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「おい! お前! 俺たちの仲間に何するつもりだ!」
助けられた相手に切りかかられそうになっているところに、やっと私のパーティーがやってきた。やっぱり、彼らは遠回りして安全な道を探していたのだろう。
「何だお前等。後からのこのこと来て文句言いやがって」
一触即発のこの状況。でも、彼がいなければ、今頃私は……。
「こ、この人は私を助けてくれた人で……」
私の恩人がこんな不毛な争いに巻き込まれていいはずがない。
「助けてくれたって? それってどういうこと?」
「モンスターが襲ってきて……それで……」
「俺が断罪してやったんだ。そこにたまたまこいつがいただけだ。それに文句があんのか!」
めちゃくちゃ喧嘩っ早い。まるで日本のヤクザ……いいや、どちらかというと学生のヤンキーだろうか。
どうにか穏便にことを納めたいのだが、彼の強い言葉で私のパーティーにも火が付いてしまった。
「それって、先にうちの仲間がモンスターを見つけたってことだよな? それを狩ったって言うことは、俺たちの獲物を横取りしたってことだよな?」
「あぁ? 横取りだ? てめぇらいなかったじゃねえか」
「彼女がいた」
「こいつに戦う意志なんてなかったぞ。それなのに、横取りだ? 話にならねえな」
その通り、私に戦う意志も力もなかった。彼が倒してくれなければ、私は無事ではなかった。それは事実だ。
「時間を無駄にした。てめぇらはそこで仲良しごっこでもしてろ」
怒りを納めてくれたのか、私に向けていた刀も引いて立ち去ろうとした。でも、私はまだお礼の言葉も言えていない。
「ちょっと」
「ちょっと待て」
強い口調で私の言葉に重ねてきたのは、私のパーティーのリーダー的な人だった。
「俺たちから横取りしたその魔石、持ち逃げする気か?」
「あぁ?」
その言葉に振り向いた彼は、苛立ちを込めた目で睨んできて、そして、舌打ちをした。
「チッ。時間の無駄だって言ってんだろ。話かけんな! そんなに欲しいならくれてやるよ!」
今まで以上にぶち切れた口調で捲くし立て、あの大きな魔石を全力で投げてきた。
「自分の力で成し遂げてもない功績でうまい酒を飲むんだな!」
その捨て台詞を最後に、彼はダンジョンの奥へと進んで言ってしまった。
「気性の荒い奴だな……。これだからモンゴレルは……」
モングレル。この世界では獣人のことをそう呼ぶようだ。
「それより、こんなデカい魔石、かなりの額になりそうだな。楽しみだぜ!」
「これがあれば、今日の稼ぎは十分ですね! モンスターが集まってこないうちに早く帰りましょう」
「そうだな。邪魔が入ったけど、今日はいい報酬が期待できそうだ」
結局、私は彼にお礼も言えなかった。
「キラリ? 早く帰ろう」
「う、うん……」
せめて名前だけでも聞いておけばよかった。でも、命の恩人なんだからお礼だけは何が何でも言わなければ……。
そう決意しながら、私はダンジョンから脱出した。