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31.咲妃


作者はこれが限界のようですm(-.-;)




急に出てきたサンテの指示により俺達は三人の所に向かっていた



「そういえば、俺がいなかった間そっちはどうしてたんだ?」




俺としては単純に話題の一つとして切り出したんだが、


しかし、その軽い態度とは逆にリリィの表情は暗くなった…




「……その事なんだけど…落ち着いて聞いてね?」



「…?あぁ、わかった」




何があったのかはわからないが、リリィの顔は真剣で…よくない知らせであることは明白だった




「…何か…あったんだな?」



「うん…」




何故か、妙な緊張が全身を這い回った


自分の汗で手がベタベタする、それがなんとも気持ち悪い…


この時、俺は途方もなく嫌な予感がしていた




「…咲妃さんが…あまり長くない…って…」



「!?…どういう…意味だよ…」



「とにかく、一度会ってあげて…」




そう言って、走り出したリリィについて行った





バン!


走った勢いのままドアを押し開いた


ちなみにここは病院ではない。手配犯でも相手にする専門医の隠れ家で、変わりに値段が時価となる


ドアを開くと、木造の部屋の真ん中にベッドがあり、咲妃はそこで眠っているようだった


隣を見ると、ずっと看病していたんだろう目の下に隈を作ったレノアがいた




「…レノア!俺がいない間に何があった?…お前がいたのに、なんで咲妃はこんなとこで寝てんだよ!?」




とにかくわからないことが多すぎて口から出たのは二つだけだったが、息を切らしながらレノアに問い掛けた


すると自分に非があるのか、俯きながら語り出した



「…あの夜、お前と別れて屋上に行くと咲妃さんが敵に囲まれていたんだ…勿論、私はそれを全て倒して、咲妃さんを助けた…」



「だったら、なんでこんなことになるんだ?」



「…少し離れたところにもう1人いたんだ…私は…それに気付けずに、気付いた咲妃さんが私を…かばって…っ!身代わりに敵の力を受けて…この様だ…」



そこまで話すと、嫌な記憶が蘇ったのかガシガシと頭を掻き毟った



「それで咲妃はどうなったんだ!?外傷は見当たらないのに死にかけるわけないだろ…?」



「敵の力で咲妃さんの体の半分は石化している…その敵はすぐに始末したんだが何故か石化は止まらなかった…栄養は点滴、酸素は肺に穴を空け無理やり呼吸させている状態だ…」



唖然とした…


見た目には普通なのにそんなことになってるなんて…



「…待てよ。敵を倒したのに解けなかったのはともかく、そいつの力の石化がいまだに進んでるって…おかしくないか…?」



そこに違和感を感じた俺は疑問を口に出す


その疑問にレノアが答えた




「さっきの話には続きがある…私が倒した敵は偽者だったんだ…」



その時聞いた瞬間に浮かんだ言葉そのままにレノアを責め立てた



「!?…だったらなんで、その時に本物も始末しとかなかったんだ!!」



なにも考えずに言った俺の言葉が頭にきたのか、レノアは目を見開いた



「ならお前は、目の前で倒れた咲妃さんを放って置けるのか!?それが出来るならとっくにそうしてる…!」



「ぅ…!……それも、そう…か…悪い、その場にいなかった俺が言えた義理じゃなかったな…」



「いや…私が悪いのも確かだ…そこは責めてくれてかまわん…だが、まだ諦めるな…一つ、助ける方法が残ってる」



焦って頭が回らなくなっていた俺は、少し落ち着いて考えることにした


そして、それに気付いた



「…本物を倒せばいいわけか。…でもそれをしないってことは…見つからないのか?」



「あぁ、今は藍華嬢が探しに行ってくれている…だが交代で探し始めてもう4日になる…そいつがこの街から出ていれば終わりだ」




元に戻す方法の一つは難航している


そこで俺はもう一つの方法も聞いてみた



「治せ…ないのか?」



「医者でも治癒能力者でも無理だ…何故なら、個人の固有能力に前例はあまりないからな」



「…それこそ出来ればやってる…か」




自分の無力さに腹が立つ…


あの時、俺も屋上に向かってれば…



「くそ…っ!」



…待てよ。

何か忘れてる気が…

そうだ、俺も一度死んだ時にリリィに助けてもらってる…

今回もその力でどうにか出来るんじゃないか?


「…なぁ、リリィ?不死の力を使えばどうにかなるんじゃないのか?」


この時、俺は絶望の淵に光明を見いだせたと、咲妃は助かるんだと思った。


しかし、次に悔しそうなリリィの表情を見た瞬間、それも厳しい現実なんだと理解した。


「…今度は使えない、だって考えてみて?いくらあたしの生命力を注いでも、咲妃さんには元々普通の人以上の生命力があるでしょ?つまり問題は内臓が機能してないってことなの」


「…それでも無理に行使したら?」


「やってないからなんとも言えないけど…咲妃さんを苦しめるだけだと思う」


視界の端に、小刻みに震える小さな拳が映る。

リリィ自身、何も出来ない自分が歯痒いようだ。


考えても結果は変わらない…今は俺に出来ることをやろう



「…俺も探しに行ってくる…」




「……待っ…て…」



俺がそう言ってドアに手を掛けた時、目が覚めたのか咲妃が話掛けてきた



「咲妃!?」



口を開いた咲妃に駆け寄り手を握る



「いぅ…っ!」



「ごっ、ごめん!…痛かったか?」



握った手が重かった…見ると肘の辺りまで侵食が進んでる…




思わず呻いた咲妃に、俺は謝ることしか出来なかった…




「ううん…大丈夫…だから……もう少し…握ってて欲しいな…」




「…わかった。だから喋るの急がなくていい…ちゃんと聞いてるから…」



咲妃の声は小さかった…肺がうまく動かないんだろう…


それでも咲妃は俺になにかを伝えたがっていた…


俺は涙が出そうになるのをこらえ、もう一度…今度は痛まないようにそっと手を握った




「…ゆぅ……わたしの…ために…してくれるのは…嬉しい…でも、私なら……大丈夫…だから…っ……だから…危ないこと、しないで……」


「……咲妃…っ…そんなこと、心配しなくていいから!…自分の心配しててくれよ…きっと、助けるから!」






「…いぃ…の……わたし、が…したい…だけ…だから……だ…って…わたしの…最後の……お願い……好きなひとに…生きてて…欲しいから……」



「……咲妃」




咲妃の途切れ途切れの言葉を聞いていると


ツー、と涙が溢れてきた…


最初は右目から、次に左目…


咲妃も…泣いていた


助けて欲しいに決まってる

苦しくない、大丈夫っ…そんなわけない


なのに、俺の心配なんかして…自分のためになんて悪いからって…


俺の人生で、こんなに強い人を初めて見た


それに、知った


人を助けようとする気持ちも、こんなに強いんだということを




「最後とか言うな!待ってろ!俺が助けるから!!」



「……あ…」


「待て!私も行く!」



居てもたってもいられなくなった俺は、握っていた手を離し外に飛び出した



ガチャ



外には黒いフードを被り、右手に手紙を持った男が1人で立っていた




「ヒッヒッ…頭から伝言預かってきたぜぇ…もっとも、俺には中になにが書いてあるのか知らねぇがなぁ」



「…誰だ?」



「は?…いやいや、まぁ話してるんだからきけよ…そりゃあ悲しいのはわかるがねぇ…仲間が死にかけてぐぶ…っ!」



言いかけたところで殴り飛ばした


どうせ咲妃をあんなにしたやつの手下だろう




「…死なせねぇ…絶っ対に…」



「誰だ?そいつは」



後ろからレノアが追いついてきた



「…敵だ」



「なるほど…探す手間が省けたか…」



「うぐぉぉ…痛てぇなぁ…俺に当たるなぐっ!げはっ!」



ゴッ!ガン!


言い切る前に、今度はレノアが殴っていた




「お前の話を聞く気はない…案内しろ」



「わかった!案内するから止めてくれ!…あんたらこぇえよ…」


そう言った男の顔は腫れ上がって歪んでいた


ただ、それはうっすらと笑みにも見えた



(ヒヒッ…バカなやつらだぜ…意味なくこんなとこにくるわけねぇだろぉ?)



「…早くしろよ。死にたいのか?」



「いえいえ!さぁさ、こちらです」


隠れ家から一時間の距離にやつらの拠点があった



「…ここだな?」



「はい!では案内も終わったんで俺はこれで…」




ザンッ!


そそくさと立ち去ろうとする男の首を切り裂いた



「悪いが、生かしておく気はない…お前がなにか隠しているのはわかっていたんでな…」



レノアも相当怒りを感じているようだ


咲妃を助けられなかったことをずっと悔いていたんだろう…


1人でもこうしてここに立っていたことは間違いない




「これほど己の無力を悔いたことはない…不甲斐ない、こんな様でなにが騎士だ…」


ギリ…ッ


怒りに歯を食いしばった

刀を握る手も震えている


だが、それは俺も同じ


今の俺達は怒りで周りが見えていなかった




ザッ、ザッ


門を切り裂き拠点に踏み込んだ





見える範囲で一番奥に男が1人、椅子に座りこちらを見据えていた



「あいつだ…忘れる筈もない」



「へっへ、やっぱ来やがったか…それにしても二人とはな」



「二人だったら…なんだって言うんだよ」



「おかしいと思わなかったのか?」



「なにがだ?」



その時、座っていた男が指示を飛ばした



「今だ!やれぇ!」




ウォォォ…!!


あちこちに隠れていた、男の手下だと思われる大勢の人間が武器を手に襲いかかってきた



「ハッ!罠に決まってんだろうが!二人で来るなんて相当馬鹿だぜお前ら!いいことを教えてやろう…」


椅子に座っていた男が立ち上がり、こちらを指差した



「お前らが二人なのに対して、そいつらはざっと百人はいる!ノコノコと殺されにやってきたんだよ!お前らはぁ!」



男は手を広げて笑い始めた



「…こんなやつに…咲妃が…っ!」




ドォン!


怒りが頂点に達した時、俺達を中心に衝撃波が起こった



「ギャァァ!」


「あがっ!」



巻き起こった衝撃波が男の手下を全て吹き飛ばした



「なぁ…っ!?」



男の顔が驚愕に染まり、開いた口が塞がらないでいる



「な、何者だ!お前らは!?」



「そんなことはどうでもいい…!咲妃さんを元に戻せ!今ならまだ間に合うんだ!」



レノアが男に近づき喉元に刃を当てて声を荒げる



「くそっ…こうなったら…」



ザシュッ!



「グぁァァ!?」



追い詰められた男がなにかをする前に両目を切り裂いた



「言っただろう?忘れる筈もない…あの時、咲妃さんを石化したお前の目を!」



「早く戻せ!これ以上抵抗するんなら四肢を潰していく」



のた打ち回る男に、今度は俺が言い放った



「しっ、知らねぇ!俺は戻し方なんて知らねぇ!なぁ…目をやられたんだ、どうせこれからはなにもできねぇ…だから助けてくれ!」



「戻せない…だと?お前がやったんだろうが!」



「お、俺が石にしたのはあの娘が始めてだったんだ!屋上に1人で立ってて…あんまり綺麗だったから…石像とかなら持って帰ってやんのに…とか思っちまって…」



「そんな…理由で…?」



「あ、あぁ!悪気は無かったんだ…勘弁してくれぇ!」



男は土下座して頭を床に擦り付け見逃してくれと頼み込んだ




ボン!


ビチャッ



「ひぃ!足がぁぁ!?」



その男の足が霧散し、辺りに血を撒き散らした


それだけに留まらず男の体がどんどん消えていく


何時もの力とは質が違ったが、俺はちょうどいいと思った




「ふざけんなよ…お前が誰に許されるんだ?苦しみながら死んでいけ!」



ザァァ…


どんどん体が散っていく


残るは胸から上だけとなった時、男が最後の力を振り絞り声を張り上げ叫んだ



「ぐぁぁ!ちっ、ちくしょう!…こんなに頼んでるのになんで見逃してくれねぇんだ!…許さねぇ!」



「あぁ?馬鹿かお前は!」



「あ、あの女も道連れに、い、石にしてやる!」




ガッ!



「…消えろ」



言い放った瞬間、レノアが頭に刃を突き刺した




「コイツ…最後になにかしたのか…?」



「気になるな…急いで戻るぞ」



言葉通り、さっきいたところから全速力で戻ってきた


隠れ家の前にリリィと藍華が立っていて、リリィは座り込んでしきりに肩を震わせていた


藍華は俯き目を押さえている




「どうした…?」



「悠!どうしよう!?咲妃さんが!…ひぐっ…咲妃さんが…」



「…咲妃になにがあったんだ?」



「…急に…苦しみ出して…声が…小さく…なっていって……うっ…鼓動も…だんだん弱くなってて……ぐすっ…それで…もう…もう……声が出ない…って……もう…助からない、って……うぅ…うぁぁぁぁ!」



リリィは無理してそこまで言い切ると大声で泣き出した



「……ごめんなさい…探し出せなかった…わたしが悪いの…」



顔は伏せていて見えない…でも、藍華も堪えられずに泣いているようだった


その場のみんなが自分のせいだと自らを責め、悔いていた




「…俺……咲妃に会ってくる…」



ガチャ…


咲妃は前に見た時と変わらずベッドに横たわったままだった


今度は目を覚ましていて俺になにか言いたそうだった、でももう…



「…声が…出ないのか…?」



俺の問いに、咲妃はほんの僅かに頷いた…


ふと、隣に白衣を男が立っていることに気付いた

俺は無理を承知で、最後の希望にすがりつくようにしがみついた



「あんたは医者か…?咲妃は今、どんな状態なんだ!?……もう…助から、ないのか…?」



「さっき苦しみ出した時に調べたんだが…この娘の容態は急に悪化している、内臓はもう使い物にならんだろう…移植しようにも…血管や皮膚すら石化していて手術すら出来ない…」



医師は最後に言葉を絞り出した



「…残念だが……手遅れだ…」



「そんな……じゃあ…最後に俺が余計なことしなければ…咲妃は…」



「こんなこと…慰めにもならんだろうが、君のせいではない…どちらにせよ助かる見込みはなかったよ」



だから自分を責めるな、と医師は言った




「……咲妃…」



俺は咲妃に向き直った



「………」



見ると、声は諦めたのか…口だけ動かしてなにか伝えてようとしていた


俺にはそれを聞く義務がある




「ど、どうした…?………っ!!」



一文字ずつ、ゆっくりと…咲妃は最後にこう言った…



「…わたしの、最後のお願い…ちゃんと覚えてて…?……なんで…最後まで、俺の心配なんかしてんだよ…?…もっと、不満とか…言ってもいいんだぞ…?」



俺がそう言うと、咲妃は口だけ動かして薄く微笑み…




-そのまま、動かなくなった…-





この話を読んで、各々になにか思うことがあれば幸いです



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