次への旅路と私。
「それで、エレナさんやサヨさんとはどうなったんですか?」
階段を登るついでに聞くはずだった昔話を、踊り場でがっつりと聞きながら私はアリサさんに尋ねました
「ん? 二人とはたまに会ってるよ。ただ最近は私が任務に出突っ張りだし、向こうもなんか研究が佳境らしくてね。中々会えないけどね」
「そうなんですね……」
何でシオンがガッカリしてるのよ。とアリサさんがクスリと笑います。確かにそうなんですけどね……アリサさんの話を聞いて少し感情移入してしまっている所はあるかもしれません。
そろそろ脱出しようかな、と捕まった人間とは思えない程の緊張感の無さですがアリサさんもお腹減ったなー、とか大概緊張感無いですけどね。
「本来の目的から大分脱線してしまいましたけど、そろそろ脱出しましょうか」
「……そ、そうだったわね!」
……この人、さては話に夢中で忘れてたな? 私がジト目でアリサさんを見ると、ふいっと目を逸らしました。私の視線から逃げるな。
私が大きなため息を一つついてから立ち上がって階段を上り始めると、アリサさんも置いて行かれないように追いかけるように階段を上り始めるのでした。
階段を数分間登り続けた先にあったのは、古ぼけた今にも壊れそうな梯子でした。この上を確認する為に私が灯りの魔法を上に飛ばしました。すると、最上部に押せそうな天井がありました。あそこから出るのでしょう。
「この梯子……ちゃんと登れるんですか? 今にも壊れそうなんですけど……」
「なら、私に任せて」
「え、任せて大丈夫何ですか?」
本気で不安な声が出てしまいました。
「流石に信用されてなさすぎでしょ……まあ見てなさいって『付与術・硬化』」
アリサさんは梯子に触れながら魔法を使いました。梯子に魔法がかかると、アリサさんはボロボロの梯子に手をかけると、すいすいと上まで登っていきました。長銃を背中に担いでいる状態で登っているので、間違いなく私より重い筈なのにあれだけ身軽に登れるのも凄いとは思いますが、このボロ梯子がしっかりと壊れずにいる事の方が驚きです。不安になる言動の方が多いですけどやはりやれる魔法使いという事なのでしょう。
アリサさんはそのまま力任せに天井を叩くと、ゴンと鈍い音と共に上から陽の光がわずかに差し込んできました。という事は、今はまだ日中という事なのでしょう。
アリサさんはその開いた天井から外の様子を見た後、外へと出て行きました。
「開いたわよ! シオンも登ってきたら?」
アリサさんが早く来い、と言わんばかりに手を振ってくるので、私も梯子を上って地下から地上へと脱出します。
それなりに長い梯子を上って、外へと這い出ると鬱蒼とした森の中に出ました。辺りを見回すと、白い壁が見えたのでここは白磁の国の外、という事になりますね。私達が捕まっていた詳しい場所が分からないので何とも言えませんが、劇場の合った場所は大体中心部だった筈です。
という事は、それなりの距離を歩いて来たという事しょうか? それとも、町の外れ等にあの地下施設があったとか。……結界的な役割を持っているあの像を町外れに置くなんてことはしないでしょうし、やっぱり中心部から歩いて来たって考えた方が自然ですね、ええ。
「アリサさん何か忘れ物……というか、国の中に置いていってしまったものってあったりします?」
「ん? うーん……多分ないと思う」
アリサさんが自分の服をペタペタと触ってなくしたものが無いかを探している間、私は白い壁の向こうにいるであろうユナさんの事を考えていました。せめてユナさんとはちゃんと話して別れたかったな……なんて思いながらぼーっとしていると、アリサさんがあっ……と今聞くのはとても不味そうな声をあげました。
「……財布、ない……」
「……」
どうしよう? という視線で私を見てきますが、見られても困ります。私もお金があるか無いかで言えば無いですから。
……あれ、私もヤバくないです?
「どうしたらいいと思う?」
「いや、知らないですよ……どこかに伝手とか無いんですか? というか、それこそサヨさんとかに頼れないんです?」
「あー、頼れなくはないけど……すぐは無理かな……」
「さっきの研究の話ですか?」
「そうそう、それにここからだと結構距離が離れてるから、今から連絡飛ばしても向こうがこっちに来るまで時間がかかるし……」
「要するに無理って事ですよね?」
そうなるね! と自信満々にいうアリサさん。何故そこまで自信に満ちているのか、これが分からない。こうなったら二人で近くの町で路銀を稼ぐしか……
「アリサさん」
「何?」
「近くの町に行って、そこでお金を稼ぎましょう」
「稼ぐって……どうするの?」
「まあ……何とかなるでしょう。一応魔法使いですよ、私達」
「そうだけど、何するのよ……便利屋?」
「便利屋……そうですね、滞在もそこまで長くするつもりはありませんしすぐに出来るものと言ったらそれくらいでしょうか」
じゃあ、そうと決まれば早速出発ね、と一人で先々に進んで行ってしまいますが、方向は分かっているのでしょうか?
ずんずんと進んで行くアリサさんの後ろを着いて行っていると、突然ぴたりと足を止めました。
「……ねえ、シオン。町の方向ってどっち?」
案の定、アリサさんは方向が分かっていないようでした。
◇◆◇◆◇◆◇
「歩くよりも空を飛んでいった方が断然早いわね」
「最短距離で行けますからね、それはそうです」
アリサさんは銃を箒代わりにして森の上を飛んでいました。私はというと、変わらず空中に足場を作り上げて空を歩いていました。
結局、身ぐるみ剥がされて国の外に出されていた話や一度入れば出られなくなる、なんて話の真偽はわからないまま出てきてしまった。真相が気になるけれど、だからといってもう一度あそこに入る気にはならないし、入れないでしょう。
心残りマシマシのまま、私達は町へと向かいました。
外に出た時には既に陽が傾いていた為、近くに見えた河原で一夜を過ごすことにします。鞄の中に保存食がいくつかあるので、それと居たら川魚でも釣ってみましょうか。
壊れずに済んだテントを張って、夜を過ごす準備をしていると川辺から釣れたー! とやたら元気な声が聞こえてきました。アリサさん……釣竿何て持ってましたっけ。
私がアリサさんの方を向くと、そこには器用に長い木の枝とタコ糸を使って釣竿を作って釣りをしているアリサさんの姿がありました。
「ほらほら、釣れたわよ! こいつって食べれる?」
「え? あー……確か食べられるはずですよ」
釣竿の先で元気よく跳ね回っている魚を見てそう言うとふふん、とドヤ顔で私の方を見てきます。
私は別に鞄の中に保存食があるので夕食に困るわけでは無いですけど……
「もしよかったら貴女の分も釣ってあげてもいいけれどどうかしら?」
私を頼っていいんだぞ? という視線を送ってくるアリサさんに少し呆れながらもお願いします。と頼みました。
◇◆◇◆◇◆◇
陽がすっかり沈み切って、私たちは焚火を使って夕食を作りながら、今後のお金稼ぎの案をどうするか考えていました。
「アリサさんって何が出来ます?」
「何が出来るって……まあ、基本は強化魔法しかできないわよ」
「んー……それなら、道具の修理をしての時に強化魔法をかけて壊れにくくする……とか、どうですか?」
「おー……そういう方法は考えた事なかったわ……私直すのって苦手だし」
「……まあ、簡単な物でしたら私が直せますから、それに魔法をかけて貰えればいいですよ。あとは、アリサさんなら力仕事とかですか?」
えー力仕事ぉ? とあからさまに嫌そうな顔をしたので、私は反論するなと言わんばかりの視線を向けました。すると、アリサさんは気まずそうに視線を逸らして、先ほど釣った魚を焼いたものに齧り付いていました。
「というか、シオンは何をするのよ。さっきから私の事ばかりで貴女の事は全然言わないじゃない」
「私ですか? さっきも言ったみたいに、壊れた物の修理をします。よっぽど複雑でないなら何とかなりますから。後は何でも屋見たいな感じで動きます」
「雑よね、説明」
それ程でも、と返してから私も焼き魚に齧りつきます。軽く塩を振っただけですが、中々にいけますね。新鮮故の美味しさという奴でしょうか。
「一先ず、今日は休みましょう。明日起きてから町へと向かいましょう、アリサさん」
「そうね……私も銃の整備をしたら寝る事にするわ」
私は、テントの中に入ると中に吊るしてあったランタンに火をつけると、鞄の中から日記を取り出して新しい頁を書き始めます。
『白磁の国にユナさん達を助けに行ってからとんでもない目にあっていました。国の中では何故か魔法を使えず、探すのも一苦労でした……が、まあ機転を利かせている場所までは何とか突き止めました。ユナさん達の劇団の公演まで、少し時間があったので近くの遊技場で時間を潰していたのですが、そこで出会ったのが、アリサさんです。この旅を始めてからようやくであった私以外の魔法使いですね。彼女にも白磁の国の噂を話すと、勇ましくもそれを解決しようと言いました。それはそれとして、私の本来の目的をまずは果たそうと、アリサさんと一緒にユナさん達の演目を見に行きました』
一息にここまで書いて、ふう、と一旦休憩をはさみます。思っているよりも書きたい事が沢山あって、もう少し長い間起きていないといけなさそうですね。
ぐっと伸びをしてから、私は日記の続きを書き始めます。
『──問題はここからです。私達が目を覚ました時にいた場所は、演目を見ていたホールではなく地下の牢屋の中でした。どうやら、魔法使いの魔力を利用して魔法封じの結界を張っているようで、私たちはそれの生贄になると態々説明してもらいました。正直、あの中で思ったのは魔力を吸われて死ぬ……というよりも、先に飢えて死ぬのかなという気がしましたね。魔力を吸う像に不思議な既視感を覚えつつも隠し通路を発見して、アリサさんの昔話を聞きながら白磁の国から脱出したのです』
「……まあ、こんな所でしょう」
日記帳を閉じて、ランタンの火を消そうとしたタイミングで、アリサさんがテントの中に入ってきました。
「まだ起きてたんだ?」
「ええ、まあもう寝ますけどね」
「そうなんだ。私も寝るけどさ。という訳でそこのランタン消しちゃっていい?」
いいですよ、と答えると。アリサさんはランタンの火を落とします。
私は、それからは何も話さずにそっと目を瞑りました。やり残した事や、聞きたかった事が色々あるのは残念ですが、仕方がないです。気持ちを切り替えて次の町へ行きましょう。
……いつかまた、会えるかもしれませんから。
随分と遅くなってしまいました……というのもノベルアップ+という別サイトで別の作品を書いていたからなのですけどね……
そちらの方も随時更新していくので、またのんびりしたペースになってしまいますがお付き合い頂ければと思います




