樹氷森林と私。その2
同居人の書いている小説をあとがきの方へ載せておきます。気になったら見に行ってくださいね!
冬の朝というのは静かで好きです。特に雪国は、雪が降っている日は雪が音を吸収してくれるので、煩さで起きるという事も無く、気持ちよく目覚める事が出来ますね。
「んん……今日は、樹氷森林に出発する日ですね」
私は跳ねた髪の毛を備え付けの櫛で溶かして、洗面器で顔を洗います。雪国なだけあって水が滅茶苦茶冷たいです。私の寝ぼけた頭も冷水できっちり目覚めさせてくれました。備え付けのタオルで顔を拭き鞄に日記を入れてから、部屋を出ます。そう言えば、朝食も出るとの事だったので、食べてから出発しましょう。
そうと決まれば出発ですね、と扉を開ける時、完全に油断をしていました。
「お早うございますわ。シオンさん」
「……」
目の前にいたのはクリューサさんでした。なるほど、これが出待ちというやつですか。私の人生初経験ですね。それよりも私の事いつから待ってたのでしょう。まさか深夜からとか言いませんよね?
「あ、ちなみに偶然待っていただけよ?」
「それは本当です。深夜から待とうとは言われましたが、流石に私が止めました。体調を崩されてはいけませんので」
「あ、待とうとはしていたんですね……」
グッジョブです、テムさん。深夜に出待ち何かされた日には私の胃袋に穴が開きます。ストレスがマッハですよ。
「私は今から朝食を取りに行く所ですけど……リューさんも一緒に行きますか?」
「ええ、勿論。私とて朝の食事を取らなければ途中で倒れてしまいますから」
ドヤ顔で言ってますけど、大体の人は朝食とってると思うんですよ。言いませんけど。
「じゃあ、行きましょう。樹氷森林へ行く為の方法って馬車を借りるんですか? 私はそのつもりでしたけど」
「行くのは馬車ね。けれど、私の私物があるからシオンさんもそれに乗っていきましょうよ。構わないでしょ?」
「構わないですけど……」
「そうでしょそうでしょ! そうと決まれば朝食を食べに行くわよ!」
朝から元気なリューさんに半ば引きずられる形で、私達は朝食を食べに向かうのでした。
朝食は昨日と同じく非常に美味しいです。ですが、昨日と違うのは……
「ねえ、そっちのオムレツ貰ってもいいかしら?」
「え、まあ構いませんけど……」
私がそう言うと優雅さの欠片も感じられない速度で自分の皿にもっていきました。私は苦笑いをしながら料理を口に運びます。
多少なりテーブルマナーは身に着けていましたが、まさか私のような一般魔法使いの所作の方が上に見られる日が来るとは思いもよりませんでした。
「んん~美味しいっ」
「……リューさんって、普段何を食べているんですか……」
「……お肉かしら?」
その間は何ですか、その間は。私の不審者を見るような視線に、リューさんは素知らぬ顔で朝食を食べ続けます。怪しい。
色々聞きたいことも、言いたいこともありますが、今はとりあえず朝食です。行動をどうせ共にするのですから、道中にでも聞けばいいでしょう。
◇◆◇◆◇◆◇
さて、朝食も取り、わざわざ昼食用の軽食まで用意してもらったので、ありがたく頂いていざ樹氷森林へ。と、いう訳でリューさんの持っている……らしい、馬車を待っています。
「お待たせしましたわね」
そう言って、向かってくるのは、確かに馬車でした。然も、かなり豪華なものでやっぱりお嬢様である事を主張してきます。御者は勿論ですが、テムさんですね。
「本当に馬車持ってたんですね」
「当たり前ですわ。私の事何だと思ってますの……」
「え、なんちゃって貴族って思ってました……」
おっと、うっかり口が滑りました。ただ、普通の貴族なら有り得ないような行動を取ろうとしたり、私の方がテーブルマナーがなっていたりと、中々に怪しいところはあるんですよね。
「失礼ですわね……まあ、いいですわ。ほら、乗ってくださいな」
「では、お邪魔します」
馬車の中に魔法でもかけてあるのか程よく暖かく、これなら道中凍えること無く行く事が出来そうですね。
ザクザクと白い道を進んで行くと、少しずつ人の居るような生活圏から離れていき、それに比例するように木々や、動物達の気配が増えていきました。ここくらいだと、まだ林道といった具合でしょうか。まだまだ道はありますからね。
ゴトゴトとさらに林道を奥へ奥へと進んでいくと、開けた場所に出ました。そこには何人かの憲兵さん達がいました。恐らく、あそこが樹氷森林への入口なのでしょう。
「そこの馬車、止まって! ここから先は許可証がないと入れないよ」
憲兵の人の声が、響きます。私は馬車から降りて憲兵さんに許可証を見せます。テムさんは、御者台から許可証を見せました。憲兵さんたちは、それが偽物で無いかを念入りに確認してから、道を開けました。
「すまないね、最近許可証の偽物を作ってすり抜ける輩が多くて困っているんだ。ここを真っすぐ進んだ先に厩舎と共同の小屋があるから、休む時はそこを使ってくれ」
私達は軽く会釈をしてから、樹氷森林へと立ち入ります。先程まででも、静かで人の立ち入るような空間では無いような、そんな感じがしたのですが、いざ内部に入るとそれすらも忘れてしまうような神聖な雰囲気さえ感じました。
雲の隙間から漏れる日の光が、凍った木々に乱反射してきらきらと輝いています。さくさくと軽い雪を踏み分ける音だけが聞こえる静かな世界。こんな場所があるとは思いませんでした。こういう場所が秘境って言うんですかね。
「さあさあ、行きますわよ。二人ともっ」
テンション高めのリューさん。いや、確かに私も興奮はしてますよ? でも、あそこまでうおおって感じではないです。単純に私が顔に出にくいタイプだっていうのもあるとは思いますけども。
「わかりましたから……テムさんが戻ってくるまで待ちましょう?」
まるで子供のようなリューさんを制しながら、私はテムさんが早く戻ってくることを祈りました。
「すみません。少し手間取ってしまいました。行きましょう」
「うんうんっ、早く行きましょうっ」
「ほんと元気ですね……」
賑やか三人……真に賑やかなのは一人だけなのですが、そんな三人で樹氷森林を探索しに向かうのでした。
◇◆◇◆◇◆◇
「綺麗ですね……」
「そうね……」
森林の中はたまに聞こえる鳥の囀りと、私たちの息使い、足音、それくらいしか聞こえない程に静かでした。たまに頬を撫でるヒンヤリとした風が、心地いいですね。
と、その時私は何かの気配を感じました。ほんの少しだけの敵意のようなものでしたが、私とテムさんは気付いたようで、身構えます。
「敵ですの!?」
「……恐らくは」
「私達のそばを離れないでくださいね」
私は、魔力を大気中に放出して、敵の位置や数を探知しにかかります。大気に撒くそれが多すぎると、相手によっては、こちらが気付いている事に気づいてしまいます。なので、探知に使えるのは一瞬です。タイミングは一瞬。私は素早く魔力を周辺へと放ちました。
それで見つける事が出来た気配は五つ。それ以外は余程知能が高くなければ……
「見つけられた気配は五つです。もしかしたら隠れている相手もいるかもしれませんが……」
「それだけ見つけられれば十分です。シオンさんは討ち漏らしを相手してもらってもよろしいですか?」
「構いませんよ。テムさんの実力も見ておきたかったので」
そう言うと、テムさんはこくりと頷いて、敵に気づかれるように敢えて気配を強めます。
すると、周りからは唸り声のようなものが聞こえてきました。どうやらおびき寄せる事は成功したようですね。
次の瞬間、木々の合間から狼がテムさん目がけて襲い掛かってきました。狼の牙に対して、テムさんは素手で攻撃を受け流し、鼻先に拳を叩きつけます。鮮やかなその流れに、私は少し驚きました。
ただ、五つの気配と言った通り、相手の数は五匹、上手く連携を取ってテムさんに攻撃していきます。多対一の戦闘は慣れていないのか、多少苦労の色が見えたので援護をした方がいいでしょう。
「ていっ」
というわけで、私は一番後ろの隙を窺っていた狼に対して氷の弾丸を鼻先にぶつけます。別に倒す必要はないのでちょっと弱めに調整したのですが、それでも失神くらいはしてしまったようですね。
「……ふっ!」
ちょうど戦っていた狼たちを全て片付けたようで、周りには伸びた狼達が横たわっていました。
「流石ですね」
「それ程でもありませんよ。これくらいは当然です」
「も、もういない?」
戦闘中、終始私の近くで怯えていたリューさんが私の後ろから聞いてきます。これくらい普段から大人しければいいんですけどね。
「ええ、もういませんよ。ですよね?」
「え? あ、ちょっと待ってくださいね」
いきなり私に振られて少し驚きましたが、それの意図は理解したので、魔力探知で辺りに敵対生物らしき反応がないかを調べます。
「うーん……周りを見た感じ、いないと思いますよ。今の私たちの戦いを見て怯えて逃げた獣たちもいるかもしれませんし」
「分かりました。ありがとうございます」
そう言うと、リューさんは私の背後から出てきて、先ほどのしおらしい表情はどこへやら、まるで自分がリーダーのように先頭に立って樹氷森林を進んでいきます。
「さあさあ、二人とも行きますわよっ。どんどん奥の方へ行ってしまいましょうっ」
「あまり先走り過ぎないでくださいね。お嬢様を守るのは僕とシオンさんなんですから」
分かってるわよっ、とどんどん先へ先へ進んでいくリューさん。……本当に分かっているのでしょうか?
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