第一話 異世界転移
「ーーえ?」
いつも道理の1日のはずだった。
家の中でで突然何かにぶつからなければ。
突然の衝撃が走ったと思うと同時に、わたしはいつの間にか見知らぬ白い空間にいた。
「ここは‥‥‥?」
突然途切れた記憶に見知らぬ場所。――誘拐の文字が頭に浮かんだ。
手元に刀はないけど並の相手なら負けることはない。一度深呼吸して落ち着き、一歩を踏み出そうとして―――
「やあ、皇 詩織さん」
突然誰もいなかったはずの背後の、それも至近距離から聞こえた声に向かって、わたしは考えるよりも早く振り返ると同時に拳を振りぬく――が、手ごたえはない。追撃にもう一度拳を放とうとしたところで
「おっと、ちょっと“止まって”」
幼くさえ聞こえるその声を聴いたとたん、体がぴたりと動かなくなった。
金縛り!?いや、そんなことはどうでもいい。それよりも早く動かないと不味い!!
「あ―、混乱しているところ悪いんだけどちょっといいかな」
「ッだ、誰?ってこ、こど、も?」
「ボクは君たち人間で言うところの神というやつさ」
「·······神??」
一瞬、子どもを殴ろうとしてしまったのかと抱きかけていた罪悪感がそのあまりな言葉に消え失せ、わたしは何言ってんだコイツは?という眼差しをソイツに向けた。
「ちょっと、まったく信じてないでしょ!」
「それは、まあ····」
いきなりどことも知れない場所に来ていて、現れたのが神を名乗る怪しい少年とか、ねぇ?
むしろどこを信じられるというのか。
「一応、君を動けなくしているそれも、ボクの力なんだよ?」
「‥‥まあ、確かにそれっぽくはある」
少なくともこれが人ではできなさそうなものであることには間違いないね‥‥。本物であるかは別だけど。
「とりあえず、あなたがやってるんだったらコレ、解除してくれない?」
「解除した瞬間にまた殴り掛かってくるとかしないならいいよ」
「しないよ」
言葉で動きを止める謎の力も何かわからないし、抵抗するにも言葉一つで止められるなら意味もない。
わたしが約束すると自称神はパチンッと鳴らし、同時に金縛りのようなものは跡形もなく消えてしまった。
「とりあえず、話を聞いてくれる?」
「まぁいいけど····それで神サマ?なんでわたしはこんなところにいるのかな?さっきまでお祖父様の家にいたと思うんだけど?」
説明をよこせ、と目で要求する。
ここに来る前のわたしは、お祖父様と一緒にゆっくりと将棋を打ちながらお茶を飲み、部屋に戻ってくつろいでいたところだったはず。お祖父様が買ってきたぬいぐるみや妹の私物でちょっとファンシー化していた部屋だったけど、断じてこんな不気味なところじゃなかった。
「実はねーーーー」
長い話を要約すると、彼(?)は地球を含めたいくつかの世界の管理を行っている神で、地球に観光に来ていた。
その時うっかり神体のまま降臨してしまい、近くにいたわたしをぶっ飛ばし、次元の壁を貫いて異世界までやって来てしまったらしい。
‥‥‥いや全然長くなかったわ。ていうか何その軽すぎる理由は!!
「いや、わたし何も過失無いよね!?」
「いやぁ、あははは····」
「笑ってる場合じゃないでしょう!?」
ガクガクと彼の肩を掴んでおもいっきり揺さぶる。
百回訴えて百回とも勝てるレベルで、完全にわたしは被害者だった。
「何とかして向こうに帰れないの?というかあなたならなんとかできるでしょう!?神なんだから!!」
自称かもしれないけど、名乗るだけのものはあるはずだよね?
「ボクは神だから直接人間をどうこうはできないんだ。と言っても一月ぐらいしたら自力で帰れると思うよ?」
「····え?」
「今君の身体には生身でそれも非常識な方法で世界を渡ったことでとんでもない魔力量を持っている。ボクの神性の一部もね」
彼はニヤリと笑いながら「だから」と続ける。
「それを完全にものにすれば君は自由に世界を行き来することすらできるようになるというわけさ!」
「········なる、ほど?」
「というわけでこれはボクからの餞別だ」
「ーーーーッ!?」
皇一刀流を納め、修行し続けて来たわたしの認識を軽く上回り、懐まであっさりと踏み込まれた。
彼が額に指を触れると頭が割れるような痛みと共に知らない『知識』が脳内に流れ込んできた。
「ク、ぅ····ああッ····!!?」
「ん、適正は無と風と地それとーーーへぇ、雷、ねぇ」
――面白い
自称神が何かを言ったがあまりの痛みに音としてそれは拾えず、聞き流す。
実際の時間は数秒だったはずたったけど体感的には数分に感じた。
スッ、と指が放される。
「ハッ、ハーハー、ッフゥー」
「君の適正魔法はすべてインストールしておいた。是非とも有効的に使ってほしい。あっちーー北にボクが使っていた住居とゴーレムを用意しておいた。中にあるものも含めてすべてあげるよ。賠償金の代わりだ。パスは繋がっているから君の思うままに使うといい」
「ッ、何を勝手に話をすすめーーー」
「おまけに【言語理解能力】もあげよう。言葉が分からないと困るだろうしね。じゃあ、頑張ってね」
「ちょ、まーーーーー」
慌てて手を伸ばした私を放って神を名乗る彼は消え去った。
······え?マジで?放置ってマジ!?
「う、嘘でしょ····」
まさかの置き去り!?
「あ、ごめんごめん。送り出すの忘れてたね。それじゃ、いってらっしゃい」
いきなりまた戻ってきてふざけたことを言いながらわたしに手をかざすと、一瞬で視界が切り替わり、周囲は森になっていた。
未だ治められていない知識の混乱と、置いてきぼりにされかけた衝撃と、見知らぬ場所に飛ばされた呆然とした感情がごちゃ混ぜになって、しばらくぽかんとしたまま立ち尽くしてしまった。
「····ぐずぐずしてても仕方ない、かなぁ。とりあえず北、だったよね」
しばらくして、なんとか混乱を抑え、まともな思考ができる程度にはれいせいさをとりもどすことができた。
ご丁寧に地面に書かれた方位磁針の図のようなものを参考に北へ向かう。
まず、目下の問題は無手であるっていうこと。
不足の事態というのもあって無手というのはやっぱり心もとない。皇一刀流の免許皆伝を持っているのもあるけどやっぱり刀がほしい。刀があるだけでかなり違う。
「野生動物相手でもやられない?これ?」
流石に野犬程度にやられるほど弱くはないけど、わたしは生身の人間だ。熊とか相手に無手だと確実に死んでしまう。
「ひとまず神サマの言っていたところに行くしかないよね。ここがどこかもわかんないし」
いま必要なのは武器。ここは神サマが言っていたことを信じれば異世界。与えられた知識からするに、この世界には魔法が存在し、人里から少し離れると魔物と呼ばれる人類の敵がいるらしい。
魔物がどれほどのものか知らないけど、やっぱりないよりあるほうがいい。
神サマが指示した方へ警戒しながら進んでからおよそ10分後。
「······」
私は目の前にあるものを見て硬直していた。
確かに神サマの言っていたものはあった。
家····ではなく巨大な城が。ゴーレム····の軍団が。
「いや、スケール桁違いすぎでしょ!!」
ゴーレムは確かに数は言ってなかったけど多すぎる。明らかに万はいるよね、これ。
住居に至ってはどう過小評価しようが城にしか見えない。まかり間違っても人一人が住む規模ではないでしょ!!明らかにこの前行った大阪城よりも大きいでしょコレ!!
「なるほど、確かに神ね····。ここまでブッ飛んでいるのは人にはいないだろうしね」
今なら一種の悟りを開けそうだ····。
一人が住むために城をポンと渡す時点でおかしいし、あのわずかな時間で城を作ったのだとしたら、確かに人ではないしね。
「とりあえず1ヶ月。······どうしよう」
これから先のことに大いに頭を悩ませながらゴーレムたちの待つ城へと向かったのだった。




