03
~シャーレだけを持って~
「早くっ!!」
リコちゃんさんの声に慌てて俺は近くのシャーレごと石を掴んで扉をくぐった。
直後に暗さが増して、驚いて振り返った先には実験室みたいな部屋が無かった。扉も消えて只の真っ暗闇だ。
「危なかった。急に行かないで、お願いだから」
うつむいていたリコちゃんさんは何度か瞬きした後、気をとりなおすように大きく溜息をついてから俺と目線を合わせた。
「でも、ありがとう。私だとあの部屋に、ううん、この部屋から出られないの。とても、助かりました」
そう言うリコちゃんさんに俺はシャーレを渡す。
『もう1個ネックレスがあったんだけどちょっと遠くて持ってこれなかった。ごめんね』
遠回りすれば取ってこれないこともなかったけれど、リコちゃんさんの緊迫した呼びかけに、戻ることを優先してしまった。
「いいの。大丈夫。もう少しでも遅かったらここに戻れなかったかもしれない」
緩く首を振りながらリコちゃんさんが言う。心なしか青ざめた顔をしている。
『そうなったらどうなるの?』
「解らない。そもそもあの部屋が現実に存在する場所かも判らないから……」
『oh……』
虚数結界や平行空間という言葉が頭をよぎる。急にファンタジーだなあと考えているとリコちゃんさんがシャーレから取り出した石とでっかい機械を見比べて固まった。思案してるのかな?
暇だなあ。
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