゃない」
「…へぇ、お前がそこまで言うか」
サンテに聴かされた時は、アイツが打たれ弱くて本当に助かったと思う。
それぐらい、見えない速さに、意識が飛ぶ程の蹴りは脅威だった。
「さて、雑談はこれぐらいにしておこうか。
これから正式に僕の部隊に配属されるわけだが、早速頼みたい事がある」
引き受けてくれるかと問われ、俺は迷いなく了承した。
これで追われる心配も無くなった訳だし、まずは信用を得ておかないとな。