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題名のない灰色日記  作者: すずしろ
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樹氷森林と私。

同居人が小説を書き始めたのもあってちょっとペースを上げて投稿しようかなーとか考えてます。上がるかどうかは私のやる気次第です()

 無事に合格した私はギルドマスターさんから許可証を貰って、宿を取りにこの町をブラブラと歩いている途中です。森林までは馬車で数時間といった位の距離らしいですが、森林へ向かう馬車が今日はもう出終わりという事らしいので私はここで一泊する事にしました。

 というわけで、ギルドマスターさんに教えて貰った宿屋に到着しました。あの人が言うだけあって、煉瓦造りのしっかりとした宿で、扉もしっかりとした作りの物が使われているようです。流石に素材まではプロじゃないのでわかりませんね。



 扉を開くと、そこに見えるのは高い天井の中央玄関。そして右手側にフロントがありました。私に気づいたのか、男性のクラークさんと目が合いました。



「いらっしゃいませ、旅の方。ここは鴇羽館です。ご宿泊ですか?」

「はい。一泊ほど」

「でしたら銀貨五枚になります」



 私は鞄の中から財布を取り出して銀貨を五枚カウンターに置きます。それの真贋を確かめたのちに軽く一礼して。



「失礼いたしました。最近偽物の硬貨が市場に出回っておりまして……部屋の鍵をお渡しするのでお待ちください。」



 そう言うと、裏に入っていきました。その間私はこの宿をきょろきょろと田舎者のように眺めていました。いや、田舎者かもしれないですけど。……しかし、宿の中も綺麗で、階段には薄赤色の絨毯まで敷かれていますし、本当にいい宿だと思います。過去に泊まったボった宿屋とは大違いですね。



「お待たせいたしました。こちらがお部屋の鍵になります。場所は二階の廊下をまっすぐ歩いて三番目のお部屋、206号室です」

「ありがとうございます」

「お食事等は決まった時刻に備え付けの時計が鳴るようになっておりますので、時間になりましたら一階大食堂までお越しください」



 では、ごゆっくり。というと女性の人がぺこりと一礼してくれました。



「私がお部屋までご案内させて頂きます。こちらです」

 私は女性の人に連れていかれながら、樹氷森林に行ったあと何をしようかとぼんやり考えていました。

 まだ想像もつきませんが、ヒジリさんが言うんですからさぞかし素晴らしいものなんでしょう。



「こちらがお部屋になります。ごゆっくりお過ごしください」



 案内してくれた女性はまた同じように一礼して去っていきました。

 鍵を回して、部屋に入るとゴシック調の壁紙が目に入りました。こういう所まで凝ってるんですね……ベッドは一人で寝るにはかなり大きく、寝返りをうってもまだベッドの上で眠れそうな程の大きさがありました。私はベッドの近くに鞄を置き、そのままベッドに腰掛けます。



「わ……フカフカですね。すごい」



 何者も捉えて離さないかのような、蠱惑的なまでの感触、そのまま入ってぐっすりと眠りたい欲求が湧きだしますが、ここはぐっと我慢。夕飯があるとの事なので、そこまでは寝る訳にはいきません。私はベッドから立って、小さな机に書き忘れないように日記を置いておきます。日記を取り出すとちょうどいいタイミングで時計からポロンポロン、とオルゴールのような音が聞こえてきました。これが夕食の時間の合図なのでしょう。随分と眠くなりそうな音ですけどね。



 私は部屋に鍵をかけて、一階大広間の奥に向かいます。どうやら、目当てが同じ客は何人もいるようで同じ方向へと流れに任せて向かいました。



◇◆◇◆◇◆◇



「皆様、お待たせしております。本日はビュッフェ形式でございますので、ご自由にお皿に料理をお取りいただき、各々の時間をお過ごしくださいませ」



 支配人らしき男性がそう言った後、ゆったりとしたピアノが流れ始めました。私はお皿を取っていくつかの料理を取って、空いている席に座りました。

 色とりどりのサラダに、小鹿のステーキ、そして見た事のない未知の食べ物……見た目としてはクレープのようなものなのですが、甘い香りとかは無く、近くにトッピングのようなものがあったので、それを巻いて食べるのでしょう。というわけで、私はこの付近で捕れる特産品の魚と、その卵を持ってきました。



「それでは……いただきます」



 サラダを口に運ぶと、シャキッとした食感と、新鮮な葉野菜の風味が私の口いっぱいに広がります。それに程よく酸味の聞いたドレッシングがよく合い、私の食欲を増進させます。

 次に手を伸ばしたのは小鹿のステーキです。ナイフを入れるとスっと刃が通り、少し驚きました。それを頬張ると、肉汁が溢れ、焼く際に使った香草の香りがふんわりと広がってきました。


 人生の中で数度と味わったことのないそれを噛みしめていると、



「ふふ、随分と幸せそうな顔をしてお食べになるのですね」

「んう?」



 ハムスターのように頬一杯に頬張る、乙女にあるまじき食事をしている私に、一人の女性が話しかけてきました。



「相席してもよろしくて?」

「ん……ええ、それは構いませんが」

「では、お邪魔いたしますね」



 女性が机の向かいに座ると、後ろから気配もなくお供と思われる男性がことりと女性の前に料理の綺麗に盛り付けられているお皿を置いていました。



「貴女はどちらからいらっしゃって?」

「私ですか? 西の方からですけど……」

「そうなのですね~目的は観光なのかしら?」

「え、ええ……樹氷森林を見に行こうかと」



 やたらと私に質問してくる女性に困惑しつつ、夕飯を進めます。美味しいです。



「なら、私たちと一緒に向かいませんか!?」

「っ!? げほっ、ごほっ……い、一緒に……ですか?」



 余りに突拍子もないことを言われて咽ました。そんなの予想できるわけないじゃないですか。



「ど、どうして私と一緒に……? お供の人ならそこにいますよね?」

「それはそうだけれど、この子はいつも一緒にいるからたまには違う人も一緒に観光したいのよね。それに、貴女って面白そうだし?」

「面白そうって……」



 彼女の事がますますよく分からなくなりました。面白そうって何ですか。私が表情をころころと変えているのが面白いのか、彼女はくすくすとほほ笑んで私の事を見つめています。



「そう言えば自己紹介がまだだったわね。私の名前はクリューサ。横の護衛はテム」

「私の名前はシオンです。えっと……クリューサさん、本気で私と一緒に行く気ですか?」

「当然よ。貴女、別に弱くないでしょう? 許可証だって持っているのだし」



 どうして許可証の事が、とは思いましたが少し考えたらわかる事でした。この町では樹氷森林と氷結洞に行くには許可証がいるんでした。



「私の事はリューって呼んでくれていいわ。それで、いつ行きましょう? 明日?」

「ちょ、ちょっと待ってください! 何で行くこと前提になってるんですか!?」

「だって、行くところは一緒でしょう? なら、一緒でもいいじゃない」

「ええ……まあ、そうかもしれませんけど……それでも、一緒に行く理由にはなりませんよ」

「ええー、そんなこと言わないで一緒に行きましょうよ、ねえ」



 何でこんなにしつこいのでしょう……面倒な人に絡まれたっぽいですね。ああついてない……



「諦めた方がいいですよ。こうなったらお嬢様は意地でも意見を通してきますから」



 横からテムさんがそうぼそりと言ってきます。表情も心なしか気怠そうで、いつもの悪い癖……と言ったところでしょうか。

 正直、付き従っている人が言うのであればその言葉に間違いはないでしょう。私に逃げ道は無いのでしょうか……



「ああ、もう……分かりました。わかりましたよ。出発は明日の朝でも構いませんか?」



 私は覚悟を決めました。逃げられないならば行くしか無いのです。毒を食らわば……と言うよりは、当たって砕けろと言った方が今の状況は正しいのでしょうかね。



「ええ、勿論っ。また明日会いましょう」



 ご機嫌な様子の彼女はそう言って、ダイニングルームを出ます。っていうか、リューさんほとんど食事に手を付けていませんね。……このまま残すのも勿体ないので食べてしまいましょう。


 嵐に巻き込まれた気分でしたが、食事は最高でした。



◇◆◇◆◇◆◇



 ともあれ、部屋に戻った私は日課となった日記を開きます。とは言っても、まだ数ページしか書けていないのですが。

 お風呂も個別に作られているので、私はお風呂を沸かしながら、その待ち時間に筆を取ります。



『今日は嵐のような一日でした。山を下りて、ギルドでは許可証を貰うために大きな虎と猿に戦いを挑まれ、ようやく休めると思った宿の中ではとんでもない女性が待ち受けていました。これだけ内容が濃くても、私はいずれ忘れてしまうのでしょうか。そう思うと、少し怖いですね。そして、一つだけ気がかりなことがありました。それは、私の中での忘れられる記憶です。意識せずに発した言葉と私が記憶している言葉が食い違ったのです。単純な言い間違いであればいいのですが……あ、とってもご飯が美味しかったです。鴇羽館ちゃんと覚えておきましょう。また来たときもここに泊まりたいですし』



 我ながら脈絡のないマイペースな日記だなぁ、とのんびり眺めたあと、浴室に向かうと白い湯気が私を迎えてくれました。


 今日はもうお風呂に入って寝る事にしましょう。きっと明日は晴れでも雨でも雪でも、たとえ吹雪であっても、隣には嵐が吹き荒れているでしょうから。

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