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Skill Build Offline 〜変人たちのリアルサイド〜  作者: 立華凪
勘違いトライアングル 第二章
12/20

勘違いトライアングル 『そして全てが捻じ曲がる』

そして時はプロローグへ。


 ――――そんな、一体いつから。どうして。


 目の前に広がっていた光景に、私の頭の中は真っ白になってしまっていた。

 大丈夫だと思っていた。そんな日は訪れる事は無いと、勝手に思い込んでしまっていた。

 私の母親が渚君と出会えるようになったキッカケを作ってくれて、渚君のお母さんも応援してくれたから、付き合っている人はいないのだと勝手に思い込んでしまっていた。


 自分が一番分かっていた事ではないか。()()()()()()()()()()()()()()と。


「ゆ、唯ちゃん!?大丈夫!?」


「――――は、はい」


 優斗さんの声に、意識が現実に引き戻される。

 立ったまま突然動かなくなってしまった私を心配してくれたみたいだ。慌てて頬を叩いて、意識をはっきりとさせると、顎に手を添えた。


(彼からは交際しているという言及は無かったはず。いや違う、私に言う必要が無かった?)


 それもそうだ。日向渚と紺野唯は仲が良い隣人。ただそれだけの関係だ。自分の交友関係の話など、する必要が無いのは当然の事だ。


(……最初から、手遅れだったのかな)


 ギュッと胸が締め付けられるような感覚を覚えて、胸に手を添える。

 私が彼の事が気になりだしたキッカケ。自分の境遇を話した際に、彼は昔、恋愛で大きな失敗をしてしまったと言っていた。そして、自分を変えるために奔走したという事も。

 もしかしたら、彼の隣に居る彼女は、そんな彼の外だけを見ずに、内面まで見て、全てを包み込んでくれるような人なのかもしれない。

 そうなってしまえば、私の淡い初恋は――――諦めるしかないのかもしれない。


「馬鹿だなぁ……」


 はは、と乾いた笑いを漏らすと、じわりと涙が目尻に浮かんでくる。

 彼女が居るのにも関わらず誘惑するような真似をして。今まで自分がしてきた行為全てが馬鹿馬鹿しく思えてきて。

 彼にとっては迷惑でしかなかったのかもしれない。そういう気持ちが次から次へと湧いて出てきてしまって胸がどんどん苦しくなっていく。


 そんな私の様子を見ていた優斗さんは、慌てた様子で。


「唯ちゃん、具合悪くなったの?この暑さだもんね。少し座って休もう」


「いえ、その……」


 言えるわけがない。自分の好きな人が、彼女とデートしていただなんて。

 それで勝手に傷ついて、こんなに動揺してしまっているだなんて。


 椅子に座り、トークアプリを起動する。

 いつもゲーム三昧の彼だから、ゲームがオンライン状態でなければあれが彼である事の証明になる。


 ――――オフライン。


(で、でも。もしかしたら私の勘違いかもしれないし)


 何事も思い込みで全てを判断するのは間違いだ。淡い期待に縋るように、彼に向けてメッセージを飛ばす。


『渚君、今ショッピングモールに居ますか?』――――と。



 


『では明日実装のアップデートについての追加情報です。クランハウス実装に加え、UIでいくつか改修が入ります』


 Aimsではこういうイベントに少しだけ参加した事はあるが、やはりこういう新情報が聞けるイベントっていうのは現地の方がテンション上がるな。

 そう思いながらうんうんと頷く。ふと紫音の様子が気になり、腕に引っ付いたままの紫音を見てみると、何故か頭を擦り付けるという甘えるような仕草をしていた。

 ジトッとした目を向けて、彼女の額にデコピンをかます。


「おい紫音、やり過ぎだ自重しろ」


「……これぐらい過剰な方が嫉妬の対象になり得る。今ライジンの様子はどう?」


「笑顔こそ取り繕っているものの、あれ相当心に来てるぞ。串焼き先輩に殺される前に雷人に殺される可能性が高い」


「……上々。このままこれを続ける事にする」


 こいつ鬼かよ。ったく、雷人も紫音も思い込みが激しいから両片思いと思い込んでるらしいが、早く付き合って末永く爆発してほしい。確信を得るまでどっちからもアタックを掛けないみたいだが、どちらの事情も知っている身からすればもどかしくて仕方ないんだよ。

 というか紫音のスキンシップが異常過ぎて周囲の目線が痛すぎるからそろそろやめてほしい。


「っと、また雷人か?」


 トークアプリに通知が来たので、内容を確認する。


「えっと、なになに?『渚君、今ショッピングモールに居ますか?』って――――紺野さんから?」


 え?もしかしてさっきの俺の声で存在に気付かれてしまった?まあいいや、嘘ついても仕方ないし。


「『居ますよ』っと」





「終わりました」


 この世の終わりのような気分です。

 なんでこの世界はこんなにも理不尽(ハードモード)なのでしょうか。もうこんな世界滅んでしまえば良いのに。

 死んだ魚のような瞳で乾いた笑いを漏らす私に、優斗さんが心配そうな表情を浮かべる。


「……そんなに具合悪い?」


「多分これまでの人生の中で一番具合悪いですね。今すぐ布団に入ってそのまま三日ぐらい寝ていたいです」


「そんなに!?」


 多分三日以降もずっと不貞寝している自信があります。

 渚君がいると思ったのは間違いではなかった。そして眼下に居る渚君も本物なのだろう。

 やはり、隣に立って甘えている少女は彼女で間違いないのだ。


 そう確信して立ち上がると、優斗さんの方へと向く。


「ごめんなさい、優斗さん。気分が優れないので帰っていいですか?」


「う、うん。もう目的の品は買えたし、全然大丈夫だよ。……一人で帰れる?」


「大丈夫です。ありがとうございます」


 そう言ってぺこりと頭を下げて、私は出口に向かって歩き出した。





 ふと、頭上を見上げていた紫音が、ぽつりと。



「……修羅場の匂い」


「?」


 唐突に何を言い出すんだこいつは。その修羅場を産んでいるのはお前の行為そのものだろうが。

 普段なら絶対に拒否していただろうが、二徹のテンションの影響だろうか、それとも知り合いのデートの様子を目撃したからだろうか、もうどうにでもなーれ状態である。

 取り敢えず俺、明日を迎えられるかどうかの方が不安だ。


「……いますぐポンに会えるかどうか聞くべき」


「は?紺野さんに?なんで?」


「いいから」


 珍しくなんか語気が強めだな。まあそう言うのなら、取り敢えずメッセージを飛ばしておくか。



『紺野さんもショッピングモールに居るのなら後で合流しませんか?カフェかどこかで待ち合わせしましょう』


『虚しくなりそうなのでごめんなさい』



 え?虚しくなるって何が!? 俺か!? 俺が虚しくなるってか!? 確かに彼氏とのデートを邪魔されたくないよな普通!?


「……返信はなんて?」


「『虚しくなりそうなのでごめんなさい』だって」


「あー……」


 なんで訳知り顔なんだよ。どういう事か教えてくれよ。

 呆れたような顔をする紫音は、ふぅ、と一つため息を吐いて。


「……傭兵はもっと人の感情を知るべき」


「誰が冷酷残忍なマシンだこの野郎、というかお前にだけは言われたくねえ!!」


 普通なら嫉妬させる為に偽装デートをするって発想には至らねえからな!!


「……そこまで言ってない。もういい、話にならないからちょっと貸して」


「あっちょおま」


 紫音は俺が開いていたトークアプリを操作すると、すぐにメッセージを送信した。



『今、紺野さんに会いたいんです。……駄目ですか?』



「なんで恋する乙女風なんだよ!?俺のキャラじゃねえし、ドン引きされるぞ!(小声)」


「……みっしょんこんぷりーと」


 何も目標達成してないんだが!? どうしよう、どう釈明すればいいんだこれ。ええと、取り敢えず向こうからどう返信が来るかなんだが――――。



『……そんな事を言われても……』



「ほらドン引きされてるじゃねーか!どうしてくれるんだよ、今後紺野さんとの関係気まずくなるじゃねーか!(かろうじて小声)」


「傭兵、うるさい。スタッフにつまみ出される」


 畜生こいつ厄介事の種だけ撒いて使い物にならねえ!

 どうする?なんか長年FPSで鍛えてきた勘が取り敢えず彼女を引き留めるべきだって判断しているような気がしてきた。

 あ、そういえば彼氏がいるなら料理を作りに来なくて良いって言わなければいけないんだった。それを理由にしよう。



『お願いします。……今後の事について、話したい事があるんです』


『そ、そういう事なら、まあ……』

 


「……わーお。傭兵、意外と大胆だね」


「いや他にどうしろと」



 こうして、その後何度かトークアプリでやり取りして、このイベントの後に雷人も交えてカフェで話し合う事になったのだった。



 

紫音は頭上を見上げた時、彼氏と喧嘩別れしたように見えて声かけてあげたら?ぐらいのつもりでした。結果的にそれがファインプレーでしたが。


この話、書いてて心が苦しかったよ(本当)


因みに一番の被害者はただ見せつけられてるだけの雷人

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[気になる点] >> 雷人も紫音も思い込みが激しいから両片思いと思い込んでるらしいが、早く付き合って末永く爆発してほしい。確信を得るまでどっちからもアタックを掛けないみたいだが、 すいません、渚君。…
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