大いなる誤解
Oatmealのメールボックス
『ENα運営:こめっこさんよりメッセージが届いています』
『こめっこ:更新分、拝読いたしました。マメタを退場させる決断をされたのですね。悲しくも、物語が大きな転機を迎えたことで、わたあめの活躍にさらなる期待が膨らみます』
『こめっこ:でも、やはり。マメタの退場はもったいなかったと思わずにいられません。きっと彼なら、もっと別の輝きかたができたはず……』
『こめっこ:マメタがいないのは寂しいですが、これからも更新を楽しみに追いかけ続けます』
人にあらざるものが好き。
とりわけ妖獣が大好き! ……で、お馴染みのヴァルド公爵家のお坊ちゃんが、とうとう一人の娘を見初めたという朗報は、瞬く間にイローネの城に持ち帰られた。
なにしろこれまで、浮いた噂のひとつもなかったゆえに、城に勤めるものたちはこれでリーヴェの地も安泰だと万歳三唱で喜びを分かち合った。
そして噂は尾ひれ背びれをつけて、イローネの都を飛び出し、公爵領を自由に泳ぎ出す。
気になることはみな同じで、噂の中心にあるのはどんな娘が選ばれたのか、だ。
きっと獣人の女だろうとか。ご時世をかんがみて、獣人ではないが獣のように毛むくじゃららしいとか。
とにかく普通の令嬢ではない、との噂がまことしやかに囁かれた。
お供のヴィゴーが、主人の名誉のためにひとつだけ言い添えたいことは――。
「ご主人様だって、良家のご令嬢とお付き合いしたことくらいはあるのです」
ただちょっと……ほんのちょっと、妖獣への愛が深すぎて、彼女たちがついてこられなかっただけだ。
初めて二人で食事へ出かけるというときに、妖獣の餌の試食会へ連れて行ったり、いい雰囲気のときに彼女の肩を抱くのではなくナルスとヴィゴーの腹を撫でていたりしたのが、どうにもまずかったらしい。
ただしそこまで語ると、かえって主人を貶めるとナルスからの忠告も受けているので、ヴィゴーは多くを語らない。
「は、はぁ……。あの、それで、今日は……」
とうとう審判が下るのだと、ムギはおそるおそるヴィゴーの背中を覗く。しかし、そこにローディスの姿はなかった。
代わりというわけではないが、ヴィゴーの後ろをぞろぞろと公爵家の旗印を掲げた一団がやってくる。
彼らは大小様々な荷を家の前まで運び下ろすと、ムギに恭しく頭を下げた。
「ローディス様より、お届け物でございます」
差し出された目録には、筆跡の異なるメッセージカードが添えられている。
『ささやかだが、暮らしに役立てたまえ。遠慮も忖度も無用だぞ、ワトゥマ。この手でそなたの世話をできない僕に、離れた地からできることをさせてくれ。
追伸。よいか、麦穂の乙女! 品はあくまでワトゥマのため。心せよ。ワ・トゥ・マのためだぞ!』
カードを誰が書いたのかは、明らかだ。文面からすでに騒がしくて、ムギはカードだけはすぐさま懐にしまった。
「お心遣い、ありがたく頂戴いたします。あの、お品物を拝見させていただいても?」
「ええ、どうぞ」
「わぁー! なにがありますの?」
目録を片手に、ムギはひとつひとつを確かめる。
衣類や装飾品の類いが多く、それらはワトゥマ用とマムート用に犬型、獣人型でそれぞれ用意されていた。しかもなんと、ワトゥマのためを強調しておきながら、ムギの分まであるではないか。
(わたあめちゃんに仕える主人として、見劣りしない格好をしろ……ってことかな、多分)
なんとなくローディスの思考が読めてしまうことに、ムギは苦笑を否めない。
その他には、壺や絨毯などもあった。
まさかクレオパトラよろしく、絨毯にローディスが巻かれているのではないかとムギは恐ろしくなって、マムートに検めてもらう。
壺にもいないことを確認し、ほっと息をついた。
ふと、目録にあるが実際にない品に気付いて、ムギはヴィゴーに尋ねた。
「この、建材に職人さんというのは……?」
「はっ。そちらは明後日に手配されております」
なんでも井戸を掘るだとか、水道を引くだとか――大掛かりな贈り物になるらしい。
他にも、ワトゥマに良質な食餌を摂らせるために作物の苗や家禽、それらを育てるための環境も整えるという。
「文字通りの外堀から固める……じゃないか! 将来的に拒否権は残されているのか?」
「案ずるな、小僧。ご主人様は色よい返事を聞けるまで、いつまででも待ち、どこまでもついていくと仰せだ」
「そっ、それはそれで怖いのですが!」
「ワトゥマ、追いかけっこ大好きですの!」
公爵家から遣わされた使者たちは、検分が終わるのをぴしりと整列して待つが、その実、気はそぞろだ。
後ろのほうでは、「この娘が……」とか「毛の量は普通だな」などの囁きが交わされる。
中には例の騒動の折りに居合わせたものもいて、「麦穂の乙女と次期公爵」の運命的な出会いとロマンスに、うっとりしていた。
そう。彼らは、ムギが坊ちゃんのお相手だと勘違いしたのだ。まさか、その隣で飛び跳ねる毛玉が本命だとは、坊ちゃんの妖獣好きを見誤っていた彼らが知るはずもない。




