34.別れ
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「…眩し」
目を瞑っても真っ白になるくらい
爛々とした太陽の光を浴びて目が覚めた。
眠った記憶もないんだけどな…
ということは気付かない内に寝てしまったんだろう。
なんだか精神的に疲れていた上に、勿体ないぐらいの天気の良さも加え、抗うことすらせず二度寝することにした。
力無く深呼吸をし、そろそろ意識が薄れてきた頃、ガン!と唐突に何かを殴ったような音に意識を戻された。
音のした方を見ると扉が一つ。
そこでやっとノックされたんだと理解する。
「……なんですか?」
…呆けた頭ではこんな返事が限界だった。
その言葉が相手を苛立たせたのか、朝にあまり歓迎出来ない大声が廊下に響いた。
「起きろー!!」
「あぁえ!?」
…あぁ!ビックリした…
少し間を置くと、冷静になった頭が声の主を判別した。
「あー、リリィか?」
「まだ寝てるみたいね…」
ギリギリ聞こえるような声が聞こえて、次いでスーっと息を吸い込むのが聞こえた。
「起きてる起きてる!リリィだろ?」
「はぁー…やっと起きた。とりあえずこのドア開けて」
ドアの向こうから呆れ果てたような溜め息が聞こえてきた…。
ガチャ
「…もうそんな時間なのか?」
「なんだ、要件はわかってるんじゃない。何度も呼んだのに……まぁ、そんなことはいいからあんまり余裕ないの。早く用意して」
「…わかった。ってリリィ、目ぇ腫れてるぞ?」
「え…?」
「あんまり、寝れなかったのか…?」
「……うん…」
「…そっか…でも、咲妃も嬉しいんじゃないか?こんなに想ってくれる人がいて」
「……そうかな…?…ていうかあんたは早く用意して」
ちょっとお喋りが過ぎたのか、語尾が冷たくなったリリィを尻目にゆっくりと用意を始めた。
なによりも、乗り気じゃなかった…。
しかし、やらないわけにもいかない。
今を逃せば、一生後悔する。
そこまで考えて、ようやく着替えに手を伸ばした。
一時間後、俺が着いた時には全員がその場にいた。こんな時にまで遅れてきた俺に、レノアが出来るだけ怒りをこらえた様子で問い掛けてくる。
「なにをしていた?」
「…ずっと、考えてたんだ。最後に言いたいこと…残す言葉とか」
「決まったのか?」
「…おかげ様で」
別れの式は最寄りの教会でおこなわれた。
サンテの計らいで少しの間だけ貸し切りだ、とのこと。
扉を開け、真ん中に真っ直ぐな通路。
通路の隣には一定の感覚で席が置いてある。
奥の三段ある階段を上った壇上、咲妃はそこで眠りについている。
形式はこっちのやり方に乗っ取って、短い蝋燭が消えるまで想いを黙祷により捧げるというもの。
最後に、一言でも気の済むまで言葉を残す事が許されている。
まぁ一口に式、と言っても神父も居なければ、全員で10人にも満たないものだ。
でも、堅苦しいのが嫌いな咲妃にはこれでいいんだと思う。
「では、こちらのやり方に詳しくない悠に代わり…私、レノアが進行を務める。」
その後、レノアの言葉が終わり、誰も一言も交わすことなく式は進んで…黙祷が始まった。
黙祷はリリィ、レノア、藍華、最後に俺の順だ。
リリィ、黙祷。
「ー……咲妃さん。またお話ししようね…。」
レノア、黙祷。
「ー…咲妃さん。…その日を楽しみにしています。」
藍華、黙祷。
「ー……今思えば、わたしには酷な約束をしてしまったわね。まぁ、できる限りの事はするから…安心なさい」
「…次は俺か」
「待て」
席を立とうとした俺をサンテが(いつ来たんだよ)目の前に手を出して制止した。
「その前に僕から送る物がある」
「…一体、なにする気だ?」
突然に割って入ったサンテに俺が敵意を向けると、服(俺達の居た世界で言う喪服のようなもの)に差した花を手にとった。
「…そんな恨めしい目を向けないでもらえるか?…安心しろ、僕は死人を馬鹿にしたりはしない」
「そんな言葉、信用できるか。で、その花はなんだよ?」
「…この世界では火葬が主流だ。その際に、この花をも炎に散らす事でその者の来世での…女なら幸福を、男なら栄光を約束するんだ」
「来世の…」
「信用できないか?気にいらないのなら僕は消えよう」
俺より年下の大人な対応に、噛みついた自分の方が馬鹿らしく思えた。
「…いや、いい。…俺が悪かった」
サンテはそんな俺の言葉を歯牙にもかけず、堂々とした態度で壇上に向かっていく。
軽く一礼した後、深く黙祷。
先程の堂々とした態度とは一転して、その姿は母親の死を悲しむ息子のような、ただの子供のようにも見えた。
「ー……君が迷わないよう、道標にこの花を送ろう。いつの日か…たどり着けたなら、僕が君の満ち足りた人生を保証する」
サンテは言い終えて少し肌の白い手を伸ばし、咲妃の髪に花を差した。
行程を見守る間、隣にいたリリィが俺にこっそり耳打ちで教えてくれた事がある。
「あれ本当は凄く高い花なんだよ?こんな時に値段なんか関係ない、って。兄さんの方が関係ないのにね」
「…まったくだ」
今回のサンテの心遣いは素直に有り難く思う。
そのサンテに感謝していると、本人が全ての行程を終え戻ってきた。
真っ直ぐ出て行くのかと思えば、俺の横で止まって微かにこう言った。
「…何度見たところで慣れないものだね。…人の死というものは」
「…そうだな」
「それと、君にも渡すものがある」
今度はそう言って服の中に手を入れ、鈍く輝く銀の十字架を差し出してきた。
「これは?」
「それは純銀のロザリオ。生前にその人が一番大切に想っていた人が内に在る慈愛を注いで墓に添えるものだ。眠るときに一人寂しくならないように、決して尽きることのないよう愛を込めて」
「そんなものまであるんだな。…わかった、いろいろありがとうな…」
「そう言ってくれると助かるよ。こんなもの慰めにもならないとは思うけどね。…さて、僕はこれで失礼しようかな」
「あぁ、じゃあな」
さぁ、今度こそ俺の番だ。
ゆっくりと、最後の時を噛み締めるように歩いていく。
タン、タンと段を上り、壇上に上がる。
悠、黙祷-。
「ー……咲妃。…言いたいことが多すぎて、絞れなかった。だから、思いつく限り言うけど聞いてくれよ?」
結局、優柔不断な俺には一言に絞る。なんて無理だったんだ。
だから、俺に出来るのは後悔しないように言いたいことを言い尽くす…それだけだ。
「咲妃。まず、御免な?それからありがとう、楽しかった!…に、お前優しすぎ。それにお休み。それと~……」
…どれだけ言っても言い足りなかった。
言葉は尽きず、想いは消えず。
自分でもなに言ってんだかわからなくなってきた。
おんなじことも言ってるかも知れないな。
…でも、そんな時もそろそろ終わりが来た。
息が切れて声にならない。
名残惜しいが…随分引き伸ばした別れだ。
「はぁっ…はぁ……じゃあ…な、咲妃」
段を降りていく間中
ありがとう、ありがとう…と何度も心で呟いた。
呟きながら席に着き、レノアの言葉を待つ。
「ー…それでは、これで閉式とする」
無駄に膨らませた、内容の薄い演説を終え、とうとう閉式を迎えた。
式場を後にする時、堪えきれなくなったリリィが泣いていた。
「お前…何度目だよ」
「…だって…だってぇ……うぇ…」
みんなが出たのを確認し、扉を閉める。
その扉が閉まる寸前に、リリィが叫んだ。
「咲妃さぁぁぁん!!」
…それからどれくらいか、リリィが落ち着くのを待った。
みんなが黙って見守っていた。
そうして、少しずつ落ち着いてきたリリィを見て声を掛けた。
「リリィ…気持ちはわかるけど、もう行くぞ」
「…………うん…」
リリィは、大分悩んだようだが頷いた。
泣きたいのは俺も同じだったけど、それは部屋に戻ってから。
幸い、宿代はサンテがもってくれるみたいだし、なにより疲れた…。
今日は三時間程しか起きてないのに関わらず、部屋までの足どりは虚ろで、部屋に戻った俺は力尽きたように倒れ込み、目を閉じた…。
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遅くなりましたm(_ _)m