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「まあ、通り名って言っても、あいつのスキルの名前をそのまま使っただけなんだけどな」
スキル名がそのまま通り名になっている人もいるのか。でも、彼がスキルを使う素振りは見せなかった。
「バリアントソウルって……どういう効果があるの?」
「何だったっけな……忘れちまった」
やはり酔っぱらい。知能はちゃんと低下しているようだ。彼のことを少しでも知りたいので、どうにか思い出してほしいのだが……。
そんな私の気持ちを察したのか、リーダーの人が話に加わってきた。
「効果は分からないんだ。まあ、人に話すようなタイプじゃないからね。でも、スキルの意味は分かる」
「意味?」
「そう、バリアントソウル、勇敢な魂。目の前で戦っているのを見たら分かるんじゃない?」
確かに、彼は自分の体より何倍も大きな巨人のモンスターに臆することなく立ち向かっていた。その姿は、まさに勇敢。彼にはこれ以上ないほど適した通り名だ。
「まあ、あいつの場合は「勇敢」じゃなくて「蛮勇」だけどな」
確かに、あの無鉄砲な戦い方は蛮勇のようにも思える。だが、私を助けてくれた人を勇敢ではなく蛮勇だというのは、少し気に障る。
「助けてくれたって言うのは確かなんだけど、悪い噂の方が多いって言うのも事実なんだ。キラリも見ただろ? あの態度。あいつは俺たちとも斬り合おうとしていた」
「あれはあなたたちが……」
確かに、彼の口調は荒々しい。でも、喧嘩をふっかけたのは間違いなく私のパーティーの方からだった。
そう抗議したかったのだが、私が話す隙を与えてくれなかった。
「それに、奴はモンスターを意図的に連れてきた可能性が高い。そうやって恩を売って金を要求してきたり、そのままモンスターに殺させて所持品を奪うって奴が多いって聞くからね」
それは絶対に違う。モンスターが来た方向と彼が飛んできた方向は真逆だった。モンスターを連れてきたなんて、そんなのはあり得ない。
「やっぱり、噂通りの奴なんだよ。今後、関わりは持ちたくないね」
「まあ、同じギルドでもないし、会うこともないだろうね」
「同じギルドじゃないって……あんなに強いのに、どこのギルドにも所属していないの?」
この町には3つのギルドがある。私のパーティー3人はその3つのギルドにそれぞれ所属している。
「まあ、いろいろ問題が多い奴だからな」
「あいつ、どこのギルドにも入れないから闇ギルドに入ってるんだよ」
「おい……」
酔っぱらいの発言が気にくわなかったのか、リーダーはこれ以上話すなと言わんばかりに自分の後ろに酔っぱらいを隠した。
「今のは忘れてくれ。酔っぱらいの戯れ言だよ」
何かを隠そうとしているのだろうか。
酔っぱらいの言葉によると、彼はどこのギルドにも入れなかったから闇ギルドに入ったと言った。そもそも、闇ギルドというのはなんだろうか。日本でいうヤクザのようなものだろうか。
「その闇ギルドって何ていうの?」
「そんなの知らなくていいよ」
「一応、名前ぐらい知っておかないと分からないで近づいちゃうかもしれないからさ」
「でも……」
なぜか教えるのを渋っている。聞かれてまずいというのは闇ギルドの存在だったのだろうか。
「俺! 俺知ってるよ、その闇ギルドの名前。確か、荒野の書庫だったっけな……」
荒野の書庫。確かに記憶した。
「おい、お前、飲み過ぎだぞ。こいつ酔っぱらっているから、あんまり鵜呑みにしちゃだめだからね」
「俺のギルドは聖剣の抜刀な。闇ギルドなんてよく分からないところじゃなくて、俺のギルドに入りなよ。みんな攻撃力は高いからキラリの支援魔法でガンガンモンスターも倒せていけるぜ」
「それなら、僕のギルド、魔導の叡智がいいいよ。魔導書もたくさんあるからキラリさんみたいな魔法を使う冒険者にはぴったりだよ! ね、ね!」
「それなら、俺のギルド、不滅の堅牢だって負けてないぞ! 後方支援は盾がいるから出来ることだ。そんな盾持ちが多い俺のギルドが一番ふさわしい」
闇ギルドの話から一転、自分のギルド自慢に変わってしまった。
「う、うん……考えておくね……」
この場は、その曖昧な答えで納めることにした。