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想いよ、届け。もふもふに!

 マムートはその身でほとんどの羽根を受け止めた。

 庇いきれなかった羽根はいくつか、ムギの頬や腕をかすめ、熱を持った痛みを覚えさせた。


「マメタ!!」


 ムギが抱き上げると、マムートはぎこちない動きで頭をもたげる。


「悪い。防ぎきれなかったな」


 申し訳なさそうに耳をしおれさせ、ムギの頬に滴る赤い雫をひと舐めした。


「ううんっ……ううん! マメタのおかげで、これくらいで済んだんだよ! ごめんね、ごめんね、痛いよね」

「いや、傷は浅い。だが羽根に痺れ毒があるみたいだ。体の自由が、利かない……ムギは」

「わたしなら大丈夫だよ!」


 予防で張っていた結界が功を奏した。

 安心させるように大袈裟に身振り手振りすると、マムートは小さく唸る。


「こら。狙われているのは、お前だろ。目立つ動きをするな」

「ご、ごめん……」


 目立ちたくないのに、なぜかこうなる。恥ずかしいような、落ち込むような――気持ちが沈みかける癖を、傷ついたマムートの姿が引き止めた。


(わたしがしっかりしないで、どうするの!)


 狙われているムギが彼を抱えて逃げるのは得策ではない。


「マメタはここにいて」


 ムギはマムートを木陰に隠し、再び矢面に立った。本当は膝が震えているのは、内緒だ。


 二度目の羽根の嵐が吹き付ける。

 自分が痛いのも、誰かが傷つくのを見るのも、ムギは怖くてたまらなかった。

 恐れ、逃げたい一心でカポルの畑を丸ごと包み込む障壁を張った。


 羽根はことごとく退けられ、攻撃はおろか、障壁の外にいる少女はカポルの実に触れることすらできない。

 彼女はそれに非常に焦る様子で、がむしゃらに壁にぶつかり始めた。


(どうしてそんなに、カポルに執着するの――。この子だって、これだけの人間に囲まれて武器を掲げられたら、怖いだろうに)


 ムギはずきずきと痛む頬と腕、震える膝を撫でて空を見上げる。


(それともなにか目的が?)


 他に仲間が潜んでいるとも考えられる。ムギは近くのものに尋ねた。


「このあたりは、以前からセイレーンが現れるんですか?」

「いいや、初めてだよ! そもそもセイレーンは海に住んでいるものだろ」


 そこは創造主の想像力と記憶に由来するのか、船乗りの天敵という概念は共通項のようだ。


「ちょっと前にこのヴァルド公爵領でも大型船が座礁して、沿岸の街はひどい被害が出たんだ。王様から討伐令が出て、一掃されたはずなのに……逃げ延びてこんなところまで来たのか?」


 その言葉にセイレーンの少女は激しく反応した。歌うのではなく、何か伝えようと懸命に口が動く。

 ムギはそこにカポル泥棒の真実を求めて、戒めの魔法を解いた。

 少女は喉の枷が外れたことに気付かぬまま、腹の底から怒りを吐き出した。


「オマエたちニンゲンが、アタシたちのナワバリに勝手に入ってきたんじゃないか! それで船が沈んだって、そんなの知らない! アタシたちは楽しく歌っていたかっただけ! なのに……ミンナミンナ殺された!」


 丸く大きな瞳から零れ落ちる涙が、風に煽られて星のように宙に舞う。哀しく美しい流星が、防壁を打ちつけた。


「生き残ったの、アタシと妹だけ! ひどい、ニンゲンひどい!」

「人間が嫌いでこんなことをするの? そ、それとも、妹さんと食べるためにカポルを盗っているの?」


 怒りに気圧されながら、ムギはおそるおそる尋ねる。

 すると少女は激しく叫んだ。


「違う! カーラ捕まってる! 返してもらうのに、ポーラここから実を持っていかなきゃならない。ジャマしないで!」

「あ、あなたはポーラちゃんっていうのね? カーラちゃんは誰に捕まったのかな? 採った実はどこに持っていくの?」


 ムギは震える声を努めて抑え、ごくごく普通の小さな子に接するように穏やかに語りかけた。

 ポーラは警戒を強めてムギを睨んだ。

 だがどうしたことか、次の瞬間には険しかったポーラの表情が和らぎはじめた。


 人間には見えないが、ムギの体を温かな光が包んでいるように、ポーラには見えている。それは母の大きな翼にくるまれて透かし見た、波間に揺らめく陽の光のように特別なものを、少女に思い起こさせた。

 帰らない日の残像に、ポーラは目が離せない。


 ムギの、真実を求めポーラに寄り添いたいと願う心が、特殊スキル「もふもふチャーム」を目覚めさせたのだ。

 それは文字通り、もふもふの生き物を魅了する魔法だ。もふもふたちにとって、ムギはとても良い香りを放ち、慈母のように温かい良いものに見える。

 当然、敵対心は薄れ、ムギの言葉になら耳を傾けるようになる。


「教えて。カーラちゃんを助けるために、ポーラちゃんはどうしなくちゃいけないの?」


 ムギはもう一度、噛んで含めるように、優しく優しく問いかけた。するとポーラは、ぽつりぽつりと答える。


「大きな橋の向こうの町にいる赤いヒゲの男に、ここのカポルを届けないと、カーラがムチで打たれる」


 まるで自分が痛めつけられたかのように、ポーラはわんわんと泣き出した。

 にわかにユナの町の若衆たちが、ざわつき始める。


「橋の向こうの赤髭って……」

「三つ隣のウタロの町のカポル園じゃないか?」

「あいつら、去年の品評会で俺たちに負けたことを、まだ根に持ってやがるのか!」


 どうやら、少女を扇動した真犯人に心当たりがあるらしい。ムギはほっと胸を撫で下ろし、ポーラに頭を下げた。


「なにもわからないで、ひどいことをしてごめんね。話してくれてありがとう。ひとりで、どうしたらいいかわからなくて怖かったよね……」

「うう……! アタシ……どうしたらいいの? カーラ、どうしたら助けられる?」

「大丈夫だよ。えっと、あの……えっとね」


 ムギは若衆たちを示して、力強く主張する。


「きっと、この人たちがなんとかしてくれるからね!」


 そこで自分がなんとかする、と言ったらメインキャラクターになってしまう。ムギには容易に口にできない台詞だ。


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