♪黒魔法使いの虜となってしまったある平凡な男が異世界ラビリンスに嵌ってしまいましたが、何か?♪
~ウイルス兵器に犯されて死を待つだけだった平凡な男の前に黒魔法使いモンスターの罠が突きつけられてゆく-◆-◆-◆-◆-◆-そして対峙したとき彼のみに何が待ち受けているのだろうか?そして剣を引き抜く頃、果たして彼の運命や如何に!ある平凡な生活を送るサラリーマンが古城を舞台に巻き起こる悲劇に自分の命と引き換えに挑む姿を描く、短編スペクタクル、乞うご期待あれ!
今日は会社に行く気がしない。何故か体が重い。
夕べ変なものを食べたわけでもなく、早めの睡眠で熟睡はしている筈。
何しろ寝床から這い上がる気力も無く、鳴り響く目覚まし時計もとっくに消してしまった。
えい、いっそのこと休みにしてしまおう。
いや、まだ考える時間は在るので早まるな---
そう、目覚まし時計はいつも早めに設定しているから。
少しだけ、ほんの少しだけ二度寝して様子をみよう。
うん、それがよさそうだ・・・
-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-
やがて二度寝から醒める。
どのくらいの時間が経過したことだろう。
やはり寝床から這い上がる気力は無い。
時にカーテンを少し開く。
窓からは強い光が差し込んでいる。
一抹の恐怖から目覚ましを確認する・・・10時?
間違いない---遅刻確定。
既に会社に連絡するべくも無く、欠勤は確定された・・・
言い訳することも無かろう。
有給休暇はたっぷりある。
体調がひどく優れなかったという体裁で事後承諾してもらおう!
と、決断したところで、やけに清清しくも在る。
ナンともダメ人間のオレ。
気が晴れたことで、やっと起き上がることが出来た。
さぁて・・・何から始めよう。
まず冷蔵庫を空け牛乳パックをそのままにゴクリとやる。
夕べの残りのオカズをつまみ食い。
だらしないなぁ、オレって。
寝ぼけた顔を洗い歯磨きをして普段着に着替える。
トイレを済ませテレビのスイッチを入れる。
寝起きに視る朝の天気予報などやっている筈も無く、
見慣れない再放送ドラマが映る。
ボーッとただただ見入るが訴えかけられるものも特に無し。
退屈な面持ちでバイクのキーをポケットに入れ、メットと片持ち鞄を
ひっかけると、ブーツを履いてアパートの部屋から飛び出した。
そうだな、気晴らしに散策でもしてみるか・・・
街へ繰り出す。
太陽はいつもより大分高い位置に在る。そりゃ当然さ。
方面は会社とは逆方面。
皆が仕事している最中に遊んでいるなんて、なんだか悪くないな(笑)
商店街を抜け端を渡ると隣町へと入る。普段日というのに市街は割と混雑している。
大きなモールが見えてくる。
駐輪場にバイクを滑り込ませる。
まだ開店して間がないせいで、店内の客は殆ど居ない。
通路の両側のショップも準備中が殆どだ。
そういえばこのモールが出来てから2回目の来店。
どのショップも自分にとっては目新しい。
平日のすき具合は居心地がいいもんだな。
角を曲がった奥のほうに到着すると行き止まりとなる。
その一番奥に何やらひっそりと小さな看板。
「貴方のお悩み相談します」
と書かれている。
矢印が記されている方向に向かってみる。
小さな机の前に老婆がポツリと腰掛けている。
手相占いでもやっていそうな雰囲気。
その老婆はこちらに気付いた様子でニコリと会釈する。
うん、悪くない。
占いなど柄でもないが、冷やかし半分で近付く。
「おはようございます。ようこそ。さぁ、こちらへおかけになって。」
優しそうな面持ちの老婆に好感触。
案内されるまま、老婆の正面に腰を下ろす。
「あのう、ここって?」
「はい、貴方のお悩みうかがわせていただきます。」
「で、お幾らですか?」
「まずはお試しで30分の無料相談となります。」
「は、無料?」
「ええ。それで気に入っていただけましたら各コースを用意しています。」
無料か、暇つぶしに悪くないな。試してみるか。
「さ、では始めましょう。で、お悩みは?」
そういえば、これと言って特に無し。
ま、適当にお茶を濁してみよう---
「最近、会社が面白く無くて~今日は休んでしまいました。」
「やっぱり、なんとなくお疲れのようね、顔色がさえないから。それで?」
「はぁ。体が重いんです。」
「そうですか。うんうん、解ります。」
と、老婆が後ろから何かを取り出す。
なにやら風呂敷包みを机の上に広げる---
それは何かの動物の骨だった。
そしておもむろに取り出した金槌を勢いよく振り下ろす。
見た目の歳に見合わないその迫力にギョッとする・・・
「ハイッ!こんなんでました~!」
え、どうしたんだろう一体?このおばあさん・・・
骨の破片を一つづつ選り分けて、何か思案している様子。
「で、どうなんですか?何かお分かりで?」
「え、ええ・・・」
先ほどの様子とは明らかに違う表情の老婆。
何故か口ごもるように、ジッと破片を見つめている。
そしてオレのカオをジーッと見つめている。
「ん~。知りたい?」
見つめられたままの老婆の様子に困惑する。
「え~はあ。」
老婆はもう一度、砕けた骨の破片をじっと見つめ、またもオレを覗き込む。
「本当に・・・知りたい?」
何故か深刻な結果でもあるのであろうか、動揺が走る。
そして困惑しながら黙って頷く。
「あのぅ~非常に申しづらいのですが・・・」
事の成り行きが妙な方向に移行したことに気付かされる。
しかし、ここで聞かない手は無い・・・か。
「ええ、仰ってください。」
「本当に、宜しいのですか?」
「はい。」
「では・・・ここからは100円頂戴いたします!」
え~・・・そっちぃ~~~~~~
思わずポカンと口が開く。
使用が無く、老婆に言われるがまま100円手渡す。
そういう手口だったか~~~~~~
「アリガトウ御座います!では本題に・・・」
老婆の表情がキリッと引き締まり、何やら本を取り出し確認している様子。
よくあるパターンが始まったかと諦めムードで答えを待つ。
「でも・・・大変申し上げにくいのですが・・・」
なかなか焦らすような老婆に少し苛立ちを覚える。
「あなたは・・・今日、死にます。」
老婆が低い声で、しかもはっきりと告げる。
そしてジッとオレを見つめる---
背筋が凍りつくのを感じ、呼吸が止まりそうになる---
-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-
暫く二人の間には沈黙が走ってゆく。
と、目の前の老婆から呟き始める。
「残念ながら、今日が貴方の寿命の最後の日になるとこの骨たちが言っている。」
「え、そんな。またぁ、おばさん僕を騙してません?」
「いいえ、但し信じるも信じないも貴方次第!」
「またまた、そんなことを・・・」
タケルはそう呟くと考え込む。
信じるのもオレ次第か・・・どうしたものか。オレの人生が今日終わってしまう。
今日?てことは今11時だから・・・あと13時間。
いや、そんなに無いかもしれない。
しかし、どうして死んでしまうのだろう・・・何故オレが。
「貴方は何でそんなことを言うのですか!」
「ええ、それが私の使命だと自負しています。但し・・・」
「但し?」
「一つだけ死なない方法が在ります。私を信じますか?」
唐突過ぎる老婆の話を呑み込めずにいる。
しかし、この話が事実だとすれば残された時間は無い。
今日は特別用事もないし、何しろ死ぬよりは・・・
よし、これは老婆の話に載ってみるか!
「解りました、信じましょう。で、オレの死因は?」
「心臓発作です。」
「え、この間の検診でも特に異常はありませんでしたが。」
「実は検診では出ない在る要因が作用するのです。私には解ります。」
「アル作用?それって?」
「話せば長くなります、時は一刻を要するのです。では、信じるのですね?」
「あ、はい。」
「では私について来なさい!」
そうタケルに告げるや、支度もそこそこに老婆が建物の裏手の通路へと案内する。
屋外には関係者専用駐車場、そこに止まっている一台のホンダに乗り込む。
「では、行きましょう。」
老婆に導かれるまま、車は北へと走り出す。
そして山の在る方面へと向かう。
1時間ほど経ったであろうか、山林を抜けると別荘地にたどり着く。
古びた一軒のログハウスにホンダを横付ける。
「さあ、こっちこっち!」
タケルは言われるがままにログハウスの裏手の山林へと導かれる。
老婆は何やら野草を摘む。ミョウガのようだ。
此れを食べれば死なないのだろうか・・・そんなぁ?
5個ほど採ると老婆が手招きする。
そして二人は先ほどのログハウスへと入って行く。
採れたてのミョウガを洗って刻む老婆。
お湯を沸かし、何やら調理が始まる。え、昼食?
暫くしてテーブルの上に出来立ての料理を並べ始める。
「さぁ、お食べ!」
やはり昼食のようだ。そうめん。
そうめんの付け汁にはさきほどのミョウガがごっそりと入っている。
いい香りがする。
促されるまま食事を始める。
「さて、次は・・・」
と老婆はそそくさと立ち上がり、奥の部屋へと案内する。
考える余地の無いタケル。従うしかなさそう。
「では、本題に入りましょう。先ほどのミョウガで暫くのあなたの寿命は維持されました。しかし、それも束の間のことです。いつ起爆装置が破裂するかは解らないのですから。」
何のことだろう、起爆装置?
「で、これからのレシピですが、あなたにはここで黒魔術の修行に入ってもらいます。」
え、オレが黒魔術・・・そんなこと意味あるのだろうか?
「全てはあなたのためなのです。そしてレシピを達成した暁には、貴方に永遠の命が与えられるのです。」
は、死の次は永遠の命・・・なにそれ、やはり何か此の人、僕を騙してない?
「先ずこのレシピをお読みなさい。ほらこれ。」
納得いかぬままのタケル。おもむろに読み始める。
だが、読み始めるとナンだか不思議と轢きこまれてしまう。
時間を忘れ、ただただ読み進める。レシピと言うより教本のようだ。
気がつくと窓外の陽が傾いていた。
レシピを読み終わるのをうつらうつらしていた老婆。
やっとのことで全てを読み終えたタケル。
「これでよし、ふむふむ。」
老婆は納得でもした様にレシピを受け取る。
辺りは大分暗くなっている。明日の仕事のことが頭をよぎるタケル。
「そろそろ帰りませんか?」
「ダメです。未だ終わってません。」
「ていうか、夜だし・・・」
「貴方の命がかかっているのですよ、いいのですか?」
「ハイ解りました。」
「では次にと。」
老婆は箪笥から何やら取り出す。
それは地図のようだ。
そして押入れから荷物を取り出す。
リュックサックと懐中電灯。
「さ、では次のコースです。」
「え、次?」
「これから貴方に本題の修行に入ってもらいます。」
老婆はそう告げると、テーブルにマップを広げる。
「ここがこのログハウス、ここから裏山へ通じる道があり、そしてここがゴール。」
「ゴールって何があるのですか?」
「時は一刻を争います!いいから此処へ行きなさい!」
強い口調に変わる老婆に脅かされるようにタケルは従う。
「ここからは貴方一人で切り開いて行くのです、自分の道を。必要なものは全てリュックサックにつめて在ります。さぁ行きなさい!」
暗い夜空に放り出される。辺りは虫の声。月明かりが彼方の稜線を照らす。
心細くもポツリとログハウスの窓明かりが後ろへと遠ざかる。
懐中電灯の先には山へと続く獣道。
緩やかに登っている。
フクロウのホウホウという声に少し落ち着きを取り戻す。
タケルにとって未開の地ではあるが、ぼっちキャンプには慣れている。
うん、これも悪くないかな。しかし、明日の仕事が・・・
途中途中の分かれ道でマップを確認しながら森林を進む。
まだまだ道のりは遠い。
少し広い高台に到着する。一休みしよう。
そうめんしか食べていないので空腹感が増す。
リュックサックの中身を確認するタケル。
中身を取り出し懐中電灯で照らすと、非常食セットとかかれた袋と小さなコンロ。
セットの中身は小鍋と米と水のみ。これでは・・・
とりあえず着火! コンロに火をともす。
秋だというのに山の上は肌寒い。
コンロの火はそんな体を温めてくれる。
ご飯を炊く。オカズは無い。
他にリュックの中身はと。
え、これは・・・
何やら小さな弓矢が・・・何これ?
ご飯が炊ける。コンロの火を弱める。暖を取るために着けておく。
と、後ろの気配にギョッとする。
野生動物か?ゴソゴソと草むらを掻き分けている。もしやモンスター?
そして「ガオッ」と唸る声にタケルは飛び上がる!
それにしても「ガオ」はどう考えてもまずいだろう・・・
ああ、とうとう最期か・・・やはり今日死んでしまうのか!?
いや違う・・・確か老婆は「起爆装置」っていってたっけ?
まぁ、それどころではない。警戒しなければ。
そして・・・草むらのゴソゴソは近付いてくるようだ。
肌寒さも手伝って、タケルの全身がガタガタと震え始める。怖うぃ・・・
数分して目の前にピョコンと何やら飛び出す。
とうとうモンスターが・・・え、?
その小動物は右と左をキョロキョロ確認している。
自然の中で人に慣れていないのか、警戒心はなさそう。
ご飯はアル。オカズは無い・・・そして弓矢。
タケルにある良からぬ計画が浮上する。
そして静かにタケルの手が弓矢に伸びる。
束の間のことだった・・・見事命中。
辺りの潅木を集めて火をおこす。
やはりリュックの中にあったスイスナイフで鮮やかな手さばきで
獲物を解体する。
小鍋のふたを逆さにし、炒める。いい匂い♪
早速おもむろに吟味する。美味しい♪
腹ごしらえとコンロの火に眠気をおび、シュラフに包まる。
すやすやと夢の中へ・・・
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「こっちだよ・・・タケル。」
その声のほうへ進路を進める。
先ほどから呼んでいる若い女の声が~~~~
想い違いかと勘ぐりながらも不思議にも導かれて行く。
その先にぼんやりと浮かんでは消えて行くような朧な景色。
満天の星空と澄み切った空気。気持ちいい・・・
先へと進む足取りも軽やかに、まるで吸い込まれて行くように。
飛んで火にいる夏の虫。仄かな暖かい色の光。
その先に尚も吸い込まれて行く・・・
たどり着いたその先に見えるのは
神々しくも月明かりに照らされた古城がどっしりと佇む。
高くそびえる塔の根元に入り口が見える。
扉は空いているようだ。奥から漏れる光が揺らめいている・・・
「こっちよ・・・タケル・・・」
尚も聞こえる女の声に吸い込まれて行く・・・
古城の玄関を通りその仄かな光のほうへ導かれて行く。
長い石畳の廊下を抜けるとそこに巨大なホールの空間。
その向こうに上へと伸びる回廊が続く。
「こっちよ・・・タケル・・・」
女の声が響いている・・・不思議にも怖くは無い。
先を急ぐ~
回廊は果てしなく続いている。
オレは何をしているのだろう。
目の前の突き当たりに大きな両開きの木戸がある場所にたどり着く。
重い木戸を両手で押し開ける。
「ギギギ」ときしみながら開け放たれる。
真っ暗な空間が出没する。
もう、あの若い女の声はそこには無い・・・
「ようこそ!タ・ケ・ル・♪」
あれ、ここは・・・まるで先ほどのログハウスの中のような部屋・・・
そしてその声は、先ほどの老婆の声のようだが・・・
「ギギギ!バタン!」
木戸が勢いよく塞がれた!もう逃げ場は無い。これって・・・
一気に不安がよぎる。
真っ暗闇の眼前に大きな熊のようなモンスターが現れる。
その目の光だけがキロッとこっちを睨んでいる。
く・わ・れ・る・・・・
-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-
尚もモンスターとの対峙は続く~~~~~~
黙ったままにらみ続けている。
声も出ないタケル。
「よう、遅かったな。待ってたぜ!」
やはり、どう聞いても聞き覚えの在る老婆の声。
モンスターが蝋燭をともす。
狭い石造りのその居室が浮かび上がる。
眼前に一頭の大きな熊モンスターがどっぷりとソファに足組みをしている。
ギョッとしてガタガタ震えだすタケル・・・
「女の声に騙されたかい?残念だったな。そこに座れ。」
モンスターはこちら側の木の椅子を指差す。
借りてきた子猫のように声も無く言うことを聞くタケル。
タロットカードらしきものを斬っている。
重厚で大きな木のテーブルにタロットカードを並べてゆくモンスター。
「さぁ、一勝負と行くかね。なぁ!一枚選べ。」
言われるままカードを引き抜くと、裏返す。
その絵は死神だった。
「う~ん、なるほど。やはり今日までのサダメか・・・」
思案にくれるような面持ちに変わる老婆声のモンスター。
黙ったまま、どっぷりとソファにのけぞる。
「そうかそうか、可愛そうに。
実はな、お前の命は残りわずか。これは仕組まれたものさ。
お前が幼稚園の頃、悪い臨時の先生が居てね。悪の手先。
そいつが園児達に「ナノ起爆装置入りジュース」を飲ませたのさ。
その園児達は今成人し、そして皆今日までのサダメとなったのさ。」
え、起爆装置?先ほどの老婆も言っていたっけ。やはりこのモンスター?
熊モンスターの話は続く---
「それは、とある国から派遣された刺客により持ち込まれたウイルス兵器だ。
この国を乗っ取るために、画策された国策!
ひどいものさ。
その起爆装置が作動すると、そいつが死ぬばかりか、体内の全ての細胞がウイルスに毒されて、やがて感染力をもつことにより二次的に他の人へと感染させて行く。
感染すると症状は発生しないまま人々は感染を続け、やがて一週間以内に心臓発作で死に至る。
なんとも恐ろしい兵器だ。
そして死に絶えた国民をよそに、この国を乗っ取ろうという国策なのさ!」
ゾッとするタケル。尚も震えがとまらずに---
「そこでだ、それを未然に防ごうと私がこの機会を待っていたのだ。
長かったねぇ・・・
何たってそれを阻止するのはその死の直前でなければ効果が無いのだから。
そう、このあたいがその刺客であり臨時教師の張本人だったのさ!」
と、タケルの震えが止まる。
え、起爆装置ジュースを飲ませた張本人が・・・
-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-
「アタイ、その長い待ち時間の間に気付いたの。
そんなことしたって意味が無いことをね。
そしてその当時の園児達を探すべく調査を開始したの。
接触する方法を必死に探した---
そして在る回答を得たの。黒魔法を身につけようと。
そりゃあ必死だったわよ、自分の愚かさの負い目があったから。
そして今日、やっとのことで見つけ出したの、貴方を。
でも、どうやらそれも意味が無いことが今わかったわ・・・
だって、そのカード、死神じゃない?
これには私も驚いた。
こればっかしは、私の力でもどうにもならないのよ・・・ゴメン。」
「え、そんなぁ・・・助けてくれるって言ったじゃないですか!」
「ええ、確かに。だけど、貴方は無理。
そしてあなたは死に至り、暁には感染力を強めたその身体は人々を壊して行く。」
そんなぁ~~~~~このオレが国を滅ぼすと言うのか。。。。
「それでね、唯一の方策は、そうねぇ---聞いてみたい?」
「うん・・・」
「此処に貴方を幽閉するの。このラビリンスに。」
「ええっ、それって?」
「だって、困るじゃない。みんなにうつしちゃあ!ダメよ。」
「それもそうだね。え、そしたらオレが困るよ!」
「お国のためにそうしなさい!」
「え、やだ。」
「じゃ、起爆する前に貴方を退治するしかなさそうね。」
と、告げるや老婆熊モンスターが「フッ」と蝋燭を吹き消す!
しまった・・・・これで終わりか!
再び闇の中。
いつの間に迅速にオレの後ろへ回ったのであろう。速い!
あ、ヤラレル!と思った瞬間。
「ギシバタン!カチッ!」
モンスターがオレを隔離し立ち去った!
ああ、どうすればいい・・・
暗闇で思案にくれる。再び動揺に震える。
死が近付いたのであろうか、記憶が遠のいて行く---
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「ダ・ダ・ダン!大丈夫?」
木戸の外で誰かが扉を叩きながら叫ぶ。
そう、先ほどの呼び声・・・彼女か?
あの若い女性の声。
「カチカチッ、ガチャッ!」
扉が開きランプで照らされる。
思わず眼が眩む。
「さぁ、こっちこっち!」
やはり若い女性がランプで辺りを照らしながらこちらへと手招きする。
意識も朦朧なままのタケル。ふらふらと立ち上がると後に続く。
長い長い回廊を足早について行く。
回廊の分岐点を右へ左へと交しながら二人は先へ先へと急ぐ!
モンスターに気付かれはしないかと冷や冷やしながら・・・
そして開け放たれた一つの光の先へと踏み込んで行く。
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そこは広く明るい貴賓室のような空間。
光に照らされて女性の顔がしっかりと浮かび上がる。
そそくさと扉を閉めしっかりと施錠する。
「ああ、危なかった。怪我は無い?」
「ええ、しかし、貴方は誰?」
「私はこの古城の主。人はラビリンスの姫と呼ぶの。」
「そうですか姫。しかし、此れは一体どういう成り行きで・・・」
「あのモンスター、危なかったわ・・・さぁ、此れを飲んで。」
「だけど・・・知らない人から物を貰っちゃいけないって親が。。。」
「何子供みたいなこと言ってるのよ、さあ飲みなさい!」
ラビリンス姫のいうとおりグラスに注がれたロゼワインを飲み干す。
人心地つくと、ワインのせいか、居室に静かに響くハチャトゥリアンの「仮面舞踏会」のせいか、気分が高揚する。
「これって・・・?」
「そう、私達が開発した秘薬よ。これでもう大丈夫。」
「秘薬って言うと?」
「そうね、何処から話したらいいのか・・・
先ずあの熊モンスター、あいつからどんな話を聞いたか知らないけど、皆デタラメよ!
そして、私の大事な腹心の部下のお婆さんは先ほどアイツに食べられちゃったのよ!」
え、老婆が?だけどあの熊モンスター、老婆の声だったが・・・
「私がこの古城へ越してきたのはちょうど10年前。
我が国にいた狂った薬剤師が国を乗っ取るために開発したのが、
「ナノ起爆装置」というウイルス兵器なの。
国民にそれを実証する前段階としてこの国で試験的に投薬を画策したの。
そしてかわいそうな子供達に投薬されてしまった。実験台ね。
すでにその開発した現場は解体し、設備も抹消したが、狂人は持ち出した僅かなウイルス兵器をこの国で投薬することに成功してしまった。
そこで我が国の国王は、私をこの国に派遣した~~~~~
子供達の命を守るために。それから10年の月日が過ぎ、そして期日の今日に至った。
しかし、黒魔法を身につけているモンスターと化した狂人は、既にいろんな人に姿を変えながらこの地に住み着いていたの。
そして事在るごとに私達の行動を妨害した。
私達は先ず子供達を特定していった。一人を残してね。
それが、あなたよ!」
タケルが目を見張る。どうりでオレの名をこの姫が知っているわけだ。
「子供達はその後この古城に引き取って、このラビリンスの従者として育て、仕事を与えたの。
その仕事とは・・・この秘薬を開発すること。
そうなの、この秘薬が、そのウイルス兵器の唯一の特効薬なのよ!
そして先ほど皆に特効薬を投与したの、しかし・・・
既に時遅し。何人かは効果が現れる前に亡くなってしまった。
残ったのは3人。今、例のモンスターと戦っている筈。
でもね、もう大丈夫。腹心の部下のお婆さまが貴方を見つけてくれたから。
お婆さまには気の毒だったけれどね・・・
これで全てのこの国の国民は助かる。貴方もそれを飲んだから。」
と、いきなり「ダンダンダン!」と扉を叩く音が居室に響く。
「ああ、ダメね。3人も遣られてしまったのね・・・」
姫が深い溜息をつく。
「大丈夫、僕が貴方を守ります!」
咄嗟に出た言葉に、自分でも驚く。
これももはや宿命かと。
尚も扉を叩き続ける狂人モンスター。
姫もようやく決心したかのように、颯爽と奥のほうへと歩み寄る。
そして何やら光り輝く剣を持ってタケルに突き出す。
「さぁ、此れを持って。」
「これは?」
「これはね、「賢人の剣」よ。この地に赴く前に父から授けられたの。そしてやがて現れる賢人に託せと言われていたの。そう、貴方にはふさわしい!」
「そういうことならば、喜んで。」
「では行きましょう。 さ、こっちこっち!」
部屋と窓越しにアル本棚の一冊の本を引き抜くと、本棚が回転し回廊が地下へと向かっている。
なんとも旧式なからくり手法ではある。
姫は蝋燭をともして下って行く。
長けるも後に続く・・・
-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-
長い長い地下へのその回廊はまるで、奈落の底へとふたりを落とし込んでいくようだった。
息つく間もなく二人は先を急ぐ。
遠くで「ダダダ・バタンッ!」という音が耳に入る。
どうやら老婆を食べてしまった狂熊モンスターが居室の扉をこじ開けてしまったようだ。
我々が追いつかれるのも時間の問題だろうか---
時に覚悟を決めた筈のタケルの手にする「賢人の剣」がぷるぷると震える。
どの位下ってきたのであろうか、遠くに戸外から差し込む月の光が見えてくる。
そして古城の出口から放出されて行く二人。
丁度ラビリンスのある丘の裏手になる場所。
草原が先まで広がっている。
駆け出す二人。
澄み切った空の今夜は、満月が眩しい。
やがて砂利の小道へ出ると、一つの小屋が見えてきた。
「あれは何?」
「バイク小屋。ちょっとしたガレージよ。」
「え、バイク乗れるの?」
「ええ、英才教育で。私の国では幼い頃から何でもやらせるの。ぼっちキャンプも慣れっこよ。」
「え、偶然だね!俺も一緒。」
「まぁ、趣味があうことっ!」
息を切らせながら二人は辿りつく。
扉の錠前を懐から取り出したキーで開放する。
グリーンのトライアンフボンネビルが月夜に輝く。
イグニッションを開くと心地良い破裂音を奏でる。
「さぁ、後ろに乗って!」
以外にも姫が運転するのか?
「いいよ、オレが転がすよ。」
「ダメ、貴方が剣で奴を牽制して!」
「だけど、姿は全然見えないし、こっちはバイクだよ。」
「いいえ、アイツを侮ってはいけない・・・」
冷たい低い声に姫の声が変化する。
何故か背筋に寒気を覚える。
そして同じく低いノートを奏でながらトラは月夜に滑り出す。
以外にも姫のライディングスタイルは軽快だった。
葛篭折れのわいんでぃんぐロードを右へ左へとスムースに交わす。
風圧からもかなりのスピードを感じる。
「おいおい、あんんまり飛ばすなよ。」
「大丈夫よ、平気平気!」
颯爽と走り出す駿馬にまたがり古城を後ろへと追いやって行く---
静かな秋の夜に軽やかなノートを響かせて行く。
月の光が二人の乗った駿馬を草原へと照らし続けて行く。
静かに疾駆する二つの賭けが草原をなぞってゆく~~~
と、後ろを振り向くタケル。
まさか・・・・
やはり月夜に照らされた一点の影がやがてその黒さを増してゆく。
姫もミラー越しに映るその物体を確認する。
「だから、言ったでしょ。侮ってはいけないと・・・相手は野獣よ!」
スロットルを増す。更に風斬り音が速度を上げる---
しかし、切なくも理不尽なまでに野獣の影かこちら目掛けて突進してくる。
危ない・・・と思った瞬間、魔の手が目の前に迫った。
剣を抜くタケルに容赦なく襲い掛かるその強欲なまでの魔の手!
右に左にワインディングロードをこなして行く姫。
振り落とされそうになりながらも必死で野獣を牽制する。
と、何かの拍子に躓いたのであろうか、野獣が自分の勢いで中に舞った!
もはや動く様子も無い・・・
-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-
バイクを止める。
月夜がひんやりとした風を頬にかすめる。
戦いは終わったのであろうか・・・
振り回すうちに剣が相手に当たったのであろうか?
一息ついて二人は来た道を引き返してみることにする。
大分遠くまで来てしまったものだ。
「この辺りだったかな、姫?」
「そうね、確かこの辺り・・・」
中に舞った魔の手を持つ野獣はそこには居なかった。
二人はバイクを降りて辺りを見回す。何も見当たらない。
術も無く再び帰路へと向かおうとする二人の前に黒い巨体が立ちはだかる!
「ガヲッウ!」
それは一瞬のことだった。
剣を抜く間もなかった。
その野獣は姫の身体を持ち去って、ラビリンスへと駆け出す。
呆然と見ていたタケル。
我に返るとバイクに飛び乗る。
月明かりはやがて雲間へと隠れていった---
猛スピードでスロットルを空けるが近付くことさえままならない・・・
なんという速さだ・・・
必死に追い縋ろうとするが黒い物体はどんどん小さくなって行く。
暫くして古城に到着した。
元来た回廊をヘトヘトになりながら登って行く。
そして姫の居室に辿りつく。
捕らえられた姫がそこには居た。
何も無かったかのようにベットに横たわっている。
不思議に様子をうかがう。
先ほどの熊モンスターは何処へ行ったのであろう。
姫を揺り起こす。応答が無い。
と、振り向きざまに先ほどの黒い物体が襲い掛かる!
「やや!」
瞬間、食われたのだと感じた・・・だが。
ぽっかりと大きな口の中に顔がすっぽりと隠れはしたものの、噛み付かれるでもなく、やがてそのままの状態でそれは重くのしかかってきた---
タケルはゾッとしたものを感じずには居なかった・・・
その大きく重い物体を払いのけると、それはグッタリと床に突っ伏した。
そして・・・眼前の血まみれの「賢人の剣」の先から鮮血が滴る・・・嗚呼・・・
「やはり、血筋なのね。私としたことが・・・ハイッおしまい。」
先ほどまで寝た振りをしていた姫が隙を見計らってタケルの懐の剣で一瞬のうちに野獣を退治したのであった~~~~~
事の成り行きを確認したタケルは先ほどの秘薬の効果が始まったのか、急に酔いが廻ったかのように野獣の傍らに突っ伏した。やがて深い眠りがタケルを襲う---
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「もしもし~大丈夫ですか~」
遠くから女性の声がする。
その声が耳元で大きくなって行くのに気付き、目を覚ます。
「あら、お目覚めですね?」
何故かベットに寝ている自分に気づく。
ああ、どうやって・・・此処はどこ?
「良かった・・・ご無事のようで。」
「ええと、どうしたのですか?」
「どうもこうもないですよ、トイレから出てこないのでお客さんから助けられたのですよ。」
「え、オレが?」
「ええ。便器に座ったままグッタリしていて・・・」
「此処は何処ですか?」
「は、ご存じない?もしかして記憶喪失?」
タケルは勢い良くベットから飛び起きる。オレとしたことが・・・
「大丈夫そうですね!」
「ということは、ここはモール?」
「そうですよ。」
「では、あの占いのお婆さんは?」
「ハ?そうもうしますと?」
「だから、そこにある占いをやっている、あの人は?」
「え、このモールにそのようなものは御座いません!」
恥ずかしさに赤面しながら、タケルは救護室をあとにする。
もと来た場所の駐輪場のバイクは何事も無く留まっている。
一体此れは・・・白昼夢?
とりあえず帰宅する・・・どうやら大分仕事の疲れがたまっているようだ。
不思議な錯覚に疲れを覚え、ベットに横になる。
そして・・・やがて深い眠りへと誘われて行く・・・
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目覚ましが鳴る。
どうやら朝まで眠ってしまったらしい・・・
今日は早めに出社することにする。
いつもどうりに席に着く。
出社する同僚の面々は何故かタケルを遠巻きに怪訝な顔で眺めている。
隣の席のヤスコが紙コップのコーヒーを差し出す。
「タケルさんどうしたのですか?一週間も出社しないで・・・」
「え、一週間?そんな・・・」
「しかも携帯まで忘れて・・・机に置きっぱなしで。連絡も取れないし・・・」
引き出しを開けると電源の切れたままのスマホが入っている。
ヤスコはさらに不思議なことを言う。今度は小さい声で。
「長旅ご苦労様。これは私達だけの秘密ね!ラビリンス・・・」
そういうと、ヤスコは「ニコッ」と微笑むと席を立った。
え、どう言う事?そういえば、あの微笑、どっかで・・・
「アッ!」
何かを急に思い出したように席から飛び上がるタケル。ややっ!
と同時に手に持ったコーヒーを辺りにぶちまける。
一同がざわめく・・・
あの微笑・・・姫と同じ?・・・そして、ラビリンス!?
え、もしかしてヤスコ姫?
「そんなぁ~っ!」
大声でへんてこな調子のタケルを眺める一同が苦笑している・・・・
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