『私のヒーロー』 その二
前回更新から一年後に更新した作品があるらしいんですけど、その時に作者が「もうそんな事しない」って言ってたんですよねぇ。いやぁ、そんな人が居るんですねぇ。
前回の更新から何日経ったかよくわからないけど更新です
「……ゲーム?」
「そう、俺と一緒にゲームしないか? 紫音」
四条彩奈の提案、それは『離れてしまった距離を埋める為に紫音と一緒にゲームをする事』だった。
何が原因で引きこもってしまったのか分からない以上、迂闊な行動をしてしまえばかえって引きこもりを助長してしまう事になってしまうかもしれない。
だから、家に居ても出来る事で、尚且つ彼女自身が楽しめる事を一緒にする。それで心を開いて事情を話してもらおう、というのが彼女の狙いだった。
冬馬の言葉を聞いた紫音が、訝し気に思いながら目を細める。
「……別に、良いけど。なんでまた?」
「久しぶりに一緒にやりたくなってな。ほら、昔は良くレトロゲー一緒にやってただろ?昔に比べて上手くなったから、それを自慢したいだけとも言う。なんてったって新設プロチームに指名されるぐらいだからな!」
「……動機が謎……」
流石に怪しすぎたかと冬馬は顔を引き攣らせるが、幸い扉越しで会話している為、その顔は見られずに済んだ。
ぺたぺたと、扉の近くに寄る足音が聞こえてくるとぼそりと声が聞こえてくる。
「……良いよ。やろう、ゲーム」
「ほんとか……!!」
紫音の言葉を聞いて、冬馬は声を弾ませる。
それもそうだ、紫音が引きこもってしまってから、家に居ても全く顔を合わせる事が無くなってしまっていたのだから。
現実ではまだ面と向かって会う事が出来ないにしても、架空の……ゲームの世界でなら、また会う事が出来る。
その事実を噛み締めるように拳を握りしめて喜んでいると、紫音の方から問いかける。
「……にぃがプロにスカウトされたゲームで良いの? えっと、Aims、だっけ?」
「ああ。Aimsにインして待ってるぜ。……色々しないといけないだろうし、ゆっくりで良いからな」
口元を緩めながら、冬馬は自分の部屋へと全力疾走していった。
紫音はそんな兄の様子に、そんなに嬉しいのかと呆れ半分、それほど兄が大事に思ってくれているのかと嬉しさ半分という複雑な感情を抱いた。
「FPS……か。……ほとんどやったことないけど、私に出来るのかな」
ライジンが最近始めていたのでその動画は見ているのだが、その程度の知識しかない。
初心者でも楽しめるのかな……と思いながら、紫音は自室にあるVRヘルメットを被る。
「……フルダイブシステム、オンライン」
少しばかりの不安とそれを上回る期待に胸を躍らせながら、彼女は電子の海へと飛び込んだ。
◇
Aimsというゲームはルートシューターと呼ばれるジャンルに属している。
試合を経る毎に銃器やアタッチメントがドロップし、それらを用いて自身の装備を強化し、再びPVPやPVEに潜る……単純なようで奥深い中毒性から高い人気を博しているゲームだ。
同じ武器でもアタッチメントが違えばその戦略は無限大に広がっていく。そういった背景から日々新たな戦略が産み出され続けるのも、このゲームが発売して暫く経っているのにも関わらずFPSの最前線で居続けている理由でもある。
だが、そんなゲーム性だからこそ初心者は置いてけぼりにされがちだ。何故なら、数千時間プレイしたプレイヤーと、開始数分のプレイヤーでは装備の質が違い過ぎるからだ。その穴を埋めるにはランダムドロップから運よく質の良い装備を引き当てるか、コツコツお金を溜めてゲーム内ショップであるブラックマーケットから武器を購入するか……もしくはそれを上回るPSで圧倒するかしかない。
だからこそ、始めたてな紫音が楽しめるようにと、冬馬が選んだゲームモードは『バトルロイヤル』。装備無しの状態からスタートし、マップに落ちている装備を拾いながら自身を強化し、優勝を目指すというゲームモードだ。
そして、勝敗や戦績によって順位が変動するランクマッチでは無く、それなりに似た戦績のプレイヤーが集められるカジュアルマッチを選んだわけなのだが……。
「漁夫だ漁夫! くそ、処理しきれねぇ!?」
「団子君、今キット使ってるからカバーお願い!」
冬馬こと串焼き団子、そして彼のフレンドであるSAINAはこのゲームにおいてトップレベルの実力者。そんな二人と一緒に試合をすれば当然マッチングする相手も猛者ばかりな訳で。
次々と迫り来るパーティを悲鳴を上げつつも確実に処理している二人に感心しながらも、シオンは周囲の状況を把握していた。
「……南西方面2パーティ。さっき隣のエリアから銃声が聞こえてきたから終わったらこっちに来るかも……」
「これ以上来られると厄介だぞ……! シオン、回復は大丈夫か?」
「……ん、にぃ達が暴れてるお陰でまだ余ってる」
「悪いな、助かる」
そう言いながらシオンが回復アイテムを落とすと、串焼き団子がそれを拾う。
シオンが串焼き団子が回復しているのを眠そうな瞳で見つめながらぽつりと呟いた。
「……でも見てばっかりなのもつまらない。……だから」
ちらりとシオンが見たのは正面に居る敵パーティ。どちらが先に動き出すか、様子を伺っていたまま膠着していた戦況を、彼女は塗り替える。
「……殲滅する!」
「ちょ、おい、シオン!?」
「シオンちゃん!?」
バッと飛び出したシオンを静止するように串焼き団子が声をかけるが、シオンは止まらない。
待ってましたとばかりに敵パーティは三人で一斉に射撃。初心者であるシオンがその弾幕を回避出来る訳が無い……そう思った二人だったが。
「ッ、マジかよ!?」
シオンは目の前に迫る弾丸をスライディングで回避すると、相手が銃口を下に向けたタイミングで勢いよく跳躍。速度を維持したまま壁走りすると、天井も使って立体的に動き回りながら敵パーティへと距離を詰めていく。
相手が思わず声を上げてしまうのも納得の動きに、串焼き団子は頬を引き攣らせた。
(おいおいおい、あれが開始数十分の動きかよ!?)
実際、ゲーム的な挙動を考えれば壁走りなどのテクニックはそう珍しい物ではない。問題なのは、それを躊躇い無く実行出来る度胸と、複雑なゲームシステムの理解が出来ているという点。
彼女は始めて間もない初心者だ。だというのにも関わらずトッププロの如き動きを実現してみせたのは彼女が普段見ている動画の主が、人間離れした挙動を普段からやっているから、という事を二人は知らない。
彼女が至近距離まで詰め寄ると、フラググレネードのピンを抜き去る。そしてすぐさま正面左斜め方向に放り投げると、敵の視線が一瞬そちらに向いたのを見て自身は右斜め方向に加速する。
「すげえ動きだったが投擲はお粗末……」
彼らの頭上を通り過ぎようとしていたフラググレネードにシオンは視線を向ける。リロードしつつシオンに銃口を向ようとした彼らの表情が、彼女の狙いを知って驚愕に染まった。
「……バン」
その時、シオンが持っていたSMGからたった一発の弾丸が発射された。シオンが持っていた武器の名は『レーヴァテイン』という名の最高レアリティに該当するSMGだ。その能力は、『レーヴァテイン』に装填されている弾丸は全て焼夷弾になる、という地味だが強力な物。
シオンが放った一発の弾丸は、彼らの真上に到達したタイミングのフラググレネードを的確に撃ち抜き、即座に爆発した。
「ッッッ──!?」
まさか撃ち抜かれるとは思わなかった彼らに襲い掛かる叩き付けるような爆風と衝撃。
その間にもシオンは走り続け、体勢を立て直そうとしていた彼らの頭に銃弾を叩き込んだ。
抵抗すら出来ずに敵チーム三人の身体がドックタグへと変わり、それを拾ったシオンは串焼き団子達の方を見るとブイサインを作った。
「……ぶい」
「嘘だろ……」
向こうからしたらそれなりのレートのプレイヤーだろうから消化出来る部分もあるかもしれないが、串焼き団子達は彼女が初心者だと知っているからこそ、今しがた行ったシオンのスーパープレイに絶句するしかなかった。
「……この銃、暴れ馬。……りここん? 難しい……」
『レーヴァテイン』を持ち上げながらそうぼやく彼女。未だ用語すらよく分かっていない様子の彼女とスーパープレイとのギャップに、SAINAは思わず乾いた笑いを漏らす。
「……ははは、ねぇ団子君。……彼女一体何者?」
「……俺の妹が知らない内に化け物プレイヤーになっていた件について」
串焼き団子も白目を剥きながらそう返すしかなかった。
少なくとも串焼き団子が覚えている中でシオンが別のゲームをプレイしているという話を聞いたことが無い。つまり、今しがたの動きは別ゲーからの輸入では無く即興で行った、という事。
このまま埋もれさせるには勿体無さ過ぎる程の圧倒的なゲームセンス。だからこそ、串焼き団子はポツリと言葉を漏らした。
「……ワンチャン、プロに勧誘するか?」
「……え? しょ、正気!?」
まさかの本来の目的を忘れかけている串焼き団子の言動に、SAINAは耳を疑った。
確かに、串焼き団子とSAINAが勧誘された新設のプロチームにはまだ名前も決定段階で、メンバーも足りていない。とはいえ、プロゲーマーの世界は過酷だ。毎日何時間も練習に没頭し、その上で大会で成果を残さなければ存続すら厳しいという世界。とてもゲーム開始数十分程度の人間に安易に踏み入れさせてはいけない世界だ。
そう頭で分かってはいるものの、SAINAもシオンの実力には目を見張る物があったから完全に否定出来なかったのもまた事実。彼女が本腰を入れてFPSを始めれば、間違いなく短期間でプロに至れると、そう確信していた。
そんな二人の思惑を余所に、眠た気な瞳で首を傾げるシオン。
「……あんまり上手くなかった?」
「いやいやいやいや、アレを上手くないって言ったら大半の人間のプレイが霞むわ」
「そうね……私もあの動きを再現しろって言われたら出来る自信が無いわ……」
「……?」
シオンからすれば、普段見ているライジンの動画ではあのような動き(タイム省略の為のRTA勢の動き)こそが一般的だと思っているからこそ、彼らの間には認識のズレが生まれていた。
なんでドン引きされているのかも良く分からないまま、シオンは少し遠くから聞こえてきた銃声に注意を向けた。
「……向こうから銃声……行く?」
「……団子君」
「ああ、行くか」
SAINAからの意味深な目配せに、串焼き団子は頷く。
彼女の今の動きがマグレで無いのであれば、本当にプロチームに勧誘しても良いのかもしれないな……と串焼き団子は口元に弧を描いた。
◇
初心者プレイヤー、シオン。初試合の結果、8キル0デス。しかもその戦績は串焼き団子達の補助を受けながらもそれなりの高レート帯で、という付加価値が付いてくる。
最初のスーパープレイ以降は目立ったプレイをしなかったものの、トリック染みたプレイで相手を翻弄し、情報を処理させる前に突き崩す立ち回りは串焼き団子達をして、圧巻の一言だった。
普段からゲームプレイ中は録画していた串焼き団子は勧誘された大本のゲーミングチーム、『EF』にシオンの育成を提案する事に決めた。
そんな事を露知らず、当の本人は心なしか目をキラキラさせた様子でリザルト画面を眺めていた。
「にぃ、今のモード楽しかった、他のモードもやってみたい。……後、あの武器ってどうやったらあのモード以外で手に入るの?」
「あの武器って『レーヴァテイン』の事か? あれエキゾ武器だからなぁ……数百時間やって取れるかどうか……」
「……あ、ドロップ?してる。『レーヴァテイン』……これって手に入ったって事で良いんだよね?」
「……は? ちょ、ちょっと待て画面見せてくれ」
慌てて串焼き団子がシオンのリザルト画面を覗き込むと、確かにドロップ品枠には煌々と輝く枠に囲まれた『レーヴァテイン』が表示されていた。
バトルロイヤルで一位を取った事でレア武器の入手確率が上がっていると言えど、エキゾチック自体のドロップ率は小数点以下の筈。しかもその中で望みの武器を手に入れる確率など気が遠くなるほどだ。
確か自分が初めてこのゲームでエキゾチック武器をドロップしたのは開始して二か月後だったな……しかもそんなに嬉しい武器じゃなかったな……と遠き日に思いを馳せながら、串焼き団子はシオンの肩に手を乗せる。
「ヨ、ヨカッタネ!!!」
「団子君、滲み出てる滲み出てる」
主に悔しさが。
当然そんな事を知らないシオンは、首を傾げながらもドロップした『レーヴァテイン』を早速取り出しながら、キラキラした目で眺め始めた。
「おおー……」
そんな彼女の様子を眺めながら、SAINAは串焼き団子に耳打ちする。
「とんでもない偶然だけどさ、結果としてこのゲームに呼んで良かったんじゃない? 彼女、相当才能あるわよ。しかも欲しい武器を一発で入手なんて、モチベーションが上がらない方がおかしいし……良い事尽くめじゃない」
「……だな」
串焼き団子当人としてはシオンが少しでも気が楽になれたら、という思いでこのゲームへと誘っただけだった。しかし、彼女の様子を見るからにゲームを楽しめている様子だったので内心安堵する。シオンは串焼き団子の服の袖をくいくいと引っ張りながら、薄く微笑む。
「ねぇ、にぃ。……他のモードもやりたい」
「よぅし、そうと決まれば兄ちゃん徹夜で付き合っちゃうぞ! SAINAも付き合え!」
「どうせ拒否してもやらされるんでしょ……はいはい、付き合いますよーっと」
あきれ顔のSAINAだったが、その表情は柔らかい。
静かながらも好奇心旺盛な彼女に、確かに串焼き団子が溺愛するのも分かるなぁと思いながら、再び戦場へと足を向けるのだった。




