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ポンニチ怪談

ポンニチ怪談 その30 特効薬

作者: 天城冴

新型肺炎ウイルスが蔓延状態のニホン国にて、記者のダザキは会社経営者だった旧友から突然の連絡をうけて戸惑っていたが…

「なあ、お前、今も記者やってるのか、ダザキ」

不意にかかってきた旧友の電話をダザキは戸惑いながら受けた。

「あ、ああ」

「この間さ、総理記者会見っていうの?ネットの映像で初めて見てさ、あの後ろ姿、お前じゃないかって」

「あ、ああ、見てくれたんだ、ありがとう」

感情のこもってない棒読みだ、まるであのS総理のセリフだ、とぼんやり考えながら

「き、君はなにしてるんだい?ズルノ?」

「ああ、言わなかったっけ、俺はさ、イベント会社やってたんだけど」

ダザキは同窓会で聞いたズルノの噂をおぼろげながらに思い出した。

「そ、そうだ、すごいよな。若手の起業家だって、僕らの同期じゃ出世頭だよなって」

はは、電話の向こうでズルノは渇いた笑い声をあげ

「前はな。これでも有名な経済誌とかに取材とかされたんだけどな、都心にオフィスとか構えて」

「へえ、すごいじゃないか」

とほめるダザキの言葉にズルノは

「だから、前の話だよ。この新型肺炎ウイルスのせいでめちゃくちゃだ」

「あ、ああ、そ、そうなのか?」

「お前も知ってるだろう、去年からほとんどのイベント、興行は軒並み中止だ。なんとかツアーをやろうとしたアーティストもスタッフに感染者がでれば、それで終わり。一か月に数十件あったコンサートだのライブだの、フェアだのがほとんど全部なくなったんだ」

「そ、そうだな」

「仕事が一気にゼロだ。あれほど忙しかったのに、一気に暇だよ」

「そ、そうか、た、大変だったね」

「最初は、すぐにおさまると思った。この国は先進国で医療体制もしっかりしてる。一応政府からの給付金やら雇用の助成金ももらえたし」

「ああ、うん、よかったね」

「だけど、そのあとが最悪だった。本当はしなきゃならない検査とか患者追跡とか最初に怠ったんだよな、政府の奴等。だから感染がどんどん拡大して収拾がつかなくなった」

「そ、そうかな」

またこれか。ダザキは内心舌打ちした。ダザキが総理の会見に呼ばれる記者、いわゆる御用新聞の政権ビイキの記者と知るとこういう風な反応をする知人もいる。曰く政府のお仲間、都合の悪いことを報道せずに国民を騙す。彼としては自社の方針に従っているだけなのだが、記者は正確に自分の意見や信念をもって記事を書くべし、総理の広報などもってのほかと正論を吐く人間にとって彼の行動は軽蔑すべきものらしい。

「まあ、記者のお前のほうがよく知ってるよな、対策は」

「うん、まあ」

「世論に左右されたっていうけど、はっきりいって政府自体が右往左往して、中途半端に自粛したり、妙なキャンペーンうったり」

「まあ、経済も大事だからさ、失業対策とか」

「一時的によくしたつもりで、長期的にはマイナスだったんだろ。目の前の仕事しか考えない俺らもバカだったけど。ウイルスって結構しぶといんだってな。そんなこと知らなかったよ。すぐ終わると思ってた、もっとも無知なのが悪いんだよな」

「まあ、学者でもない限りさ、わからないんじゃないか」

「そうかな?こんなになって他の国じゃどうかって、英語とかのSNSみたら、結構勉強してんのな他の国のトップって。ウイルス対策について知らないと会社なんて立ち行かないっていってた社長いたよ、アジア系の若い奴、って俺らの同じぐらいだけど」

「まあ、世界的な企業とかはそうかもね」

「いや、社長としては若いよ、ずっと。俺は自分の仕事さえロクにしらなかった、自分の国のこともな。自国の政府の対策がいかに馬鹿げた場当たり的で、いかに国民無視した自分勝手な利権まみれのことしかやってないって気が付いていなかったんだから」

自嘲気味にいうズルノの言葉にダザキは思わず黙り込む。

「まあ、総理にぶら下がる記者のお前に言うのは酷かもしれないけどな。でも、お前だって恩恵をうけたお仲間みたいなもんだから」

「え、それってどういう?」

「打ったんだろ、ワクチン」

ズルノの言葉にダザキは凍り付いた。

「政府の奴等が国民に自粛とかいいつつ、感染広めるようなキャンペーンをなんでやるのか?多人数の会食禁止といいつつ自分たちの支援者と宴会やるのはなぜか?感染しないと思ってるからだろ。つまりワクチンをもう打ってるんだ、国民を差し置いてな」

黙ったままのダザキ。ズルノは続ける。

「C国ではほとんど人体実験みたいなことやってワクチン開発を急いだんだってな。まああの国は人権なんてないようなもんだから政治犯とか老人とか使えるしな。で、いち早く安全なワクチンを作って、各国にひそかに売り込んでるんだってな。この国でもいわゆる上級の奴等が秘密裏に打ってるって話だ」

「き、きみだって社長だろ、ズルノ」

「いいや、もう俺の会社はつぶれたよ。イベントなんてずっとやってない。自粛解除とおもって借金して準備したら、また自粛。クリスマス、年末年始になればと思ったら感染が大拡大。もう駄目だった。最期の給与払うのにマンションも何もかも手放したよ。家族もな」

「そ、それは」

「別にお前に慰めてもらおうってわけじゃない。確かめたかったんだよ、お前が総理付きの記者で、しょっちゅう会見の場に呼ばれているかって」

「あ、ああ、でも、それがどういう」

「つまりはワクチンを打ったんだろ、お前も」

二度目の問い、今度は無言で答えるダザキ。

「そうでなければ、あんな三密の部屋で会見なんかたびたびやれないだろう、総理や長官たちにうつす可能性があるし。しかも総理の会食にも呼ばれてるらしいな。つまりはワクチンを接種したわけだ、御用新聞の連中は、お前ら総理に近い奴等だけかもしれないけど」

「そ、そうだとしても、何を、証拠は」

動揺しているダザキをさえぎって、ズルノはとぼけたように

「何を、か。なあ知ってるか、そのワクチンを接種した人間の体液とかがウイルスの特効薬になるって噂があるの」

「え?」

バタン

ダザキのアパートの扉が静かに開き、数人の男たちが部屋に入ってきた。

「ああ、来たか、もう話は終わりだ、ダザキ。あいつらがお前の部屋にくるまでお前を部屋に引き留めなきゃならなかったからな。固定電話をまだ引いていてくれてよかったよ。まあファックス兼用だったから、きっと外してないだろうとは思ったんだが。大新聞のお偉方でもメールは使えず、ファックスってやつが多いらしいからな。上に従順なお前なら、きっと今もファックスを使ってると思ったが」

ダザキの返事はなかった。男たちに気絶させられ、猿轡をかまされ、縛られて袋に入れられている最中だった。

「もう、話もできないか。おーい、侵入者さんたち、俺にも報酬としてちゃんと、血の一杯ぐらいは残してといてくれよ」

ズルノの声が終わるか終わらないかのうちに男たちは“特効薬”の袋を抱えて部屋を後にした。


どこぞの国ではウイルス対策打つ手なしということで、緊急事態宣言を解除したそうですが、よいのでしょうか。ワクチン接種始まったものの希望する国民全員分は先の先、そんななか与党関係者は税金を原資とした金で検査をでき、ワクチンも打てるらしいという話、さらに宴会は部分的解禁。いやはや庶民はよく大人しくしてますねえ、感染しながら花見をしつつ恨み節をとなえつつ、あの世にいきたいんですかねえ。

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