35.ご案内
シリアスな場面が続いたので息が詰まってきました。
なので今回はコメディータッチです。
「…デジャヴだ」
昨日と同じ、眩い朝日に起こされた俺は思わず零した。
こうしてると何時もと何も変わらない。
咲妃が死んだ、なんて質の悪い冗談だと思う。
「…ホント、嘘みたいだ」
少しでも気を抜くと、思い出して泣いてしまいそうな気持ちを苦笑いで誤魔化す。
そうして自分の脆さに落ち込む。
「あー…こんなんじゃいけないのはなー…わかってるんだけどなー…」
なんだか、病んだ高校生のような事を言い出すようになってしまった。
このままだといけないというのはわかっている。
でも、とんでもなく怠い…。
コン、コン。
そんな折、かなり小さな扉を打つ音が響いた。
1人にしてほしいんだけど?とも思ったが、黙ってるのも悪いのでとにかく返事を返す。
「…誰ですか?」
「えっと…クラヴス様の使いの者です…?けど、あの…ゆ、悠様…の御部屋はここですか…?」
「え?いや俺に聞かれても…」
リリィか藍華のどちらかかな?と勝手に決めつけていたのもあって少し驚いた。
それに加えてサンテの使い…?
俺に何のようだろう?
…てか声ちっさい!
「ごっ、ごめんなさい!…あ、御部屋…間違えましたか…?」
「合ってるけど、なにもそこまで低姿勢にならなくてもいいんじゃないか?」
「…いえ、わたしなどが…そんな、おこがましいです」
「まぁ、とにかく開けるから。中で話し聞くよ」
「あ、えと…いいんですか…?」
「いいよ。ていうか、そうじゃないと話が出来ないんじゃないのか?」
「あ、ぅ…そうですね…ごめんなさい…」
「や、責めてないから!と、とにかく上がって!」
「あ…す、すいません」
…なんだコレは?
新しい出会いに困惑しながら扉を開け、かなり気弱そうな使いを部屋に招いた。
「それで、話って一体ー…」
「?…あ、あのっ…どうかしましたか…?」
「あー…いや、なんでも」
話を伺おうとして一瞬固まってしまっていた。
この娘、小さな体に似合わず立派なものをお持ちのようで…。栗色の毛に小柄な背丈、大きな瞳が特徴的だなー、なんて思ったのも束の間、さらに下に目をやると薄い服の生地を押し上げている不釣り合いな程に大きな胸が…。
「…や、やっぱり…わたしがなにか失礼なことを…したんでしょうか…?」
よっぽど惚けていたのか、彼女が不安そうな声色で訊ねてきた。
「…ありがとうございました」
「えっ?」
「な、なんでもない!さぁ、用件をどうぞ」
「え?え??な、なんか急に口調が…?」
動揺してなんか口調が怪しくなったが、初対面でそんなこと言えるはずもなく彼女はただ疑問符を浮かべている。
「…どうぞ」
「は、はぁ…?それでは…ご主人の言伝を伝えますね」
彼女は釈然としないままだったが、仕切り直しとばかりにコホンと可愛らしい咳払いをして用件を話し出した。
「心中お察しする、こんな時に非常識は重々承知している。僕としてはもう少し待つつもりだったが、上の連中が五月蠅くてね。申し訳ないが、僕の屋敷まで足を運んでもらいたい」
…彼女は言伝はこれで全部です、と言って締めくくった。
「ホントにこんな時に?って心境なんだが…まぁ、仕方ないか。上手く匿ってもらってたみたいだし文句は言えないな」
俺が1人で納得していると、彼女がおずおずと手を挙げた。
「あの…ご発言、お許し頂いても宜しいですか…?」
「どうぞ?…ってそんなに気を使わないでいいって」
「あぁっ!わ、わたしなどに…そんなお言葉っ!勿体ないです…ぁえっと、ご主人からご案内を承っておりますので…用意が出来次第、わたしがお連れします」
「あぁ、わかった。じゃあ今から用意するけど…」
「けど……?」
「…そういうわけで着替えようと思うんだ」
「あ……すっ、すいませぇん!」
そんなわけでどう見ても扉にぶつかりそうな勢いで出て行った。
ドーン!
「あぅっ、いっ…っ!!」
ガチャ…
出て行った。
持って行く物もないので、用意は10分ぐらいで終わった。
…まぁ、あえて言うなら用心に銃くらいだしな。
「じゃ、案内よろしく頼むな?」
「は、はいっ!」
ってガチガチじゃないか…。
知ってる道歩くだけでそんな緊張するなよ。
「まぁ、緊張するのもほどほどに頼むな」
「はいっ!」
あ、なんか扱いわかってきた気がする…。
で、気を取り直して案内を頼んだけど…
「…あ、あの、あそこのお店はとっても美味しいんですよ?一度だけお連れして頂いたんですけど、今でも忘れられなくて……出来れば、悠様とご一緒したいなぁ…」
あれ…これは案内だった筈。
なのになんで俺が奢るみたいな感じになってるんだ?
こら、さり気なく腕で胸を挟むな。
そしてそんな大きな瞳で俺を見るな、そんなことより服が弾け飛びそうになってるぞ。俺の脳内が間違った方向に突っ込み出した頃、名も知らない女の子が1人でブツブツ言い出した。
…俺に聞こえる程度に。
「…悠様とご一緒したいな…こんなわたしでも優しいお言葉を掛けて頂いて…そんな素敵な人とお昼にこんな所でお食事出来たら…」
弱気な娘だなーと思ってたのに
コイツ…意外とやり手か?
「あ、俺もしかしたら多分きっと腹が減ったな」
「それでしたら、あちらのお店が美味しいとお聞きしておりますが…」
満面の笑みでビッ、と指差す案内役。
財布と暫くお喋りを楽しんだが、結局行くことになった。(実はレノアに貰ったお金が少々あるのだ)
てかそろそろこの娘の呼び方を考えるのが億劫になってきた。
「しゃーない、行こうか。一応聞いとこう、お腹は空いてるのか?」
「ぁ…」
きゅぅぅ…
案内役がなにか言い出す前に、これもまた可愛らしい腹の音が聞こえてきた。
顔色を窺おうとゆっくり顔を上げると、案の定頬を染めて俯いている。
「ち、違います…い、今のは…あの…そういうことでは…」
聞いているのがちょっと楽しかったりする言い訳を聞いていると、ふと目があった。
「みっ、見ないでください!」
お腹を抑えて横を向く女の子。
…そんな反応でからかうのが楽しいタイプだと勝手に判断した俺は、大して考えもせず責めてみることにした。
「…早く行けってか?」
「あぁ!いぇっ、そんなことは…」
「腹の方は正直だぞー…?」
「あぅぅ…それは…えと…あの、我慢します…」
あれ、シュンとしてしまった。
…なんて打たれ弱いんだよ…。
顔がどんどん赤くなっていったりキョロキョロと目が世話しなく動いてたりと、見ていて飽きなかったが、もう止めておこう。
「冗談だって。そんな本気にしないでも…」
「ほ、ほんとですか…?」
「あぁ、あと謝るついでに自己紹介もお願いしたい」
「…!!!」
俺が自己紹介を頼んだとき、彼女は
(°□°)!!
…こんな顔になっていた。
いや、顔文字で表すと、だけどね…。
「し、失礼しました!あの、わたしはミレフィオリ=カトレア。えっと…みんなからは駄目フィオリ、とか…仕事の出来なさが超レアとか言われてます…ええと、改めてよろしくお願いします」
「なんて卑屈な自己紹介だよ…まぁ普通にフィオリとか呼ばせて貰うよ。あと流石にちょっとぐらいキレても許されると思うぞ?」
素で思ったから言ったんだが、すぐにそれを後悔した。
「いっ、いいんです…わたしは…その…M、ですから…」
「へー……って、はぁっ!?」
待て待て待て!
今なんて言ったコイツ?
「あの…だから、悠様のような方に先程のように責められると…その、わっ、わたしの大事な所がうずっ…」
「待て!言うな!どこまで良いのかわからんのに攻めるな!」
途中から眼が惚けてると思ったら…なんて事を言い出すんだ?
どうみてもそんなキャラじゃないのに……って、心当たりが一人居たよ。
こんなこと吹き込みそうな人が。
「もしかして、それアリアさんに吹き込まれたんじゃないのか?」
「はい。こう言うと男は墜ちるよ、って。よくわかりましたね?」
「えっと、それでフィオリは幾つだっだっけ?」
「わたしは18ですけど…」
「え?まさかの年上!?」
「そ、そうだったんですか…?わたしなんかよりずっと大人に見えたからてっきり…」
「…俺って、そんなに老けて見えてる?てかそれならもっと女性としての自覚を持って下さい!」
「ご、ごめんなさい…そんなつもりで言ったんじゃ…あの…わたしが大人の方に憧れが強いから…そんな風に言ってしまって…」
「お、おぉ。これは褒められてるんだよな…?って、それよりなんでアリアさんの言ったことを鵜呑みにするんだ?あの人、放っといたら聞いてるこっちが恥ずかしくなるようなことばっかり言ってるのに」
「え?そ、そうなんですか…?」
…なんだその疑わしい目は。
ひょっとして俺がおかしいのか?
「じゃあ、例えばさっきみたいなこと言って恥ずかしくなかったのか?」
「えぇっ!?わたし…なにか恥ずかしいこと言ってましたか?」
「えぇ、そりゃあもうこんなとこでなに言ってんだコイツと思ったよ」
「そ…そんなに…っ!!……っあ…」
今、理解した様子のフィオリ。
顔を真っ赤にして今にも煙が立ちそうだ。
「…あ、あああのっ!い、いまのは…なかったことにしてください!」
さっきまでテンパっていたのは俺だったが、こうなってくると慌ててるフィオリが面白かったりする。
…そこで、何故か俺のSスイッチがONになった。
「…忘れられそうにないな。だってあんなことフィオリが言うと思わなかったし」
「っ!!…そ…そんな…」
この時点で、既に眼が潤み出したフィオリ。
しかし、変にスイッチの入った俺は、何を思ったのかまだ大丈夫だろうと判断して、このまま続行することにした。
「こんな所であんなこと言うなんて」
「…あぅぅ…」
「あんなの誘ってるようにしか見えないよ」
「…っあ、そんな風に言われると…だめ…ですっ」
あれ、
…気のせいか?
声がなんか変だ。
それに表情も心なしか恍惚としてるような…?
「…あの…もっと、わたしをイジめ…」
「はっ!?ストーップ!!」
なにやってんだよ俺…。
急に温度の下がった脳が正常に動き出し、フィオリの口を塞ぎ、ちょっと言えないどこかに向かおうとする手を押さえつけた。
「ごめん!俺が悪かった!だからお願いだ、正気に戻って!」
「んー…!!…んぅっ?」
しばらく驚いた様子で呻いていたフィオリだったが、次第に大人しくなっていくのを見て押さえていた手を離した。
「……落ち着いたか?」
「…あの、今の…もう一度やって頂けませんか…?」
「…やっぱ駄目か」
半ば諦めの籠もった深い溜め息を吐いた。
しかし今度は、放置されたフィオリが落ち着きを取り戻してまた顔を真っ赤にするのに時間は掛からなかった。
「話を戻すぞ?なんでアリアさんにそんなこと仕込まれてるんだよ?」
「それは…えっとわたしが、その…バカだから…アリアさんにいろいろと教えて頂いてたんです…」
「あー、なるほど」
「…なんですか…その悟ったような目は…」
「…別に」
こんなやり取りが長引いたせいで、起きた時刻はわからないが店に入る頃には遅めの昼飯となってしまった。
感想に矛盾点を指摘するものがあったので、その点を加筆修正しました。
作者自身が把握仕切れてなくて面目ないです…。
どうもこの作は1人歩きしたがるので。汗