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4月19日(地図の日)

自分の足で歩き回った測量の技術って一種の異能力みたいなもんだと思う。




「今日は何の日?」


カツ、カツ、と爪が当たるスマホのスワイプ音が響いた教室に凛とした音が鳴る。

目の前の液晶から少し目線を上げれば、目の前には鮮やかなマゼンタカラー


俺から見て右上の高い位置から結っている髪型はサイドテール。

かなり高めに結んでいるのに関わらず鎖骨の下辺りまで伸びているのを見るに彼女が髪を下ろせば意外にも長いんだろうと言うのがわかる。


声を掛けられていたのには気付いて居たがこんな考えをしているから普段から変態だなどと、とやかく言われるのだろう。

一先ず、返事は返してあげなければ


「なんの事かな?」

自分が思ったよりも白々しい声が出てしまった。

何の事も何も彼女は、目の前の櫻撫子は今日が何の日か聞いたのだ。

それなのに、何の事かなんて聞き返すのはただのアホ。

目の前のテスト直前に勉強を教えてくれなんて宣う馬鹿と同レベルだった。

自分が恥ずかしい…

そんな事を考えていると気付いては居なさそうな撫子は自身の問いへ解を与える。


「2年生に上がってからと言うもの、彼岸のお話レパートリーには必ず『今日はなんちゃらの日だよ、なでこちゃん♪』なんて話があるのに

今日に限っては一度も聞いてないなぁと思って

それとも、今日は何も無い日なの?」

「ふふっ、残念ながらHAPPY UNBIRTHDAYはまた別日かな?

いや、本当は今日だってそうかもしれないのだから断言は出来ないね。

あと、それ俺の真似?絶妙に下手くそなんだけど」

彼女は面白い。

普段から俺の雑談に耳を傾けつつも興味の無さそうな話では相槌が薄いからそんなに聞いていないと思いきや、意外にも自分の話を聞いてはくれているのだから。

お優しいことだ

ただ、まぁ…今日はそうだな

「んー、そうだね…強いて言えば、地図の日…かな?」


日本の歴史は凡そ2,000年まで遡る。

その内、1年間は365日+閏年が4年に1度

それだけの年月を繰り返せば、365日ほぼ全てに何かしらの記念日は存在するだろう。

そんな記念日の種類を毎日毎日、目の前の彼女に話していたが、意外にもこの雑談には興味を持ってくれていた様だ。


「地図の日って具体的にどういう内容なの?

まぁ、考えられそうなのって、初めて地図が生まれたー…とか、そういう事?」

「んー、まぁ概ねは合っているかな。珍しく賢いじゃないか、櫻さん?」

「一言余計ね、彼岸くん。それで?答えはどうなの」

「まず、日本地図を初めて作った人くらいは分かるね?」

「………」

「………」



絶句した。

うそだろう?



「ヒント!ヒントは?!」

「イから始まる脳みそ」

「いからはじまるのうみそ」


俺はすっかり彼女がテスト前によく

―勉強を教えないとアンタの制服のズボンをビリビリに破いてホットパンツにするから―

なんて涙目で脅してくる人間な事を忘れていた。いや、正直思い出したくなかったが正しいかもしれない

重めの溜息を吐いて諦めた俺は少し睨む様に彼女を見詰めながら今日という地図の日について解説をする。


「まず、日本地図自体は伊能忠敬の手と足によって生み出されたと言っても過言ではないね。

伊能忠敬は日本で初めて、己の足で歩いて日本全土の測量を初め、16年かけて日本地図を完成させた人と言われている。

まぁ、正確に地図である大日本沿海輿地全図が出来るまでの間に途中で彼は死去しているからね、その後は彼の弟子達によって続きを紡いで見事日本と言う国の姿を目視出来る形に成し遂げたという訳だね。

因みに、当日江戸幕府の事業として測量と作成は行われたものの、その中心となって動いていたのが伊能忠敬だった為、彼の名をとって伊能図とも呼ばれていたよ」

「日本全国を歩いて…すっご、今なら考えられないよね…」

「ふふっ、そうだね。その熱量と測量の正確さと素晴らしい足腰は見習いたいね。

とまぁ、そんな伊能忠敬がいざ、地図を描く為の測量に出るぞ!と1歩を踏み出した日が今日。4月19日、地図の日と言う訳だね

別名、最初の1歩の日」


さて、UNBIRTHDAYとは程遠い今日と言う日をなでこちゃんはお気に召しただろうか?

「地図の日の事は分かったけど、なんで今日はその話、出てこなかったの?

私が聞くまで言わなかったでしょう、彼岸」

ポロリと目から鱗が零れ落ちた気分だった。

素直に驚いたのだ、こんなにも自分はわかりやすい人間だっただろうか、彼女と少し居た時間が長すぎたのだろうか?否、彼女とはまだ1年、今年から2年目に突入する付き合いである。

それなのにも関わらず、今日の自分の不調について気付かれて居たとは思わなかった。

「少し、気分が優れなくてね

すまないね、なでこちゃんがこんなにも俺の記念日トークに熱を入れていたとは思いもよらなかったよ」

「別にそういう訳では全然全くこれっぽっちも無いんだけど、やけに今日はずっとスマホ弄ってるなぁと思って…少し気になっただけ。」

こんなにも心配してくれていた友人が自分に居たとは己の事ながら感慨深い。

わざわざ心配してくれた共には、この心の内を少しくらい吐露しても良いだろう

ちょっと情けなく恥ずかしいのだが


「ちょっと、喧嘩をしてしまった人が居てね…謝りたいんだけど今回ばかりは素直になれなくて、なかなか話し掛けられなくて。

でも、このまま離れたままにはなりなくないし、すぐに仲直りしたいんだ

上手く、文字にすら打てなくて、情けない話だね」

成る可く重く暗く捉えられ無いように笑いながら話すもきっと今の自分は上手く笑えて居ないのだろう。

頬が引き攣って居るのなんて笑みを作ってる自分が1番理解しているのだから

しかし、そんな俺の心情になんて目もくれず明るい色をした彼女は真っ直ぐに俺を見詰めて1本の美しい線の様な事を紡ぎ出す


「それなら、今日という日はとても良い日じゃない?地図の日…いえ、最初の1歩の日に因んで、アナタも仲直りの1歩を踏み出せる日じゃない。

ねぇ、そうでしょ彼岸くん?」


強い意志を持つ瞳は、華やかな髪に彩られたマゼンタカラーよりも少し薄い色素を彩って俺の事をしっかりと見据えていた。

少し挑発するような彼女の顔は仄かに口角が上がっていて、何処か得意げだ


「こういう時にだけ、覚えが良いよね

勉強にも活かしてみたらどうかな?その記憶力」

「仕方ないでしょ、勉強の脳みそと雑談の脳みそは違うんだから…」

「でも、そうだね。キミの言う通り、地図の日に因んで俺から1歩踏み出さなきゃね


有難う。櫻さん」


「どういたしまして、彼岸くん」


画面を机に向けていたスマホの液晶に再び目を向け、見慣れたトークアプリを開けばすぐに相手とのチャットを開ける


『ごめんね』

『俺が悪かった、本当にごめん』

在り来りな言葉でしか謝れない自分が歯痒い

それでも、すぐに付いた既読のアイコンに続いて、ポコンと鳴るのは返事の合図


『うぅん、こっちも悪かったから』

『仲直りしたい』


嬉しくて口角が上がる。

多分にやにやしてるのなんて誰が見てもわかるレベルかもしれない。

「なに、ニヤニヤしてるの?彼岸

ちょっと気持ち悪いよ」

「減らず口叩いてないで早く日誌書いてしまいなよ、なでこちゃん

俺、これから放課後デートだから帰っちゃうよ?」

「私のお陰で仲直り出来たのにその言い草はどうなの?」

「ふふっ、それは感謝しているけどそれはそれ、これはこれだよ」



別になでこちゃんを置いてすぐにデートに赴いても良かったが、それでも今回のMVPは背中を押してくれた彼女なのだから

まぁ、日誌が書き終わるまでは付き添っても良いかもしれない。












「でも、早くデートに行きたいからさっさと書いてくれるかい?」

「リア充うっざ」








櫻さん=恋人募集中

彼岸くん=恋人一筋


櫻さんは彼岸くんの惚気話もよく聞いてます。

可哀想に

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