表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/88

連れ去られた妖犬たち


 マムートに案内されて着いた集会所は、高台の拓けた土地にあった。ストーンヘンジを思わせる大きな石が並んでおり、無骨ながらも厳かで神秘的な雰囲気を漂わせている。

 ここにも、妖犬たちの姿はなかった。

 だが、他の場所と明らかに様子が違う。


「ムギ……どう思う」

「う、うん……初めてここに来たわたしの感想があてになるかは、わからないけど……。荒れてる、ように感じるかな……」


 草は踏みならされ、泥の混じった足跡がたくさんついていた。それらは妖犬のものと人間のものとが入り乱れており、色や質の様々な毛玉も、たくさん落ちている。


「俺も、そう思う……。これは、狩られた痕かもしれない」


 器用に使えるようになった指の先まで、悔しさが満ちてきて、マムートは拳を握りしめた。


「誰か――誰か残っていないか! マムートだ! ワトゥマ! 母さん! 返事をしてくれ……!」

「マメタ……」


 逼迫した叫びがムギの胸を貫く。

 どうか思いが通じるよう祈っていると、石柱群の奥から微かに声がした。


「マムート……? ああ、マムートが帰ってきた!」

「その声――ピノか!?」

「ああ、おいらピノだよ!」

「どこにいる?」

「ここだよ! ここ!」


 石柱の一つから、内側で爪をかく音がする。

 マムートはそれを軽く叩いて確かめた。


「これは……石に見せかけた土壁だ。待ってろ、いま出してやる」

「ごめんよ、おいら何もできなくて」


 マムートは回し蹴りで石柱に一発お見舞いした。石であればマムートの脚が折れるところだが、予想通り土でできていたそれは、ぼろぼろと崩れ落ちていく。

 中から、クリーム色のチワワが一頭飛び出した。


「ピノ、無事か」

「ああ、おいらはなんともないよ。それよりマムート……本当にきみはマムートなのかい?」

「ああ、いろいろあってな。だが今は俺のことより、お前に聞きたい。いったいなにがあった?」


 ピノはふるふると震えながら、三日前の出来事を話し始めた。


「公爵家の私兵が突然やって来て、みんなを連れて行っちゃったんだよ」

「公爵家? なんだってそんな方々が」

「わかんないよ。わかんないし、必死で抵抗したんだけど……最後はみんな、眠らされて連れて行かれたよ」

「そうか……。ピノはよく無事でいてくれたな、おかげで状況がわかった」

「ワトゥマだよ。ワトゥマが土壁を作って、おいらを隠してくれたんだ」


 土の精霊と相性のいい()()()()ならではの奇策に、ムギははっとした。

 マムートも同じように感じたのか、妹を誇るように表情を和らげる。


「ごめんよ、おいらだけ助かって」

「なにを謝ることがあるんだ。ワトゥマはピノに里を託したんだ」

「だけどおいら、マムートみたいに強くない。怖がりで、みんなを追いかけることもできなかった」


 ピノは小さな体を、これ以上ないほど縮こませた。そんな彼を、マムートは優しく撫でる。


「それでいいんだ。無闇に動いたところで、一人でできることには限りがある。ワトゥマはきっと、お前が残ることで、俺に知らせることができると信じていたんだ」


 兄だからわかる――と、マムートの言葉は揺るぎない。


「お前の怖がりは慎重さの証だ。三日間、不安だったろう。よく堪えてくれたな。ありがとう」

「うっ……うううううっ」


 ピノは大きな瞳から、大粒の涙を落とした。

 ムギは、ちぎったコッシュルを手のひらに乗せ、小さな戦士を労った。



 ***



 落ち着いたピノに、マムートはムギのことを含めて「おつかい」の一部始終を聞かせた。

 怖い思いをしたばかりのピノは、人間のムギに全幅の信頼は寄せられないながらも、マムートが言うのなら……と仲間の救出に向けて協力関係を結ぶことを受け入れた。


 石柱群の中で火を囲みながら、三人は妖犬奪還に向けて話し合う。


「そもそも、公爵家ともあろう方たちが、妖犬狩りなんてするだろうか」

「偽物じゃないかって? でも、おいらこの目で見たよ。あれは間違いなくヴァルド家の旗章だ。だいたい公爵家を騙るなんて、それこそ首が飛ぶよ」


 妖犬狩りをする卑怯者に、そこまでの覚悟があるだろうか。ピノの疑念ももっともだ。

 それにしても――とムギは悩ましく腕を組む。

 マメタの物語にヴァルド公爵家が絡むことなどなかったので、どうしたらいいか皆目見当がつかない。転生者というイレギュラーな存在が介入したことによる弊害だろうか、とムギは不安を募らせる。


「ユナの町からここに来るまで、それらしき一団や足跡は見られなかった。そうなると……やはりイローネ方面に消えたと見るのが筋か?」

「おいらもそう思うよ。でも、いきなり仲間を返せって乗り込んでも返してくれないよね……。それどころか、おいらたちも捕まっちゃうよ」


 ピノは小刻みに震える。

 なにか手立てはないか……と妖犬二人の視線がムギへ向かう。人間の考えかたは人間に、といったところだろう。


「えっ、えっと……そうだ! たしか王家の方々は、獣人さんの保護に積極的だって言ってたよね? それを利用できないかな?」

「利用って、どうやって」

「えっと、たぶんそういうのって……いきなり王都に助けを求めるものではないでしょう? たいていお役人様とか領主様とか、窓口になるところがあるんじゃないかな」


 ムギは現実的ではないと承知で、物語の中でならできそうなことを口にする。


「保護を求める獣人さんのふりをして、公爵家に忍び込めたりしないかなぁ……なんて」

「ムギ……お前、とんでもないことを言うな」

「さ、さすがにまずいよね……あはは」

「いや、使えるかもしれない。俺はまだ変化が解けないしな。おあつらえ向きじゃないか」

「ほ、本気なの!?」


 家族と仲間を、なんとしてでも助けたいマムートの決意は固い。予想だにしない展開に、言い出しっぺのムギが一番驚くこととなった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ