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王女の帰還?

 「ふぁ…。ん~。ねむい…。」


 カーテンで朝の日差しを遮ることが出来ても外からの音は遮ることは出来ず、静かに眠っていた部屋の主は、窓からの普段よりも弾んでいる人々の声で、深い眠りから目覚めざるを得なかかった。


 普段であれば、朝食の買い出しやら、朝の散歩やらでチラホラとそこらかしこでも会話が始まるので、騒々しいとまでは言わないが賑やかな声が響き活気がある。そんな城下町の商店街にある花屋の2階に住むのはルートアという少年だった。


 身寄りのない彼は貧民として他国のスラムで育っていたが、ある時自身の魔力に気づき、独学で魔術を学び、三年前王国の騎士選抜試験に剣の実技を行わずして、魔術の才能のみで合格した。貧民が努力で王国騎士に、この事実は王国全土に広がり、貴賤問わずルートアを讃えたという。


讃えられたとあっても朝は弱いようで、ルートアはまだおぼつかない足取りでクローゼットへと向かう。途中何度か足をもつれされ転びそうになったが、無事クローゼットの中から今日の服を用意することが出来た。


取り出された服は洗うのは頑張りましたと言わんばかりに、シワだらけであった。そんなことはお構い無しに、シワだらけの服に身を通していく。ルートアの魔術を使えば、沢山のシワも一瞬で綺麗になるのだが、彼はそれをしない。


何度かボタンをかけ間違えながらも、無事に着ることが出来た。寝癖の付いた茶色の髪を慣れた手つきで編んでいく。ブラッシングもされないまま編まれた髪はボサボサで、服と相まって、小汚い印象を受ける。


魔術で水を出し、眠たげな顔をすすぐと、幾分かマシになったのか、鼻歌でも鳴らしそうな程気分が良さそうだ。


煌めく大きなカメリアの瞳を薄汚れた丸眼鏡で隠すと、ルートアの朝の支度が終わる。




「おじさん、おばさん!おはよう!」


階段をおりると花屋を営む2人と出会う。2人はルートアに気付くと、おはようと返してくれた。


「今日は特別な祭りだから、忙しいんじゃないか?」

花の世話を続けながら、店主のオルゴスが聞いてくる。

「第1騎士団はそんなの関係なく忙しいよ!」

ルートアは、ははっと笑って返した。


第1騎士団は王族の守護を担うため、常に忙しい。しかし、今日は敬愛されているルーティア王女が居なくなった日だ。その日は国中で美味しいサンドイッチを振る舞い、王女が再び美味しいサンドイッチを食べに戻ってきてくれますように。と、城下で祈りを込めた宴を催す。王族も参加するため、通常の業務だけでなく、活気付いた街を警備する業務が増える。確かに、今日は忙しそうだ……。


これからの激務を想像して、少し嫌な気分になったが、その分美味しいサンドイッチを食べることが出来るため、気が弾んだ。


花屋の2人に朝ごはんのお弁当を貰い、店をあとにした。店の前には城まで繋がった大通りがある。本日はどの店も気合いを込めたサンドイッチを販売しており、馨しい匂いが辺りに充満している。


「城に向かうまでにお昼ご飯のサンドウィッチ決めちゃうか!」


どれも美味しそうで目移りしてしまう。新鮮なレタスとトマトを使ったサラダ系もあれば、イチゴやオレンジ等のフルーティーな果実をふんだんに使用したフルーツ系、香ばしく焼いた肉を挟んだお肉系のサンドイッチが色とりどりに並べられている。どれも美味しそうで、全部選びたいところだが、食べられる量を考え、お肉系を2つとフルーツ系を3つにした。


サンドイッチを選ぶと、もう少し城側にある噴水広場を目指す。


噴水の縁に腰掛け、花屋の2人に頂いたお弁当を食べる。サンドイッチの日もあってか、中身は言わずとも分かっていた。


美味しいサンドイッチに舌鼓を打ち、朝食の時間が終わった。いそいそと片付けを済ませると、城へと向かい始める。


花屋から歩くこと15分。白を基調とした壮大な城は金や緑の細やかな細工が至る所にあしらわれており、神聖さと圧倒的な美しさを体現していた。しかし、見慣れた光景に感嘆の声は出ない。


城門をくぐる時、始めは見張りの騎士に「身嗜みを整えてください」と窘められたのだが、今では呆れた目で短い挨拶をしてくれる仲になった程、通い続けてきたのだ。


よし、今日も1日頑張るぞ!


自身の中で気合を入れると、騎士団長が待つ第1騎士団棟へと向かった。






「やぁ、いつも通り元気そうじゃないか!」


強めの力でルートアの頭を撫でるのは、第1騎士団団長のアークライト=デェリ=アンドリア。名前を見てわかる通り、アンドリア王国第2王子である。朝から見るのは嫌になるほど眩しい黄金の髪を肩口で揃えた、感嘆するほど美しい青年だ。この容姿でいて距離感が近いため、多くの女性を困らせているともっぱら噂だ。


そろそろ首が痛くなりそうなので、撫でるのを辞めてもらうと、本人は悪びれもせずくすくすと笑っている。王族でなければ殴るところだった。暇があれば他の者より一回り小さいルートアを撫で、子ども扱いして遊ぶのはやめてほしい。


「そういえば、ルートアは例年より祭りが騒々しくなった理由は知ってるか?」


アークライトの金の長いまつ毛に縁どられたルビーの瞳がきらりと光る。何か彼にとって楽しいことでもあったのだろうか?


「いえ、存じておりません。何かあるんですかね?」


ルートアが答えるや否や、アークライトは端正な顔を近づけ、煌々と光る目をこれでもかと開いた。いかにも歓喜に満ちた表情をしている。


「姉上が帰ってこられたそうなのだ!」


アネウエガ カエッテ コラレタ……?


思考が止まった。アークライト殿下様はなんて言ったんだ?()()が帰ってきた?


「あの日を境に居なくなってしまった姉上が、城へ帰ってきたのだ!こんなにも喜ばしいことは無い。城下町がより一層活気付くのは仕方がないことだな!」


 早く姉上にお会いしたい、とソワソワしているアークライトの様子にため息を吐くことしか出来なかった。


 確かに、3年も行方知らずになっていた美しく聡明な王女が帰ってきたのであれば、例年通りでない騒ぎにも頷ける。至極納得できる。


 「……アークライト団長、既に王女様はこの城にいらっしゃるのですか?」


 「母上によると自室で休憩中とのことだ。夕食の際には会えると聞いている。すごく楽しみだ!」


 ルーティア王女は既にこの城にいるという。


 しかし、それはありえないのだ。


 なぜならば、ルートアこそがアンドリア国の平和の象徴と呼ばれる王女、ルーティア=ヴィル=アンドリア。アンドリア王国第一王女なのだから。


 今城にいるという、その王女は一体誰なのかと思案していると、アークライトが第1騎士団に集合の合図をかけた。


 王女のことも気にかかるが、今のルートアは第1騎士団所属の魔術師である。日々の業務に祭りの警護が待っているのであった。



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