25.激動
少し先の話まで浮かんだので、忘れる前に投稿します
「…えーっと、今俺は敵に捕まってるってことであってるよな?」
「おかしなことを聞くね。それはキミが一番わかってるはずだ」
「あー、まぁ…それはそうだけど」
俺は何故か、現状最強の敵とテーブルを囲んで豪華な料理をご馳走してもらっていた
何故こうなったか…気絶したいた間の記憶はない、これは後でわかった話だ
着いた時、傷口は既に塞いであったらしい
しかし、火傷の痕が酷く、それを見かねたサンテが自分の部下に命じて治してくれた
なんでも、この世界には稀に治癒の力をもった人間がいるらしい
そんななんとも便利な力で、酷かった火傷の痕も2日で完治した
そこでようやく事情聴取を受けることになったんだが…
「…早く食べないとせっかくの料理が冷めてしまうよ?」
「あぁ、悪い。それじゃ…いただきます」
…??
なんでだ?…俺は敵だぞ?
なにするかわかんないのに、これじゃ完全に客扱いだ
「なぁ、一つ聞いていいか?」
「…なんだい?」
俺の言葉に、一度手を止め不機嫌そうに返事をした
「なんでなにも聞いてこないんだ?」
「その話は食べ終わってからじゃ駄目なのかい?向こうの人はせっかちなんだね」
「いや、早く戻らないとみんなが心配してるかと思って…」
「それは大丈夫だよ、まぁ後々わかるさ。そんなことより、この料理はウチのメイドがキミのために振る舞ったものだ…一応、彼女の顔も立ててやってくれないかな?」
「あ、あぁ…ごめん。ありがたくいただくよ」
それから、慣れないナイフとフォーク、マナーに悪戦苦闘しながらも食事を終えた
「それじゃ、そろそろ本題に入…」
ガチャ
部屋を移し、話に入ろうと言うところで料理を下げていたメイドが入ってきた
「失礼いたします。坊ちゃん、お客様がいらっしゃいました」
「早いね、会談は午後からの予定なのに…キミには悪いが、少し席を外させてもらうよ。お気に入りの患者さんとお話出来ることだしね、エミナ?」
「ぼ、坊ちゃん!?わたしはそんなつもりなど…っ!患者に後遺症なんか残してもらうと沽券に関わるから…それだけです」
「フフ、その慌てようはどうかと思うよ?相変わらずわかりやすいね」
「か…っ、からかわないでください!…早くお客様に会った方がいいんじゃないですか?」
態度には出さないのに表情が全て台無しにしている
隠しているのが痛々しいぐらいだ
「言われなくとも邪魔者はさっさと退散するよ」
「そんなつもりで言ったわけでは…」
そう言って手を振り部屋から出て行った
「もう…やっぱり坊ちゃんには適いませんね。わたしの方が年上なのに…」
「あの、エミナ…さん?」
「は、はい!?なんでしょう?」
呼び掛けただけでビクッと肩を震わせるエミナ。
…まさか、寝てる間に俺がなにかしたのか?
「…そんな慌てなくても…じゃなくて、俺は敵なのに2人にするなんて…なにを考えてるんだ?」
そんな当然の疑問に、顎に手を当て僅かに逡巡していたが…やはりわからなかったようで
「さぁ…坊ちゃんのお考えは、私などに到底計り知ることは出来ませんから…」
「確かに…なに考えてんのかよくわからないな……でも、なんでかな…」
「いかがなされました?」
再び思い出した
何故か、初めて会った時から抱いている疑問を口にした
「なんか初めて会った気がしないんだよ」
「それはそうでしょう…坊ちゃんから聞かれませんでしたか?」
「え?なにも聞いてない…と思うけど」
考えても心当たりがなかったので、特に意識もせずに答えた訳だが…さっきの違和感の答えは、かなり衝撃の事実だった
「あなた方と、行動を共にしている金髪の少女がいますよね?」
「あ、ああ……でも、まさか…!?」
「なにを思っているかはわかりませんが…それで当たっていると思います。……彼女は……リリィ様は、間違いなくこのクラヴス家の長女です」
「………」
絶句した…
(今まで一緒に行動してきた"仲間"に、敵の幹部が兄にいるだって…?…笑えない冗談だな)
(最初会ったとき、組織から逃げていたじゃないか…)
(確か、行き過ぎた力がどうとかって…)
-信用している仲間を疑わなかった-
(…でも、幹部が兄にいて…なんで逃げ出す必要があった?)
-だが…ふと、そんなことを思った-
(俺から情報を聞き出すためだけに嘘をついていたんだとしたら?)
-一度降って湧いた疑問は止まらなくなった-
(いや、でも…最初会った時、誰かに襲われていたのは本当のはず…)
(じゃあ、その"誰か"も組織とグルだったとすれば…!?)
-そんな疑いの言葉に、簡単に流されてしまった-
(…そう考えれば全て合点がいった気がする……)
(じゃあ……あの笑顔も…涙も…俺の中にある思い出さえも………全部……全部、嘘だったっていうのか……)
-自分の中で、カチリと、何かが噛み合った-
そんな考えに至ると、自分でもゾッとするほど心が冷めていくのがわかった
「ふっ、ははは……そっか…教えてくれて、ありがとうな…」
「いえ……すでに承知の上だと思っていましたので」
「言うわけないだろ……騙してんだから」
割り切った瞬間、全てが吹っ切れた
積み上げたものが崩れていく……自分の中でそんな音がしたが、もう…気にもしていなかった
それから俺は、誰にわかるわけでもない……ただ一つの決心をして…部屋を飛び出した
…今思えば、どうしようもなく浅はかだった
もっと冷静に考えれていれば……信用していればこんなことにはならなかった
これが後の祭りって言うんだよ
今ならそう思うが、もう遅い
俺は…リリィを、一番大事だった"仲間"を泣かせてしまった……
「…悠……?……なんで、こんなことするの?……あたしの知ってる悠は……こんな…最低な人じゃなかったのに…」
…声が震えていた
ボロボロと涙を零しながら……訴えてきた言葉が、今までみたどんな表情よりも悲しそうな顔が、凄く…心を締め付けた
それでも、裏切られたと思っている俺の心は変わらない
「……元に…戻ってよ……格好悪い悠なんて……見たくない…」
その言葉にカッとなって、こともあろうに泣いているリリィを殴り飛ばしてしまった
この話で急展開を迎えましたが…
(次、どうしよう…)
この次の話までしか考えてません( ̄∀ ̄;)