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9. 臨時近衛騎士の後輩(1)

聖女探しのお茶会が終わり、


アーサーに魔女狩りの件を話すと

スレイグを調査することを約束してくれた。


ところが魔女狩りについて皆口を揃えて知らないと

言ったそうだ。


火のない場所に煙は立たないと思っていたが

こうも塵ひとつ出ないと逆に不穏だ。


ジュールはセレン騎士団が王都へ戻るまでこちらで

近衛騎士としての職務を果たすらしい。


城下に密かに流れた噂は不透明なまま霧散し

気づけば私は8歳になっていた。


ページの仕事も慣れ、

騎士の訓練にも加えて貰え、

アーサー以外の騎士と手合い出来る機会も

増えたある日、


アーサーがアルトを連れてきた。


「今日からページとして俺の息子も

王宮に入ることになった。

ルイの後輩について貰うから仲良くしてやってくれ」


アーサーがアルトの肩をポンポンと叩き

ニカッと爽やかに笑う。

アルトは不機嫌そうに肩に置かれた手を払いのけた。


この親子は顔はそっくりなのに

性格は正反対なのが面白い。


溜息をついたアルトが私をキッと睨む。


「なんでコイツの先輩は近衛騎士で

俺の先輩は同じページなんだよ」


ポソリと吐き出される愚痴に

私は苦笑いしながら話しかける。


「アーサーは暫く王都を離れるらしいから

私が殿下の主力護衛になったんだ。


近衛騎士には及ばないけど5歳からページをしているから教えられることも

あると思うよ」


「だからなんで

ページのお前が主力護衛な訳?


補助なら分かるが王子の側近騎士が

ページでしかも俺の一つ上の子供なんて

あり得ないだろ」


アルトはふんっとそっぽを向いてしまう。


アーサーはため息を吐いてこちらを見る。

私もつられて溜息を零しそうになるのを飲み込んだ。


確かにアルトの言い分はよく分かる。


私も主力護衛を王から言い渡されたのはつい先日のことだったんだけど。


アーサーが遠征に行くと聞いて

リュカの側近護衛をどうするのか気になっていたが

まさか繰り上げで見習いの私が務めることになるとは思っていなかった。


「アルト、あんまり憎まれ口をつくもんじゃないぞ、彼はこんなに小さいが

その辺の騎士じゃ

歯が立たないくらい強いんだ。


実力だけでいえばリュカ殿下の護衛として充分資格があるんだぞ」


その言葉にとても信じられないというようにアルトがこちらを睨む。


「なんせ、手合わせした若い騎士を次から次へと負かした上に、子供に負けたショックで王都の騎士達の何人かは騎士を辞めてしまったぐらいだからな」


はっはっはと

アーサーが笑いながらそのことを話すが

空気は凍りついていた。


そうなのである。

少し前からほかの若い騎士とも

手合わせするようになった。


王宮に使える騎士達は

年若くても実力者ぞろいだったが

何とか今のところ連勝している。


戦っては負かして行くうちに

私に勝てば一流の騎士だという

変なジンクスが流れ

今や若い騎士が私に勝負を挑むことが王宮の騎士達の名物になりつつあったのだ。


戦っていくうちに判明したのは

アーサーが城の中でもかなりの実力者であることと、ジュールは騎士の中でも天才の部類に入ることだ。


私の剣術の型はこの世界では珍しいらしく、

この世界の剣戟でとても効果的に力を発揮してくれることも分かった。


そんなこともあってか、

私はアーサーが王都に戻るまでの

臨時ではあるがページとして異例の

出世で、近衛騎士の任につくことになった。


いわば今の私は派遣近衛騎士、

ここで結果を出せば

ジュールのようにセレン騎士団に抜擢してもらえる

かもしれない。


私はアーサーの言葉にぎこちなく笑いながら

アルトに握手を求めた。


「ここで喧嘩しててもしょうがないし、

仲良くやろうよ、

私では力不足だと感じるならば

ここには周りにも近衛騎士が多くいるし、

聞きたいことは彼らに聞けばいい」


「ふん、

お前に言われなくたって分かっている」


私が微笑みかけると

アルトは握手を求めた手をはねのけた。


どうやら私はアルトにとって

「気に入らない」部類の存在らしい。

そういえばお茶会でも

全然話さなかったしな。


どこがアルトの気に障っているのか分からないけど

この世界ではじめての後輩だし

仲良く出来れば良いんだけどな..


そう思いながら私は、

私から目を逸らすアルトを見ていた。



********************



「ルイ君、君が気になっていたスレイグに

第三王子の訪問という形で

行けるようにしてあげたよ

もちろんいくでしょ?」


アルトを連れてリュカのいる部屋へ戻ると

リュカが吉報を知らせてくれた。


「え??!!本当に?!

さすが殿下!頼りになる!」


私は目を輝かせてリュカの手を取った。


「全く、この国で私を頼れる人間なんて

国王と母と君くらいだよ。」


リュカは有頂天の私を見て

呆れたようで溜息をついた。


「殿下、お願いです

スレイグ訪問に俺も同行させてください。」


後ろで聞いていた

アルトが間に入ってくる。


「アルト、だっけ?

君はページになったばかりだから

通常は行かせられないけど

スレイグは君の家の領地だし

私達より土地勘がありそうだ。


いいよ、私から国王に話を通してあげるよ。

だけど自分の身くらい

自分で守れるようにしておいてね。

光の騎士の君に何かあっては

後々面倒なことになるし」


「有り難うございます。

殿下のお手を煩わせる真似は致しません」


スレイグの話になるとアルトの表情が

妙に強張るのを不審に思いながら

私は気を引き締める。


やはりあの場所は

何かあるような気がしてならない。


魔女の噂が出ること自体気になるし、

調査をすればその噂自体誰も知らないなんて

おかしすぎる。


スレイグ訪問の準備は着々と進んでいき

あっという間に当日となった。


第三王子のレインコード領の訪問は

私、リュカ、アルトと

近衛騎士の第三騎士団とともに

向かうことが決まった。


王族と光の騎士がいるためか

近衛騎士まで護衛に着くのは

少し意外だったけど..。


私とアルトはリュカの

側近護衛と護衛補助ということで

同じ馬車に乗った。


「アルトはスレイグの領主と面識はあるんだよね?」


私は神妙な面持ちのアルトに質問を投げかける。


スレイグの領地はレインコードの領だが

レインコードは複数領地を抱えているため

それぞれに領主がいる。

その総括をしているのが若くして

レインコード家の当主であるアーサー侯爵だ。


「あぁ、スレイグの領主は俺の叔父上だ。」


その言葉にギョッとする。

まさか、スレイグがアルトの過去編の舞台となった

土地だったなんて。


「アルトの姉上もスレイグに?」


私は恐る恐る聞いてみる。

ゲームでは叔父の金癖の悪さを

取り締まる為に姉のセレネを

お目付け役につけていたはず。


だが今セレネは13歳。

まだ領主の補佐としては若すぎるだろうし。


アルトは怪訝げに首を傾ける。


「姉はもう一つの領地の

ヘレンディアにいるが

なぜ姉上が出てくる」


「いや、何でもない

気にしないでくれ」


てことはまだ叔父の悪行を

この家の人たちは気づいていないのかな。


だけどスレイグの領主がアルトの叔父だとしたら

いよいよきな臭くなってきたな..。


「それで、

ルイ君の気になっていることに

アルトの姉が関係してるの?」


静観していたリュカが声をかける。

私はギクッとしながらも首を振った。


「いや、だけどアルトの叔父上、

レイブン卿について詳しく調査したいかな

魔女狩りと関係している可能性も

まだ捨てきれないし」


「叔父上が?...そうだな

俺も叔父上について調査すべきだと思う

俺からもお願いする」


アルトは何かひっかかっている事があるのだろうか、依然として表情が暗い。


リュカは頷くと馬車の扉開けて

近衛騎士に何かを伝えた。


「レイブン卿の屋敷へ行く前に

街の様子を見てみようか。

何か分かるかもしれない」


リュカの言葉に頷くと

馬車はスレイグの街へと入っていった。


スレイグの街は整然としていて

とても静かな街だった。


街を歩く人もちらほらといるが

領の中心地にしては少ない気がする。


市場も活気付いているとは思えず

かといって街の様子が廃れているとは

思えない。


妙な違和感。


だけどその正体がわからない。


「妙だね、

スレイグについて私もここにくる前に

少し調べたんだけど、

収支の記述上はとても商業が

盛んな豊かな領地だという印象だった。


だけど実際はお世辞にも

そんな風には思えない。」


リュカが馬車から街の様子を見ながら顔をしかめる。


「スレイグはもともと土地が痩せていて

輸入品を加工した織物などを特産物にしているんだ。


去年来た時は市場ももっと

活気付いていたはずなんだが」


アルトもこの街の雰囲気に

違和感を持っている様子だ。


アーサーが調査した時は

本人が直接向かった訳ではなかったので

街の空気のような抽象的な事までは

報告がなかったのだろう。


やはり来てみて正解だ。


私たちは街の中心街を寄り道した後、

レイブン卿の住む屋敷まで馬車を走らせた。


「遠路はるばる

ようこそいらっしゃいました。

リュカ殿下、そして騎士の皆様。」


屋敷に着くと30歳前後の男性が迎えてくれる。

赤い髪はアーサーよりも少し暗く、

瞳は深緑で小太りだ。



「アルトも、久しぶりだね

しばらく見ないうちに背丈が伸びたかい?」


レイブン卿はアルトをみてにこりと微笑む。

アルトはそれに軽く会釈するに留めた。


今回の名目はあくまでも訪問なので

そこまで長い間ここにいられないだろう。

何事も無ければ2日間ほどで帰らねばならない。


「この床に敷かれているのは

この領地の特産品かな

素敵な柄だね、

今度王都にも取り寄せようかな」


リュカが床に敷かれた織物を見て笑みを浮かべる。


「おやおや殿下もお目が高い

何とぞよろしくお願いしますね」


床を見ると確かに美しい、

緻密で上品な色合いの敷物だ。

これがアルト言っていた特産物か。


「今日はもう日暮れですから

明日、この領地をご案内致します。」


私達はそれぞれの部屋へ通された。

部屋の内装はとても凝っていて

所々に美しい織物が見られる。

金の装飾がなされた

アンティーク調の家具も全てが

一目でかなりの高級品のように見えた。

どれも最近王都で人気の流行り物だ。


このような贅を凝らした内装が全部屋施されているとしたらやはりレイブン卿の浪費癖はゲーム通りらしい。


私はこっそりアルトのいる部屋へ向かった。


「お前か、俺に何か用か?」


相変わらずそっけない態度で放たれた言葉に

私は人差し指を鼻につけて静かに、と囁く。


「今から屋敷を抜け出して

調査に行かないか?

アルトならこの領地を案内できるだろ」


「案内なら明日叔父上がするだろ」


「レイブン卿の案内は信用できない。

この領地の織物が多く売られている

店を教えてくれないか。出来るだけ穴場がいい」


私の話をアルトは怪訝げに聞いていたが

少し考えた後、こくりと頷いた。

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