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「痛たぁ……」
どうやら、下の階層まで落ちてしまったみたいだ。
天井からの崩落を気にしすぎて、足場への心配を疎かにしてしまった。
「キラリ? 大丈夫か?」
「大丈夫! そっちは?」
「こっちも今モンスターを倒したところだ。すぐそっちに行く!」
「ありがとう」
声がする場所から考えて、マンションの3階ぐらいの高さを落ちたのだろう。それでも無事なのは、落ちた場所がちょうど壁で滑りながら落ちたから。おかげでいろんな場所に擦り傷ができてしまった。でも、頭を打ったり、落ち方が悪くて骨が折れたりしていないだけまだましだ。
「それにしても遅いな……」
早く傷を手当してほしいのに、なかなか降りてきてくれない。仲間がピンチの時、すぐに助けにいくのがパーティーだと思うんだけど……。
「まさか安全に降りれる場所を探して……」
壁沿いに落ちたといっても、安全に降りられるわけではない。それに、私が落ちた場所から降りてきても、壁を自力で上ることはできない。私のパーティーはロープなんて都合がいいものは持っていないから。
安全を取るなら迂回するべき。そうなのだが、仲間が落ちているのに冷静にそんな判断ができるものだろうか。
さっきまで感じていた強い仲間意識が、急に希薄になっていく。
「こんな非常事態だから、そんな弱気なことを考えるんだ。みんなは今まで会ってきたような私のことを捨てていくような人たちじゃない」
大丈夫。私の仲間を信じるんだ。みんなは私を助けるために最善の行動をしているはずだから。
「でも、他の場所を探すってなると時間がかかりそうだな……」
私も上れる場所を探すべきだろうか。でも、この場所を移動してすれ違いになったら合流するまでに時間がかかってしまう。やっぱり、動かないで待っていた方がいいだろうか。
「それより、私の支援魔法なしでモンスターを倒してこれるのかな……」
自力は確かにあるのだが、それでも私の支援魔法に頼っている部分は多い。まだ支援魔法の効果は残っているが、あと数分で消えてしまう。その前に来てくれればいいんだけど……。
早く来てくれと祈っていると、足音が聞こえてきた。ただ、仲間の、人間の足音ではない。
この重く地面を揺らすような足音はモンスターのもの。しかも、かなり大きい。
「なんで……」
ここはダンジョン。何が起ころうともモンスターはやってくる。
トロールだろうか。マンションの3階ほどはある天井に頭が付きそうなほどの巨人。とても、私たちパーティーが勝てる相手ではない。いや、今はそのパーティーは私しかいない。支援魔法しか使えない私しか……。
巨大なモンスターが近寄ってくる。どうにかして逃げなければ……。でも、普通に逃げても追いつかれるだけ。何か、何かないのだろうか。瞬間移動でも、足が速くなるでも、目くらましでも、何でもいい。何でもいいのに、そんな魔法は使えない。私は支援魔法しか使えないから。
私はこのモンスター殺されてしまうのだろうか。嫌だ。そんなのは嫌だ。誰か、誰でもいいから助けて。みんな……。私の仲間たちは……。何で遠回りをして……。あぁ、そうか。ダンジョンが、この場所が危険なことを知っているから。倒せないような強いモンスターがいても自分たちだけは安全に帰れるように道を探した。私は……見捨てられたんだ。そうだ。日本にいたときだってそうだった。私はみんなに優しくされていたけど、それは私が女でたまたま趣味が一緒だったから。薄っぺらな関係で親友と呼べる人はいなかった。誰も助けては……。
「どぉぉぉぉぉぉけぇぇぇぇぇぇ!」