30.想い
更新遅れました
なんかシリアスな場面って消化しにくくて…
ガラガラ…
馬車に揺られて3日。
道中襲われることもなく予定通り目的地に着いた
「…ほら!着いたよ!」
もう聞き慣れたおっちゃんの大きな声が到着を告げる
「最後まで乗せてもらってすいません…ありがとうございました!」
「あぁ、礼なんていらんよ。儂も久しぶりに楽しかった!むしろ、こんなおっさんに付き合ってくれてありがとうよ!」
「んぁ……ふぅ」
「やっと起きたんですか…もう着きましたよ?」
のんびり欠伸をしながら目一杯伸びをしたアリアさんが馬車から降りてきた
「え?もう着いたの?…早いねー」
「そりゃ丸一日寝てればそうなりますよ…」
「アハッ、お陰で調子もバッチリ!」
親指を立て、絶好調を宣言するアリア…その発言どおり、一見しただけで調子のよさが窺える
「元気そうですね…それじゃ俺は先に行きますけど、ここまで運んでくれたおっちゃんにお礼言ってくださいよ?」
「わかってるって…じゃあ、またね」
そう言うと、背を向け後ろ手に手を振りながら歩いていくアリア
妙な旅もここで終わり…少し寂しいが、縁があればまたどこかで会うこともあるだろう
少し別れを惜しんだが、自分の目的を果たすため歩を進めた
「んー…?この店さっきも見たぞ?」
あれから30分、どうやら俺は同じところをぐるぐる回っているようだ
「もしかして、迷ったかなー…?」
その様は完全に迷子であった
同じく30分後。-アリア-
暗い建物の中、今は廃墟となっているその中に男と女の2人組がいた
「……遅かったね」
「いやぁー、思わぬ誤算で楽しい旅になっちゃって…エヘ」
不満げな男の言葉になんら反省もなく、いつもの調子でおどけるアリアだった
(しゃーないしゃーない、だって本心だし♪)
「はぁ…そういうところは相変わらずだね?…まぁいい。ここからが本題だ」
ピッ
そう言って投げられた写真を受け取る
「大事な交渉を目の前にして逃げられてね…全く、こっちはとんだ誤算だったよ」
「…あー…この人を、探せばいいの?」
「ああ、話が早くて助かるよ。それが今回キミを呼んだ理由だ。…?何を動揺してる?」
「…この人、さっきまで一緒に居ましたけど……30分ぐらい前まで」
「なんだって?……それなら居場所も捕捉しやすいだろう?…早くしてくれ…これ以上の面倒は御免だ」
「も、申し訳ありません…」
初めて一緒に居た女が口を開いた
顔が少し青ざめているところを見ると、そもそもの元凶はこの人のようだ
「…じゃあ探すね………あ、誰かと合流?したっぽい…」
「…知り合いか?」
「うーん……そうみたい…」
「…面倒が増えたようだ。それで、居場所は?」
「大丈夫。」
「こんなに苛々したのは久しぶりだよ……行こう」
アリアを加えた三人は要件を話し終え、標的…悠のもとへと歩き出した
-場面再び、悠-
「お、見覚えあるところに出たぞ…」
今居るこの道はホテルの窓から見たことがある、これならなんとかなりそうだ
そこから順に記憶を辿りながら歩いていく
その時、聞き覚えのある声が背中越しに聞こえた
「……あ……悠…?」
「え?」
「悠…ほんとに悠だ!」
そう聞こえた後、次いで耳に届く駆け寄る足音。
俺は振り向き様にそれを制止した
「…近寄るな!」
場も選ばず発した突然の大声に
びくっ、と大きく肩を震わせ、足を止める少女
その場違いな声量に驚いた人々が、口々に不満を零す
「…なんだよ、喧嘩か…?」
「こんなところで?オイオイ、場所を選べよな…」
「迷惑考えろよ…」
だが、今はそんな声も視線も気にはならない
今は、目の前の…自分より少し年下の女の子…リリィが頭を埋め尽くしていた
「……え…?…ちょっと、どうしたの?」
「聞こえなかったか?止まれって言ったんだ!」
言ってる意味がわからない、といった風に未だフラフラとこちらに歩み寄るリリィを更に制止する
「…な、んで…?そんな…こと、言うの?」
「…わからないのか?なんで俺が怒ってるのかも!」
俺は声を張り上げた…
その迫力に押され怯えながらも、ふるふると首を左右に振り否定するリリィ…
…まだ演技で通ると思っているのか?
「…まだとぼける気かよ?」
二歩手前くらいまで来ていたリリィの肩を掴んだ
「…ね、ねぇ…?一旦落ち着こ…?」
「落ち着いて話してなにか変わるとでも?それで今まで騙してきたんだろうが!もう言葉じゃ通じないんだよ!」
肩を掴んだ手に更に力を込め、がくがくと激しく揺すった
「ちょっと、やめて!お願いだから落ち着いて!さっきからなに言ってるのか全っ然わかんない!」
「わからない?自分が一番わかってる癖に、いまさら白々しいんだよ!」
パァン!
「手ぇ出したぞ…ヤバいんじゃないか?」
「ほっとけよ…全く、痴話喧嘩かなにか知らないけど余所でやれって…」
熱くなった俺の頬に思いっ切り平手が飛んだ
痛みは、人を混乱させる
ただ…頬に感じた熱は、更に俺を熱くした
「…っ!…この野郎!」
「野郎じゃないでしょ…あたしはリリィって言う女の子なの!」
「あぁ、わかってるさ。リリィ・クラヴスさん?」
その名を聞いた途端、目の色が変わった
明らかに動揺しているようだった。
やっぱり隠してたか…
「…ど、どこで……それどこで聞いたの…?」
「は…っ!さぁな!でも、一発は…一発だ!」
ゴッ!
「あう…っ!」
こんなやつに同情の余地はない…
最低な行為だ、ってのはわかってる…
だが、握り締めた拳は戻せなかった
俺はそのまま思いっ切り振り抜いた
「か…っは!…ゆ、悠…あたしのこと…なんて、聞いたの…?」
リリィは腹を押さえてうずくまっている…
「どうでもいいだろ」
「っ!!……どうでも、よくなんか…ないよ…なんでそんなこと言うの…?」
俺の淡白な言葉にリリィは泣き出した
「お前にとってもどうでもいいはずだろ?騙されてた俺が悪い…それだけだ」
「どうでもよくなんかない!」
俺の考えは即座に否定された
まだ痛むはずの腹を押さえたまま、立ち上がり真っ直ぐに俺と向き合った
「どうでも……いいわけないでしょ……悠にとってあたしは…どんな人だったかなんてわからないけど…あたしにとって、あなたは…」
「…俺は?」
「…世界で一番大事な人なんだから…」
「な、なに言って…」
「辛かったんでしょ?…そんなに怒ってるんだから当たり前だよね…でも、今は…あたしの方が悲しいよ」
「それこそわかんないだろ!俺が仲間だと思ってたやつに裏切られた時の痛みなんて…!」
「わかるよ……だって、好きな人に疑われるのって……こんなに辛いんだもん…」
リリィは、胸に両手を当て俯いた
「な…んだって…?…お前にとって……俺は…ただの…」
「ただの…なに?」
ただの標的…捕獲の対象じゃ…
「じゃあ、伝わるまで何度だって言うよ…?」
言うな!
違う…違う
俺が…俺だけが…
「…悠が……好き」
「…っ!!…違う!俺は騙されてるんだ!だって…!……その、はずだろ…っ!」
「違わない…そんなの証明しなくてもわかるはずだよ…?」
心が揺れて目を合わせられない…
俺は、騙されてた…はず…
ぎゅ…っ
そんな俺にリリィは…腰に手を回し、優しく抱き締めてきた
「ほら、あたしの心…こんなに鳴ってるの……これでも嘘?これでも演技?」
…言われなくても、わかってしまった…
その時確かに、リリィの鼓動は、言葉は…俺の心にも伝わった
これ以上、俺はこの娘を否定出来なくなった…
「それじゃ…俺は…っ!お前に…」
激しく後悔が襲う…
いくら謝っても足りないぐらいの…
しかし、まだ疑いは晴れていなかった
そこでリリィが俺に問い掛けてくる
「一つ、聞いていい…?」
「…なにを?」
「誰にあたしの本名聞いたの?」
「え…っと、エミナさん、だったっけ?…って人」
俺が言うとリリィは首を傾げ、しばらくなにかを考え出した
すると、理解出来たのか急に顔を上げる
「あー…なんとなーくわかっちゃった…」
「なにが?」
「えーっとね…」
コツ、コツ
「それは僕らで説明しようか」
ぎくっ
「この声は…」
「ん?どうした?」
俺が大声を出した時とは違った動揺を見せた
それが抱きついた体から伝わってくる
「なんでこんな時に…」
さっきの足音、革靴の持ち主が周りの野次馬をどけさせ俺達の前で立ち止まった
それは、見なくてもわかるが組織の幹部であるサンテだった
「お楽しみのところ失礼する。まずは部下の非礼を謝ろう…これは僕の注意不足が原因でもある」
「…なんでお前が謝るんだ?」
「それは本人に聞いてくれ。…エミナ」
名前を呼ばれたエミナが前に出た
「申し訳ありません!…今回の件は全て私が悪いんです…」
関係ないはずのエミナさんが深く頭を下げた
その顔には、取り返しのつかないことをした時の後悔が刻まれている
今し方あったのでそれがよくわかった
「え?エミナさんは関係ないんじゃ…?」
「おっと、その話は屋敷に戻ってからにしよう。…街中で手配犯と談笑とはいかないんでね」
サンテの目が動いた
屋敷に戻って…とは周囲を警戒してのことだろう
確かに今ここで見つかると面倒だ
辺りを野次馬が囲んでいるのもある、どちらにしてもここで聞くような話ではない
「……わかった」
またあの屋敷に戻るのは気が引ける…
まぁ、そんなことを言ってる場合ではないので肯定はするが
どうにもまだ信用出来ないでいる
あ、敵なんだから当たり前か
「近くに車を用意してある。他の仲間も連れてきてくれ」
状況がよくわかってないまま、俺達は三人を呼びに行った
次話はなるべく早くしたいです