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題名のない灰色日記  作者: すずしろ
14/34

遊覧船の上の私。

 ゆっくりと動き出した遊覧船。その甲板で私はのんびりと夜になろうとしている景色を眺めていました。陽は沈みかけ、薄闇色がゆっくりと空を覆い尽くすように侵食していくのが見えました。

 ヒンヤリとした潮風を受けながら周りを見ていると、小さな子供が一人で甲板を歩いていました。迷子でしょうか?



「あの、もしかして迷子ですか?」

「迷子じゃないですよ!私は一人で乗ったのですから!」



 ふんす、と胸を張る小さな少女。灰色の髪なんて珍しいなぁ、私の師匠と同じ色だな、とか思いながら。



「本当ですか?」

「ほんとですよぉ!私は大人なんですよっ」

「いや、どう見ても子供ですよ……というか、本当に貴女一人でこの船に乗ったんですか?」

「そうですよ? チケットだって持ってますよ!」



 そう言って、私にドヤ顔でチケットを見せてきます。確かに本物でした。でも、私より小さな子が一人で乗れるものなのでしょうかと考えていると、考えを中断させるように船の汽笛が鳴り響きました。

 何だろうと視線を移すと、水平線の向こうに沈んでいく紅色の太陽が見えました。地平線の向こう側に沈む太陽はあの村にいた時によく見ていましたが、水平線に沈むのを見るのは初めてですね。これはこれで違う絵になって趣があるといいますか……まあ、なんと言いますか、いいんですよ。はい。


 と、私が夕陽を見ている間に先程の少女の姿はどこかに消えていました。船内にでも行ってしまったのでしょうか?



「うーん……まあ、私には関係ない事ですし、別に問題は無いですね」


「知ってるかい? この付近の海域では夜にクラーケンが現れて船を沈めて、乗っていた人間を餌にするって話だよ」



 特に意味もなく耳を傾けていると、そんな話が聞こえました。まあ、よくある伝説のようなものでしょう。でなければわざわざ夜に船など出しませんからね。



「そんなの都市伝説でしょう? それに、もしクラーケンが出ても貴方が倒してくれるでしょう? ダーリン」



 うわ、いきなりいちゃつきだしましたねこの野郎。海に投げ捨ててやろうか。……おっといけない、私は魔法使いです。その辺の人間より偉いのです。だから、私は目の前でいちゃつかれようとも寛容な私は許してあげる事が出来ます。ええ、私は偉いえらーい魔法使いですから。ええ、私は寛容なんです。



「ふふ、仕方のない娘だ……おいで、僕が抱きしめて守ってあげるよ」

「あーん! ダーリン大好きっ!」



 ……やっぱり海に放り投げていいですか?



 ◇◆◇◆◇◆◇



 夕日も沈んですっかり夜になった海の上でゆっくりと船が町の近くを回っているのですが、どうやら船内で立食もしているようなので、私は船内に入って、立食にあやかる事にしました。え、さっき食べただろうって? あれは別腹ですよ。


 船内も随分と豪華で、下にもう一階層あるらしく、そこで立食パーティーのようなものが行われているっぽいですね。私は早速下に降りようとしたら。



「あ! さっきのお姉さん」

「さっきの女の子じゃないですか」

「そうだよ? お姉さんもご飯を食べに行くの?」

「ええ、お腹空きましたし」

「えーその前に私と遊ぼうよー」



 ええ……いきなり何を言い出すんですかこの幼女は……お腹空いたんですけど。



「いや、私はお腹が空いているんですって」

「うーん……じゃあ、これあげるから!」



 そう言って差し出されたのは売店でよく売られているようなお菓子でした。いや、まあお腹が膨れないわけではないですが、今食べたいのはそうじゃないんですよ。

 って言いたいですけど、小さい娘のお願いを無下にする訳にも……うーん。



「それに、ご飯を食べた人みんな様子が変だよ?」

「へ? それってどういう――」



 そう言われて、私が下の立食会場を目を凝らしてのぞき込みます。

 すると、確かに様子がおかしいというか、何となく表情が虚ろで心ここに在らず、という感じが見受けられました。



「……確かに、そうですね」

「でしょでしょ!?」



 得意げにいう女の子。でも私がもしもあそこで何か食べていたとしたら……そう考えると冷や汗が自然と浮かびますね。

 にしても、魔法か薬か分かりませんが、わざわざ乗客にこんな真似をするとはどういう了見なのでしょうか。この町は実はならず者の集団だとか?



「遊ぶかどうかはさておき、貴女のおかげで助かりました。ありがとうございます」

「どういたしましてっ」



 にぱっと無邪気な笑顔でそう言われると、どうにも毒気も抜けてしまい、無意識に彼女の頭を撫でていました。



「んんっ……いきなり何するのさー」

「おっと、ごめんなさい。どうにも撫でやすかったので……」

「なにそれー」



 ぷくっと頬を膨らませている彼女を近くに居させたまま、私はこの状況を作り出した元凶を探ろうと動き出そうとした瞬間──

 ゴゴン、と何かに無理矢理船を止められたような、そんな揺れが船を襲いました。私は女の子を庇いながら背中側に空気の壁を魔法で作り上げて衝撃を和らげます。



「こ、今度は何ですか……」



 私は、彼女と手を繋ぎながら、甲板にでます。何故か、そうしたほうがいい気がしたのです。

 大分と傾いた船内を、転ばないように慎重に手を繋ぎながら登って扉を開け外に出ました。何が原因なのかと辺りを見回すと、そこには──



「イカさん?」

「イカ……イカですね。あそこまで大きいとイカじゃなくてクラーケンって呼ばれますけどね」



 そう、先ほど噂でしかないと言われていたクラーケンがそこにいるではありませんか。いや……えっと……倒さないと帰れないですよね?



「お姉ちゃん、あのイカと戦うの?」

「戦う……うーん……戦わないと帰れないっぽいですし……」

「じゃあじゃあ、私も一緒に戦っていい?」



 いきなり何を言い出すかと思えば突拍子もない事を言いだしましたねこのちびっ子は。



「本気で言ってます?」

「本気本気! だって私魔法使いだし!」



 そう言って、少女は小さな杖を取り出しました。謎の装飾がされてはいますが、確かに魔力の篭っている本物の魔法使いの杖でした。



「貴女が魔法使いなのはその杖を見て分かりました。でも、やっぱり貴女を戦わせる訳にはいきません」

「えー!」

「流石に貴女みたいな小さな娘に戦わせるのは私のプライドに反しますからね。だから、貴女は安全な場所で隠れていてくださいね?」



 私は頭を軽く撫でてから突き放すように言って、杖を構えます。

 今乗っている船かそれ以上の大きさのクラーケンですから、当然生半可な魔法など気にもとめないでしょう。

 だから私は、全力で戦わせてもらいます。ヒジリさんと戦って以来それなりに力を使う事を抑えているので、魔力も十二分に回復しているでしょう。

 私は魔力を練って、杖の先端に赤く煌めく火球を作り上げます。決して温かいとは言えないようなこの海上で、その火球の周りだけはゆらゆらと空気が揺らめいていました。ですが、これではまだ足りないと思うので、もっと魔力を練って火球を大きくします。

 クラーケンは頭が悪いのか、船を襲って以来どうしていいか分からない様子で船体を上下に揺らしてました。お馬鹿なのは私としては助かるので、気付かないでいてほしいですね。でも、船を揺らすのは止めてください。



「これで倒れてくれればいいんですけど……ねっ!」



 杖を振って、火球をクラーケンに対して飛ばします。クラーケンの目に入った瞬間、クラーケンもピクリと反応しましたが、もう手遅れ。火球が触れた瞬間、巨大な爆発がクラーケンを包み込みました。余波で船もかなりの揺れが来ましたが船には問題ないでしょう。というか、割と近海なので町の人達は気づいてはくれないのでしょうか……?

 あ、でも気づいてもこんな場所には来ませんか。


 爆炎が晴れたのちにそこにいたのは、目をぎらぎらと殺意に満たして輝かせたクラーケンが。効いてはいるのでしょうけど……押しが足りなかったというやつでしょうね。

 攻撃を仕掛けてきた相手を見つけたクラーケンは私に対して触手を伸ばしてきました。私は咄嗟に杖を振って電撃を発生させて触手を弾きました。

 さあ、決定打っぽいものが今の私に使えるのか些か疑問ではありますが、戦闘開始ですね。



「さあ、来なさいっ……!」



 私が杖を再び構えて臨戦態勢に入ったその瞬間──


 町の方向から放たれた謎の一撃がクラーケンの脳天を貫きました。私が困惑しているの事なんて関係ないかのようにいくつもの閃光がクラーケンを襲いました。数十と撃たれたクラーケンは、閃光が消えると同時に巨大な水柱と共に水の中に沈んでいきました。



「あ、え……?」


 私を蚊帳の外に放り出すような強烈な攻撃で水中に沈んでいったクラーケンを見ていると、後ろからちょんちょんと女の子がつついてきます。



「イカさん、倒したの!?」

「え、ええ……倒したと思いますよ……」

「ほんと!? お姉ちゃんすごーいっ!」



 そう言って抱きついてくるので、私は複雑な表情で抱きとめてあげました。私は倒していませんからねぇ……

 すりすりと小動物の求愛行動の如く、身体を擦りつけられて身動きが取れない状態で辺りを見回していると、小さな船が何隻かこちらに向かってきていました。



「おーーい!!! 無事な人はいるかーーー!!!」



 男の人が大声でそう叫んでいました。ようやく助けの船がきたのですね……



「いますよー」



 私は気の抜けた声と共に小さく火の玉を見えるようにあげました。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 そこから後は、次々に助け舟が来て乗客達を救出していきました。

 どうやら私のあの派手な魔法でクラーケンと戦っている事に気づいて貰えたようでした。そう考えると無駄ではなかったですね。



「貴女のおかげで更なる被害が増えなくて助かりました。本当にありがとうございます」

「い、いえ……倒したのは私ではありませんから……」

「ふむ? ではどなたがクラーケンを?」

「え? 貴方達が寄越してくれた応援では無いんですか?」

「ええ、私達では歯が立たないと諦めておりましたので……」



 ではあの攻撃は一体誰のものだったのでしょうか……というモヤモヤを残したまま、私は宿に帰る事になりました。


 今日は疲れたのですぐに寝ましょう。

精神フルボッコで中々書こうって意欲が出ませんでした。申し訳ないです。

多分復活しました。

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