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題名のない灰色日記  作者: すずしろ
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旅費稼ぎと私。

 少し肌寒い位の風を受けて、私の意識が覚醒します。モゾモゾと毛布の中で蠢いた後、近くに置いていた鞄を取って外套を羽織るとまだ眠たい目を擦って外へと出ました。

 川の近くだからか、外へ出るとより一層朝の肌寒さが際立ちます。朝食は鞄の中を探って見つけた干し肉に齧り着きます。……やっぱり硬いのでいい感じに切ってスープの具にしましょう。


 私は鞄の中から鉄鍋とそれを引っ掛ける為の鉄の棒を取り出します。鍋に川の水を汲み、道を挟んで川の向かいにある雑木林までトントンっと空を歩き二歩、三歩でそこまで着くと、適当な枝木を見繕って持って戻ります。

 後は枝木に火を魔法で付けて、鍋を棒に引っ掛けたらそれを魔法で浮かせて、しばらく待ちます。その間に鞄の中からパンを取り出すと、川で洗って焚き火で乾かした枝に刺して焼き始めます。

 焦げ付かないように様子を見ながらぼんやりと火を眺めていると、私のテントの中から大欠伸をしながらアリサさんが出てきました。



「おふぁよ……」

「おはようございます。アリサさん。朝ごはんは私の分しかありませんよ」

「えーどうしてよー」

「だっていつ起きるか分かりませんし……」



 二人分作るのが面倒だし、という本音は言わずに私の心の中にしまっておきました。

 アリサさんはぷぅっと頬を膨らませて、テント近くに立てかけていた釣竿をもって川の方へと行きました。また魚でも釣る気なのでしょうか……

 そうこうしているうちに、スープが完成しました。パンも程よく焼けたので、私はパンを二つに割って、それをスープに浸して食べます。塩気の聞いた干し肉はスープにするには最適ですね。



「どっせえええええええい!!!!!」



 そんなアリサさんの大声が聞こえたと同時に、ズドンという巨大な音が響いてきます。

 何事かと思い、振り向くと巨大な水柱が落ちているのがちょうど見えました。朝陽をバックにキラキラと水飛沫が輝きます。遠目で見ている分には綺麗だなぁ……という感想ですが、アリサさんの目的は幻想的な景色を作る事ではなく、その後に衝撃に驚いて浮いてくる何匹もの魚でした。

 アリサさんは浮いた魚を川に入って手掴みでゲットしていました。寒くないんでしょうか……



「ふっふーん、釣竿何ていらないのよ」

「そ、そうですね……っていうか、あの音何だったんですか?」

「え? その辺にあった大きめの石を真上から川の上に勢い付けて落としただけよ?」

「勢いをつけて真上から……ですか」



 どの位の高度から、どれくらいの勢いでかは聞かない事にしました。



「焚き火位は使わせてもらうわよ?」

「え、ええ……それくらいなら構いませんよ」



 アリサさんはありがとね、と答えて採った魚を串焼きにして火にかけはじめました。焼けるのには暫くかかると思いますし、丁度同じくらいのタイミングで私は朝食を食べ終えました。

 私は、テントをそそくさと畳んで私の鞄の中に入れます。それのついでに、鞄の中に何かお金稼ぎに使えそうな物が無いかと探っていると……



「あ、これ使えそうですね」



 私の手にアレの感覚が伝わってきました。お、これも多分使えますね。



「……シオンのその絵面……中々に酷いわね」

「何かおかしいですか?」

「ええ……少なくとも肩掛けのカバンの中に腕を突っ込みながらブツブツ使える使えないを分けるのはね……というか、何で中身を出さずに分かるわけ?」

「それはですね、探す時に魔力を鞄に与えると触れた物の情報が頭に入ってくるんですよ」


 まあ、最近知ったんですけどね。とぼそっと呟きます。



「そうなんだ……私の鞄普通だからわっかんないのよねー……私も作って貰おうかしら……」

「いいんじゃないですか?」

「エレナにあったら頼んでみるわね」



 そんな事を話している間にもアリサさんも食べ終わり、ようやく出発出来そうな状態になりました。

 ここから商業の町へは徒歩で行けば一刻と半分位、飛んで行けばその半分位でしょうか。



「用意は良いですか?」


 私がそう聞くと。


「ええ、いつでもいいわ」


 アリサさんはグッとサムズアップしながら答えてくれます。私はそれに苦笑しながら。


「では、行きましょうか」


 そう言いました。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 空を飛んでの快適な旅……という程でもない道程を経てあっさりと私達は商業の町へと辿り着きます。

 そもそも、何故私が路銀稼ぎにここを選んだかと言うと、一度来た時に聞いた話では出店料さえ街の組合に払えば、旅人でも一時的に店を出す事が出来るという事を聞いたからです。無論、臨時の店になりますので場所も対して大きくはないですが、臨時出店専用の通り等もあるらしいので一定層の需要はあるみたいですよ。


 私達が空から町の前に降り立つと、番兵の人が軽い驚きの声を上げながら私達に声をかけてきます。



「魔法使いの方とは珍しい。この町に何か御用が?」

「はい、とは言っても二日三日の短い滞在ですが」

「了解しました。では、身分を証明出来るものをお願いします」



 そう言われ、私は外套の文字を浮かばせました。アリサさんは何かカードの様なものを見せていました。なにそれ、私知らないです。



「それってどういうものですか?」

「ん、これ? 魔法協会が魔法使いに支給してる身分証明用の魔法紙よ。協会支部でも登録している魔法使いなら渡しているはずだけれど……無いの?」

「……」



 私は視線を逸らしました。そんなの聞いたことないです……

 番兵の方は苦笑しながらも、私たちが怪しいものではない事を確認したようでアリサさんのそのカードを返すと、扉を開けて私達を迎え入れてくれました。



「確認致しました。滞在は三日で書かせて頂きます。どうぞ中に」

「ありがとうございます」



 私達はぺこりと軽くお辞儀をしてから中に入ります。前に東門から入った時は修羅の国と見まごう程の治安の悪さでしたが、今から入るのは南門から。南の方は治安がよく、今回の目的である、臨時の出店が多く出店しています。武器、貴金属、薬等から用途不明の謎の物までかなりの種類の物が売られています。

 ここで出店するためには、先にこの街を仕切っている商業ギルドへ行って申請をしなければいけません。申請、と言っても難しいものではなくどのような物をどの期間、どの時間帯まで売るか、等の簡単な物です。無許可で営業なんてことは当たり前ですが出来ませんからね。

 という訳で商業ギルドへ向かう為に向かおうとしたその時――



「あー!てめぇ、あの時のガキ!!」

「へ?」



 私がそんな声で振り向くと、そこには随分と身なりの悪いチンピラがそこにはいました。あの時の、と言われてもどの時だ。と、頭の中で思考を巡らせていますが心当たりがありません。というか、貴方みたいな人間を覚えているほど私の頭の中の容量は多くないのです。



「シオン……また何かしたわけ?」

「う、うーん……わからないです。一度ここに来た時にヤバそうな人たちに捕まって、奴隷として売り飛ばされそうになった時に、そこをちょおっと潰しただけです」



 私の言葉に、アリサさんが何とも言い難い呆れとやはり、という気持ちの入り混じった表情をしました。



「……いや、原因それじゃないかしら」

「そうなんですか!?」



 驚くところかしらそこ……と、結構本気で呆れられました。心外です。というか、仮にそうだとしてあれだけ派手に動いたのに、あの奴隷を捕まえていた人たちが捕まらずに外を歩いている事に驚きです。単純に運よく捕まっていないだけでしょうか。



「とりあえず、逃げましょうか。厄介事はごめんですし」

「そこは賛成よ」



 という訳で私たちはすっと踵を返して逃げ出しました。



「あ、逃げんなコラァ!!」

「やですよー、待てと言われて待つ人間なんてそうそういないです」



 ゴロツキのそんな言葉を背に受けながら私達は走り出します。

 とは言っても土地勘なんてまるでないので、私達はがむしゃらに走って逃げます。昼間だったこともあり、人混みの隙間を縫うようにしながらあっちこっちへと走り回っていました。



「ね、ねえシオン?」

「なん、ですか?」


 走っている途中に話しかけるとか辛いからやめて欲しいんですけど。


「別に……さ、走らなくても、飛べば……良くない、かな……?」

「……」



 そう言われて、私は空中を蹴ります。それを見てアリサさんもふわりと空を飛びました。一先ず近くの屋根の上に避難しました。後を追って走ってきたゴロツキは私達が空を飛んで屋根の上にいるなんて考えられるわけもないので、明後日の方向へと走っていきました。私はそれを見てふぅ、と一つ息を吐きました。



「……撒きましたね」

「そうね……こんな調子で商売なんて出来るのかしら……」



 アリサさんが大きなため息をつきながら先行きを心配していると──



「あのー……お話ししている所悪いんですけど、危ないと思うので中に入ったりしませんか……? そこ、屋根ですし」



 ぼさぼさの髪をぽりぽりと掻きながら窓から私達を見る男の人が、そこにいました。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 私とアリサさんは、窓から覗いていた茶髪の男性に招かれて事情の説明をしていました。



「なるほどね、前に君が潰した裏商会の人間から追いかけられていた……と」

「はい。ここで臨時の店を開く為に戻ってきたら運悪く見つかってしまった……という感じでしたが……」

「ふむ、臨時の出店か……という事はこれから商業ギルド探しに行く、という所かい?」



 ですね、と返すと。飲んでいたカップを置いて男性はこう言いました。



「なら、僕が案内してあげようか? 話を聞いている限り君たちはそこまでこの町に明るいようでは無いみたいだし、何より君達、追いかけられてるんだろう?」

「是非に……と言いたいですが、貴方が裏商会の人間でないとは言いきれませんし……」



 私がそう言うと、男性は軽く吹き出して。


「ああ、いや失礼……態々部屋の中に呼んで、そのまま談笑なんて普通はしないと思うよ。言ってしまえば君は裏商会としては生死不問でも捉えたい人間だろうしね」



 そうだろう? と私に問いかけてきます。否定しようにも否定できない私はそう……ですね、と答えます。彼は私の答えを聞くと、表情を和らげて、



「まあ、安心してよ。僕も商人の端くれだ。商売相手には多少の嘘は交えるかもしれないけれど、こう言った人との縁に嘘はつかないから」

「……信じていいんですか?」

「うん、これは商人としてじゃなくて僕個人としての気まぐれだからね。どちらにしても、ギルドへ行く用事はあるから」

「んーまあ、信じていいんじゃない? 少なくとも悪い奴って感じはしないわよ、シオン」



 アリサさんのその言葉もあって、私は信じる事にしました。男性はありがとう、とお礼を言ってまたカップに口を付けました。




「あと少しなんだ。これを飲み終わるまで待っていてくれ、すまないね」

「ああ、それはお構いなく……」

「え、急いでるんじゃないの?」

「実は急いでもそう変わらないんですよ。どのみち商売が始められるのは明日からですから、一先ず今日中に申請さえできてしまえれば良いんですよ」

「その通り、基本的には申請してから場所が振り分けられるのは明日以降だからね。一部例外はあるけれど」



 アリサさんはへぇ……と感心していると、彼女のお腹からきゅう、と可愛らしい鳴き声が聞こえてきました。



「ふふ、折角だしランチ、食べていくかい?」

「え、いいんですか?」

「君たちが僕を値踏みしていたように、僕も多少は君たちの事を見定めていたんだよ? ……まあ、君達が裏に関わっている人間とは思えないから、僕もここまで話しているのだけれどね」



 アリサさんはランチの誘いを断れるような空腹具合では無かったのか、二つ返事で了承していました。私も、確かにお腹が空いている……といえば空いているので私もご相伴にあずかる事に決めました。早速面倒事と鉢合わせた私たちは果たして次の旅の為の資金を集める事が出来るのでしょうか。私はそんな不安を覚えながら、彼とのランチの為に外へと出るのでした。

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