01
~壁の無い密室~
「おきて、ねぇ、起きて」
か細い、泣いているような女の声で目が覚めた。
「よかった。大丈夫?」
ほっとしたような顔で声をかけてきたのは、地味とか清楚とかいう印象を受ける、社会人っぽい女の人だった。
『ダレ?』
自分の声がおかしい。自分の声じゃないみたいにハウリングして聞こえる。
俺の声を聞いた女の人は目を見開いた。
「………リコ。リコ、です」
明らかに動揺しきった声。告げる人越しに見えるのは白い床。パイプっぽい安物感満載の机と椅子に青白い光源に照らされたパイプオルガンみたいな大きな機械。
壁や天井のあるべき場所は真っ暗で、何も見えない。床下に地面がある気がしない。
俺達のいる白い床の場所だけが暗闇の中に浮いているように見える。とりあえず頬を引っ張ってみる。
『ナニ、ココ?』
「こ、これは夢だから! もう一度寝て? すぐに元に戻れるよ」
眉間に皺を寄せて泣きそうなリコちゃん……、年上だからさん? は「寝なさい!」と怒りながら言う。
不安しか感じさせない泣き笑いで早口に捲し立てる彼女を見て、俺は、
◆目を瞑って寝る⇒目次から09へ
◆もう少し話してみる⇒目次から02へ