新たな場所へ向かう私。
私が宿屋に戻ると、座長さんが真っ先に飛び出してきました。
「だ、大丈夫でしたか!? 魔法使い様が乗った船にクラーケンが襲いかかったと聞きましたが……」
「大丈夫ですよ、怪我は無かったです。魔法を使ったので少々疲れましたけどね」
私がそう言うと、ほっと安堵の息を吐いてくれる辺り、いい人なのはよく分かるんですけど……ちょっと抜けてるのが惜しいですよね。
あ、そういえばあの娘、一体どこに行ったのでしょう? 私達が助けられたあといつの間にか何処かに消えていたのですが……まさか幽霊とかではないですよね?
「ちょっとお聞きしたいんですけど、今日の演目の時に灰色の長い髪の女の子って見かけませんでしたか?」
「灰色の長い髪の女の子? うーん……いや、見てないかな。お客様は結構いたけど、灰色の髪何て珍しい娘は見なかったなぁ……」
他の団員さんも同じ回答でしたし、本当に見なかったのでしょう。あの娘がサーカス等の娯楽を必ず見るという保証がない以上、見てたらいいな程度の質問だったので残念とは思いませんが。
「分かりました、ありがとうございます。私は今日はもう休むので……失礼しますね」
私はぺこりと一礼して自分の部屋に戻ります。ほんと、最近は日記に書くことが多くて困りますね。もちろん、いい意味でですよ。私はくすりと微笑みながら日記と羽根ペンを取り出して日記を開きます。
特に意味もなく読み返すと、今までの旅路が蘇ってきます。私は、それを最近まで読み返すと、白紙のページに新しく文字を綴っていきます。
『今日も今日とて沢山の出来事がありました。洞窟を抜けた先の港町で遊覧船に乗ったのですが、そこで師匠似の髪の小さな女の子と出会いました。あの娘は結局どういう娘だったのか未だに分かりません。しかも、遊覧船で優雅に観光出来るかと思えば、そこに現れるクラーケン。空気を読めないとはまさにこの事。何とかして撃退しようと考えていたら、謎の横槍によって倒されてしまいました。正直楽できたので文句は言いませんよ。明日からは今日捕まえたサーカスの一座の人達と共に移動することにしました。何処に行くのか分からないので楽しみです』
◇◆◇◆◇◆◇
港町の朝は早いとは聞いていましたが、本当に早いんですね。日の昇る前には大通りがざわついて、所によっては怒号まで飛び交っています。私はそれによって叩き起されましたもう一度寝るにもうるさすぎて寝れません。ちくしょう。
仕方なく私はベッドから這い出てランプを付けました。朝闇の晴れない中ぼんやりと光るランプを見つめていました。本を読んで過ごしてもいいのですが、どうにも今だと頭に入らず寝てしまいそうですからね……まあ今の時間ならそれもありかも知れませんが。
そんな事を考えながらゴロゴロと転がっていると、いつの間にか朝日が海から昇ってきていました。海から昇るのを見るのは初めてなんですよね。海を見るのが初めてなんだから当然といえば当然ですが。
「んん……ふぁ……」
大きな欠伸をしながら身支度を整えるとコンコンと扉をノックされました。
「魔法使い様、もうすぐ出発なのですが準備のほどよろしいでしょうか?」
「大丈夫ですよ。いけますのでもう少し待っててください……ふぁ……」
私は欠伸のしながら答えました。馬車の中で寝ちゃいましょう……
「全員揃っていますね?」
座長さんがそう言って、揃っているかどうかの確認。とは言っても、確か私を含めても五人という、ごくごく少ない数であった筈です。
口々に揃ってますよと、答えると満足した様子で頷きました。
「よし!それなら出発だ!」
◇◆◇◆◇◆◇
二台の馬車が連なり海沿いの道を歩いていきます。私はその馬車の中で揺られてうつらうつらと船を漕ぎながら、窓の外を眺めていました。団員こそ四人と少ないですが、彼らには旅路を共にする虎がいます。
そのお陰で馬車を一台にする訳にはいかず、普段は普通に馬車に乗る二人と、虎のお世話をする二人が乗る馬車を分けて交代で乗っているんだそう。
私はあくまで旅路を共にしているだけなのでもちろん普通の馬車に乗ります。たまに虎の鳴き声が聞こえますが、それも一種の環境音ですね。周りの動物や通る馬車はいい迷惑だと思いますけどね……
一度馬を休める意味でも休憩という事で、私達も外に出て休むことにしましょう。
◇◆◇◆◇◆◇
シオンの乗った一座の馬車が出たほぼ同時のタイミング、港町の一角で二人の少女が会話をしていた。
一人は褐色の肌に黄金色の瞳の少女。もう一人は灰色の髪に藍色の瞳の少女。シオンと同じ船に乗っていた少女と似た容姿をしているが、その背丈は一回り大きいようにも見える。
「あの時の射撃って貴女でしょ、カリマ」
「あ、やっぱりバレてた?」
「当たり前でしょ。あんな芸当他の人間に出来てたまるものですか」
プンプンと擬音が見えるような怒り方だが、本人はそれなりに真面目な様子だった。カリマと呼ばれた褐色の少女も頭を下げて謝っていた。
「ごめんごめん。でもあの時ってほんとに助けいらなかったの?」
「う、うーん……正直なところを言うと欲しかったかもだけど……あの娘が今どうなのかも確かめたかったし」
「じゃあもうちょっと遅かったらよかったわけ?」
「まあ、そうね……戦況が怪しかったら私も呼んでたかも……」
「あーそっかー……」
カリマは残念そうに頭を軽く叩いた後、にこっと微笑んで魔法で彼女の身体ほどの大きさのある大弓を呼び出して、コンコンと地面を叩いた。
「でも、この子凄かったよ! 私が前まで使っていた弓みたいにすぐ壊れないし、全力で弦を引けるし!」
「それは良かったわ。貴女の為の特注品だもの。これで使いにくいとか言われたらどうしようって思ったわ……」
「それもそうね!」
彼女は大弓を軽々と振り回しているが、その実、大弓の重さは同じ規格のものとは比較にならないほどの重さなのだ。
今の時代では、魔法使いの地位も上がって大きな戦いになればなるほど、魔法使いの重要度が上がった。今となっては弓兵というものはそこまで重要視されなくなり、籠城戦であれば魔法使い数人がいれば城外から攻めてくる大量の敵兵にも対応できる。弓兵は基本一人一殺である。それ故に、一対多を戦うことが出来る魔法使いの方が重宝されてしまうのだ。
それでも魔法の使える彼女に弓を教えているのは、ひとえに彼女の才能によるものだ。彼女の褐色の肌は、見る人間ほぼ全てがダークエルフのものだと思うだろう。だが違う。彼女はドワーフとエルフのハーフなのだ。
だからこそ人並み外れた膂力をもって凄まじい大弓を引き絞る事が出来る。それなりに大変とは言っていたが、彼女に取ってはそれなりなのだ。ちなみに目の前にいる弓を作った彼女は微塵も引く事が出来ない。
「それで、今度は何処へ行くの?」
「そうねぇ……今回居合わせたのもたまたまだし、暫くは観光周りでもしましょうか」
「観光!? やったあ!」
カリマは小さな子供のように嬉しそうに笑顔を咲かせる。
「私そういうの初めてだから、期待していいかな!?」
「いいわよ。私もこの付近には来たことなかったし、楽しみましょう」
そう言って、二人の少女は町へと繰り出していった。
「――早く帰ってきてね。シオン」
◇◆◇◆◇◆◇
「……はっ」
「魔法使い様どうかしましたか?」
「ああ……すみません。眠っていたみたいですね。こう、誰かに呼ばれたようなそんな気がしたんですけど……」
「気の所為じゃないですか?」
どうなのでしょう。眠っていた以上本当に気のせいかも知れませんし、とりあえず気の所為ということにしておきましょうか。
どうやら私が眠っている間にいつの間にか馬車が知らない所まで来ていました。海岸線こそまだ続いているものの、周りの景色はかなり変わっていました。海の反対側には草原が広がっていました。
「次は何処へ向かうんですか?」
「座長が言ってた話なら、次は商売が盛んな町に行くらしいですよ」
「ほほう……何か面白そうなものはありそうですか?」
「ど、どうでしょうね……ところで、魔法使い様はいつまで私達と一緒に行動するのですか? あ、決して邪魔とか、そういう意味ではないですよ!!」
余りに必死の否定にくすっと微笑みながら、私は考えます。そう、よくよく考えたらいつまで共にするか考えていなかったのです。
「そうですね……正直考えてはいないのですけれど、次の町を含めて三つほど巡ったあとは別れようかな、と思っています。それと、私の名前はシオンです。いつまでも魔法使い様ではむず痒いですから」
「は、はいっシオンさん!」
次の町には一体どんな事があるのでしょうか。
ネガに引き潰されて中々書けないでいました。この世は厳しい……
後スイッチとPS4とGE3が欲しいです。サンタさんお金を私にください。




