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題名のない灰色日記  作者: すずしろ
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商業の町と私。その2

古戦場とかガルパのイベントとか走ってたら遅れましたね……

「牢獄から逃げ出した奴らだ!! 生かして返すな!女は生け捕りにしてもう一度牢にぶち込んでやれ!!」



 威圧感だけは一丁前の大男がそう叫んで、子分たちと一緒にこちらに向かってきます。私はそれを見て冷静に魔法を唱えます。とは言っても派手な魔法を使う事は出来ません。の、で。



「足元に気を付けてくださいねー」



 気の抜けた私の言葉を気にも止めず、ドカドカと突っ込んでくる男達の足元に私は雷撃魔法のトラップを設置しておきました。ほぼ無詠唱の魔法なのでそこまで威力こそはありませんが、何も対策をせずに突っ込んでくる相手を気絶させるくらいは出来ます。

 私の事を大したことない奴とたかを括ってこちらに向かってきた男達の殆どは私の雷撃トラップによって沈んでいきました。

 多少なりとも警戒をしていた数人は私のそれには引っかかりませんでしたが、それでもあと数人です。こちらは逃げ出した数十人、数が違いますが丸腰ですので油断は禁物です。



「クソが! あいつはどうした!! いざと言う時の用心棒だろうが!!」

「い、今呼んできます!!」



 押され気味の野蛮な人達の一人が用心棒さんを呼びに走っていきました。……実は自分だけ逃げました、とかありそうですよね。

 目の前にいるのは六人。今なら私だけでも何とか……は、なりませんが一緒にいる人がいるので何とかなりますね。



「クソ……どいつもこいつも使えねぇ!! こうなったら俺がやってやる!!」

「随分意気込んでいますけど、ごめんなさい。貴方の相手をしている場合ではないので。行きますよ皆さん」



 血気盛んな親玉の言葉を無視して真横を通ろうとする私。勿論親玉さんは私の事を逃がす気がないので抜いたナイフを私に突き立てようとしますが、私がパチン、と指を鳴らすと人形のようにバタリと倒れ込んでしまいます。



「お、おい……そいつ大丈夫なのか?」

「ええ、心配ありません。ちょっと気絶してもらっただけです」



 少し全身が痺れる位なので問題ないです。多分すぐ起きると思いますよ。数日単位ですが。



「こ、こいつだ! こいつが脱獄を先導している!! 殺しても構わないからやってくれ!」



 あ、律儀に戻ってきたんですね。後ろの人が例の用心棒ですか。中性的な見た目の人で二本の剣を腰に下げてますし、二刀流の方でしょうか? 接近戦は苦手だから出来れば穏便にいきたいですが……無理ですよね。



「こいつらかー……あ」



 はて、用心棒の人すっごい私を見てきます。何かついてたりします? あ、この場合は憑いてるの方が正しかったりするのでしょうか。



「……いやー、俺は何も見なかったうん」

「は!? おい、何すっとぼけてんだ!!」

「俺には何も見えないからほら、ついでに今回の契約金も返すわ、じゃあな!」



 そう言うと、猛ダッシュで用心棒の人は逃げていきました。運が良かった……のかな?



「クソっ! どうしてこんな事に……!!」

「あー……えっと、残念でしたね?」



 流石の私も少し可哀想に思えてきましたが、それはそれ、これはこれ。という事で魔法でササッと捕まえて、私達の持ち物の場所を吐かせることにします。



「大人しく吐いてもらった方がそちらの身の為ですよ」

「ふん、誰が言うか」

「……じゃあ無理やり聞き出しますね? 貴方の頭の中から」



 痛くない方法を提示してあげましたが、仕方ないので私は魔法を使い頭の中から直接聞き出しました。例のごとく、叫び声をあげながら気絶してしまいましたが仕方ありませんね。

 私達から奪った物品は捕まっていた男の人が言っていた通りの場所にあるようでしたので早速私達で押しかけました。


 ――そこからは完全に流れ作業でしたね。見張りの人は大して強くありませんでしたし。

 私達の荷物を回収して、出口から堂々と脱出しました。

 どうやら、例の裏通りの中のさらに奥の方まで連れられてきていたみたいです。


 外に出てしばらく走ると見た事のある風景が見えたのでそこから大通りへと逃げました。

 ここまで来たら流石の人攫い達も強くは出れないでしょうし、むしろ奴らが本格的に捕まる番ですからね。



「助かった……本当にありがとう。この恩は一生忘れない」

「そんな大袈裟な……」

「大袈裟なんて事はないさ。あのままなら俺達は明日には何処とも知らない場所で奴隷か娼婦だ。助けてくれたあんたにはほんと頭が上がらないよ」



 一緒に逃げ出した人もうんうん、と首を縦に振っていました。



「あ、えっと……そんなに感謝される事ってあまり慣れてなくて……」

「はは、なるほどな。なら時間が空いたら今度俺の店に来てくれよ。礼の意味も込めて、たっぷり歓迎するぜ」



 そう言うと、取り返した鞄の中から紙とペンを取り出してサラサラと自分の店の場所を書いて、私に渡してくれました。

 どうやら武具屋の店主さんだったようです。この町の中らしいですし、寄ってみるのもいいでしょう。



「ありがとうございます。では、また今度寄りますね。皆さんも戻る場所があるでしょう?」

「ああ、それもそうだな。ありがとう」



 私達はそう言って別れました。時刻は夕暮れ時、一度宿に帰るとしましょう。

 少し歩くと私達が取っていた宿屋が見当たりました。とりあえずお風呂に入りましょう。そうしましょう。

 と、宿屋に入ると受付の人が驚いたように私を見て来ました。



「えっと、シオンさんですか?」

「? はい、そうですが」

「この宿に宿泊されていたユナ様からのお手紙を今朝預かっていますのでお渡ししておきますね」



 何故か手紙を渡されたので、私はそれを開いて目を通します。

 それに書いてあったのは――



『シオンさんへ。

 貴女の行方が分からなくなってから四日が経ちました。私達は次の町へ行かなければならないので、もしこのお手紙を読んだなら追いかけて来てもらっても構いません。行先はここから南に下った白磁の国です』



 え、私あそこに四日もいたんですか!? その事実に驚きです。通りで何だか臭うわけですね……うえぇ……

 それはそうと白磁の国ですか……名前は幾度か聞きましたが、これと言って何か特別凄い所はあるのでしょうか?



「白磁の国って何か名物みたいなものってありますか?」

「名物ですか……? うーん……私も訪れた事が無いので分からないんですけど、近くを通った時はすごく目立つ真っ白な壁が印象に残りましたね。あとは、白磁の国を訪れた事がある人は、皆さん真っ白な石を御守りとして買っているって聞きましたよ」



 うーん……いまいちインパクトに欠ける情報ですが、真っ白な壁に関しては少し気になるのでやっぱり訪れてみることにしましょう。


 とりあえず今はお風呂ですお風呂。宿は後で再び泊まるとして、今日は大衆浴場にでも行きましょう。こんな町ですし綺麗な場所がきっと待っているはずです。え、裏通り? そんなの知りません。あそこは修羅の国ですよ。



「成程、分かりました。教えてくれてありがとうございます」

「いえ、これくらい構わないですよ」



 私は宿を出て、大衆浴場へと向かいました。中央街から南に少し歩いた所にあると聞いて、着いた場所はもはや別の建物なのでは無いのかと勘違いするほど大きな浴場でした。

 中に入ると受付(番台?)さんがいてその人に料金を払っていざ浴場へ。お値段は銅貨八枚、一般的な場所と比べると倍近くの差がありますが、これだけ大きな場所ならばお湯を沸かす設備や、魔法使いの人を雇うための料金なのでしょうね。

 この浴場、どうやら水着を着て入るらしいので、私もそれにならい水着に着替えます。

 というわけでいざ浴場の中へ。



「うわ……すっごい……!」



 目の前に現れたのは浴場とは思えないような巨大な滝。もちろんお湯ですよ?

 しかも温泉や浴場というような言葉よりもプールという単語の方がよく似合いそうな場所でした。それと同時に、何故水着を着るのかも理解出来ました。この浴場、混浴らしいです。確かに水着じゃないと不味いですね……

 しかも、温泉の種類自体もかなり沢山あるみたいですね。階段で上にも行けるみたいですし。

 一階部分のここは流水の温泉だそうです。恐らく風の魔石を利用して意図的に流れを作っているのでしょうけど……凄い手間ですね。ゆっくり浸かりたい方は上にという看板を見つけたので私はそそくさと上に上がっていきました。


 二階は賑やかな一階とは打って変わって静かで、お湯の流れる音や微かな会話の声が聞こえる位でした。

 何か珍しいものは無いかと探していると。



「へぇ……薔薇風呂ですか。随分とお洒落ですね」



 一面に薔薇の花が散らばったお風呂を見つけました。ほんのりと薔薇の香りがしてとても良さげなので入ってみる事にしました。

 足先をつけてみると程よい温度のお湯でそのまま身体を湯船の中に沈めました。温かいお湯と薔薇の香りに包まれてとても心地いいです。

 ぼんやりと湯船に浸かっていると、あまりの心地よさに目を閉じて温かなお湯の中に身を委ねていると――


 まあ、案の定眠っていました。え、溺れていないかだって? お話が続いているって事は溺れていないってことですよ。



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