18.一時の休息
バトル無しです
消えた番外編のようにはなってませんので…
「…なんで泣いてんだ?」
「え…?わっ!ビックリした…」
特に当ても無いので、山を越え、一番近くの街を目指して歩いていた
さっきまで濃く生い茂っていた木々は、すでにかなり後方で小さくなっているのが日が頂上で輝いてよく見える
今はただ草原が広がるばかりだ
それまでの道のり…最初の山越えのさなか、何故かずっと顔を伏せ、悲しそうに思い出に浸っていた藍華
一度覗き込んで見たが、気付いて無いようで反応がない…
さすがに気になって聞いてみた
「で、なんで泣いてんだよ…」
「…なにもないよ?ちょっと眠くて…」
無理に笑顔を作り、涙を隠すかのようにあくびをしてみせた
ごまかしているのは明らかだった
「誰かなんかした?」
「いや…そこで私を睨むな、言っておくがな!お前よりは失礼のないよう接しているからな!」
「…リリィは?」
「うっ…ちょ、ちょっとだけまってね…」
そう言って頭を抱えだした
よく聞いてみると、「あれ…かな」だの「あー…あっちかも」だの言っている
でも、見ている限りでは可愛い口喧嘩しかしてないと思う
そんなことが理由になったりはしないだろうな…
「咲妃はなにもしてないよな?」
「…してない」
最近、出番が無いからだろうか…?
こちらも別の意味で元気がない
「…人に言えるような事?」
藍華に近よってそっと聞いてみた
「…話すのはあまり気乗りしないけど…長いよ…?」
「そっか…気が向いたら話してくれよ?無理に聞かないけど…やっぱ気になるからさ?」
「うん、わかった…でも、話すんなら2人の時に話したいな…」
「他のやつは駄目なのか…もしかして陰口とか?」
軽い冗談でおどけて言うと、ムッとした顔で「そんなわけないでしょ」と肩を叩いてくる。加減しているので全く痛くない
もう一度言ったら怒るからね?、と言って笑顔を見せてくれた
触れられたくないようなら触れない
人の過去なんかとくにだ
それはマナーだと考えている俺は、それ以上深く追求しなかった
それぞれ談笑しながら歩いていると看板が見えた
「ふ、ふれんじー…?まっすぐ3㎞…」
「フレンジア、ここから一番近い街だ。あと3㎞か…もうすぐだな」
読みにくそうにしていた俺に、呆れ顔のレノアが正しい表記を説明してくる
思ったより近くにあったので、さっさと行ってどこかで宿を決めよう。という話になった
タイルの街道が始まると街の全体像がよくわかる
外側に昭和のような住宅街、その内側に少し昔の東洋の豪華な建物が建ち並んでいる
そして真ん中に"城"だ…うん、城だ……ホントにまんま城なんだよ
納得いかないなら自分で見てみろ…城だから
「金は私が持ってる。使い道もないのに働き詰めたんだ…その時の金で今日ぐらいは豪華な部屋でくつろごう」
「酸性…間違えた…賛成だ、疲れてもう動きたくない…」
約3㎞の距離を、疲れていたから…だろうか、ふらふらしていた藍華とそれに便乗したリリィを担いで歩いた
本当は限界を迎えていたのだが、意地を張って途中で降りろ、とも言えずとうとうたどり着いた
「えぇ!?本当に?レノアさん!」
豪華、という言葉に反応し、元気を取り戻した咲妃
「たまにはいいでしょう、貴女もお疲れのようだ」
そのたまに紳士振るのをやめて欲しいが、柔らかい物腰で咲妃を気遣うレノアだった…
「なぁ…そのたまに紳士振んのキモい…げフっ!?」
言い切るのが先かボディーブローが先か…出てはいけない声が出てしまった
「早く行こーよ!…って、なにやってんの?なんでそんなとこで寝てんのよ!?」
「そうそう、早く行こう?悠くん」
「前から怪しーなーとは思ってたんだけどさ…やっぱ実は悪魔だったんだな…リリ…うっ」
余計の事を言おうとすると身体中に電流を流された
あ、ちなみに藍華は呼び捨てとさん付けの間をとって"悠くん"で落ち着いたらしい…
普通なんだけど…藍華みたいな美人に呼ばれるとなんだか照れくさい
「なぁ…飲み物とかはどれぐらいかかるんだ?…珈琲とか」
「ん?…変なことを聞くやつだな…まぁ普通だと100~200Uぐらいじゃないか?」
「じゃあ…さっき受付で出した1000000Uってのは…俺がいた世界の1000000万円相当、ってことか…」
この世界の相場というのが全くわからんかったからさっきのような質問をしてみたんだが…
一人20万とは…やっぱいい所なんだろうな…
なんか廊下に複雑な模様のふかふかした絨毯が敷いてあるし
さっきの入り口はいきなりシャンデリア…部屋の扉の装飾なんてもう半端ではない、もう…なんだコレ!?…だ。俺の庶民のなんか豪華っぽいワード、がどんどん埋まっていく
「六階の365号室…ここだ」
持ってる番号札と扉の真ん中上方にあるプレートを見比べて確認した後、セキュリティーを解錠し中に入る
「うぉ!…すっげ…」
それが初見の感想だった
シャンデリアもそうだが、ふっかふかで気持ち良さそうなベッドも当たり前のようだ
いろいろ見て回って驚いたのがスイッチを押すとロフトが降りてくる所だ
壁部分が全面に窓、さらにスイッチを押すとロフトごと外に飛び出すこと
壊れないか心配だったが床はそのままだったのであまり恐怖感は感じさせない
是非とも夜に星でも見よう
小さな冷蔵庫も小さな棚の上に置いてある
麦茶にジュースに珈琲、紅茶からワインまで。
種類も豊富でそれに対応した容器も全てある
余談だがあのキッチンはいらないだろう…
全部頼めば持ってきてくれんだから
「これだけで充分に満足だけど…この世界に来てから初めてまともな街だからな、うろうろしてみるか」
「…あ、ちょうど良かった。一緒に見てまわろ?」
外に出ると、声をかけようか迷ってたっぽいリリィがいた
「いいけど、藍華とかも一緒でいいか?」
「……いい…よ…?あたしは…全然…」
そんな嫌そうな顔しないでも…
コンコン、
一応ノックはしてみる…
「はーい」
中から返事が返ってきた
「藍華、一緒にその辺見て回らないか?」
「えっ!?悠くん?行く行く!」
声だけでわかるくらい気を良くした藍華が、勢いよく部屋から出てきた
が、目の前にリリィがいるのを確認した途端に固まった
「…なんであなたがそこにいるのかしら…迷子には見えないんだけど」
額にしわを寄せ、不機嫌そうな顔をしている
「当たり前でしょ、あたしが"最初に"誘ったんだから…」
こちらも不機嫌そうな様子…
俺がなんかしたのか?
いやいや、関係ないよな…?
セオリー通り、当の本人は呑気なものだ
美人がそんな話してればいろいろ考えるもんだろーが!
「…?じゃあ行くか」
「…うん」
「あ、わたしは悠くんの隣がいいなぁー」
リリィは機嫌を悪くしたまま
藍華は上機嫌に左に並んで腕を組んできた
というか腕に抱きついて頬ずりしている
「…離れてくれ」
俺がそう言うと、とても悲しそうな顔をして…
「…嫌…?」
と言われた
まぁ、いいんですが…
いろいろ反応しちゃうから
胸とか意識しちゃうから…
「嫌…じゃないけど…」
そう言っても、まだ不安げに
「…じゃあ、このままでもいい…?」
あ、上目遣いやめて
それはダメだわ…ズルいズルい
「…いいよ」
「ふふ…ありがとう♪」
今度は気分が良さそうだ
表情がコロコロ変わってとても愛らしい
みてて飽きないな…
「ねぇー、お二人さん?邪魔して悪いんだけどぉ…とりあえず死なない?そっちの男の方!」
「おっ、お前!とにかく落ち着け!今はマズいから!」
左腕に視線を落とすと藍華がそれはそれは幸せそうにえへへ…とかいいながら寄り添っている
「…どうしたら許してくれるんだ?」
こういう時、どう対処していいのかわからなかったのでとりあえず聞いてみる
「……えと…キ、キス…?」
「は?なんだって?」
恥ずかしそうに言っていたので、あまり聞きたくなかったが、今のは声が小さくて聞き取れなかった
「だっ、だからぁ!……キス…してくれたら…許してあげる」
聞こえてしまった…
聞き返したのはマズかったか…?
照れて耳まで真っ赤にしている
「…ゴメン、今は耳悪いみたいだ」
なんか理性が飛びそうになったので…流した
コレにはさすがにキレられた…
と、思ったんだが…
「もぉ…コレでいいよ…」
やっぱり自分でも恥ずかしかったようで、真っ赤になったまま右腕に抱きついてきた
「…あー…コレ、いいかも…」
「ん?なんか言った」
「な、なんでもない!」
話はそれで終わってホッとしたしたが、今度はリリィがなんか幸せそうにしている
…どうしよう…コレ…
冷静に両手塞がってんだけど…この幸せ野郎!…とか言われないよな…?
「ねぇ!これみてよ!チョコ…ホットどっぐ…?だって!食べてみようよ」
で、そんなこんなで今商店街みたいなとこにいる
リリィは離してくれたが、藍華は…逆に嬉しそうに話してくれる
言っておく、今のはギャグだ…笑え、笑ってくれ
「なぁ、藍華?もうそろそろ…なぁ?」
「やだ」
「さいですか…」
「無視してんじゃないわよ!…っこの幸せ野郎!」
「あぁ!?なんだって?さっきまでお前もやってたろうが!」
「なっ!?…うううっさい!全部アンタが悪いのよ!アンタなんか…アンタなんかぁ…そ、そこら辺で死んでなさい!」
なんて理不尽な…
てか、言うこと他にあっただろ
場面変わって観覧車…
…なぜだ…それまでの記憶が曖昧だ
2人でジャンケンしてて…それで藍華が負けて…
ん?なんで俺まで…
それに今度はリリィが抱きついている
そんなに気に入ったんならあげようか?
…左腕
なんか勝ち誇ってるし
「ふん…どう?藍華」
「う~…さっきまでガキみたいにはしゃいでたクセに!」
「ふふ、はしゃいでなにが悪いのかしら…久しぶりの街でくつろいでいるんだからそれぐらい当然ではなくて?」
なんか貴婦人…のような言い方までし始めた
言われた側の藍華はそろそろ限界だ
なんか俯いてブツブツ言い始めた…
あぁ…怖い、いや恐い
「…ね、悠?そっち向いて?」
外を指差したのでそちらを向いてみる
「…?なにもなっ…!?」
ちゅっ…
な、なななな!?
え!?なにがっ!?!?
なにもなくて、振り向いて、なんでそんな色っぽい顔してんだ
普段と全然違う表情魅せられて堕ちんだろが!ってツッコんでやろうとしたのに…
「おい、今…なにした…?」
とにかく状況を把握しようと恐る恐る尋ねた
「なにって…キス…?」
「どこに?」
なんで疑問系!?テメェがやったんだろ!?
返答の代わりに唇を指でなぞる
さすがにそれにはドキッときた
「なんで…?」
「なんでって…振り向いたから…?」
「だからなんで疑問系なんだ…だいたい藍華がいるだろ?」
そう言って顔をあげると、相当キてるのか、悔しがって千切れんばかりに拳を握りしめ、ブツブツ言っている
あれ?ブツブツ言ってて気付いてない…?
そこでリリィを見てみると、口に指をあて、言うな、と告げている
「それで…その……い、いや…だったの…?」
さっきも同じようなことを聞かれたが、今度は状況が違う
不安そうな表情に加え、目が微かに潤んでいる
さらに聞きにくそうに俯いているため、どうしても上目遣いにっ…
そ、そう言われるとな…正直…
「よ、良かった…よ」
言うのは恥ずかしかったので、ぶっきらぼうにだったが…そう言った途端に一転して表情がパッと明るくなる
それを見ていた俺は、外を見ながら思ったことを呟いた
「……反則だろ…」
もう一度リリィを見ると、今までみたことないほど嬉しそうに笑っていた
勿論、
悪い気はしないんだが…
こういうギャグ回…?みたいなのはどうですか?
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