ダ、ダ、ダ、ダ
ダ、ダ、ダ、ダ。ここはまったく、何の因果というやつダ。
部屋は雑居で、格子ではないが、ガラスで区切られた丸見えの内部。配置は各自の面が分かるよう、そして定時毎、にやけた顔つきの監視が訪れる。そいつは頭数と呼称、俺たちは名で呼ばれない、を確認。さらに首を伸ばし、おどけて怖くないをアピールしつつ覗き込んでくる。俺たちがどこか面白いらしい。やたら笑みを振り撒きながら、面倒だがお追従。無駄に騒いだりしないのが無難なところ。
唯一の出入り口である扉は時折開かれる。今日も新入りが連れて来られた。今回のヒヨコは、ヒヨッコども、二人組。中に入れられるタイミングで泣き喚きやがるのは定番だが、二人だから、いつもの二倍の騒がしさでギャーギャー、アーアー。揃って奏でられるラ音の音階の歌声は、室内に収まり切らず反響して、喧しいわい。
生まれ落ちた境遇、理不尽な拘束に対する怒り、嘆き、ない交ぜにした絡み合った感情の発露。まぁそういうやつで、色々あるんだろうが、知ったこっちゃあない。ここに居るお前たちに振り返るべき過去などない。とは宣わないが、哲学的でもなく、皮肉気味には嗜めたくなり、喃語の声で出す。
ヘヘッ、坊ちゃんたち、ママのおっぱいでも恋しくなったのかい?
効果なし。
こんなところでも、まぁじき慣れるもんダ、ダ、ダ。リラックスしな。構えない方が、人間長生きするぜ。
無反応。世知辛いねぇ。
ヒヨコどもは座ってもいないから頷きもしない。ただやうやう疲れたのか、押し黙ったからには未熟な脳でも理解したのだろう。かといって、今後素直に言うことを聞くかどうかは別で、本能の赴くまま動く奴がここには多いのも事実。いずれ意志を持って反抗する時も、当分先だろうがどこかで来る。厄介したいものダ、自分自身としては。
静謐が戻ると考えさせられる。数日前は独居に居た。そこは狭く、手足の自由も利かなかったが、他者と関わりが乏しかった分、煩わしさもなかったと言えた。今とて、ほぼ終日天井を見つめるばかりの生活、その時とどれ程の違いがあるというのだろう。ごろ寝る、飯の労務。特別なことなどなくていい、なるべく穏やかに過ごしていきたいが、思うようにならないのが牢獄の人生というやつ。行動の取捨は経験と記憶、感覚に引き摺られながら、現在を受け入れなければならない。現実世界、社会の有り様、社会のルール。粛々と、ローマに行ったらローマ人のように振る舞え。郷に入りては郷に、ジャパーン、ダ。
ダ、ダ、ダ、ダ。
余韻に浸っていると、別の見回りがやって来た。ガラスの向こう側から目に入る、覗き込んでくる顔々に、慌てて口を噤む。沈黙は金、艦隊シリーズも定番ダ。
「まぁ、かわいい」
「あれが僕たちの」
「口が動いてる。何か喋ってるみたい」
「それはさすがに、まだ早いよ」
(ダ、ダ、ダ、ダ)
ちやほやされるのも今のうちだけダ、ダ。こねても聞いてもらえなくなる、そのうちに。周りにも諭しておいた。