32.崩壊
行き詰まった…汗
俺は動かなくなった咲妃の手を、何時までも放せずに隣で泣いていた。
握った手がどんどん冷たくなっていく…
その事実が、受け入れられずにいる俺を内側から容赦なく引き裂こうとする。
「咲妃…お前もホントによく寝るよな…?起きないんなら帰るけどいいのかー?」
俺がこう言うと、目を覚まして待って待って!起きてるから!って飛び起きるんだ。何時もそうだった…
自分から呼んでおいて勝手に寝てる時はいつでも…
「いくら疲れてても一日に一回は俺を見ないと死んじゃうんだったっけ?…あのな、こっちだって疲れてるんだぞ?でもお前が呼ぶからいっつもこうして来てんのに勝手に寝るなよ…」
残された側の俺がこんなことでは咲妃は何処にも行けないじゃないかって…
そんな事はわかってる
でも、受け入れてしまうと本当に戻ってこない気がして…
前に何度もした話を、言葉を振り続けた。
「…悠…もう、やめて…咲妃さんが困ってるでしょ?」
声がした方を向くとリリィが立っていた。
隣には藍華、レノアもいる…
部屋に入ってきたことなんて全然気が付かなかった。
今の俺はそんなに余裕がなくなっていたんだろうか…?
「なに言ってんだよ、困らせてるのはいつも咲妃の方だろ」
「……」
俺の言葉にリリィはただ顔を背けただけだった…
この時、俺はどんな顔をしてたんだろう?
それ以上聞きたくなさそうだったので俺はまた咲妃に向き直って話を続けた。
「なぁ、そろそろクリスマスだったな。毎年二人でやりたがるけど…今年はどうする?俺は別に、お前と二人だけでもいいんだけどな…」
そんなやり取りが何度か続いた後、レノアが口を開いた。
「…二人だけにしてやろう…腹立たしいが、一番長い時間を過ごしてきたのはコイツだ」
「…そうね」
「……うん」
そう切り出したレノアに藍華が同調して、リリィは渋々…といった感じで部屋を出て行った。
すると去り際に、リリィが一言零した。
「…馬鹿…」
バタン
最後に扉の閉まる音がして、それきり部屋を静寂が包んだ。
30分ぐらい…だろうか…
とにかく長い間、一言も喋らず咲妃を見つめていた。
静か過ぎると再び考えてしまう…
それが嫌で、急に思い出したかのようにまた話題を振ってみる。
「あ、そうだ。久しぶりに空き地行こうぜ!なんか急に行きたくなったからさ…」
………
当然、返事はなかった
「…俺だって…わかってるよ…とっくに…」
レノアは俺達を気遣って二人きりにしてくれた。
だが、部屋にいるのは間違いなく…
俺"1人"だった。
この世界のどの場所よりも静かな部屋は、考えるのに充分な…膨大な時間を俺に与えた。
それは"理解"するのには充分な…しかし、"納得"するのには足りないものだった。
「…馬鹿、か」
少し前、リリィの言った言葉を思い出し、1人呟いた。
何故か、今ならわかる気がして…
「…馬鹿なんだろうな…やっぱ」
俺を差して言ったのは間違いない…
俺が振った話題に言ったのだろうか?
それとも、返事をするはずのない咲妃に、1人で喋っていた俺に言ったのだろうか?
…違う
答えは本人にしかわからない。
でも、恐らく。
巻き込むな、と言いたかったんだろう。
自分もすがりつきたかったんだと思う。
自分も信じたくなかったんだ。
でもそれを口にするな、そんなことをしても咲妃は戻ってこない。
それは自分を追い詰めるだけだと…
周りまで悪戯に巻き込むなと…
考え違いかもしれないが、リリィの言葉は他人への気遣いと俺への遠回しの叱咤を含んでいるような気がした。
そう思った俺は、益々どうすればいいのかわからなくなる。
自分より年が下回る少女が堪えているというのに俺は…
しかしそれだけで納得出来る程、俺の中で咲妃の存在は小さなものでもなく…
相対する意見の中に答えなどなくて、こんな状況の中に冷静でいられる要因もない。
混沌とした思考は俺の心だけを掻き混ぜ、削りとっていった。
「…もう、真っ暗だな」
思わず見た窓は黒く、街灯の僅かな光だけを映していた。
納得出来るだけの理由がないまま、咲妃に一時の別れを告げる。
「…じゃあ、そろそろ帰るな…?」
最後に見た咲妃の顔は、夜の黒に微かな白みを帯びてとても綺麗で…ホテルの自室に戻った後も、俺の胸を締め付けた。
頭の中が真っ暗です( ̄∀ ̄;)
…そろそろ完結しようかな…(-_-)