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題名のない灰色日記  作者: すずしろ
20/34

白磁の国と私。その3

「確かめるって……一体どうやって確かめる気ですか? きちんと作戦はあるんですよね?」

「え、無いよ?」


 はっ倒していいですか。

 行き当たりばったりにも限度があるでしょう……しかも何でそんなに自信に満ち溢れた顔してるんですか。それはそれで才能なのかもしれませんが……


「……一先ずは作戦を練りましょう。話はそこからです」

「えー」

「返事は?」

「はい……」



 子供みたいなやり取りをした後、持ち歩いている懐中時計を見るともう少しで開演時間でした。



「アリサさん、私は先程言った会いに行かないと行けない人の所へ行くので、そうですね……いっその事一緒に行きますか?」

「おお、そういう考えもあるのね」

「まあ、今から券が買えるならの話ですけどね」

「分からないなら行ってみましょ。買えたら一緒に行くのよね?」

「そっちの方が多分楽ですから」


 私にとって、と小声で付け足して起きました。



 ◇◆◇◆◇◆◇



「お待ちしておりました、お客様」

「すみません、連れが一人いるのですけど追加で今からチケットを買って間に合いますか?」

「追加の購入ですか? 少々お待ちください」



 受付の人が先程と同じようにペラペラと冊子を捲って確認をしてくれているので私達はのほほんと劇場内を見回していました。

 地下とは思えない程大きなフロントで、ホールとなる場所はこの奥ともう一階分降りた地下にもある様です。凄いですね、潰れたりしないんでしょうか?



「お待たせ致しました。空席がありましたので、チケットをお取りすることは可能です」

「お、やったわね」

「ですが、場所が離れてしまいますが、そこはご了承頂けますか?」

「私は……別に構わないですけど……」

「まあ、仕方ないわね」



 私達がそれを了承して、お金を支払うと奥の通路を進んで右手にある二番ホールに行くように伝えられました。



「ちなみに、貴女が会いにいく人のいる劇団って面白いの?」

「劇団というか、サーカスですね。移動式の舞台で様々な場所で開いていたらしいですよ」

「らしいって……一緒にいた訳じゃないの?」

「はい、ここに着く二つ前の町でちょっとした縁から一緒に移動してたんですよ。あ、内容はかなり良いですよ。移動の途中の合間にも皆さんよく練習してましたし」

「へえ、なら期待出来そうね。こういうの私厳しいわよ?」



 そんな軽いやり取りをしながらホールに入ると、中には結構な人数の人が座っていてこの演目が人気である事が伝わってきました。チケットの席を見て、私達は一度別れてそれぞれの席に座って、開演の時を待ちます。

 しばらく待っていると、明かりがゆっくりと消えていき、逆に舞台上の照明が煌々と光り、眩しいくらいに辺りを照らしました。このタイプの照明って結構お高かったような気がしますが……まあいいでしょう。今は目の前のサーカスを楽しむとしましょう。



「紳士淑女の皆様! 大変お待たせ致しました。これより開演とさせていただきます!」



 何日かぶりに聞いた座長さんの声と共にサーカス団の人達が現われ、一礼をした後に演技を始めました。

 ユナさんの演技は後の方なのか、暫くはジャグリングや手品等の軽いものを見ていましたが、ユナさんって確か道化師の役割でしたよね? 役割ってそんなにすぐ変わるものでしたっけ……?

 首を傾げながらもサーカスを見ていると、ユナさんが出てきました。道化師の服装とは違う白を基調とした身軽な服装。

 彼女が出てくると同じくらいのタイミングで、上からゆっくりと輪が降りてきました。なるほど、空中ブランコというやつですね。

 ユナさんは運ばれてきた高台に上がると、観客たちにアピールした後に、ブランコの輪を掴みます。その時、私の方をちらりと見たようなそんな気がしました。何か、私に必死に訴えかけるようなそんな目で私を見ていました。



「お休みなさい、魔法使いの方々。貴女達には最高の悪夢を披露致します」



 ◇◆◇◆◇◆◇



「……んん」



 いつの間に私は眠っていたんでしょう? というか私仰向けじゃないですか。しかもめちゃくちゃ地面硬いですね。どこですかここ。

 辺りは真っ暗で見えないですし、困った事この上ないですね。

 というか、明らかに何処かに連れ去られた感じがするんですけど身ぐるみ剥がれたりしてないですね。それどころか私の鞄ありますし。意図が不明です。



「……ここどこ!?」

「貴女も一緒に連れ去られてきたんですね」

「あ、その声はシオンね?」



 どうやら一緒にアリサさんも連れてこられたようです。驚いていましたし、彼女も連れてこられるまでの過程は分からないのでしょう。

 私は鞄の中からカンテラを取り出して、魔力を少しばかり流すとパッと光りだし、辺りを照らしだしました。

 ……道具に備わっている魔法が使えなかったらほんと危なかったですね。



「おー明るい」

「これで明かりは心配無いですね。それはそうと、ここは何処なんですか……」



 一先ず近くにいたアリサさんには私の所に来てもらいました。そこからはこの謎の場所の探索です。下は石畳、アリサさんは何かないかとこんこん自分の銃で叩いていますが、何かあるという事は無さそうです。

 私はカンテラに送る魔力を少し増やし、光量を上げて周りの様子をもう少し詳しく見る事にしました。



「……おや? あれは……像?」

「像?」



 私が指さす方向には背中に四枚の羽根を持つ天使像がありました。ただ、長い時間忘れ去られているのか、ボロボロに風化していてかつての姿がどんな姿だったのかは分かりません。

 ですが、一つ気になるのは何故こんな所に像がぽつんと置いてあるかです。意味もなくこんな像を置くわけはないでしょうし……

 と、私が考えを巡らせているとガコン、と重たい音が聞こえました。恐らく扉か何かが開いた音でしょう。



「おや、お目覚めですか。お二人方」


「……どうしてこんな場所に連れてきたのか、説明してもらえますか? 座長さん」



 扉の向こうから現れ私達に話しかけてきた声は、紛れもなく私が一時の旅を共にした座長さんその人の声でした。私達の位置からだと、逆光のせいではっきりとした姿が見えませんが、その声を間違えるわけがありません。



「説明……説明、ですか。単純ですよ? 貴女達魔法使いの魔力でこの結界を張り直してほしいのです」

「本当にそれが理由ですか?」

「……どういう意味ですか?」

「それだけなら、わざわざ私たちを拉致するような真似はしなくてもいいでしょう?」


 私がそう言うと、座長さんはクスリと笑いました。


「流石ですねシオンさん。その通りです、模範的な質問ですね。そうです、この結界を張り直すためには莫大な魔力が要求されるのですよ。具体的には魔法使いを使い潰してしまう程の魔力が、ね」

「……なるほど、確かにそんな事を言われてはそれを受ける訳にはいきませんね」

「そういう事です。私としても貴女を嵌める事になってしまって心苦しいですが……そういう国の決まりとなっていますので」



 それだけの短いやり取りを終えると扉はバタりと閉まって、またカンテラだけの灯りだけが唯一の光源になってしまいました。



「さあ、どうしましょうか……」

「なんであんたそんなに冷静なのさ……」

「ここから脱出出来そうだからですよ。……多分ですけど」

「へ!? そうなの!?」

「そうですよ……出なければこんな冷静にはいられないですよ……恐らくですがもうしばらくしたらその像が動き始める筈です」



 私はそういうと呑気に鞄の中から野営用のテントと、そこそこに貯めていた保存食を取り出してぽりぽり齧ります。アリサさんはというと私のカンテラを持って何かないかとあちこちを彷徨いていました。

 そうこうしているとガコン、と像の方から音が聞こえました。恐らく例の魔力を吸い取る装置が働き出したのでしょう。



「お、動き出しましたね」

「いや、そんな呑気に言ってる場合なの……? ほんとに魔力吸い取られ過ぎて死んだりしない……?」

「大丈夫ですよ」

 死んだらその時です。



 中央の像の目が光り出すと、確かに魔力がゆっくりと吸われていくような、そんな感覚があります。

 多少魔力を持っていかれた所ですぐに倒れたりなどはしないので私はゆっくり立ち上がり、像の方へと歩いていきました。

 先程までの風化したそれとは全く違う印象の、威圧感すらも感じられる眼光がそれには宿っていました。私は像を注意深く見つめています。



「そんなにじっと見て何か書いてあったりするの?」

「多分書いてある筈なんですけど……お、やっぱりありましたね。私の記憶通りです……?」



 おかしいですね。何で私はここに書いてある事を知っていたのでしょう? また昔の私の記憶でしょうか……

 何はともあれ、これを読んでみましょう。確か魔力を流せば文字が浮かんで読めるようになる筈です。



『この像は魔力を蓄え、その魔力を広範囲にドーム状に薄く張って対魔法無効化魔法を発動させます。一定量溜まると目の光の色が変わるのでそれで判断してください。溜まりきったら青色に変わります』



 顔を上げて改めてその像の眼を見ると先程までは赤色だった眼が黄色に変わっていました。なるほど、青になれば良いんですね。

 かと言って魔力を無理やり送り込んで、私の魔力がすっからかんになってしまっては元も子もありませんから、ここからは出口を探す作業に移りましょう。



「……えいっ」



 私は何を考えたのか小さな火の玉を飛ばす魔法を使いました。すると、不思議な事に魔法が発動出来たのです。この中なら魔法が使えるのでしょうか?



「アリサさん、ちょっと来てください」

「ん、どうしたのさ」

「今までで探索してきた所でどこか壊せそうな場所はありましたか?」

「壊せそうな所ぉ? そうね……まあ、気になる所はあったけど……」


 それを聞いた私はしめたと思いましたね。


「じゃあそこに魔法をぶっぱなしちゃって下さい」

「え?」

「魔法を使えることは確認したので」

「いや、そこじゃなくてここが壊れないかって話」

「ここ全体の話をしているなら、ちょっと壊れたくらいなら何ともないと思いますよ」



 それを聞いてアリサさんはニヤッと笑い肌身離さず持っていた大きな袋を開けると、その中からさらに布に包まれた物が出てきました。その布を取り払うと長銃が現れました。大きさは師匠に教えて貰った長さの単位で言うならおおよそ1メートルくらいでしょうか。

 彼女はそこに銃弾を一発装填すると、狙いをその気になる場所へと狙いを定めます。


「ファイア!!」



 瞬間、凄まじい銃声と衝撃波が発生し、射線の先にある壁が轟音を立てて崩れる音がしました。

 ちなみに先ほどの衝撃波のせいで私の建てていたテントが吹き飛びました。辛いです。治せなかったら三倍くらいの値段でアリサさんに請求してやりましょう。



「さてさて~壊れてくれたかな?」



 うっきうきのアリサさんについて行くと、そこには無残に破壊された壁と、奥へと続く道がありました。

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