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題名のない灰色日記  作者: すずしろ
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白色の町と私。

 雪山を降りて、町についた私にかけられた第一声はこれでした。



「あ、あんたあの雪山から降りてきたのかい?」

「ええ、そうですけど、どうかしましたか?」



 確かにやたらと寒かったり、上の方で狼の群れに囲まれたりしましたが、ヒジリさんの家より下には大した獣もいませんでしたよ?



「あの雪山には凶暴な獣やら魔物が沢山住み着いてるんだ。そんな所から来たんだから驚くに決まってるさ。あんたがよっぽど運がいいのか、それとも腕っぷしが強いのかは分からないがね」

「いやあ、多分運が良いんだと思いますよ。私そんなに強くありませんし」



 本当にあの雪山にとんでもない獣や魔物がいるなら、ヒジリさんと勝負してズルを使った挙句に負けた私なんか話にならなさそうですし。



「そ、そうか……それはそうと、あんたは旅人でいいのか? 見たところ魔法使いっぽいが」

「あー、魔法使いなのはそうですけど、今はただの旅人ですよ。だから、そこまで長い間滞在するつもりはありません。あ、でも――」

「ん?」



 そう、ヒジリさんの言っていた樹氷森林と氷結洞。そこには行ってみようとは思うのです。



「樹氷森林と氷結洞を見て回ろうとしたら大体何日くらいかかりますか?」



 私がそう言うと、男の人はうむむ……と思案します。そんなに遠いんですか?



「その二つは真逆の方向にあるから、どちらも行くってなるならここに暫くは滞在する必要があると思うぞ。それに、その二箇所はそこそこに強い獣やら魔物が出る。腕っぷしに自信がないならおすすめしないぞ?」

「うーん……例の雪山から降りてきただけじゃダメなんですか?」

「いや、別にそれでも実力を示せるが……あんた、自分で運が良かったって言ってたろ?」

「あ、えっと……まあ、多少は戦えますからほら?」



 苦し紛れのそれに、門番の男の人は怪しそうな視線でこちらを見てきます。そりゃそうですよね。



「……どうしても行きたいって言うなら、町の中央に出てから西の方角に町で一番大きなギルドがある。



そこで力試しして合格が出れば許可証が貰えるから、そこに向かえばいい」



「……って事は、どっちみちそのギルドに行かないとダメだったのでは?」



 私がそう言うと、男の人はポリポリと頭を掻いて、具合が悪そうに答えます。



「あー……いや、まあ……うん、そうだな!」

「開き直らないでくださいよ……まあ、教えて頂いた事については感謝します」

「おう、あんたは自分で言ってるような弱い奴じゃないって言うのは何となく分かるから、きっと許可証も貰えるはずだ。言ってもらってくるといいさ」



 すごーく適当な人っぽかったですが、まあいいでしょう……次の目的地は決まりましたし。



◇◆◇◆◇◆◇



 という訳で、やって来ましたギルド前。それなりに名のあるギルドというのは確かで、人の出入りも多く活気のある場所だなあというのが私の第一印象でした。

 ついでに言うと、どこかで見たような紋章な気がするんですよね。どこだか思い出せないですが。



「……こういう時の第一声ってなんて言えばいいんでしょうか?」



 すみませーんって言うのは流石に弱腰過ぎる気がしますし、かと言って頼もー! って言うのも違いますし……まあ、いっか。

 という訳で、



「すみませ――」




「ありがとなぁ姉ちゃん!!」



 バァン!と無駄に勢いよく開けられる扉にクリーンヒット。最近扉運がない気がします。痛い。

 無作法な大男達は私に気付かないまま、ガッハッハと大笑いをあげながら人混みに消えていきました。……爆破してあげましょうか?



「だ、大丈夫ですか!?」



 私が鬼のような形相で大男の消えた方向を睨んでいると、同じ扉から出てきた娘に心配されてしまいました。



「大丈夫ではないですけど……これくらいなら、まあ……」

「ほんっとうにごめんなさい! あの人たちよく来るから、次からは言い聞かせておきますから!」



 ぺこぺこ勢いよく平謝りしている状態が、外の状況を知らない人たちに見られるとどうなるか。そう、私が当たり屋とか、強請りに見えてしまいますね? 無実の罪とはいえ、それは非常によろしくないので、とりあえずギルドの中に入る事にしました。



◇◆◇◆◇◆◇



「──というわけで、私は許可証をもらいに来たんですよ」

「なるほど……! では、ちょっと待っていてくださいね!」



 ばたばたと世話しない動きで私を見つけてくれた人は行ってしまいます。それにしても……思っていたよりは騒がしくないと言いますか……もっと荒くれさん達がやいのやいのしたり、たまに酒瓶とかが飛び交ったりする場所だと思っていたのですが……



「お待たせしました!」

「君が、許可証をもらいに来たって言う娘かい?」



 机に暇そうに頬杖をついて待っていた私の前に現れたのは真っ白な鎧を着た男の人。いかにも偉そうって感じです。



「貴方がギルドマスターですか?」

「ええ、そういうあなたは、許可証をもらいに来た魔法使いさんですか?」

「え、ええ……私魔法使いなんて言った覚えはありませんけど……」

「こういう場所で仕事をしていると、普通の人、冒険者、そして魔法使いっていうのは何となくわかるようになるんですよ」

「そういうものなんですか……」

「そういうものなんですよ」



 ギルドマスターさんはニコニコ笑顔でそう言ってくれます。そして一枚の羊皮紙を私の目の前に差し出します。



「許可証を出すにはそれなりの実力がないといけないっていうのは知ってるよね?」

「ええ、北の門の番兵さんから聞きました」

「それは試験の為の申込書みたいなものだよ。合格したら発行料を貰うのと、この試験での怪我は個人の責任だよ、っていう内容かな。それの同意書さ。いいなら名前を書いてね」



 私は羊皮紙を手に取って斜め読みしましたが、確かにギルドマスターさんの言ったとおりのような内容でしたし、紙も至って普通の物、何か細工しているような魔力も感じませんでしたので、私は一緒に置かれた羽ペンで名前を書きました。

 名前の書かれたそれを持ってギルドマスターさんはまた奥の方へと戻っていきました。終始笑顔というのは、それはそれで不気味なものを感じますね。実力のほどもただ者では無さそうでしたし、流石長といったところでしょうか。




「ところで、貴女はどこから来たんですか?」



 横にずっと一緒にいた謝ってくれてた女の人が話しかけてきます。七割くらい存在を忘れてた気がします。



「どこから……うーん……西のカエルム、という国は知っていますか?」

「あー……名前だけは知っています。かなり大きな国らしいですね!」

「私はそこから東に行った田舎の村の出身です。特に何かあるわけでもない小さくて辺鄙な村ですよ」

「そうなんですかー……私は生まれも育ちもこの町なので、外の世界って知らないんですよね……たまーにやってくる冒険者さんに外の世界の話をしてもらうんですけど、シオンさんのそういうお話って聞かせて貰ったりとかって、出来ますか?」



 とは言われても、肝心の私も話せる内容があのヘンテコな町とヒジリさんの話しかないうえ、片方はこちらでのお話なのでとても困りました。昔の日記なんて書いてるかすらわからないですし、ここは申し訳ないですがうまい具合にはぐらかしましょう。



「あー……えっとですね、私実は物忘れが激しくて、行った場所は覚えていても内容までは覚えていない

んですよね……ごめんなさい」

「あ、そうなんですか……でも、それなら前に来た場所も始めてきたみたいに新鮮な気持ちで行けるってことですよね!? それはそれで羨ましい気がします……」



 中々に能天気な性格してますねこの人……まあ、これくらいのんびりした性格でないとこういう体質も前向きに捉えられないでしょうし、ある種の才能でしょうね……



「それは……そうかもしれないですけど、苦労の方が多いですよ? 前に行った場所なら場所とか、人とか、向こうは覚えているのに……あれ?」



 そう、自分で言って、その違和感に気づきました。私が記憶しているのは『私も、そして私に関わった人間も私の事を忘れる』の筈です。なのに、自然と口から出てきたのは『私だけが過去の事を記憶できない』といった感じの言葉でした。単純に私が無意識に噛み砕いて言ったとかではなく、私の中の消された記憶の中の何かが、そう言ったような、そんな言葉にできない気持ち悪い感覚がしました。



「ど、どうかしましたか……?」



 私が突然口を止めた事に不思議そうな顔で見つめる彼女に、私はふるふると頭を振って、



「ごめんなさい……少し、気分が悪くて……お水を持ってきてもらえますか?」

「は、はいっ……! ちょっと待っててくださいね!」



 バタバタまたせわしない様子でカウンターの方へと走っていく彼女を見て、私は安心したのでしょうか? ほんの少しだけ気持ちが軽くなりました。




「ふふ……彼女の存在は不思議でしょう?」

「うわっ、いつの間に……」



 いつの間にか斜め後ろにギルドマスターさんがいました。彼は彼女の背中を見ながら、



「彼女の存在は、正直ここになくてはならない存在なのです。明るく、無邪気な彼女は我欲や野心に満ちた冒険者たちには癒しのような存在になると思っているのです」

「確かに……言いたいことは何となくわかります。いるだけで随分と空気が軽くなるような、そんな気がしますもんね」

「そうですね。その為に彼女を雇っていると言っても過言ではありませんしね。彼女はいてくれるだけでいい。客引き──と言ってしまうと、彼女の気を悪くしてしまいそうですが、彼女のような明るく、分け隔てなく接する子がいる事で、このギルドも少しずつ大きくして、今ではここまでの大きさになりましたからね……っと、話が逸れてしまいましたね。試験会場に案内しましょう。彼女には私から後で言っておきますので心配しないでくださいね」



◇◆◇◆◇◆◇



 そうして、私達がついたのはギルドの裏庭のような場所でした。そこには使い古された的や案山子もあって、練習場として使われているのでしょう。



「ここで私の使役している召喚獣の相手をしてもらいます。勝つか、私が許可証を発行してもいいと認めた場合にのみ発行しますからね。準備は良いですか?」

「ええ、いつでもどうぞ」



 私は杖を元の大きさに戻して相手の出現を待ちました。勿論、不意を突かれた時の為の魔法の詠唱は忘れません。



「では……いきますよ!」




 呼び出されたのは白い大猿と、私の三倍位はありそうな大きな虎でした。え、これと戦うんですか?

 二匹は私を見た途端、問答無用とばかりに突っ込んできます。私は咄嗟に魔法を使用して空間に壁を作り、攻撃を防ぎました。

 ですが、二匹は攻撃の手を止める事はなく、壁を壊そうと躍起になっています。あんまり叩かれ続けるとほんとに割れちゃうので勘弁してください。


 っと、そんな事言っている場合ではないです。魔法を使用します。手加減は要らなさそうなので強気に火球をいくつか生み出して発射しました。ヒジリさんと戦った時のような炸裂弾ではなく、普通の火球です。まあ、これくらいなら牽制になるでしょう。

 こちらの土地の獣だからなのか、火球は予想以上に効いているらしく、二匹は私を露骨に警戒するようになりました。賢いですね、たまーに私に襲いかかってくるお馬鹿さん達もこれくらい賢ければ良いんですけど……

 ま、それはそうとして。魔法使い相手に無闇矢鱈に突っ込んでいかない事は褒められますが、警戒してばかりでもいけないという事を教えてあげましょうか。



「ほいっと」



 私が次に唱えた魔法は、私が一番最初に使った空間に不可視の壁を作る魔法……ですが、用途はあの二匹を檻のように囲う為に使用しました。

 先ほどと違うのは、今回は魔力を倍使って作った壁という事でしょうか。この魔法、使い勝手のいい事に、魔力の消費量に応じて硬度が一気に跳ね上がるんですよね。倍の使用でざっと十倍程でしょうか?

 さて、そんな檻の中に閉じ込められた二匹は必死に壊そうと爪やら牙やらで攻撃を仕掛けますが、全く壊れる気配はありません。



「……合格だね」



 ギルドマスターさんは、二匹召喚した時のように戻しました。召喚魔法って、確か召喚石に戻すんでしたっけ……?



「これで、問題ありませんね?」

「ええ、充分すぎる位です。それでは、許可証を発行しますので、中へどうぞ」



 そんな訳で、私は無事に許可証を貰う事が出来ました。めでたし?

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