とある魔女の昔話。その2
お金を得るためのお金が無い悪循環、どうしたものか
「誰か来たみたいよ?」
「こんな場所に用がある人間なんてロクな人間じゃないわよ」
確かに、と私は思いながら地下に降りてきた逆側の階段に向かう。ここも前から作られていたらしく、ここを上ると教会の裏側に出られる。本当に前からあったのなら十中八九ここでヤバい事をしてて、それが見つかった時の為の逃げ道よね。
「とりあえず裏口から回ってみてみましょう。面倒な奴らなら……適当にあしらって追い払えばいいでしょう」
「ん、わかった」
私とサヨは裏から上がって入ってきた人間がどんなものかを確認する。壊れた教会なので小さな穴がぽつぽつと開いている、そこから私たちは中の様子を覗きこんで確認しているのだ。
「こんな所に本当に魔法使いの秘密の書庫があるんすか?」
「その筈よ。組まなく探すわよ」
どうやら入ってきたのは男女のペアで、ここにあるらしい秘密の書庫を探しているらしい。……それってサヨの隠し部屋の事かしら。
だとしたら私の隠れ家が一つ消えてしまうし困るわね。かといってどうやって追い返せばいいのかしら……?
「どうするの?」
「追い返すわ。あの本棚の中割とヤバいのあるし」
待って、それ初耳。てことはほんとに秘密の書庫って今サヨが使っている場所なの?
聞きたい事が突然増えたけれど今はそんな場合では無く、追い返すことを優先して考えましょう。じゃないと先に聞いてしまいそうだし。
「私が気を引くからアリサは……そうね、あいつらの背後から一発かまして意識を刈り取って頂戴」
「うええ……私がやるの……?」
「私に肉体労働させるつもり?」
「はいはい……」
人使いの荒い悪友にため息を付きながら私は気配を絶ち、教会の中へと入っていった。
二人組は椅子の裏を覗き込んだり、床を叩いたりして探しているようで、このままだと見つかってしまうのは時間の問題だったでしょう。私はサヨの合図を待ちながらゆっくりと彼らに近づいていく。
ジリジリと距離を詰めていると、ゴトゴトといきなり椅子が不穏な動きを始めた。
「うわぁっ!? な、なんだ!?」
(……今ね)
驚いているうちに、私は一瞬の隙をついて彼らの首筋を狙って手刀を打ち込んだ。
「がっ……」
「うぐっ……」
私の一撃で二人の意識を刈り取ると、二人を教会の外に寝かせて置いておく。
「おつかれ、アリサ」
「はぁ……今度何か奢りね」
「……干し肉でいい?」
「ええー学園前の喫茶店のパフェにして」
「ええ……間をとってパンケーキでどう」
「むぅ……仕方ないからそれでいいよ」
とは言ったがパフェよりパンケーキ派なので、最終的には私の勝ちに収まった。
厄介者二人組を何とかした私達はまた地下に降りて、各々好き勝手に過ごし始める。サヨは何か調べ物を始めたらしく、暇だし手伝おうか? と聞いたら断られた。
やる事の無い私は勝手に隅に付けられた台所を使って珈琲を入れる。ちなみに超がつくほど甘党なので砂糖とシロップはマシマシだ。
お湯が沸くまで何をするかって? そりゃあ棚を探ってお茶請け探しよ。たまにいいもの隠してあるのよね。という訳で棚を御開帳。棚の中には――何もない。え、嘘? 何もないの?
「あんたが勝手に食べ散らかすから隠しておいたわ」
「ええー!」
「いや……ええーじゃないでしょ……そもそも私のだから」
私はぶつぶつ文句を言いながら不貞腐れて滅茶苦茶に甘いコーヒーを飲んだ。うん、しつこすぎる程の甘ったるさがいい感じだ、さすが私。
それから後も何かする訳でもなくぼんやり本を読みながら時間を過ごしていると、壁に付けられている時計がいつの間にか授業の終わりの時間になっていた。
「今日は帰るわ。また明日か明後日ね」
「もう来なくていいわよ?」
いや、と舌を出しながら自分の箒を持って、裏の階段から私は寮舎へと帰るために空を飛ぶ。
しかし……相変わらず上からさっきまでいた場所を見ると自分がどこにいたのか分からなくなる。サヨが言うには認識しにくくなる魔法がかけられているらしい。落ちこぼれの私には残念ながらそれを感じたりする事はさっぱり出来ない。
箒で空を駆けること数分。寮舎に着いたので、箒から降りて玄関を開けると、相変わらず姦しい声がその辺を飛び交っていた。
魔法使いのこの人がカッコイイとか、この間の試験の点数はどうだった? とか、今度美味しいケーキ屋が出来る、とか。
私は今日元気だこと……と若干呆れ半分尊敬半分で自分の部屋のドアノブを捻った。
「……あれ? 私、鍵をかけて出たはずだけど……」
「あ、おかえりなさいっ」
私は開けると同時に扉を閉めた。いや、もはや開けていないレベルだ。
出来ることなら何故ここにいると首根っこを捕まえて、ぶんぶん振りながら問いただしたいところだが、動揺の感情の方が強かったから仕方ない。
ふぅ、と一息ついてからもう一度扉を開けてみる。これはきっと悪い夢だろう、気のせいだろうと思って扉をゆっくり開ける。
「もー何でいきなり扉を閉めちゃうかなー」
「そもそも何であんたがこの部屋にいるのよ……」
「寮長さんにお願いしたからかな?」
簡単にそう言うがここの寮長は別名鬼の門番だ。そんなにあっさり通してくれる訳が無いし、何より鍵を渡すなんてありえない話だ。
こいつは一体何者なんだと私が訝しんでいると、私のベッドから降りて、私の事をじっと見つめてくる。
「な、何よ……」
「いや、そう言えば名前言ってなかったなーって思って」
私はエレナ! よろしくね、と手を差し伸べてくるが今の私に手を取るという選択肢は無かった。
「……アリサよ」
「えへーよろしくね!」
「私はひとつもよろしくする事なんてないけれどね……」
私が一つため息をついて、これからどうしようかと考えていると、エレナがぎゅっといきなり手を掴んできた。
「ちょっ、何して……!?」
「……」
「ね、ねえってば……」
手を握ったまま動かないエレナに慌てて声をかけると、彼女の身体がぴくっと跳ね意識を取り戻したみたいだった。
「やっぱり、アリサは魔法が使えない訳じゃないね!」
「は? いきなり何言い出すのよ……」
「だって、魔法が使えないって聞いたよ?」
「……いや、まあそうなんだけどさぁ……もうちょっと言い方って無いわけ?」
「んーそういうの苦手だからー……ごめんね?」
真実な以上何も言い返す事が出来ず、言葉がそれ以上出なかった私はエレナが言った魔法が使えない訳では無いという意味を聞く。
「それより、使えない訳じゃないってどういう事よ。私は属性魔法はさっぱりよ?」
「そーいう事だよ! 属性魔法以外は使えるんでしょ?」
「んえ?」
私が頭の中を疑問符で埋め尽くしていると、エレナがうーんと唸ってから私にもわかるように説明を始めた。
「えっとね、ここの学園は属性魔法については最先端なんだけど、その他の強化魔法や特殊魔法なんかは詳しくないの。だから、貴女は……その、なんて言うか……」
「行く場所を間違えたって事?」
私の言葉にこくんと頷くエレナ。そう言われてしまうと何とも言えない。私だってそう思っていたから。
「じゃあどうしたらいいのよ……別の学園にでも行けっていうのかしら?」
「うーん……それが出来たらいいんだけどね……」
「当り前よ。それが出来たたら苦労しないわ」
「何とかならないかなぁ……」
「なるわけないでしょ……そもそもこの国にある魔法学園はここだけよ」
私がそう言うと、エレナは閃いた! と言わんばかりの表情で。
「じゃあ、別の国に行って、そこの学園に行こう!」
「……本気で言ってる?」
呆れ果てている私がため息をつきながらぼふっとベッドに腰掛けると、エレナはなぜか私の膝の上に座る。どかすのも面倒なのでそのまま座らせているが、私より年上の筈……よね?
私の膝の上でゆらゆら揺れている様子はさながら姉妹のようだけれど、こんな傍若無人な妹ならお断りしたいところだ。
「貴女が何者なのかどうかはさておき、別の国の学園に転入なんて無理に決まってるでしょ……どれだけの手続きとお金がかかると思ってるのよ」
「……手続きとお金さえ何とかなれば転入するの?」
「まあ、評価が変わるなら……」
ほんと? とエレナが膝の上から降りて、私を見てくる。
「ええ、断る理由は無いわ」
「……! じゃあ、聞いてくるね!」
勢いよく扉を開けて、エレナは私の部屋を出て行った。
彼女の突拍子もない行動から、何かとんでもない事が起こるような気がしたが、今の私には何もすることが出来なかった。
――そして、その予感が本当に当たるだなんて夢にも思わなかったわ。
人生はクソゲーってほんとにそうですよね。自分の書いた物語の中に逃げ込みたいレベルです。
サボってしまって申し訳ないです。次も生きて投稿できるよう努力します




