俺がゲームを始めたわけ。 その一
前半ちょこっと暗いお話です。主人公である日向渚がゲーム嫌いだったお話です。
俺の名前は日向渚。県立総明高校に通う極普通の高校二年生。…普通というのは盛ったかな?毎晩朝までプレイするほどの重度のゲーマーである。
見た目は長身痩躯の女顔。学校の成績は中の上。運動は…まあ、人並みとは言っておこう。反射神経においては非常に優秀なんだが(隙あれば自分語り)。
そんな俺だが、実は昔はゲームなんて大っ嫌いだった。今でこそFPSというジャンルにおいては日本一を取ってしまう程の腕前であるというのに。
それならなんでゲーム嫌いな俺が、ゲームに手を付けるようになったのか。
今回は、そんなお話だ。
◇
「……ただいま」
誰もいない家の鍵を開けてポツリと呟いた。自分の口から発せられた帰宅の挨拶は、どこまでも静かでわずかに冷えた室内に響く。しかし、返答はいつまでたっても帰って来ない。
「いつも通り、だな」
少し寂しい気持ちになりながら眉をひそめて口角を微妙に上げる。
今日は、中学校の入学式だった。しかし、いつも通り親は仕事で来れず、周りの子供たちの親が我が子に「おめでとう」と言いながら記念撮影をしている様子をただ眺めているだけだった。
…羨ましいと思った。親に愛情を注いでもらえて、自分の成長を喜んでくれる親という存在にずっと憧れていた。
自分の親はプロゲーマーという職業に就いている。VR技術が発展した現在、一流アスリートと同等の扱いを受けているこの職業は、周囲からも尊敬される職業なのだ。
両親ともに違うチームに所属してはいるが、どちらも実力派のプロゲーミングチームという事で有名で、雑誌にも何度も取り上げられてテレビにもしばしば出ている。
多忙ではあるが頑張っている俺はそんな親が誇らしい。自慢の両親なんだぞ、すっげー活躍してるんだぞって。
…だからこそ。
「なんだこれ、『入学祝い』?」
誰もいないリビングのテーブルにぽつりと置かれた四角いパッケージと白い小さなメモ。『入学祝い』と書かれたメモをどけると、そこには『Ruin gear』と書かれたVR専用ゲームのパッケージが置いてあった。
「……」
俺は無言でそのパッケージを手に取り、家の壁に向けて思い切り放り投げた。音を立てて家の壁に傷跡を残してパッケージは地面を転がった。舌打ちを一つするとそのまま落ちたゲームのパッケージに目もくれず、二階の自室がある階段を昇って行く。
だからこそ、俺はゲームが大っ嫌いだった。
自分という存在に目も向けずに夢中になっているそれが。
自分の息子の一大イベントを放り出してまで行うそれが憎くて仕方が無かった。
…本当、ただの寂しがり屋だったのさ。
◇
「何が入学祝いだクソッ。俺がゲーム嫌いなの知ってやがるくせに、ただの嫌がらせじゃねえか」
学生鞄を地面に投げ、ベッドへと身を預けた。ボフっとわずかに反発する感覚を感じながら、枕に顔を埋める。やりきれない気持ちでシーツをギュッと握りしめながら涙をこぼした。
「どうせ俺の事なんてどうでもいいんだ」
スン、と鼻水をすすりながら苦し気に言葉を漏らす。
今日もどうせ家に帰って来ない。いや、その表現は語弊があるな。家に居るけど居ない。その表現が一番正しいだろうか。
ゲームの世界に意識を預けたまま、ずうっと眠り続けている。プロとしてその仕事を全うしている最中なのだろう。
「……こんな親ならいっそ、普通の親の方がマシだったよ」
家に帰ったら「ただいま」と言ってくれて、温かい部屋で、暖かい出来立ての夕飯を食べて、用意された風呂に入って「おやすみ」と言って寝る。そんな普通の家庭に恋焦がれていた。
だが、それはただの幻想に過ぎない。
家に帰ったら誰も出迎えてはくれない。冷えた部屋でコンビニ弁当を食べて、自分で風呂を沸かして家族の洗濯物を洗濯して、誰もいないリビングに「おやすみ」と告げる。それが現実。
まるでこの家の住人が元から一人みたいだ。
「今頃、ほかの新入生はパーティか、お祝いでもやっているんだろうか…」
苦笑いしながらポロリと零した。あの楽しそうに笑って記念撮影をしていた同級生は、楽しく親と外食しているのだろうか。それとも家でちょっぴり豪華な夕食を食べていたりするのだろうか。
…羨ましいなあ。
「コンビニ弁当、さっさと食って風呂入るか…」
コンビニのビニール袋を持ち上げ、一つため息を吐く。ベッドから身体を起こすと覚束ない足取りで、そのまま俺は自室を後にした。
◇
「……」
電子レンジの中で熱せられているコンビニ弁当を冷めた目で見つめる。いつも通りの光景。この温かいコンビニ弁当は俺の主食である。身体に悪いって事はよく知っている。けれど自分は料理なんて出来っこないし、作ったとしても不味くてとても食えたもんじゃない。そうなるぐらいならという妥協案。
たまにではあるが母親が手料理を作ることもある。美味しいと、毎日食べたいと切に願うが毎日作っていたら彼女は仕事で疲れているだろうから負担になってしまう。だから、「母さんの食事は美味しくない」と生意気な言葉を言い残してしまった。
それを続けた結果、食事がコンビニ弁当へと変わっていくのは必然だった。時折炊いたご飯とスーパーのお惣菜を食べたりもするが、寂しいのには変わらない。
「美味しくない」と告げたときの母さんの寂しそうな表情は、今でも忘れられない程脳裏に焼き付いている。そんな寂しそうな表情を浮かべさせたのは俺なのに今更どの面下げて「もう一度ご飯を作ってくれないか」なんてふざけたことが言えるだろうか。…これは俺自身への罰でもある。
と、その時チンと電子レンジの電子音が室内に響いた。コンビニ弁当は適温へと温めが完了したようだ。電子レンジの蓋を開けてコンビニ弁当を取り出そうと手を伸ばす。
「あっち」
プラスチックに触れると火傷しそうなほどの熱を感じて反射的に手を放す。そのままではテーブルまで運べないな、と考えた後、布巾で縁を掴んでそのままテーブルへと運んで行った。
「…頂きます」
手を合わせてポツリと呟く。割りばしを割り、コンビニ弁当の具を一口食べる。…うん、変わらない味だ。
「たまには出来立ての食事でも食いたいな…」
思わず本音がこぼれるが、それを聞く相手は誰もいない。いつも通りの事。誰もいない食卓で、一人で飯を食べて一人で片付ける。学校であった楽しいことも、大変だったことも、辛かったことも何も共有出来ない、そんな家庭。
すっと視線をリビングにあるホワイトボードに向ける。そのホワイトボードは両親と俺の数少ない連絡手段であるが、基本的に書いてあることは少ない。ただ両親の予定が書いてあり、時折俺の業務的なメッセージが書かれているだけ。…今週は、すべて大会、か。弱小チームなら敗退すればその時点で大会は終わりだが、皮肉にも両親のチームは強豪チーム。…今週は顔を合わせることもないだろう。
「ご馳走様」
コンビニ弁当を閉じて椅子から立ち上がるとふと、ホワイトボードに『入学式行けなくてごめんね。どうだった?』というメッセージが書いてあるのが視界に映るが、ぷい、とすぐに顔を背けた。
「どうせ来たって祝いやしない癖に」
自嘲気味に無理やり笑みを作って呟いた。一応、入学祝いと称して置いてあったゲームはあったが、どうせ俺への嫌がらせのつもりだろうと認識している。…こんなもので俺が喜ぶはずがないとわかっているだろうに。
乱雑にコンビニ弁当と割りばしをごみ袋に入れ、手を洗う。どうしようもないイライラとした感情が胸中で渦巻き、自然と表情までもが他人を睨むような物に変わっていった。
そんな時に先ほど自分が思い切り投げたゲームのパッケージに目がいった。イライラの矛先がそのパッケージへと注がれたのは必然だったともいえよう。
「こんなものがあるせいで父さんと母さんは――!」
思い切り踏んづける事でそのまま中のチップを割ろうと画策するが、ぴたりと足を止めた。
こんなものとは言え、両親からのプレゼントであるのは変わらない。
すっとゲームのパッケージを拾い上げて中身を調べる。
「…傷は無い、か」
外のパッケージが頑丈に設計されているからか中に入っていたチップには一つも傷がついていなかった。そのチップを取り出して掲げてみる。
「こんな小さいチップに憑りつかれるような魅力があるなんて思えないけどな」
この小さなチップをVR機器にセットすることでオンライン上でデータを取得し、機器にゲームデータをインストールする…なんて親から聞いたけど、興味なかったからその時は聞き流していたっけ。どう考えてもこんなものに魅力を感じる要素は無い。
「…………」
その時、俺はふと考えてみた。これが原因で親が俺の相手をしないというのなら、俺がこれを極めて親を完膚無きまでに叩きのめせば振り向いてくれるんじゃないのだろうか。仕事として頑張っている人間よりも上手くなれば親もプロゲーマーという仕事を辞め、普通の家庭になるんじゃないのだろうか。
当然、たかが一人に負けたところでプロゲーマーなんて職を失うわけがないし、叩きのめしたところで現状と変わらないのは自分でも分かってる。だけど、これは理屈じゃなくて、衝動が突き動かした。
――ただの言い訳に過ぎない。これが俺の人生を狂わせたと考えて、絶対にやらないと決めつけてきた俺は、理由が欲しかったんだと思う。俺を放りだしてまで一生懸命取り組むそれが気になって仕方なかったから。だから、この時の俺はそういう理由を付けた。
「――やって、みるか」
俺はパッケージを持って、再び自室へと戻った。
それが、俺の人生の転換点。
◇
俺は、それと向き合っていた。
ヘルメットタイプのVR機器。俺が小学校に入ってすぐにプレゼントされて、一度も起動することも無く、押し入れにしまっていたそれと。
「あれから六年か」
当時は高価だったこれを親は「大会の賞金が入ったから全然平気」と言って笑いながらプレゼントしてくれた。俺はその頃からゲームが大嫌いだったから素直に受け取らずに放り投げていた。
――流石にこんだけ経つとほこりも被るか。
LANケーブルを取り出して、ヘルメットタイプのVR機器に慣れない手つきで接続し、電源コードをコンセントを繋ぐ。すると、赤色のヘルメットから『ブン』と鈍く起動する音が聞こえた。
自らの身体をベッドに放り投げ、ヘルメットに同封されていた説明書を手に取り、中をパラパラとめくる。
「ええと、接続したら頭に装着して…『フルダイブシステム・オンライン』と言う…」
ベッドに横たわりながら説明書を読むと、ヘルメットを頭に取り付けた。
「『フルダイブシステム・オンライン』」
その言葉を皮切りにプツリと身体の感触が消え、意識が遠のいていく。
◇
『ようこそVRの世界へ!』
先程まで殺風景だった景色が変わり、一面がカラフルな世界に彩られる。沢山の世界が眼前に広がっていた。剣と魔法の世界、一から街が創造される世界、弾丸が飛び交う過酷な世界などなど。
それらの景色が浮かんでは消えていった。
なんだ、これは。
とめどなく押し寄せる世界の波に溺れそうになりながら、電子回路のようなものが辺りで流れていくエリアにたどり着いた。
見えない足場というものはなかなか怖いもので、その足場に恐る恐る着地すると、先程聞こえてきた機械音声が鳴り響く。
『個人名を入力してください』
目の前に透明なキーボードが出現したので言われるがまま個人名を入力しようとしたところで手を止めた。
「これ、この設定がゲームの名前とかにそのまま反映されるのかな?」
『いいえ、今回の個人名入力はゲームとは別にカテゴライズされています。こちらの情報を元にゲーム内での大会の商品などの輸送先などが決まりますので可能であれば実名や本住所をご入力下さい。もし興味ない場合は匿名でも構いませんが』
「うわっ喋った!?何これ、えーと、会話出来たりするのか?」
『はい。私はVR機器に備え付けられているサポートAIでございます。基本的な機能のご案内と簡単な会話程度でしたら可能です。完全なる自立思考AIに向けての試験的なものですので高度な応答は不可能ですが、アップデート等で改善されていく予定です』
「うはぁハイテクノロジー…」
正直あんまり分からんけど大体のニュアンスは掴んだ。つまり人間では無いけど会話可能で、まだ不完全だけどバージョンアップする予定ではあるよ?という事か。うーん、あとで色々調べよっと。
「で、個人名入力か」
『最新鋭のセキュリティシステムを完備しておりますのでハッキング等における個人情報の抜き取りは限りなく不可能ですので安心してご入力ください』
「はえー」
最新鋭の機械ってスゲー。まあ、これ六年前に買ったっきりバージョンアップしていないから最新ではないけど。
パソコンなどの機器は取り扱っていたからキーボード操作は手慣れた物だ。個人情報を入力し、確定すると目の前に女性が現れた。
『登録完了いたしました』
先ほどまで喋っていたサポートAIとやらはこの女性が話していたのか。
なんか本物の人間みたいだな…。こういうテクノロジーの発達とかはテレビとかでもよく見るけど実際に体験してみるとなんか感動するな…。
興味深げにじろじろ見ているとサポートAIは苦笑しながら。
『あ、私に触れてもすり抜けますのでご注意ください』
い、いや、触れようとしたわけじゃないですからね!?決してやましい気持ちがあったわけでは…。…一ミリもないかと言えばウソにはなるかな、うん。
『日向渚様、最新のシステムアップデートがございますのでアップデートを行います。また、この機器にセットされた『Ruin gear』のゲームデータインストールも並行して行います。その間チュートリアルエリアにてアバターの作成と実際にそのアバターでの軽い動作確認をお勧めいたします』
そう言われてふと自分の身体を見下ろすと半透明になっており、はっきりとした形にはなっていなかった。うわ、なんかいろんな世界が流れていくインパクトが強すぎて全然気づかなかった。
「というかアップデート中でも動作とかできるんだね」
『ダウンロードが終わり、インストールする際のみ適用するために再起動していただきますが、基本的には動作等に支障はきたさないのでご安心ください』
そう言うとサポートAIの女性が微笑み、指をパチンと鳴らすと周りの景色が一変する。自分のアバターが俯瞰できるエリアに飛ばされたのだ。なんか自分の身体が遠くに見えると幽体離脱の気分が味わえるな…。
『一からアバターを作成していただくことも可能ですが、現実の身体をベースに作成することも可能です。スキャニングを行いますか?』
「うーん、めんどくさいしそれでもいいかな…。えーと、何をすれば?」
『こちらで脳波をスキャニングし、個人を特定いたします。定期検診等で測定されたスキャニングデータをもとに実際の身体を再現いたしますので少々お待ちください』
脳波をスキャニング!?年に一度の定期検診が義務付けられているけどこういう用途に用いられることもあるのか…。いや確か病気の検診とかだったよな?こんなところで使われるのは想定外だ。
「てことは検診時のデータが参照されるわけね」
『はい。ではスキャニングを開始します…』
サポートAiがそうつぶやいたので、定期検診の時と同じ様に目を閉じる。ものの数十秒でスキャンが完了し、サポートAIが口を開いた。
『個人ID特定、日向渚12歳。前回定期検診日時は20XX年3月20日です。こちらのデータを参照し、アバターに身体情報を転写いたします』
のっぺりとした何も描かれていなかったアバターが突如として形が変わっていき、俺が良く知る俺自身へとアバターの形が変わっていく。なんか鏡と違って変な角度から見下ろしているから新鮮。
『転写が完了しました。こちらのアバターでプレイいたしますか?』
「いや…やっぱ、こっから変えるよ。可能かな?」
『はい』
ため息を漏らしながら呟くとサポートAIはすぐさま返答する。俺は俺の容姿が嫌いだ。めんどくさいから、という理由でアバターを現実の自分にしたが、いざ自分を見直してみると嫌な思い出が頭の中でちらついた。折角弄ることが出来るなら弄ろうか。現実の自分を忘れられるだろうし。
「なんなら男前の容姿に変えてやってみるか…!よし、作ったるぞぉ!」
まあ中学生が思い描く男前の容姿が酷かったのは言うまでも無い。
◇
「アバター作成お疲れ様でした。こちらのアバターでの動作確認に移ります」
サポートAIがそう言うと、今度は草原へとマップが移される。先ほど作った片目に傷を負ったナイスガイ(当社比)となった俺は、空を仰いだ。
現実…とまではいかないが、作り物にしてはかなりのリアリティだ。空を流れていく雲はまるで本物のようだ。呼吸を経て感じる空気の冷たさも、日光の温かみも、どれもが現実に近い。
『VRヘルメットのシンクロ率は95%です。体に違和感がございましたら、すぐさまプレイをお辞めください」
その言葉を聞いた後、軽くランニングしてみる。現実の身体と違い、身長も体格も違うのですぐに違和感があるかも…と不安に思ったが、全然そんなことは無かった。むしろ現実よりも動きやすいまである。
「すっげ、どうなってんだろ、これ」
『多少のモーションアシストがございますので体格などを変えたとしても限りなく違和感が無いように設定してあります』
俺の疑問に対してすぐさまサポートAIは返答してくれる。ふーん。良く分からんけど科学の力ってスゲーって思っておこう。
「痛みはどうなんだろ」
『痛覚に関しては設定で変更することが出来ます。デフォルトの設定では痛覚は完全遮断となっております』
ほう、なるほどなるほど。ちょっと試してみるか。
助走を付けて思いっきり転んでみる。ビターン!と効果音が鳴りそうなほど見事なずっこけぶりだったが確かに痛覚が完全に遮断されている。なんかちょっと怖くなるなこの設定…。
『軽いしびれを感じる程度にも変えられますがいかがなさいますか?』
「うん、じゃあその設定でお願いします」
もし痛覚を遮断している感覚に慣れてしまったら現実に支障をきたしそうだしな…。
『かしこまりました。…更新データのインストールの準備が完了しました。ご都合の良いタイミングで再起動をお願いします』
「あっ、じゃあ一回再起動するか」
身体の動かし方も軽くではあるけど掴めたしな。すぐに再起動を…。
「…再起動、どこでやるんだこれ」
『視界端にある歯車のマークに意識を集中してください。そうすることでウインドウが開きます』
言われた通りに集中すると青色のウインドウが目の前に現れ、先ほど入れた『Ruin gear』を始めとした初期から入っているソフトがずらりと並んでいた。電源関係へと移動し、再起動と書かれた所をタップすると意識が遠のいていった。
◇
パチリ、と目を覚ます。アイシールドのようになっているディスプレイ越しに見る俺の部屋は先ほどまで見ていたカラフルな景色と比べてやはり殺風景だった。
『ブゥン』と低い唸りを上げながらヘルメットタイプのVR機器が再起動する。
『インストール・コンプリート』と書かれた文字列を眺めながら、一度VR機器を外し、深く息を吐いた。
「…VRってすげーんだな」
正直、ここまで感動するとは思わなかった。どうせ大したことのないものだと思い込み、それがどんな魅力を持っているかなんて、いざやってみないと全然わからないもんだ。心のどこかで、俺はもうゲームに対しての忌避感が薄れていっているのを感じた。
「こんな世界があっちゃ、魅了されるのも当然か」
口元に薄い笑みを浮かべながらそう呟いた。自分でない自分になれる、そんな世界があるのなら、俺だってその世界で生きたいと思える。
自分の容姿にコンプレックスを持っているのなら、尚更。
「…よし、ゲーム、やってみるか」
もう恐れるものは無い。あとは、一歩を踏み出すだけだ。
再びVR機器を装着し、俺は『フルダイブシステム・オンライン』と呟いた。