表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ダ、ダ、ダ、ダ

作者: 楽部

 ダ、ダ、ダ、ダ。ここはまったく、何の因果というやつダ。


 部屋は雑居で、格子ではないが、ガラスで区切られた丸見えの内部。配置は各自の面が分かるよう、そして定時毎、にやけた顔つきの監視が訪れる。そいつは頭数と呼称、俺たちは名で呼ばれない、を確認。さらに首を伸ばし、おどけて怖くないをアピールしつつ覗き込んでくる。俺たちがどこか面白いらしい。やたら笑みを振り撒きながら、面倒だがお追従。無駄に騒いだりしないのが無難なところ。


 唯一の出入り口である扉は時折開かれる。今日も新入りが連れて来られた。今回のヒヨコは、ヒヨッコども、二人組。中に入れられるタイミングで泣き喚きやがるのは定番だが、二人だから、いつもの二倍の騒がしさでギャーギャー、アーアー。揃って奏でられるラ音の音階の歌声は、室内に収まり切らず反響して、喧しいわい。


 生まれ落ちた境遇、理不尽な拘束に対する怒り、嘆き、ない交ぜにした絡み合った感情の発露。まぁそういうやつで、色々あるんだろうが、知ったこっちゃあない。ここに居るお前たちに振り返るべき過去などない。とは宣わないが、哲学的でもなく、皮肉気味には嗜めたくなり、喃語の声で出す。


 ヘヘッ、坊ちゃんたち、ママのおっぱいでも恋しくなったのかい?


 効果なし。


 こんなところでも、まぁじき慣れるもんダ、ダ、ダ。リラックスしな。構えない方が、人間長生きするぜ。


 無反応。世知辛いねぇ。


 ヒヨコどもは座ってもいないから頷きもしない。ただやうやう疲れたのか、押し黙ったからには未熟な脳でも理解したのだろう。かといって、今後素直に言うことを聞くかどうかは別で、本能の赴くまま動く奴がここには多いのも事実。いずれ意志を持って反抗する時も、当分先だろうがどこかで来る。厄介したいものダ、自分自身としては。


 静謐が戻ると考えさせられる。数日前は独居に居た。そこは狭く、手足の自由も利かなかったが、他者と関わりが乏しかった分、煩わしさもなかったと言えた。今とて、ほぼ終日天井を見つめるばかりの生活、その時とどれ程の違いがあるというのだろう。ごろ寝る、飯の労務。特別なことなどなくていい、なるべく穏やかに過ごしていきたいが、思うようにならないのが牢獄の人生というやつ。行動の取捨は経験と記憶、感覚に引き摺られながら、現在を受け入れなければならない。現実世界、社会の有り様、社会のルール。粛々と、ローマに行ったらローマ人のように振る舞え。郷に入りては郷に、ジャパーン、ダ。


 ダ、ダ、ダ、ダ。


 余韻に浸っていると、別の見回りがやって来た。ガラスの向こう側から目に入る、覗き込んでくる顔々に、慌てて口を噤む。沈黙は金、艦隊シリーズも定番ダ。


「まぁ、かわいい」

「あれが僕たちの」

「口が動いてる。何か喋ってるみたい」

「それはさすがに、まだ早いよ」


(ダ、ダ、ダ、ダ)


 ちやほやされるのも今のうちだけダ、ダ。こねても聞いてもらえなくなる、そのうちに。周りにも諭しておいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ