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宿命とシャルロワ

私はシャルロワ、探偵だ。

自慢ではないのだが、この年にしてこれだけの依頼をこなしているのは私だけだろう。

そう、この国一番の探偵とは私のことだ。

普段どんな仕事をしているのかといいうと、

盗難、殺人、暴力事件。

探事件の証拠を集め、裁判に有利になる証拠を集めるのだ。

もしくは裁判を起こさない場合もある。

それは復讐として依頼されることもあれば、表に情報を流したくないということもある。

どちらにせよ私の仕事は証拠を集め、謎を解き依頼人に真実を伝える。

これが一連の流れだ。

私は仕事を選ばない。

これが成功の秘訣なのだ。

実は今日も依頼が来ている。

手紙でギルド支部から送られてきたものだ。

横領の疑いのある冒険者がいるらしい。

ちなみに本当に横領を行っていたのだとしたら冒険者資格の剥奪が妥当なところだろう。

しかも二度と発行できないため、冒険者はすぐにでも浮浪者になってしまう。

そういうやつらが、チンピラになって危ないことに手を染め始めることはよくあることだ。

それを冒険者が依頼を受けて懲らしめる。

まるでマッチポンプのようなものだと思わないか。

まあつまり何が言いたいのかというと、冒険者がらみの事件はよく起こるということだ。

そんなこんなで今日は朝から仕事だ。

私の住んでいる家は水色の屋根の家で、普通の民家を事務所として使っている。

場所はロストマルクワナ。

マルクワナの首都。

そして港町、交易が盛んである。

私の身の上話が終わったところでちょうど身支度が終わった。


さぁて、今日も一日頑張りますか。


「シャルロワさんですか」

「はい…?」


十五歳ぐらいの女の子に声をかけられた。

背丈は私より指一本分低い。

ちょうど玄関を出たところだったがしょうがない。

私の名前を知っているということは依頼だろう。


「中へ入ってください話を聞きましょう」


私が監修した海の見える少しこじゃれた部屋へ案内した。


「何か飲みますか、紅茶ならありますよ」

「ありがとうございます」

「お嬢さん、まずはどんな事件なのか聞かせてください」

「妹がさらわれてしまったんです。私が歩きつかれた妹をベンチに座らせて、飲み物をもってきてあげようとしていたら。急に路地から男が飛び出してきて妹をさらっていたんです。そのあとお父さんに相談してギルドに依頼を出したり、警察に話したりしてたんですけど。それだけじゃ心もとない気がして。もとはといえば私が目を離していたのが悪いんです。だから、どうにかしなきゃと思って」


この町は観光名所として有名だ、特にこの辺りは人でにぎわっている。

この子の格好を見るに旅行に来ていたのだろう。

そんな浮かれた旅行客をさらう人さらいがいて、女子供を連れ去ってしまう。

この手の輩は何回か捕まえたことがあるが結局は下っ端のチンピラで、根元を断つのは難しい。


「話を聞いているだけどは事件は解決しません。妹さんがさらわれた場所まで案内してもらえますか。」

「わかりました」


ギルドの依頼はとりあえず保留としよう。


探偵は異世界へやってきた


異世界に俺は来てしまったようだ。

まさか本当に異世界があるとは、正直半分しか信じていなかったのに。

しかも何も案内がない。

もしかして俺がニートだったから異世界に捨てられたのではないだろうか。

まあ、この世界の神様はそんな辛辣なことはしないだろう。

とにかくこのままでは住所不特定無職になってしまう。

なんて言ったって身分を証明できるものが何一つないわけだし。

まさに郎党に迷うという字が今の状況にぴったりだ。

そんな不安にさいなまれている俺を置いて助手はなぜか楽しそうにしている。

職と財産を失っておいて何がそんなに楽しんだ。

と、皮肉を言ってやりたいような気もするがそれは彼女にとってあまりに辛辣だろう。


「真っ暗ですね」

「夜みたいだな…」

「街灯が一つもないし、星が見えてきれいですよ」

「だからなんか楽しそうだったのか」

「そりゃ異世界に来たわけですし」

「こんな夜更けにウロチョロするのは危ないから朝まで待たないとな」

「あそこのベンチに座りましょう。ちょうど海岸沿いで昼間なら海が見えていい場所なんじゃないですか?」

「まあ、夜を明かすだけだからベンチでもいいか」

「にしても水平線ぎりぎりまで星が見えてなんかロマンチックですね」

「家も財産も職もない二人が星を眺めることのどこがロマンチックなんだか」

「何もないからいいんじゃないですか。何もない私たちだからこそ、この何もない海と空を眺めているだけでなんだか幸せになれるじゃないですか」

「それは少しわかる気がする」

「そのためにこの世界に来たような気がしますしね」

「普通異世界に来たらまず何をしたらいいんだろうな、まずは市役所とかに行って仕事をあっせんしてもらったほうがいいのかな」

「何言ってるんですか。異世界に来たらまずは冒険者ギルドを探すものでしょ⁉」

「でも、別に冒険者になりたいわけじゃないしな」

「普通だったら冒険者になるために異世界に転生するんですよ」

「みんなそんなに冒険者になりたいのか?」

「心のどこかで、今の私たちみたいに何も持たずにこの身一つで冒険したいと思ってるんですよ。きっと」

「冒険者になるのも悪くないのかなぁ」

「何言ってるんですか。探偵になってもらわないと困りますよ、私は探偵の助手になったんですから」

「なあ、異世界転生の定石だとこの後どうなるんだ?」

「まず。この後、冒険者ギルドに行って冒険者登録というものをします。そのあとにステータスとかスキルとかが分かって、俺つええ。ってなります」

「よくわかんないな」

「そのあと初めて魔法を使ったりします。呪文を唱えてみると最初はなかなかうまくいきません。そこで、仲間からアドバイスをもらったりしてコツをつかみます。ピンチの時初めて魔法が成功したりして成長を実感したりするんです」

「成長…か」

「でも、これは異世界転移の定石で、異世界転生の場合は自分の努力で魔法が使えるようになるんです。例えば、小さいころから水魔法を使い続けて魔力が上がったり。気づいたらとんでもないくらい強くなってるんです。そして成長をひしひしと実感しながら努力し続けて、いずれ一緒に冒険する仲間ができたり」

「・・・」

「あれ、先生、もう寝ちゃいましたか」


成長を実感しながら努力をする。

さらっと難しいことを言いやがったな。

努力したことがない奴が言うことだ。

人間はそう簡単に成長しない。

今までは本気を出したことがないとか言ってごまかしてきたんだろう。

そんな人間が異世界に来たところで同じことだ。

この世界でも負け犬だ。

それが分かると今度は異世界で生まれ変わりたい。

なんて、思うようになるんだろう。

生まれ変わりたい、か…

結局どっちだろうが、強い自分に生まれ変わって「俺つええー」って、思いたいんだ。

探偵の話をするなら世界一有名な探偵小説、シャーロックホームズの冒険。

シャーロックホームズは何でもできる天才として描かれている。

探偵小説ぶっちぎりの俺つええ系主人公だ。

むしろ異世界小説の元祖みたいなものかもしれない。

俺はこの世界でシャーロックホームズになってしまうのだろうか。

いや、俺はシャーロックホームズにはなれない。


なんだか朝から騒がしい。


「お前はそっちの男に眠り粉を吸わせておけ、念のためだ!」

「やめてくださ…」

「暴れるんじゃねえ、そっちの男が起きるだろうが」

「あんちゃん少しの間眠っててくれよ」

「オぅえっっ!」


胃袋に膝蹴りを食らわせてやった。

この状況、見るからに人さらいだ。

この世界では一晩野宿するだけでも危険が尽きないらしい。

俺の肩に頭をのせて熟睡してるのが悪い。

しかし、ここで助けないわけではない。

ピンチに陥った助手を助けるのも探偵の仕事と相場が決まっている。

こいつ、平然と腰に短剣を差している。

さすが、異世界だ。

本物のチンピラをこの目で見る日が来るとは思ってもいなかった。

チンピラの腰に手をまわして短剣を抜き取った。

こいつを人質にでもするか。


「おい、こいつを返してほしければその女と交換しろ」


そう言った時には他のやつらは俺の助手を担いで逃げていた。

さすが異世界なだけあって躊躇がない。

まあ、二人がかりで襲ってこられたら勝ち目はなかった。

まずは警察か何かに行ったほうがいいだろうか。

組織ぐるみだった場合下手なことをした場合俺が消されてしまうかもしれない。

しかし、警察を頼ろうにも俺はこの世界で税金を払ったことがない。

とにかくこの男に仲間の居場所をききださなくては。

こいつを担いで道案内させるのは体力的に無理がある。

しかし、ここにこいつを置いていくと、嘘をついた後で逃げられてしまうかもしれない。

確実に本当のことを言わせるためには…


「おい!起きろ」

「てめぇ、俺を縛ってどうする気だ」

「海へ放り投げる」

「何も聞かなくてもいいのかよ。あの嬢ちゃん売られちまうぜ」

「すぐに殺しはしないから安心しろ。今は見たところ海は干潮のようだ。お前を岩陰に縛って口をふさぐ。そうすると一時間もしたら水位が上がって息ができなくなるだろう。つまり、俺が無事あいつを救出できなかった場合、そのままおぼれ死んででもらう」

「それだと俺を助けに来る保証がないだろ!」

「知るか!そんなもの」

「わかった、すべて話すから絶対に助けに来いよ。わかったな!」



シャルロワです。

犯人の場所を無事に特定することができました。

しかし、犯人をものすごい形相で見つめる不審な男を見つけてしまいました。

どこが不振なのか具体的に言うと、全身黒ずくめの正装をした男が、町の路地の隅で張り込みをしているかのようなポーズをとっているじゃないですか。


「あなた怪しいですね、一体ここで何をしているんですか。」

「どこが怪しいんですか?」

「見た目です」

「これは仕事の途中で異世界にきてしまったからたまたまスーツを着ていただけで、別に特別何かあるわけじゃない」

「とりあえず名前を教えてください」

「多田正道です」

「名前も怪しいですね。いったい何人なんですか」

「…」

「どうしてここで黙るんですか」

「まあ、とにかく俺は探偵をやっていて。犯人を見つけたはいいがこの先どうしようか困っていたところだったんだ。俺も名乗ったんだから君の名前を教えてくれ」

「シャルロワです。ちなみに私も探偵ですけど、もしかしてあなたも人さらいを追っていたんですか?」

「俺の助手が連れ去られてしまって。捕まえた手下の一人から居場所を聞き出したんだ、興味本位で聞くが、どうやってお前はこいつらの居場所が分かったんだ?」

「それがですね、私が事件現場へ行くと唸るような声が聞こえてきて、海岸の岩陰を見てみるとと男が縛られていたんです。今にも死にそうになっていたんですが、口輪を外してやると。もう悪いことはしないから助けてくれ。と、よくわからないことを言っていたので事情を説明してもらうと人さらいをしていたら、返り討ちにされて海に捨てられたそうで。自分から仲間の場所をはくからとにかく助けてくれと言われたんです」


口輪と目隠しをしたのはまずかったかもしれない。

水がしみ込んで予定よりも早く窒息するところだった。


「もしかして、あなたがやったんですか?」

「なぜ…わかったんだ。」

「まあ、そりゃ私も探偵ですし」

「俺たちで協力して犯人を捕まえないか」

「私はこの後、警察に場所を伝えて終わろうかと思っていたんですが。何か警察に頼れない理由でもあるんですか」

「まあ別にないっちゃないんだが、あることにはある」

「やっぱりあなた不審者じゃないですか」

「それよりなんか人さらいたちのいる方が騒がしくないか?」

「話をそらさないでっ…。確かに何か騒がしいですね。何かトラブルでもあったんでしょうか」


俺とシャルロワが覗いてみると馬車が冒険者に囲まれている。


「あれはどういうことだ?」

「ギルドに依頼が出されたとしても、いくらなんでも早すぎますね。事件が起きたのはたった四時間前だというのに」

 

冒険者の声が聞こえてくる。


「まさかこんな朝から緊急依頼が入るなんて目珍しいね」

「ギルド本部のお偉いさんが出張ついでに家族と旅行に来ていたらしいんだけど。娘さんがさらわれたから、朝からここのギルドに乗り込んできて。報酬をいくらでもやるから犯人をなぶり殺しにしろ!。なんて言われたら受けざる負えないよな。」

「まあ結局報酬は周りのギルド職員に説得されていくらでもってわけにはいかなくなったけど」

「まあでも、朝っぱらからいい仕事ができて気持ちがいいじゃん」


なんとなく察しがついた。


「どうやら私たちの仕事はなくなったようですね。残念ながら私の報酬は半減です」

「まあ、俺はどっちでもよかったんだが」

「最後に聞きたいことがあるんだけど」

「何ですか?」

「シャルロワの探偵事務所はどこにあるんだ」

「裏路地の前の魔道具やから一本左側の道を行った先に水色の屋根の色があってそこが私の事務所です」

「ありがとう」

「そんなことを聞いていったいどうするんですか」

「まあ、まあ」

 

この時私は重大なミスを犯していた。


翌日

私が昨日やりそびれてしまったギルドからの依頼をこなそうと家を出ると。


「昨日ぶりだな」

「依頼でもあるんでしょうか」

「そうなんだよ」


こいつは依頼人のふりをして私の事務所に上がり込んできた。

そして、突拍子もなくこう言った。


「俺を助手として雇わないか」

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